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未来のきみへ   作者: 安弘
地獄道編 Ⅱ
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ガルとロエル

 「ワシがおまえと出会ってどれくらい経ったのだろうかな?」


 「十年くらいだろう・・・」


 「早いものだな。月日が経つというものは・・・ロエルとなった今は幸せなのか?」


 「幸せ・・・私はロエルの深層意識の中に存在しているからよくは分からん・・・

  しかしロエルはよく笑っているようだ。たぶん幸せなのであろう。」


 ガルは二百年程前にこの蒸気の国で生まれた。当時の蒸気設備は設備が整っておらず不安定であった。それが原因で国を滅ぼすほどの大災害が起きてしまう。ガルの父親である竜人は妻と幼きガルそして魔物と分かっていながらも受け入れてくれた民を守る為、大災害を自らの命を使い止めた。

 その後、ガルは残された母親と共に生活していくが病弱で床に臥せがちな母親はガルが成人を迎えた年に亡くなってしまった。それからのガルはただ独りこの国を守る為にジャージー・デビルやデモンズと日夜戦い続けていく。そんなある日、ピサロの使者と名乗る者がやってきた。使者と共にピサロのもとを訪れたガルに笑顔で言葉を掛けた。


 「最強の種族である竜人と人間の子らしいわね。あなた、十六善神やらない?

  あなたの力が必要なのよ!」


 ピサロは自らを天道の者と語り創造神の下で働いていると言った。ピサロの話ではこの蒸気の国を脅かす破壊神と呼ばれる者がいていずれこの地を奪いにやってくる。それを防ぐにはこの大叫喚地獄と破壊神のいる大焦熱地獄の間に門を造り破壊神を大焦熱地獄に閉じ込めなければならない。


 「もちろん、あなた独りじゃないわ。天道の仲間と共に門の建設をしてほしいのだけど・・・・やってもらえるかしら?」


 「もちろんだ!この国の民を守るのが俺の使命だからな。」


 「まあ、ありがたいわ。」


 こうしてガルはジャンス達と共に門を造り破壊神を大焦熱地獄に閉じ込める作業を行っていくのだがそれは想像を絶する困難な作業であった。破壊神率いる魔物は恐ろしい能力を保有しており完全に封印を終えるのに1500年くらいは掛かったであろう。辛くも門の封印を完了したガルはピサロのもとを訪れた。


 「あら、ご苦労さんだったわね。それじゃあ、次の仕事なんだけど・・・」


 「何を言っている?門の封印は終わったんだ。俺はもう止めるぜ!」


 「あなた・・・何言ってるの?十六善神を止めるって私を裏切るということはどういう事か分かっているの?」


 「止めるも何も門の封印が完了した以上ここに用はない。」


 勢いよくピサロの部屋をガルは出ていく。こうして十六善神であるガルは追われる身となっていったのだ。地獄中を逃走しては追手を振り切っていくが次から次へと現れる刺客に次第に体力と気力を奪われていく。ある時、十六善神の中でもっともピサロに近い存在である四天王のケインと出遭ってしまった。ケインの圧倒的な戦闘力からガルは命からがら逃げ延びた。

 生死の境でガルは気がつくと蒸気の国に戻っていた。1500年ほど経った蒸気の国はガルが知っている国とは違って見えた。蒸気設備場も発展して民にも笑顔が溢れていた。周囲にジャージー・デビルが飛来しているものの結界が張られているらしく近づくことは出来ないようだ。己の使命を、役割を終えたと感じたガルは蒸気設備場の片隅で傷だらけの身体を引きずりながらその場を去ろうとした。


 「おい、どうした?・・・怪我をしているのか?」


 ガルは声の聞こえる方向に振り返るとそこには工具箱を抱えた親方が立っていた。ガルの姿を見ても親方は何も聞こうとはしなかった。すでに蒸気設備場五百名の職人のトップとして腕を揮っていた親方は自室にガルを招き入れると手当てを施した。


 「しばらく、ここで静養するといい。」


 「・・・・」


 誰ひとりガルの姿を見た者はおらずガルは追手の心配もすることなく順調に体力を回復していく。数日経って完全に回復したガルは親方の仕事をマジマジと見つめていた。銅で出来た管と管を繋ぐ、ろう付け作業を行っている。その視線に気づいた親方が声を掛けた。


 「ん、何だ?配管がそんなに珍しいか?」


 「・・・・楽しそうだな。」


 「まあな。自分の仕上げた配管を眺めながら飲む酒は格別だぞ!

  配管の仕事をしたいのか?」


 「民を守るとはいえ、殺し以外になにもしたことがない。

  配管をできるだろうか・・・しかもこの姿では・・・!」


 ガルは親方に竜人族に伝わる秘術を語った。それはガルの父親である竜人が人間の姿になる為に使った秘術であるが独りでは出来ないらしく親方に助けを頼んだ。後日、部屋には沢山の機材と消毒が用意されていた。ベッドにはすでにガルが横になっている。


 「タトゥーを入れると姿を変えることができるとはまったく便利な秘術だ・・・

  本当にいいのだな?」


 「ああ、これで俺は追手に追われる心配もなく、親方と同じ人種として生きていくことが出来る。」


 誰もが寝静まった深夜、ガルの背中に大きな鳥が翼を広げて羽ばたくようなタトゥー彫り終えると親方は呪文を唱えた。するとガルの身体から光が放ち始めた。眩しさに目を覆った親方だったが次第に光はなくなり、目を開けるとそこには小さな子供がいた。背中のタトゥーも消えてその子供は辺りをキョロキョロと見渡していた。


 「アレ?ここは・・・どこ?」


 「ここは配管の町だ、ロエル!」


 親方は笑顔を浮かべながらその男の子をロエルと名付けた。実の子のように親方は育てるとロエルはすくすくと成長していった。工具が持てるようになったロエルを配管工として一人前になっていたルキアのもと配管を学ばせることにした。


 「ロエルがガルだったなんて・・・。」


 意識を完全に取り戻したミカは親方の話を聞いて驚愕した。ロエルとは明らかに違うその姿をマジマジと見つめていると恥ずかしくなったのかガルは目をそむけた。親方とガルはミカ達をシャドーアームズの塔から連れ出していた。以前、休息をとった地底湖の湖畔に天幕を設置してそこで火を起こすと三人を休ませていたのだ。深い眠りから半日ほど経っただろうかリナとミカが意識を取り戻していた。


 「本当に驚いたわ。気がついたら親方が魔物に襲われていると思ったものね。」


 「ハッ、ハハハ まあ、確かにガルの姿を見たら誰でもそう思うかもしれんな。」


 「・・・・」


 「でも、ガルは魔物でもカッコいいよ。」


 「・・・・」


 「ミカ、ガルが顔を真っ赤にして照れてるよ。

  それにそんなこと言うとタカヒトが落ち込んじゃうわよ。」


 そんなやりとりに親方は腹をかかえて笑っていた。その笑い声に起こされたルキアは天幕から出てくるとやはりガルの姿を見て驚いていた。事の真相を聞いたルキアはマジマジとガルを見つめていた。


 「ロエルとは思えないな・・・ちょっと待てよ。クリスタルはどうなったんだ?」


 親方達が探していたクリスタルは塔の地下の奥深くにあった。ルキア達が眠っていた時、親方はガルに彼らの護衛を頼み独りで塔の地下に入っていったのだ。暗闇を照らす輝きを放っているクリスタルはなんとも幻想的だった。数千年という長き年を経て創りあげられたその輝きのひとかけらを手にすると親方はガルのもとに戻ってきた。そして今その手には光り輝くクリスタルがある。


 「なんだよぉ~ もっと沢山取ってくればよかったのに!」


 「あの素晴らしい輝きを失いたくはなかった。

  それにこのひとかけらさえあれば十分だ!」


 親方達は来た道を戻ること数時間、ゲートに辿り着いた。蒸気設備場から開けるのは簡単なのだが洞窟側からゲートを開けるにはコツが必要だった。ジャージー・デビルの進入を防ぐ為に造ったのだが親方はこのコツを忘れていた。


 「おいおい、ここまで来て何してんだよ。」


 「黙っておれ!・・・・えっと・・・たしか・・・」


 ルキアに急かされて苛立ちながら親方は必死に思い出そうとしていた。やっとの思いでゲートを開けると眩しい光が洞窟内に広がっていった。


 「眩しい・・・あ、タカちゃん!」


 「ミカちゃん!」


 開いたゲートの先にタカヒト達が立っていた。配管工のひとりからミカ達らしき女の子が洞窟に入っていったという情報を聞き、洞窟内へ捜しに行こうとしていたのだった。てんとは親方の後ろにいる魔物をジッと見ていた。それに気づいたリナは言った。


 「てんと・・・風はなびいたわよ。」


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