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未来のきみへ   作者: 安弘
地獄道編
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ジャンスのにも涙

 「俺は負けねぇ~ぞ・・・負げねぇ~。」


 「負けたっていいじゃない!」


 赤タカヒトが振り返るとサクヤ姫がそこにいた。地面に膝をついて強がっているジャンスの前に歩み寄ると膝をついてその両手を握った。


 「負けたっていいじゃない。確かにこの地獄道で勝ち負けは生死を決めるわ。それでももっと大切なことがあると思う・・・」


 ジャンスは自分の背後に気配を感じ振り返った。そこに数千のヘルズ兵士達が膝をつき頭を下げている姿が目に映った。


 「どんなに頑張っても・・・独りでは生きていけないのよ。」


 「そうだぜ。独りってのは場合によっちゃあキツイもんだ。

  たまには相手の考えを聞いて協力しないとな。」


 (その通りだ。補いあうことが大切だ。) (紫玉)


 (そうだよ、おじさん。) (白玉)


 サクヤ姫や赤タカヒト、紫玉、白玉の言葉にジャンスはしばらくの間空を見上げた。しばらくしてその頬を涙が流れた。その涙を汗と言って腕で拭う。


 「サクヤ、腹が減った。帰るぞ!」


 「パパ・・・ありがとう。」


 「・・・・お前達も飯でも食っていけ!」


 大叫喚地獄城下町に戻ったタカヒト達は町でもっとも有名な大叫旅館に一泊することになった。大叫喚地獄城はジャンス自身が大きな壁穴を開けてしまったのでとても寝泊りできる状況ではなかった。タカヒト達は大広間に集まりジャンスと共に食事をしている。だが上座のジャンスが下を向いてドンヨリ、この重苦しい空気に耐えられないタカヒトだった。もちろんタカヒトだけではなく隣にいるポンマンも同様であった。


 「ポンマン・・・この重苦しい空気、僕には耐えられないよ。」


 「私もだ・・・しかし、サクヤ姫はもっと可哀そうだ。

  見ろ・・・あの悲しそうな顔を。」


 「なんとかならない?」


 「うむ・・・」


 ポンマンは少し考えをめぐらせていると急に立ちあがり、てんとのいる席にとことこと歩いていった。タカヒトの目にはポンマンがてんとに何かを相談しているように見えるが、てんとはかなり嫌がっていた。するとポンマンは強引にてんとを連れて大広間から出て行った。 


 「ポンマンとてんとは何をやってるんだろ?」


 再び重苦しい空気に覆われた大広間でタカヒトはキョロキョロとてんと達の姿を探していた。すると突然、タカヒトの不安を払拭する者達が現れた。


 「レディースアンドジェントルメン!今宵はこの盛大なる宴にお招き頂き、感謝感激であります。ミスターマジックの異名を取るポリック。以後、お見知りおきを!」


 ポリックを名乗るポンマンとかなり恥ずかしそうな表情のてんとが大広間に入ってきた。大広間の中央で一礼すると笑顔を皆に振りまいていた。


 「・・・この展開、嫌な感じがする。」


 この時、リディーネはなんとなく嫌な事が起きそうな気がしていた。ポリックは助手のてんとと共に様々なマジックを披露していくとジャンスの表情が次第に明るくなっていく。華麗なマジックが披露されていることを聞きつけたヘルズ達も大広間を埋め尽くすように集まってきた。さきほどの重苦しい空気が今では歓喜の声に変わっていた。


 「さあ、さあ皆さん。マジックもいよいよクライマックスを迎えようとしています。そこでこのマジックにスペシャルゲストを招きたいと思います。そこのお嬢さん、こちらへどうぞ!」


 「えっ、アタシ?・・・ちょっ、ちょっと嫌よ!何すんのよ。」


 リディーネの感は的中した。てんとは近くにいるヘルズに言葉をかけると屈強なヘルズがリディーネを用意していた大きめのボックスに強引に押し込んだ。顔と手足のみをボックスから出したリディーネの姿を会場にいたすべての者は固唾を呑んで見守る。ポリックは真剣な顔つきでボックスの近くに立掛けてある長刀を握るとボックスに長刀を思いっきり刺し込んだ。次々と長刀を刺されていくと、リディーネはグッタリして動かなくなっていく。


 「きゃあぁぁぁ~!」


 サクヤ姫の悲鳴が大広間に響いた。ジャンスやヘルズ達もリディーネの姿を見ることが出来ずに目を覆った。数十本の刺された長刀を今度はゆっくりと真剣な表情のポリックが抜いていく。ボックスのリディーネはピクリとも動かず驚いたタカヒトは大声をあげた。


 「リディーネ、死んじゃダメだ!」


 最後の長刀を引き抜いてボックスを開くとポリックは倒れ動かないリディーネにカウントを取り始めた。「1・2・3!」 目をパチリと開けるとリディーネはボックスの上に立ちあがり決めポーズを取った。ファイナルステージにヘルズ達の歓喜の声が更に高まり大広間は大声援に包まれていた。マジックを楽しんでいるサクヤ姫は隣に座っているジャンスの視線を感じた。


 「サクヤ、こういうのもいいものだな。

  ・・・・これからは皆で考えてよい国造りをしていかんとな!」


 サクヤ姫から笑顔が溢れるとジャンスは笑みを浮かべマジックのフィナーレの余韻を愉しんでいた・・・。


 「門の鍵を捜しておるのか?ここにはそんな物はないぞ。」


 次の日、大叫喚地獄城の改修工事をしていたジャンスに門の鍵について聞いてみた。ジャンスは汗をかきながらブロックを片付けているとサクヤ姫がお茶を持ってきた。


 「パパ、休憩にしましょうよ。皆さんもご一緒にいかがですか?」


 「は~い、皆、休憩だって!」


 門の鍵が無くガッカリするてんととは逆にポンマンとタカヒトはお茶菓子に手を伸ばして取り合っていた。お茶をすすりながらジャンスは門の鍵について話し出した。


 「確かに門は閉めたのはワシだが鍵は・・・たしかガルが持ってるはずだ。」


 「ガル・・・十六善神のガルか・・・。」


 ガルとは十六善神のひとりで大叫喚地獄城より東に位置する蒸気の国にいるらしい。小さな国らしいが大叫喚地獄のすべてのエネルギーは蒸気でまかなわれており蒸気の国は重要な国だとジャンスは語った。いくつかの情報を得てタカヒト達は蒸気の国を目指す事にした。旅立ちの日、サクヤ姫はタカヒトのもとに歩み寄ると瞳に涙を浮かべて言った。


 「いよいよ行かれるのですね・・・タカヒト様、またお逢いできますか?」


 「えっ?・・・・うん、会えると思うよ。」


 「本当ですか!私、お逢いできるのを楽しみにしてます。」


 満面の笑顔で手を振るサクヤ姫とジャンスに見送られて東の地を目指してタカヒト達は出発した。サクヤ姫はタカヒト達が小さく見えなくなるまでずっと手を振っていた。その姿を見たポンマンはタカヒトに近づいていくと小声でささやいた。


 「タカヒト、サクヤ姫にあんな約束しちゃっていいの?」


 「えっ・・・なんで?」


 「そうよねぇ~・・・あまり期待させるのって良くないわよ。タカヒトって女心をわかってないのよね。ミカがいるのにサクヤ姫にあんなこと言っちゃって二股はマズいと思うわ。」


 「リナ? 女心って何?二股って・・・えっ、えっ?」


 「まったく女心をもてあそんじゃって。しかもアタシが本当に死んだとでも思った?「リディーネ、死んじゃダメだ!」ってさ。あんたバカじゃない?」


 「!!ちっ、違うったら・・・あれはてんとに言われて演技してたんだよ。」


 「私はそんな事言ってはいないぞ。」


 「・・・・うっ・・・だから、その・・・・あの・・・」


 「可愛いからサクヤ姫が好きなの?」


 「ミカちゃん!違うったら・・・わあぁぁぁ~~ん!」


 顔を真っ赤にしたタカヒトはその場から逃げるように走り出した。その姿を面白がったポンマン、リディーネとデュポンは追い討ちをかけるように走っていく。そんな騒ぎの中、てんとは大叫喚地獄城の方向にヘルズ兵士達が歩いて向かっているのを確認した。手にはスコップや工事道具を持っている。一方、タカヒト達を見送ったサクヤ姫は作業をしているジャンスの隣でペンキを塗っていた。


 「みんな、居なくなっちゃったね。」


 「・・・大丈夫だ!ワシがいるではないか!」


 ジャンスが笑顔でサクヤ姫を励ましていると数名のヘルズ兵士達が歩み寄ってきた。そしてジャンスの目前で片膝をつくと頭を下げた。


 「ジャンス様・・・大変申し訳御座いませんでした。

  我らを今、一度・・・お仕えさせていただけないでしょうか?」


 ジャンスが大叫喚地獄城から下を覗き込むと大地を埋め尽くすほどの兵士達が膝をついて頭を下げていた。振り返りジャンスはサクヤ姫の顔を見つめた。サクヤ姫は涙を流しながら笑顔でうなずいた。それを見てジャンスは片膝をつく兵士達に歩み寄ると自らも膝をついて激を飛ばした。


 「ワシは厳しいぞ!」


 「肝に銘じております!」


 「ワシの脳みそは筋肉でできておるぞ!」


 「すでに承知してます!」


 「まずはワシが自ら壊した大叫喚地獄城の改修から始める

  ・・・手を貸してくれるか?」


 「喜んで!」


 大叫喚地獄城を取り囲んでいたヘルズ兵士達は歓喜の雄叫びをあげていた。皆が奪い合うように修繕工事を行っていくといつもの活気を取り戻した。


 「タカヒトぉ~~、冗談だよ、冗談!」


 「ゴメンね、タカちゃん。」


 タカヒトはふてくされながら歩いているのをポンマンとミカがなだめていた。ちょうどその頃、大叫喚地獄城の方向から歓喜に沸いた大きな声が聞こえてきた。てんとは振り返って大叫喚地獄城の方向を見つめながら呟いた。


 「どうやら、うまくいったらしいな。」


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