牡丹玉のリナ
「おい、撃つことはないだろ。死んだら使い物にならねえよ!」
「私に楯突いたのだ。仕方なかろう。」
「けっ、金よりプライドかよ。」
口をパクパクさせ瀕死のリナから離れようとしない雷獣を強引に掴むとモルザックは絶縁マントで包んだ。大樹木の根元で瀕死のリナは絶縁マントに包まれた雷獣をずっと見つめている。リナの願いも伝わらず、モルザックとアイザックは馬にまたがりその場を去っていく。
「・・・ダメ・・・待っ・・・て・・・連れ・・て行かない・・・で・・・。」
その時・・・確かに雷獣はモルザックの絶縁マントに包まれていたはずだった。しかしそれは倒れているリナの傍らにいた。
「そう、聞こえないはずの雷獣の声が聞こえた・・・あの時から私は変わった。」
リナは親方に話すと少し動揺はしていたが冷静を装い固形燃料を燃え盛るたき火に入れていた。少しの沈黙の後、リナは再び話しだした。
目の前に雷獣がいる。信じられない事だがリナは白一色の空間にいて、そこにはモルザックやアイザックは存在していない。リナの目の前には雷獣だけがいた。
(リナ、やっと話せるね。)(雷獣)
「えっ?・・・」
(友達のいない僕にリナだけは優しくしてくれた。嬉しかったよ。)(雷獣)
「・・・雷獣なの?」
(僕はもうすぐいなくなるけどいつまでもリナと一緒だから。寂しくないよね?)(雷獣)
「えっ、何で?ちょっと、待って!」
雷獣との不思議な会話を終えたリナは周辺を見渡すと元の世界にモルザックとアイザックがいる世界に戻っていた。腹部から血をだして意識が朦朧としていたはずのリナは腹部の傷が治っていることに驚いた。傷跡も塞がって血も出ていない。意識もハッキリしてモルザックを見ると絶縁マントの中にいたはずの雷獣を探していた。
「あの子がいない・・・さっきのは夢じゃない?」
(いつもリナと一緒だよ。)(牡丹玉)
「! どこにいるの?」
雷獣の声を聞いてその姿を探すが何処にもいない。リナは撃たれたはずの腹部を触ると服は血だらけだが傷口は完全に塞がっている。疲れもなくなんとなくではあるが高揚感があった。リナがゆっくり立ちあがって辺りを見渡している間もモルザックは絶縁マントを裏返してはいなくなった雷獣を探している。
「どこに行ったんだ?急に軽くなったと思ったら消えていた・・・?おい、アイザック、あの小娘が立ちあがっているぞ!死んだんじゃないのか?」
「何故だ?あの出血量で生きているわけがない!」
リナの姿を見て動揺したアイザックは急いで拳銃を取り出すと二発三発と撃ち込んだ。しかし弾丸はリナの目前で止まると地面に落ちた。その瞬間、リナの身体は牡丹色に輝きを放っていた。
「牡丹色・・・そうか、あの雷獣が牡丹玉だったということか!」
「アイザック、牡丹玉って何だ?あの小娘はどうしてあんな色してんだ?」
「ソウルオブカラーの存在は聞いた事があるだろう。色玉は本来その名の通り玉の形をしている。しかし稀ではあるが本人の知らない深層意識の中に封印されていることや生物など具現化されていることもある。あの雷獣はソウルオブカラーの中で雷撃を操る牡丹玉だったというわけだ。」
「って事はあの小娘ごと捕まえればかなりの戦力になるわけだな。この絶縁マントがあれば怖くない!最悪、手足を落としても構わないよな?」
「うむ・・・よかろう。」
モルザックはマントをまといバトルアックスを手に身構えた。もし捕らえれば手足を落とし戦闘マシンとして高値で売るつもりらしい。ジリジリと近づいていくモルザックに対してリナは構えることすらせずにただ立っていた。
「諦めたか!足だけでも落としておくか。」
モルザックはバトルアックスを振りかぶるとゆっくりとリナに近づいていく。牡丹色に輝いているリナの右腕がゆっくりと動くとモルザックは防御態勢を取った。しかしリナから何らかの攻撃があるわけもなく、ホッとしたモルザックは再びバトルアックスを振りかぶるとリナの影を踏むところまで近づいていく。
「覚悟は出来ているのか?まあ、殺しはしねえ。死んだら金にならねえからな!」
「・・・覚悟も死ぬ気もない。死ぬのはお前たち!」
「ガッハッハッハッ、こいつはいい。
おい、アイザック 俺はこの小娘に殺されるらしいぜ!」
「そう・・・小娘に殺される。牡丹玉ミドルエレメント サンドラドック!!」
牡丹色の輝きが増すと五匹の雷獣が一斉にモルザックに襲い掛かった。モルザックはバトルアックスでサンドラドックを振るい払おうと懸命だ。だがサンドラドックは雷そのものであり接触すれば当然感電痛を味わう。振り払うのをやめれば唯一雷撃を防ぐ絶縁マントをその鋭い牙で破られてしまう。攻撃も防御も出来ずにモルザックは恐怖に押し潰されていく。
「たっ、助けてくれ・・・アイザック!うぎゃあ~~~」
モルザックの両腕、両脚そして頭にサンドラドックは噛み付くと一斉に雷撃を浴びせた。雷撃を浴びせたサンドラドックは消え去ったがそこには真っ黒に焦げたモルザックが感電死していた。仁王立ちした姿からはなんともいえない悪臭が漂っている。その光景を見たアイザックは拳銃を構え数発発砲したがもちろんリナには通用しない。
「牡丹玉ミドルエレメント サンドラドック!」
「まだ、やることが残っているというのに・・・無念・・・・」
拳銃を手にしたアイザックは原形をとどめていないほどその皮膚は溶けただれていく。誰もいなくなった大樹木の下でリナは泣くのを止めると歩き始めた。
「今の私がいるのはあの時、雷獣と出会ったからだわ。そして私は部落を後にしてとある場所に辿り着いた。そこは戦を求めて集まった兵士達によって作られた部落だったわ。拒むことなど出来ず私は兵士として部落に身を置いたわ。この能力で私は戦に必要とされてね。」
「なるほど・・・
やはりソウルオブカラーは選ばれし者だけが手に入れることが出来るのだな。」
「ソウルオブカラーを知っているようね?もしかしてガルもそうなの?」
「いや・・・詳しいことはワシにもわからんがこれだけは言える。
ヤツの力は想像を絶する・・・さて、もうじき出発の時間だ。」
親方は天幕に向かうとロエルを起こした。寝ぼけ眼のロエルはリナの隣に座るとリナにもたれかかり再び居眠りをしだした。ミカはよく眠れたらしくと笑顔で起きてきた。ルキアはというとなかなか起きないようで天幕の中から親方のバカでかい怒声が聞こえた。その怒声にビックリしたロエルがパチッと目を開けると辺りを見渡した。隣に座っているリナに気づくと顔をしばらく眺めていた。
「おはよう、ロエル」
「・・・おはようございます。」