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未来のきみへ   作者: 安弘
地獄道編 Ⅱ
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蒸気設備場の配管工

 「親方、ここの配管はどうすればいいんですか?」


 「おう?・・・おぉ~、そこはな・・・」


 蒸気の国の中心部は空洞でドーナツ状のようになっている。そのドーナツ部分に建物がひしめきあっているように建設されていた。空洞になっている中心部の五百メートルほど下には巨大な蒸気設備がある。鋼鉄製の煙突からは白い煙がモクモクとあがって赤黒い空に消えていく。

 その煙突は鋼鉄のフレームに補強されて数十基ほど設置されている。タカヒトの身長ほどの直径があるパイプが何本もありそれらは一見規則性のないようにも見えた。だがこの規則性のなかにこそ機能美というものがあるのであろう。そしてここが大叫喚地獄すべてのエネルギーを捻出している心臓部であり、蒸気の国を支えている産業なのである。ここの設備メンテナンスを一任されているのが親方と呼ばれるこの男で今、見習い配管工のロエルに配管の指導をしている。


 「そうだ、ロエル。ここはこの特殊工具を使え。配管工たる者、状況に合わせて自ら道具を造り臨機応変に対応せねばならん。」


 「はい、親方!」


 「親方!上部換気口の図面はどこにあるんだい。

  おっ、今日も親方に鍛えられてんな!」


 「はい、ルキアさん」


 「ルキア!余計な事言ってる場合か!図面は第一資料室の一番上の棚にある。しゃべってる暇があったら手を動かせ!」


 「へいへい、わかりましたよ。じゃあな、ロエル。」


 ルキアはロエルに手を振るとロエルは笑顔を見せた。ルキアは配管工として一流であり、ロエルにとって憧れの配管工である。今のロエルのように親方に鍛えられて一人前となったルキアは他の配管工からの信頼も厚く、ちょっとお調子者で職人としては少し問題もあるが誰からも好かれていた。

 ロエルはそんなルキアみたいな配管工になりたいと常に思っていた。この日もロエルは仕事が終わった後、第一資料室で配管の施工方法について勉強していた。そこに図面を戻しにルキアが部屋に入ってきた。


 「仕事が終わったってのによくがんばるな。」


 「ルキアさん・・・僕も早くルキアさんのように一流の配管工になりたいんです!」


 「俺が一流かどうかわからないけど・・・あまり無理するなよ。じゃあな。」


 「はい、お疲れ様でした。」


 ルキアが部屋を出ていってもロエルは夜遅くまで第一資料室にこもって勉強をしている。ロエルのいる部屋の窓から明かりがもれるのを見ながら親方は酒を飲んでいた。配管工はロエルのように幼い頃から独学で学ばせることが鉄則なのであった。配管について探究することで緊急時にも対応できる応用力を身につける。故に親方でもロエルに勉強を教えることはない。厳しい現場で己を磨き、経験不足なところだけを年長者がほんの少しだけアドバイスをする。それが配管工の世界なのである。

 その日の夜、タカヒト達はてんとが持ってきた情報を聞いて驚いていた。


 「ガルの居場所がわかったぞ!」


 「えっ、ほんと!どこにいるの?」


 「ガルは中心部にある蒸気設備場で働いている配管工だと言うことだ。」


 「配管工?・・・よくわからないけどそこで働いているんだね。

  そこにはどれくらいの人がいるの?」


 「蒸気設備場には・・・五百名位いるらしい。」


 「ごっ、五百人も・・・そんなに!」


 ミカもタカヒトと同様に目を真ん丸くしていた。五百人もいるのはさすがに驚いただろうが考えてみれば当然である。この蒸気の国だけで大叫喚地獄のすべてのエネルギーを補っているのだから。だがことは簡単な人捜しで済みそうもなさそうだった。蒸気の国は町より蒸気設備場のほうが敷地は遥かに広かった。途方もない話にリディーネは言った。


 「見つかりそうにないじゃん。アタシ、捜すのパス!」


 「いくつかのパーティに別れてガル捜索を行うことが最善と考えている。」


 「ちょっと、アタシの話聞いてんの?」


 「そうね、てんとの言う通り、手分けして捜したほうが良さそうね!」


 「何?ひょっとして無視ってヤツ?」


 「リナの言う通りだ!てんと、どういう振り分けでいくつもりだい?」


 ポンマンの問いかけにてんとは蒸気の国の図面を広げて説明する。皆が捜索について話をしている姿を蚊帳の外状況のリディーネとデュポンはポツンと様子を伺っていた。


 「わかった!アンタ達、アタシがガルを見つけて活躍するのが気にいらないのね?」


 「そうでやす!姉さんがガルを見つけるのが気にいらないんでやすよ!」


 「やっぱりね!そうとわかったら行くわよ、デュポン!」


 「へい、姉さん!」


 そう言い残すとリディーネはデュポンを連れて勢いよく出て行った。リナはドアが閉まるのを確認するとてんとに問い掛けた。


 「てんと・・・ワザとでしょ?」


 「ワザと?・・・いったい何の事だ?」


 「フフフ・・・。」


 こうしてガル捜索隊のパーティ編成は決まった。ミカとリナのパーティ、タカヒトとてんと、ポンマンのパーティのふたつに分かれた。リディーネとデュポンのパーティを合わせると三つのパーティになりそれぞれが別れて捜索は開始される。


 「よし、これよりガル捜索にあたる。もしガルと接触しても近づくな!ガルは十六善神であり、味方というわけではないからな。」


 てんとは捜索前にガル発見時の約束事を確認した。ガルを見つけたら蒸気設備場に設置してある通話機を使用して皆に知らせるという方法を取った。通話機は蒸気設備場に数多く設置されておりその通話は全てのスピーカーに流れるようになっている。そしてガルを見つけた時の合図は・・・・。


 「【風はなびいた】だ。しかし合図を知らないリディーネ達がガルに遭遇した場合は対処のしようがないがな!」


 こうしてガル捜索が始まりミカとリナは蒸気設備場の西側からタカヒトとてんと、ポンマンは東側から捜索をしていく事になった。リディーネ達が何処へ捜索に行ったのか?わからない以上、両サイドから挟み込むように捜していくしかなかった。


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