ガル覚醒
「・・・リナお姉ちゃん?・・・お姉ちゃん
・・・お姉ちゃんってば!起きてよ・・・起きてよ!」
リナに駆け寄るとロエルは冷たくなっていく身体を何回も揺さぶった。しかしどんなに動かしてもリナは目を覚ますことはなかった。それでも必死にロエルはリナに声を掛け続けた。いつまでもリナにしがみつくロエルを不快におもったのかシャドーアームズはロエルを蹴飛ばした。
「うっ・・・・ううう・・・」
「おまえも殺してやるから安心しろ。
離ればなれにならないようにな!ハッハッハッッ」
シャドーアームズは両腕を鋭い刃に変えると笑みを浮かべながらロエルに歩み寄る。身体を起こしたものの腰を抜かし立つこともできないロエル。ロエルは四つん這いになりながら必死に這って逃げようとする。弱者をいたぶることにかけては一流のシャドーアームズは歩み近づくと軽くロエルの背中を切り裂いた。
「ぎゃぁぁあああ・・・いっ、痛い!」
「タトゥー・・・?小僧の分際でたいそうなモノを背負っているじゃないか。」
シャドーアームズが切り裂いたロエルの服の間から背中にタトゥーが彫られているのを発見した。それは大きな鳥が翼を広げて羽ばたくようなタトゥーであった。恐怖に怯えているロエルはその場を動くことも出来ずシャドーアームズに首を掴まれると捕らわれた。
「たっ、助けて・・・」
辺りを見渡しても今のロエルを助けてくれる者はただの独りもいない。死というものが迫ってくる恐怖にロエルは歯がガタガタと震えだした。
「恐怖を感じた者の表情はなんとも言えない快感がある。
さあ、もっとその表情を見せろ!」
「うわあぁぁぁ~~~・・・はっ、がっがっ!・・・・がっ、はっ!」
口から泡を吐き出すと首根っこを掴んだシャドーアームズは手を離し、ロエルを地面に落とした。地面を転がるように苦しみ始めたロエルの姿を見てシャドーアームズはショックのあまり狂ったのだろうと考えた。
「ふん、つまらん。これから愉しめると思ったものを・・・。」
両腕を元の形状に戻すとシャドーアームズはつまらなそうな表情をしながらショック死となるであろうロエルを眺めていた。しかしロエルが苦しい表情をするのとは逆に背中のタトゥーはハッキリと現れてきた。次の瞬間、ロエルの身体が激しく輝くとシャドーアームズは眩しさに眼をふさいだ。
「何だ、これは?雷獣の娘か?
・・・いや、奴は死んだはずだ。・・・これはいったい?」
ロエルを取り巻く輝きが小さくなっていくとシャドーアームズは眼を開いた。シャドーアームズの眼に映ったのはロエルではなく青白い長髪で青い瞳を持つ男だった。不思議に思ったシャドーアームズは辺りを見渡したがロエルの姿はどこにもなくその男だけが立っていた。
「おまえは・・・・
そうか、コイツらを助けにきたのか?だが残念だったな!遅すぎたようだ!」
青白い長髪で青い瞳を持つ男は辺りを見渡してからゆっくり歩き始めると親方のもとへ向かった。銃弾を受けてすでに息絶えていた親方の腹部に手を置くとしばらくジッとしている。
「がはっ、・・・・・・おっ、おまえ・・・ガル?」
「無理をするな!ここで休んでいるといい。」
親方は腹部をさすると撃たれた銃痕はなくなっている。辺りを見渡すとルキアが、ミカが、リナが動かずに倒れていた。この最悪の事態に親方は目を覆うことしか出来なかった。だがガルがいることがせめてもの救いであった。
「ガル・・・皆を助けてやってくれ。頼む!!」
動くこともままならない親方が精一杯大声をあげるとガルは振り向き笑みを見せた。その背中にはハッキリと翼を広げたタトゥーが親方からも見えた。ガルはシャドーアームズの前に立つと笑みを浮かべながらシャドーアームズが口を開いた。
「貴様がガルだったのか。小僧に化けていたとは気づかなかった。」
「・・・・状況は理解出来た。おまえに死を与えよう。」
「ふん、たしかに変わった能力を持っているようだが
貴様とてこの影の能力から逃れることなどできぬわ!」
シャドーアームズの身体が消えていくと完全にその姿が見えなくなった。ガルの周囲に静寂が流れる。次の瞬間、ガルの身体が九の字に折れ曲がった。腹部を殴られたガルは息が出来ないほど苦しみ地面に膝をついた。苦しい表情を浮かべ辺りを見渡しているがシャドーアームズの姿を確認することが出来ない。
「があっ!」
今度は左頬に衝撃を感じるとガルの身体が枯葉のように吹っ飛んでいく。激しく地面に叩き付けられたガルは起きあがることができない。シャドーアームズは再び姿を現すとガルを見下している。ガルも口から血を流し、震える膝をなんとか抑えながら立ちあがったものの微動だにしない。
「くくく・・・大した事はないな。もう終わりか?
つまらん!死を与えてくれるのではなかったのか?」
「・・・・・」
「十六善神らしいが大した事はないな。いや、我々が強すぎたのかもしれんな。」
シャドーアームズはまた姿を消すとガルは見えない攻撃を防御することも出来ずにただ殴られ続けた。四本の見えない腕がガルの手足を押さえ鋭い足蹴りが続き次第にガルの顔は血まみれになり歪んでいく。ガルの手足をシャドーアームズの四本の腕が掴み頭上に持ち上げるとそのまま高くジャンプした。天井に足をついたシャドーアームズは自らの頭部をガルの胸部に押し付け地面目掛けて落下した。
「ガフッ!」
ガルは地面に叩き付けられ更にシャドーアームズの頭部がガルの胸部にめりこむと口から大量の血が噴出した。血の雨を浴びながらシャドーアームズは立ちあがると胸部が陥没しているガルの姿を見て勝利を確信した。
そしてシャドーアームズは親方の始末に向った。どのようにしてガルが親方を蘇らしたのか分からなかったが今となってはどうでもよかった。もはや瀕死の状態であるガルに何も出来ないと考えたからである。
「待て・・・何処に行く。」
「んっ・・・そんな! バッ、バカな・・・何故だ?」
ガルの声を聞いたシャドーアームズが振り返るとかすり傷ひとつ負っていないガルの姿があった。血まみれの歪んだ顔も陥没した胸部もなくなって戦う前の無傷なガルの姿にシャドーアームズは動揺していた。
「夢でも見ていたのとでも言うのか!
いや・・・まだ感触がある。フフフ、退屈しのぎになりそうだ!」
シャドーアームズはまたも姿を消すとガルに攻撃を仕掛けていく。上右腕を振り回しガルの顔面を狙うも紙一重でそれをかわした。続いて下左腕・下右腕と左右の上下腕を使った連続攻撃のすべてをガルは紙一重でかわしていくと今度はシャドーアームズの身体が九の字に折れ曲がった。
「ギャバァァァ・・・何故・・だ?」
「姿が見えればどうという事もない攻撃。かわすことなど容易。」
よろめくシャドーアームズの胸部はガルの一撃により陥没していた。そして自らの姿が完全にガルに見えていることに気づいた。
「影の能力が何故、解かれている?貴様、何をした?」
「おまえの影の能力に対して我が光の属性は相反する関係。光を闇に照らせばすべてが見えるもの。」
「ぐっ、ぐぐぐ・・・」
シャドーアームズの表情が曇り始めた。影の能力が通用しない以上直接攻撃しかない。再び四本の腕を鋭い刃に形状を変えると腰を落とし渾身の一撃を仕掛ける体勢をとる。その体勢を迎え撃つようにガルも腰を落とし身構えた。静寂が辺りを包み込みシャドーアームズとガルの間合いはなかなか縮まらなかった。先に動いたのはやはりシャドーアームズだった。
距離を詰め懐に入ると鋭い二本の刃がガルの両脚を貫く。そして残りの二本でガルの胸部を突き刺した。深く貫いた刃は背中を貫通してガルは口から血を吐き出した。勝利を確信したシャドーアームズはニヤリと笑った。ガルは意識が薄れる中、震える右手をシャドーアームズの胸部に当て光を放ち始めた。
「なんだ?この光は・・・!
ぐわっぁぁああ~ 身体がぁ~~・・・力が抜けていく!」
シャドーアームズの胸部から蒼白い光がガルの右手に吸い込まれていく。貫いたはずの刃は崩れ落ちガルの傷が治っていく。次第に痩せ細っていくシャドーアームズとは対照的にガルは力がみなぎっているようだ。完全に蒼白い光を吸い取られたシャドーアームズは乾いた土のようになりガルがその場を離れると粉々に崩れ去った。
「・・・終わったのか?」
体力が回復した親方がガルのもとにゆっくり歩み寄ってきた。ガルは無言のままルキアに歩み寄っていくと右腕を冷たくなったその身体に差し向けた。
「・・・うぐっ、・・・・・」
ルキアの顔色が生気を取り戻した。それはミカにもリナにも行われていく。しかし親方と同様に生気は取り戻したもののすぐに立つことも出来るわけもなくしばらくの間、泥のように眠っていた。三人の姿を見ながら親方はガルに語りかけた。
「ガル、おまえのお陰で生き残ることが出来た・・・ありがとう。」
「礼には及ばん・・・だが、何故だ?」
この蒸気の国の置かれている状況やその為にクリスタルが必要なことを親方は話した。沈黙したままガルは話を聞いていた。親方の話が終わるとしばらく静寂した空気が流れその沈黙を破ったのはガルの言葉だった。
「・・・自分の身体を心配していたほうがいい。」
グッスリ眠っているルキア達を見つめ笑みを浮かべた親方は再び口を開いた。
「ワシはな、ガル・・・もうこの先、何年も生きられないだろう。だから危険な事はワシがすればいいと思っておる。若者達には輝ける未来があるのだからな。だがこの若者達はそんなワシについて来てくれた。お前がワシを心配してくれるように・・・本当にうれしい事だ。」
「・・・・」
涙を浮かべ親方は本当に嬉しそうな表情をしていた。その表情を見たガルはそれ以上、何も聞こうとはしなかった。寒くなってくると親方は木を集め、火を焚き始めた。ガルはルキア達を抱かかえると焚き火の近くに寝かせる。焚き火に木を放り込んでいる親方がガルにリナ達のことを話し始めた。
「この娘さん達はおまえをずっと探していた。
理由はよく分からないがここまで来れたのは彼女達のお陰だ。」
「私を探している?まさか・・・追手か?」
「いや、違うだろうな。おまえの姿は見てはいないわけだし・・・
ただ悪い者達ではないことだけは言える。」
「・・・・」