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未来のきみへ   作者: 安弘
畜生道編
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パピオン国

 タカヒト達が歩きだしてどれ位経ったのだろうか・・・目の前にデカイ大樹木が立ち並んだ場所に到着した。太い枝がたくさん生えていてその中心には葉っぱで覆われた巣らしきものがあった。タカヒトが目を凝らして観察すると巣の中で何かが動いている。イーターの存在を思い出したタカヒトは急に怖くなって動揺したがタカヒトを制止させるとてんとは巣を観察した。


 「いや、違うな・・・あれはパピオンの巣のようだな。」


 てんとが観察していると巣から一匹の飛行系昆虫種が出てきた。それは体長八十センチくらいの人型の生物で背中にはトンボのような羽が生えている。頭の触覚と羽以外はほとんどタカヒトと同じような姿であった。片手に槍らしき武器を持っているパピオンはタカヒト達の頭上をグルグル飛び回って異常なほど警戒している。


 「何者だ!ここは我々のテリトリーだぞ。早急に立ち去れ!」


 パピオンは手に持っている槍のような武器をタカヒト達に向けて威嚇する。タカヒトは怖がっていたがてんとは動揺もせずにパピオンにテリトリーに侵入する気は無い事を伝えた上でイーターから逃れてここに入ってしまった事を伝えた。それを聞いたパピオンはグルグル飛び回るのを止めるとふたりをジッと見つめいる。


 「イーターだと!あれから逃げ延びたというのか?これからどうするつもりだ?」


 槍を突き出しながらもパピオンはてんとに問い掛けた。てんとは少しの沈黙の後に何処へ行くかは全く決めてはいない事とそして自分達は狭間からこの畜生道へ導かれた事を伝える。それを真剣に聞いていたパピオンは地上に降り立つと槍を収めた。


 「威嚇した事を謝罪する。ぜひパピオン族の国王に会ってほしい。」


 パピオンの眼差しに偽りが無いと判断したてんとはタカヒトを連れてパピオンの巣へと向かっていった。パピオンの巣は大樹木の高い所に存在していてそこまで登るのは不可能だった。


 「いいぞ、下ろしてくれ!」


 タカヒト達と一緒にいたパピオンが大樹木の上に向かって合図をすると上の方からゴンドラのような乗り物が降りてきた。パピオンはゴンドラに乗るように促すとタカヒトはてんとの後を追って恐る恐る乗り込んだ。ゴンドラは少しずつ上昇していくと森の壮大な風景が見えてきた。遠くの方まで森が続き心地よい風がタカヒトの顔を優しく包み込んだ。タカヒトがパピオンにゴンドラがどうやって動いているのか質問するとパピオンは得意げに語り始める。


 「このゴンドラはゴンドラ係と呼ばれる者が昇降を操作している。動力は滑車と呼ばれる中心を固定した円盤の溝にロープをかけてもう一方に重りをのせて昇降させている原始的なものだ。我らは飛行系昆虫種であるから必要はなくほとんど使用はしていない。主に客人用だ。」


 ゴンドラがパピオンの王国入口に到着するとゴンドラ係が笑顔で迎えてくれた。ゴンドラを降りたタカヒト達は導かれるまま王国の中へ入っていった。王国の中は意外と広く、いくつかの部屋らしき空間がある。タカヒトがキョロキョロして見渡しながらパピオンの後をついて行くと天井がほかの部屋よりも高く広い空間の部屋が目の前に広がった。その中央には椅子と呼ぶにはあまりにデカく重々しい椅子があり老人らしき人物が座っていた。その人物がパピオンの国王だとタカヒトにもハッキリ分かったのだがその表情は疲れきっているようだ。


 「・・・待っていたぞ。ワシはパピオン国王、オリザベス十八世である。」


 老人は椅子から立ち上がろうとしたがよろけてしまい立ち上がることもままならない。  

タカヒト達と一緒にゴンドラに乗ったパピオンが急いで国王に近づくと国王の手を取り椅子に腰掛けさせた。しばらく会話をするとほかのパピオンを呼び国王は別の部屋へと支えながら歩いて行った。国王を見送るとパピオンがタカヒト達に近づいてきた。


 「国王はお疲れなので私が話をしょう。私はデオルト・ムア・ディケイドと言いこの国で兵士長をしている。そして・・・」


 「ちょっと待って・・・なんの話?待っていたって何のこと?」


 「なにをいっている?おまえ達は勇者なのだろう?」


 「何を見て勇者と思うんだ?」


 タカヒトとデオルトの会話にてんとが話を割って入ってきた。いきなりパピオンの国王に会わされて勇者と言われて疑問に思うのは当然のことである。デオルトはそんなタカヒト達にこのパピオン国にある言い伝えを話した。


      害敵により国が傾くとき、東方より異国の者が訪れて害敵を一掃する。


 今、この国はイーターにより莫大な被害を受けている。そこへ勇者タカヒト達が来たというわけだ。タカヒト達を勇者だと思い込んでいるデオルトに困惑しているとてんとはこの国の状況を理解する為に少し時間がほしいと要望した。少しの沈黙の後、デオルトは部屋を用意してあると言って兵士にふたりを送迎するように命令した。兵士に促され用意された部屋に入るとタカヒトは小声だが強い口調で言った。


 「なんであんな嘘ついたの?僕達は勇者なんかじゃないよ!」


 「ああでも言わないとここを追い出されていただろう。いまからイーターの森へ引き返したいのか?とりあえず食物もある。今日はここで休息を取ろう。」


 てんとはテーブルの上にあった食べ物を食べ始めた。タカヒトは嘘をついた事に後悔していたがてんとの食べている姿を見て空腹には耐え切れずにテーブルの上の食べ物に手を出した。

 見たこともない食べ物であったが全部食べきり満腹になったタカヒトは久しぶりにフカフカのベッドへ倒れ込むと深い眠りについた。畜生道での初めてのやすらぎに深い眠りについた頃、この国を支えてる大樹木の周りには沢山の赤い眼が光っていた。


 「おい、タカヒト!起きろ!!」


 翌日になるとてんとの叫び声にタカヒトは目を覚ました。昨日からのあまりにも現実離れした状況に置かれていたタカヒトの疲労はピークに達していて久しぶりの安眠に朝になってもなかなか起き上がることが出来なかった。やっと起き上がった寝ぼけ眼のタカヒト。 


 「ぅう~ん・・・もう朝?ご飯の時間?」


 「それどころじゃなさそうだ。イーターの大群が押し寄せてきた。逃げるぞ!」


 「! ぇえ~~! 襲ってきたって逃げるの?戦うとか・・・」


 「戦う?外を見ろ。あれを見てもまだそんなこと言えるのか?」


 寝ぼけ眼のタカヒトは目を擦りながらテクテクと歩いて行くと窓の外を見た。そこには重なりあう様にイーターの大軍が大樹木にまとわりついていた。その異様な光景を見たタカヒトは驚いて腰をぬかした。じきにこの部屋まで来る可能性があるとタカヒトに伝えると急いでテーブルの上にある徳の水筒と業の水筒をまとめて逃げる準備をした。動揺するタカヒトにすでにイーターがこの巣の内部に入り込んでいる事をてんとは伝えると動揺は更に増していく。


 「ええぇ~!どうしよう、どうしよう?どうする?ねえ、てんと!てんとってば!」


 「そんなに慌てるな!タカヒト、深呼吸してまずは落ち着くんだ。」


 「そっ、そんなこと言ったって・・・

  深呼吸?スゥー、ハァ~・・スゥー、ハァ~~・・・・・。」


 「・・・・それでいい。いいか、タカヒト!動揺したら負ける。

  落ち着いて考え行動することが勝機に繋がるんだ!」


 今のタカヒトにはてんとの言葉を信じるしかなかった。ほんの少しだけ落ち着きを取り戻すとてんとの考えを聞いた。この部屋に居るべきと当初てんとは考えたがイーターがじきこのフロアに来る可能性が高い。まずは安全の確保を最優先させるということで上の階へ行くことになった。てんとは万が一を考えて事前に王国の隅々まで部屋の配置や通路を確認していた。上の階には小さな複数の部屋が在りそこなら巨大なイーターも入ることが容易でないと考えた。ドアを開けて外を確認するがイーターはいなかった。てんとはタカヒトを連れてドアを開けると一気に上の階へと向かった。

 一方、タカヒト達の居た部屋の下の階では・・・・


 「ゲガ・・・もう・・飽きた・・な・・」


 「グウ・・・・ア・キタ・・・」


 二匹のイーターがもぞもぞ動いていた。暗がりのフロアでイーターの足元には複数のパピオン兵が横たわっていたがピクリとも動かない。当初イーターの侵入に複数のパピオン兵が総攻撃を仕掛けたが返り討ちにあっていた。パピオン兵の半分はすぐにイーターの餌となり残りは遊び道具となっていた。生きながら羽をもがかれ苦しみ恐怖を感じながらパピオン兵達は死んでいく。二匹のイーターは命令により作戦を遂行しているわけだが元々イーターは下等生物である。本能のまま喰らい満腹になれば暇潰しに遊ぶのである。二匹のイーターは動かなくなったパピオン解体の遊びに飽きると部屋を出て上の階へ向かう。辿り着いたフロアには何も無いことを確認すると更にその上のタカヒト達のいるフロアへ登っていく。


 「ここはなんなの?」

 

 タカヒト達の入った部屋は麻のような袋が至るところに積み重なっていて歩くことは出来るが身動きはあまり出来ない。そこはどうやら食料庫のようだった。辺りを見渡して不安になったタカヒトはどう行動していくのか、てんとに聞こうと口を開くとてんとはタカヒトの口を塞いで静かにするように合図した。ふたりが黙り食料庫が静まり返ると廊下側からなにやら声が聞こえてきた。それはパピオンではなく獰猛なイーターの声だ。


 「ゲガ・・・ドウ・・スル・・・ハグレタ・・らしい・・ゾ」


 「はぐれた?・・!!!ドビラ・・におう・・うまそう・・なにお・・いだ」


 獰猛な二匹のイーターがタカヒト達のいる食料庫のドアに近づいてきた。一匹のイーターがその凶暴な爪でドアを引っ掻き始めるとバリバリとドアを切裂いていく。次の瞬間、イーターが巨大な身体でドアに体当たりして押し破った。勢い余ったイーターの身体はタカヒト達の足元近くまで滑ってきた。薄暗い食料庫の中でイーターの凶悪な赤い眼だけが光っている。


 「ゲガ・・・・エ・・・サ・・」


 「うわぁぁあああ~~~!」


 突然の出来事にタカヒトは大声で叫びだしたが冷静に状況を見定めていたてんとはイーターと逆の方向にあるドアへタカヒトを連れて逃げた。タカヒト独りだけだったのなら確実にイーターの餌となっていたであろうがてんとの冷静な判断能力により餌になる事は回避できた。  

 体当たりをしたイーターはすぐに起き上がるとタカヒト達の逃げた隣の食料庫のドアに再度体当たりをしてきた。その食料庫から更に隣の食料庫へと逃げていくタカヒト達をドアに体当たりしながら押し破り追ってくるイーター。しかしその突進力は体当たりを繰り返していくうちに次第に衰え始めた。


 「ゲガ・・・エザァァァ・・・・・・」


 逃げながらもイーターの状態を冷静に観察していたてんとが逃げるのを止めた。次のドアを開けようとしていたタカヒトのドアノブをまわす手が止まる。

 

 「どうしたの、てんと?早く逃げないとイーターが来るよ!」


 てんとは逃げてきた食料庫のほうへ向かってそのドアを開けるとそこには体当たりを繰り返していたイーターが傷だらけになって倒れていた。どんなに巨大な身体と凶暴な爪をもっていようとも木製の分厚いドアに体当たりを続ければ身体への衝撃もかなりのものになろう。イーターの知能の低さがてんと達に勝機を与えた。しかし瀕死のイーターの後をもう一匹のイーターが近づいてきた。そしてその瀕死のイーターの頭をいきなり噛み砕いた。薄暗くてタカヒトにはよく見えなかったが確かにイーターがイーターを喰らっている。それはまさに共食いであった。瀕死のイーターであるがその硬い甲殻をいとも簡単に噛み砕いていくイーターの牙はとてつもなく恐ろしい。


 「なんで?仲間とかじゃないの?」


 「どうやら仲間意識はないらしいな。逃げるぞ!タカヒト」

 

 タカヒトはてんとに言われるままドアノブをまわすと隣の部屋へ逃げていった。逃げた部屋は粉っぽくタカヒトが入った瞬間にゴホゴホと咳き込むほどだった。いままでの食料庫と違って石積みされたその部屋は何に使うものかは分からないが小麦粉のような白っぽい粉が床に沢山散らばっていた。

 

 「どうしょう・・・もう逃げれないよ。駄目だよぉ~。」


 「諦めるな・・・むっ、これは!よし、タカヒト!ここでヤツを迎え撃つ。そこに沢山積んである袋を破いて中の粉を撒き散らすんだ!」


 「えっ、なんで?それより逃げないと!」


 「生き残りたいのだろ?ならば言う事を聞け!早くしろ!」


 てんとはタカヒトに積んである粉をすべて撒き散らすように指示した。一瞬戸惑ったが今はてんとに従うしかないとタカヒトは言われるまま積んであった袋を床に投げ捨て粉を撒き散らしていく。一方、共食いを終えたイーターは赤い眼を光らせながらタカヒト達の向かった部屋へと動き始めていた。元々部屋中が粉っぽかったが更に撒いた粉で部屋中が白くぼやけた。


 「煙いよ・・・ゴホッゴホッゴホッ・・・てんと早く逃げないと・・・」


 「もう遅い!諦めたほうがいいぞ!今、喰ってやる!」


 聞いた事のない声にタカヒトはドアのほうを見つめるとはっきりとは見えなかったがイーターがドアを開けてタカヒト達のいる部屋に入ってきた。ゆっくりドアを閉めるとイーターの眼だけが赤く光っている。てんとはゆっくり目を動かすとイーターの入ってきたドアの反対側のドアノブに鍵がついているのを確認した。てんとはイーターに悟られないようにタカヒトに近づく。


 「合図をしたら奥の部屋に逃げ込むのだ・・・。」


 小声で伝えるとタカヒトはうなずく。ゆっくりドアに近づいてドアノブをまわすと音を立てずに開ける事が出来た。撒いた粉の影響で粉っぽくモヤけた空間が広がりイーターからはタカヒト達の動きが見えなかった。タカヒトがドアを開けるのを確認したてんとはイーターに問い掛けた。


 「ちょっと待ってくれないか!聞きたいことがある。」


 「なんだ?命乞いか?その願いは聞き入れられんな!」


 「なぜ短期間に言葉を覚えた?さっきとは言葉使いが全然違うのはなぜだ?」


 「そんな事か。言葉を覚えたわけではない。我々は魂を喰らうことで力と能力を増していくのだ。ここまでなるのにパピオン数匹喰らったがな!むっ、もう一匹の臭いが無くなったな。逃がしたのか?くっ、くく・・・無駄なことを!」


 イーターが話している隙にてんとはタカヒトに奥の部屋に入るように指示した。そしてタカヒトはすでに隣の部屋へ脱出していた。てんとも開けておいたドアの前に立ちイーターに話しかけていた。


 「それを聞きたかったのだ。その急激な能力の上がった原因をな!」


 そう言い残すとてんとは開けてあるドアからタカヒトのいる部屋に移動した。ドアを閉めると鍵をかけて更にタカヒトと共に奥の部屋へと逃げていく。タカヒト達に逃げられたイーターは激しく怒り赤い眼は更に鋭く光った。イーターはドアに体当たりしてドアノブをまわしたが鍵がかかっているので開かない。


 「おのれぇ~!こんなドアなど噛み砕いてやる!」


 怒り狂ったイーターは鋭い牙を光らせるとドアノブに噛みついた。鉄製のドアノブとイーターの牙が接触して火花が散った瞬間、部屋中が炎に囲まれた。


 「ゴガァアアアア~~~~!!!」


 断末魔をあげながらイーターの身体は瞬時に焼き焦げた。部屋は一瞬にして黒くすすけて何も残っていない黒い部屋と化した。


 「わあっ、何?何の音?」

                            

 タカヒトが急ぎ走っているといきなり地響きが起きて足もとが揺れた。タカヒトはてんとが何かとんでもない事をしたのだろうと問い掛けてみた。


 「粉じん爆発だ。密閉された場所で可燃性の固体微粒子が空気中に浮遊して一定の条件が整ったところに発火が発生すると爆発燃焼する。」


 「ふぅ~ん・・・・」


 話は聞いたがタカヒトには何の事かさっぱりわからなかった。だがてんとが凄いということだけは分かった。部屋から部屋へと走っていくと突き当たりの部屋へ辿り着いた。いままでの部屋と比べてかなり小さいが天井付近には喚起口がいくつかあった。


 「ほかのイーターとの遭遇も予想される。襲撃に遭った場合に備えて喚起口へ逃げ込める準備をしておけ。それまでの間、しばらくここで休息をとる。」


 ほんの束の間の休息であったがここまで来れたのはてんとのおかげである。てんとの優れた判断力と決断力のおかげだった。タカヒトはてんとの顔をジッと見ていた。


 「ねっ、・・・ねえ、てんとはいったい何者なの?なんでも知っているけど・・・」


 「何でも知っているわけではない。タカヒトよりいろいろ経験しているだけだ。」


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