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未来のきみへ   作者: 安弘
地獄道編 Ⅱ
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町長の苦悩と親方の決意

 「親方、状況はどうかね?」


 「状況はあまりいいとは言えない。第14タービンが破損して第17と18タービンに負担が掛かっている。」


 「直せそうにないかね?やはり新しいタービンを造るしかないかね?」


 親方の部屋を訪れた町長が言った。親方の深刻な表情に町長の表情も曇っていく。事故が起こったのはタカヒト達がこの地に到着する数日前の事であった。


 「14タービンの方から火が出たぞ。全員、作業を止めて消火活動に入れ!」


 蒸気設備場の心臓部とも言えるタービンのひとつ、14タービンは調整作業中に出火が起こった。老朽化が進んでいたタービンを交換後、調整を行っていた時にタービンを支えているロッドが折れた。折れたロッドは内部燃焼部を貫きそこから大量の燃料と共に延焼が広がっていったのだった。


 「おい、怪我人を運びだせ。くっ、消火剤が足りん!ルキア、消火剤はまだか!」


 親方の激が飛ぶとルキアは走って消火剤を倉庫から取ってくる。急いで消火銃に消火剤カプセルを充填すると燃え盛る内部燃焼部に撃ち込んだ。消火剤カプセルが炎の勢いを抑えることに成功した。親方は皆に合図を送ると手にしたホースを14タービンに向け放水を開始した。作業員も次々と消火活動を開始して14タービンの炎上を最小限に食い止めることができた。


 「親方・・・すまねえ。」


 「ロッドの亀裂は見極めが難しい。おまえの責任ではない。すべて俺の責任だ。なにも気にせずに身体を治す事に専念しろ。」


 タービンを調整していた主任作業員は涙を流しながら担架で運ばれていった。焼け残ったタービンの残骸を片付けている作業員達の姿を部屋の窓から眺めながら親方は口を開いた。


 「タービンを造るには鉄鋼ともうひとつ必要な材料がある。しかしそれを手に入れるのはあまりにも危険だ。」


 親方はたばこをふかしながらほかの作業場に視線を移した。そこには小口径の水道の配管をロエルがルキアに教わりながら施工していた。真剣な表情で配管作業に取り組んでいるロエルの姿を見ながら親方は決意した。


 「町長、タービンの材料は心配するな。俺が取って来よう。」


 「親方自ら行かずとも・・・若い作業員に任せたほうがよくないかね?」


 「そういうわけにも行くまい。あれを手に入れるには命掛けの覚悟が必要だ。未来のある若者達に行かせるわけにはいかない。町長・・・わしももう歳だ。これからの配管作業は若い奴らに任せる時が来たのかもしれん。だがこの仕事だけはわしがやる!」


 「親方・・・・」


 たばこを灰皿におしつけて再び窓の外に視線を向けると今度はルキアが配管の作業をしていた。どうやらロエルには手におえなかったようだ。度々手を止めながらルキアはロエルに配管作業を教えているようだった。そんな姿を親方は微笑ましく思えた。


 「ルキアがいればここも安心だ。そしてロエルのような若者が安心して仕事が出来る環境を作ることこそわしの仕事だ。」


 親方は町長が部屋から去っていくとリュックサックに必要な物を押し込めた。作業員達に見つかると心配されるので親方は早めの就寝を取ると深夜の出発を決行する。

 蒸気設備場東側から捜索していたタカヒトとてんとそれにポンマンの三人はガルの情報をもとに数名の作業員に会ったがガルに会うことは出来なかった。辺りはすっかり暗くなりポンマンの腹がグゥ~~と鳴った。


 「てんとぉ~、お腹がペコペコだよ。あそこの食堂に行こうよぉ~~。」


 てんとはポンマンの強引さに負けて蒸気設備場内の食堂へ向かった。この食堂は蒸気設備場内で働く作業員が集まる場所でてんと達が中に入った時にはすでにいっぱいだった。なんとか席についた三人はそれぞれ定食を頼むと料理が来るのを待つ。てんと達が座った後ろの席にはロエルとルキアが座っていて定食を食べながらルキアはロエルに配管について話していた。


 「タカヒト、あの子見てみな。

  タカヒトより小さいけどもう働いているみたいだよ。」


 「ほんとだ。でもあの教えている人も僕より少し大きいくらいだね。」


 「それだけ過酷な労働ってことだろう。若いうちから仕事を覚えて働く。見習うべきところがあるな。」


 そんな話をしているとてんと達のテーブルに料理が届きポンマンはむさぼるように皿をかかえて食べ出した。途中で喉を詰まらせてちょっとした騒動にはなったもののてんと達は楽しい食事の時間を満喫している。


 「さて・・・ぼちぼち帰るか。」


 「はい、ルキアさん。」


 てんと達の後ろの席に座っていたルキア達は席を立つと食堂を出て行った。ルキア達が出て行ったことには気づかずにてんと達は食事をしている。外に出たルキアとロエルは配管作業の段取りを話しながら歩いていると暗闇の中で親方の姿を発見した。


 「親方だ!こんな遅くにどこに行くんだ?」


 不思議に思ったルキア達は親方に気づかれないようにゆっくりと親方の後をついて行った。いったいどこまで行くのだろう?親方は蒸気設備場の階段をどんどん降りていく。ルキアは気がつくと立入禁止のプレートが張られた鉄製のゲートまで来ていた。ルキアはゲートを開けるハンドルを回している親方に怒鳴りつけた。


 「親方、何をやってんだ!

  そのゲートを開けたらジャージー・デビルがはいってくるぞ!」


 「?? お前達?何で着いて来たんだ、バカ野郎!」


 「バカ野郎ってなんだよ。親方がそんな格好で暗闇を歩いていたら気になるのは当たり前だろ。だからこうしてロエルと一緒に来たんじゃねえか。」


 「ロエル?・・・! おまえも着いて来たのか?」


 「すみません、親方・・・」


 「ところで禁じられたゲートを開けようとして何をしようってんだ?」


 「ふぅ~~・・・仕方ないな。」


 親方は開けかけたゲートを完全に閉めた。その場にあぐらをかいて座るとたばこに火をつけた。ルキアとロエルも近くに座ると親方はたばこの煙を吐いて話を始めた。タービンが破損して材料が必要な事。それにはジャージー・デビルの巣窟にあるクリスタルが必要な事などを話した。


 「よくわかったぜ。

  でもひとりで危険な事をさせるわけにはいかないな。俺もいくぜ。」


 「何を言っているんだ!危険なんだぞ。

  お前達のような若者を行かせるわけにはいかんのだ。」


 親方の制止を無視してルキアは立ちあがるとゲートのハンドルを回していく。ゲートはゆっくり開いてルキアは無言のまま歩いていった。親方は走りルキアの肩を掴むと制止させた。


 「いいかげんにせんか!」


 「親方!俺だって親方の力になりたいんだ。・・・俺も親を失いたくない。」


 「ルキア・・・」


 「僕もです。」


 「・・・ロエル」


 ルキアとロエルの熱意に親方は目頭が熱くなった。親方はルキア達を連れて開いたゲート内へと進んで行った。


 「ねえ、リナ?あの人達どこに行くのかな?」


 「わからないわ。ただ、かなり危険な場所に行くみたいね。」


 「もしかしてガルがいる場所かも・・・」


 「行ってみる価値はありそうね。」


 リナとミカは親方達が会話をしているのを偶然発見した。階段の影に隠れて会話を聞いていたがクリスタルの話は聞いてはおらずガルに会いに行くものと考えた。親方達がゲートを越えてしばらくすると自動的にゲートが閉まるようになっていてそれは閉まり始めた。リナとミカは急いで階段を降りるとゲートを通り抜けた。ゲートを越えて歩いていくと蒸気設備場のような電灯はなく薄暗いジメジメとした洞窟のような場所に入っていく。足元はベットリとしていて歩きにくかった。どれくらい歩いたのか?リナとミカは先を歩く親方の姿を確認することが出来なかった。


 「ジメジメして嫌な感じね。それにしてもまだ彼等に追いつかないなんて・・・。」


 「もうすぐに追いつくよ。あれ?リナ、何か来るよ!」


 暗闇の中から無数のジャージー・デビルが飛来してきた。リナはエレメントを高めると牡丹玉ミドルエレメント サンドラドックを放った。獰猛なサンドラドックはジャージー・デビルに噛み付き電撃を与えながら仕留めていく。雷撃に恐れをなしたジャージー・デビルは地上に降り立った。二匹が寄り添うように皮膚を合わせると二匹の身体が交わり一匹の別の魔物と化した。


 「二匹が一匹になっちゃったよ。身体も大きくなってる?」


 「融合したんだわ。ミカ、気をつけて!」


 ジャージー・デビルは融合することにより能力をあげることが出来る。融合前のジャージー・デビルは地獄道の世界では非力な魔物だが融合することでこの世界で生き抜く力を得た。融合したジャージー・デビルはひとまわり身体が大きくなり攻撃力も一段階あがるダーク・ビーストに変身した。巨大化して硬い筋肉に覆われたダーク・ビーストはジャージー・デビルのような飛行能力はなくなるがそれを補う攻撃力と凶暴性が増す。

 再びエレメントを高めたリナはサンドラドックを放ったがダーク・ビーストは腕力で襲い掛かるサンドラドックを地面に押し潰すとそれらは断末魔をあげながら消滅していった。


 「ミカ、エレメントを最大限まで高めるわ。ダーク・ビーストの足を止めて!」


 リナは呼吸を整えるとエレメントを最大まで高めていく。牡丹色の輝きが薄暗い洞窟を眩しいくらい明るくさせた。ダーク・ビーストは眩しさに眼を覆いながらも鋭い爪でリナに襲い掛かってきた。


 「させないわ、桜玉中級理力 レインボーウォール」


 しかしミカの繰り出したレインボーウォールもダーク・ビーストはその鋭い爪で切り裂いていく。機転を利かせたミカは何重にもレインボーウォールを繰り出しダーク・ビーストの足を止めることに集中した。


 「ミカ、いいわよ!」


 リナが合図を送るとミカは理力を解きレインボーウォールを消した。足を止められていたダーク・ビーストは鋭い爪を光らせるとふたりに目掛けて襲い掛かっていく。


 「牡丹玉オーバーエレメント  リ インドラ メガラウンド!」


 洞窟を覆いつくすほどの大きな雷神の腕が現れるとダーク・ビーストを握り締めた。雷撃と雷神の握力にダーク・ビーストは断末魔をあげながら潰されていく。


 「女だからって甘くみないで。怒らせると痛い目に遭うのよ!」


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