影の国で得た力
「親方ぁ~~!!」
急ぎ親方のもとへと向かったルキアは地面に倒れている親方を抱えあげると何度も呼び掛けた。親方の腹部からは血が流れ続き止まらない。ルキアは必死に親方の腹部を押さえ込むがそれでも血は止まらない。アイザックはその場を去り、ゆっくりと歩き出すとリナとミカに近づいていく。
「くそったれ!」
怒りの収まらないルキアは鉄パイプを握り締めるとアイザックにそれを振り下ろした。アイザックに命中するはずの鉄パイプは突如、姿を現したモルザックの右手にいとも簡単に止められた。
「威勢のいい小僧だな。どうする、アイザック?」
「おまえの好きにしろ。」
モルザックは二ヤリと笑みを浮かべた。掴んでいた鉄パイプごとルキアを引き寄せるとその豪腕でルキアの顔面に一撃を喰らわせた。数十メートルは吹っ飛んでいったルキアは地面に叩き付けられた。九の字になって倒れているルキアに意識はなかった。
「けっ、なんだよ!もう終わりかよ・・・つまんねぇ~。」
「そう言うな、モルザック。獲物はまだいる。飛びっきりの獲物だ!」
アイザックはそう言うとリナを指さした。力を出し尽くしたリナは疲労困ぱいで立つこともままならない。リナはアイザックを見て驚愕した。
「何故、お前達が・・・殺したはずなのに・・・」
「そうだな・・・こうして再び出逢えようとは。
だが今回は殺されるのは私ではないぞ!」
アイザックは持っていた拳銃をその場に投げ捨てた。その行動にリナは困惑していた。動くこともままならないリナを拳銃で撃ち殺すことはアイザックには可能だった。ミカに肩を預けて身動きのままならないリナをアイザックは見下すように言った。
「ただ、撃ち殺すのでは私の気が収まらない。
おまえには本当の恐怖を植付けてやろう!」
アイザックの隣にモルザックが歩み寄るとミカは防御体勢を整えた。今、動けるのはミカだけである。ロエルが気を失ってリナも動くことが出来ない以上頼れる者は誰一人いない。冷静に辺りを見渡すと親方は腹部を撃たれ瀕死の状況、ルキアもピクリとも動かない。ふたりの状況を考えると事は一刻を争うがミカには攻撃する術はない。そんなミカをアイザックは笑みを浮かべながら沈黙を続けている。ミカは警戒を怠らないように防御体勢を崩さずにいるとアイザックが口を開いた。
「冥土の土産に昔話をしてやろう。我々は雷獣の娘に殺された。そののち意識を取り戻した時、我々は影の国と呼ばれる場所にいた。何故、我々がそこにいたのかはわからない。我々は罪深い者達で地獄道に堕ちてもしかたない。だがあの国は地獄道とは思えないほど穏やかだった。」
影の国はこの蒸気の国より遥か南にある国だった。立派な城があり城下町もある。だがそこに暮らす者は皆、真っ黒の影の姿をしている。何故そのような姿をしているのか分からないが彼らは影だけの存在だった。話すことも笑うこともなくただ生きている感情のない世界。
「影の国の者にとって我々のような姿をした者を見るのが初めてだったのであろう。奴らは我々に想像もつかないもてなしをしてくれたよ。
実に楽しい日々であった・・・だが我々が雷獣の娘に受けた痛みや屈辱は忘れることなど出来はしない。復讐だけが我々の望みであり奴らは聞き入れてくれた。奴らはある特殊な能力を持っており、それを我々に教えてくれた。」
「お前達が・・・
影の国の人達を何もせずに生かしておくことなどないはず・・・」
リナがアイザックに言った。すべてを奪い殺していくアイザックやモルザックが影の国の人達を何もしないで生かしておくことなど有り得ないとリナは分かっていた。リナの言葉にアイザックは笑みを浮かべて口を再び開いた。
「雷獣の娘、分かっているじゃないか!・・・もちろん皆殺しにしたよ。あの能力は我々だけが持っていればいい。しかし、まあ・・・正直言って殺し甲斐はなかった。悲鳴すらあげないのだからな。さて、話は終わりだ。お前達は聞かせてくれるよな?絶望に泣き叫ぶ悲鳴を!」
アイザックが合図を送るとモルザックは後方に歩み寄りアイザックの影を踏んだ。次の瞬間、モルザックはアイザックの影に飲み込まれていく。モルザックの姿が完全に飲み込まれていくとアイザックに異変が起き始めた。180cmほどの身長はふたまわりほど大きくなり異常なほど筋肉がついてきた。特に肩まわりは張り出して両肩から2本の太い腕が現れた。四本腕のアイザックはいままでとは姿形があまりにも違っていた。
「くっくっくっ・・・我が名はシャドーアームズ。絶望を目の当たりにした雷獣の娘が奏でる断末魔を聞かせてくれ!」
「ミカ、ロエルを連れて早くこの場から逃げて!」
リナは突然大きな声をあげた。いつも沈着冷静なリナとは思えないほど激しい言葉にミカはこの最悪の事態を見極めた。親方とルキアはもはや・・・。
せめてロエルだけでも助けたいと言うリナの想いがミカに伝わった。しかしミカはリナを置いてこの場を去る気などなかった。気絶しているロエルを抱きかかえるとリナの肩を掴んだ。
「ミカ?」
「リナ、言うこときかなくてゴメンね。
でも置いていけない。桜玉上級理力 桜吹雪!」
包み込む桜吹雪が舞い広がるとミカ達はその場から消えた。消えたミカ達に動じることもなくシャドーアームズはゆっくり眼を閉じるとその場から姿を消していく。
「きゃあ!!」
突然、巨大な腕に掴まれるとミカ達は光眩しい場所に連れていかれた。地面に叩き付けられたミカは辺りを見渡すと見覚えのある光景が広まった。そこには親方やルキアが倒れていた。
「なんで?・・・」
「フフフッ、おまえのその能力は影の国で身に付けた私の能力と似ている。おまえの能力は私には通じないぞ!」
「そんな・・・」
逃れられない恐怖感がミカを襲っていく。傍らには気絶しているロエルと動くこともままならないリナがいる。ふたりを守らなければならない使命感が更にミカの恐怖感を高めた。震えの止まらないミカを見下しニヤけているシャドーアームズはミカを蹴り飛ばした。
「きゃあぁ~・・・うっ、うう・・・」
激しく地面に叩き付けられたミカはピクリともしなくなった。シャドーアームズは足元に眼を向けるとそこには気絶したロエルとロエルを守ろうと必死になってもがいているリナがいた。
「フフフッ まだもがいておったか。さあ、おまえの断末魔を聞かせてくれ!」
「きゃはっ!・・・くうう・・・」
シャドーアームズは膝をつき右下腕でリナの首を掴みあげるとそのまま地面に叩きつけた。地面に叩きつけられたリナは頬を青くし口から血が流れる。身体をピクピクさせて苦悶の表情を浮かべているリナにシャドーアームズが歓喜の雄叫びをあげた。
「いいぞ、いいぞ、これが見たかった!」
シャドーアームズはリナに歩み寄ると大木のような脚をリナのか細い身体に減り込ませていく。その度にリナは身体を九の字に曲げ、悲鳴をあげる。
「んっ?悲鳴がないぞ・・・気絶しおったか?つまらん!」
シャドーアームズの容赦ない攻撃にリナは意識を失った。シャドーアームズの攻撃にもリナは身体を犠牲にしてロエルを守っていた。リナのおかげで無傷で済んだロエルだが蹴られ続けたリナからの衝撃が伝わったのだろうか気絶していたロエルが意識を取り戻した。ロエルの目にシャドーアームズの姿が映ると恐怖に身体を震わしてリナにしがみついた。
「なん、何・・・うっ、わ・・・わあぁぁぁ・・・ゲボッ、あぁぁぁ~!」
「・・・うるさい小僧だ。先に殺しておくか!」
恐怖に怯え痙攣した身体、泣き止まないロエルが目障りになったシャドーアームズは右上腕を鋭い刃に形状を変えた。その鋭い刃にロエルの姿が写ると一気に深く突き刺した。ドスッと低く鈍い音がすると胴体を刃が貫き大量の血液が刃の尖端から滴り落ちてきた。
「フウッ、・・・ロッ・・エル・・・にっ、逃げ・・・て・・・」
「ふん、自ら刃に向かってくるとは・・・死ぬ順番が少しだけ変わったに過ぎん。」
リナの身体から刃を抜き外すと血の滴る刃をロエルに向けて歩み寄ろうとする。しかし足元に倒れているリナがシャドーアームズの足を掴み離そうとしなかった。
「わあぁぁ~~~がっ、がががっ!」
依然ロエルの身体は痙攣が止まらない。ロエルを仕留めようとシャドーアームズは近づくが、行く手を阻むリナ。そのリナにシャドーアームズは何度も刃を突き刺すが痛みを堪え悲鳴にも似た声でロエルに叫んだ。
「はぐっ、逃げ・・・なさい!あ・・なた・・だけ、ゲボッ・・・あなただけ・・・でも、ゴブッ、い・・・いき・・るの・・よ!」
「うわぁぁぁ~!」
リナの叫び声にロエルは涙を浮かべながらもなんとか踏ん張ると立ちあがることができた。辺りを見渡すと親方もルキアもミカもそして今、リナもその命を終えようとしている。恐怖に支配されているロエルは何も考えられない。ただ頭の中にあったのはここから逃げたいという願望だけだった。瀕死のリナを見てニヤリとしたシャドーアームズはロエルを呼び止めた。
「おい、小僧!おまえにいい物を見せてやろう。」
恐怖に支配されているロエルの耳にそれはハッキリと聞こえた。足を止めてシャドーアームズを恐る恐る見つめると瀕死のリナの首を左下腕一本で持ちあげていた。リナに意識はほとんどなく軽々と持ちあげたシャドーアームズは笑みを浮かべると刃と化した右下腕を振り上げリナの腹部を貫いた。
「はがっ!・・・ドッ・・レイ・・・・・」
ひとすじの涙が頬をつたわるとリナはガクッと頭を落とした。シャドーアームズは右下腕を下にするとリナは地面に落ちていった。口から血を流し涙の跡が残る瞳はロエルを見つめていた。生きている者はロエルだけ・・・シャドーアームズの甲高い笑い声だけが辺りに響いた。




