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未来のきみへ   作者: 安弘
地獄道編
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怖い相手

 「タカちゃん・・・」


 不安な表情を浮かべるミカにタカヒトは少し引きつった笑顔をした。三獣士のギガスとの一騎打ちなのだから無理もないがミカにはあまり不安な思いはさせたくなかった。決闘に使う武器は制限が無いらしく控え室には沢山の種類の武具が揃っている。


 「これで戦うんだよ!相手はあのギガスだぜ。」(赤玉)


 「こっちのほうがいいってば!素早い斬撃でギガスを切り刻むんだ。」(白玉)


 赤玉と白玉は武具を取り合って誰がギガスと戦うかを勝手に決めていた。


 「赤玉、白玉。この決闘は僕とギガスの戦いなんだ。だから僕自身が戦う。」


 「チェッ、わかったよ・・・じゃあ、武器はこれにしろよな。」(赤玉)


 赤玉が持ってきたのはタカヒトが使うにはあまりにも大きすぎるバカでかい斧だった。それを手にしたタカヒトはよろけながら転倒した。床に落ちた斧を持とうにも重過ぎてタカヒトには持てない。 


 「タカヒト、そんなのダメにきまってるって。こっちにしなよ。」(白玉)


 白玉も負けじと持ってきたのが鉛筆を削るつもりなのか?小さなナイフだった。それを手にしたタカヒトはおもむろに鉛筆を削ると先の尖った鉛筆が出来上がった。


 「おお~、すげぇ~ぞ。」(赤玉)


 「・・・・武器はいらない。僕には赤玉と白玉それに紫玉がいる。ミカちゃん、リナ、ポンマン・・・それにてんとがいる。それだけで十分だよ。」


 「・・・よし、わかった。この俺様がおまえに力を貸してやる!!」(赤玉)


 「僕も!!」(白玉)


 「私はタカヒトと共にいる。」(紫玉)


 「ありがとう」


 「タカヒト様、決闘の準備は整いましたかな?」


 控え室にコロシアムの世話人が入ってきた。ギガスはすでに準備を終えてタカヒトとの対戦を待ち構えている。タカヒトはミカに笑顔を見せると控え室を後にした。暗い廊下を歩いていくと次第に眩しい光が差し込んできた。眩しさに慣れた頃、タカヒトの視界に入ってきたのはコロシアムすべての席を埋め尽くすほどの観客と歓喜の声だった。観客のほどんどがギガスの配下であるヘルズ達でタカヒトが入場するとブーイングが鳴り響いていた。

 しかしタカヒトには観客のブーイングは聞こえてはいなかった。タカヒトの視線はコロシアムの中央に向けられている。円状の闘技場の中央にはギガスが仁王立ちをして立っていたのだ。タカヒトは歩み寄っていくと扇子で顔を覆ったギガスが口を開いた。


 「逃げもせずによく来たわね。褒めてあげるわ。カオスの怨み・・・そして私のプライドを傷つけた罪。その命で償ってもらう!」


 戦いの合図を待たずに、先に攻撃を仕掛けてきたのはギガスだった。持っていた扇子を広げるとタカヒトとの間合いを一気に詰めてきた。闘気を高めタカヒトはギリギリのところでギガスの斬撃をかわしていく。だが、斬撃をかわしてはいるものの攻撃に移行できないタカヒトのジリ貧状態は続いた。防戦一方の状況からタカヒトは一時的に距離を取る。


 「逃げていても私には勝てないわよ!」


 「赤玉上級闘気 メガフレア!」


 扇子を両手に距離を詰めてくるギガスにタカヒトは激しい大炎柱を放つが扇子を巧みに使いその軌道を変えた。動揺したタカヒトの闘気が鈍ると一瞬の隙をつきギガスの鋭い斬撃が肉を斬り裂いた。火傷のような熱さを左脚に感じたタカヒトの首元にさらなる斬撃が襲い掛かる。

 皮一枚でそれをかわすと後退し、再びギガスとの距離を取った。扇子を口に当て、笑みを浮かべるギガス。


 「どうしたのかしら?・・・もしかして余裕を見せてるつもり?」


 「・・・・」


 斬撃を浴びたタカヒトの左脚から血が流れると観客の歓喜の叫び声がいっそう大きくなった。それに応えるようにギガスが右腕を振上げた。このまま長引けば戦況は不利になると考えたタカヒトは一気に決着をつける決断をする。タカヒトは闘気を最大限まで高め、赤い輝きを放っていく。その様子を伺っていたギガスもまた闘気を最大まで高めていく。


 「赤玉最大闘気 テラアグニギガント!」


 タカヒトの両腕から激しく巨大な火炎龍がギガスの周囲を覆い尽くすようにとぐろを巻いていく。逃げ場を失ったギガスの頭部から火炎龍は顎を大きく開くと喰らいついた。完全にギガスを飲み込んだ火炎龍は闘技場を火炎の海と変え、泳いでいるようにも見えた。ヘルズ達の悲鳴が広がる闘技場の中心でギガスが敗れタカヒトが勝利を得たかに見えた。そんな大火炎の海でギガスの口元がゆるむ。


 「私に勝利したと勘違いしているわけではないわよね?」


 燃盛る巨大な大火炎の海は火炎龍と共に次第に小さくなっていく。というよりはギガスに吸収されていった。タカヒトの闘気は衰えてはいないが巨大な火炎龍は最初と比べるとその火炎力は明らかに衰えている。闘気を最大限まで高めているタカヒトは次第に弱まり攻撃を受けているギガスは力を得ていく。力尽きその場に膝まずいたタカヒトに対して火炎をすべて吸収したギガスは扇子を振り高揚感に溢れている。両手を広げ、なんとも言えない幸福感に包まれたギガスの表情にヘルズ達も大歓喜に沸いた。


 「いいわぁ~~、このみなぎる力・・・素敵よ・・・」


 ギガスは闘気を完全に失い、膝まずくタカヒトに火炎弾を放つと面白いように着弾する。タカヒトの皮膚は水ぶくれを起こし、悲鳴と共にその数は増していく。その悲鳴を聞きながらタカヒトをいたぶるギガスは復讐というよりはイジメに近い。ギガス同様にタカヒトも戦いというよりイジメを受けていると錯覚していた。そしてタカヒトは大樹達に苛められていたあの頃を思い出す。闘気とともに完全に戦意を失ったタカヒトは涙を流し、その場を動けず頭を抱えて怯えている。


 「もう、止めて・・・止めてよぉ~~。」


 その言葉に高揚したギガスは火炎蛇をタカヒトの周囲に撒き散らすとその飛火がタカヒトの身体に火傷をさらに増やしていく。恐怖と痛みが大樹達に苛められていたあの頃の恐怖と重なっていくタカヒト。


 「おい、タカヒト!てめえ、逃げてんじゃねえぞ!」


 「止めてよ・・・お願いだから止めてよ。」


 個室トイレに閉じ込められたタカヒトの頭上から大樹はバケツを使って水を浴びせ続けた。ビショビショに濡れて息も思うように出来ない。いつ終わるのかも分からない苦しみがタカヒトを追い詰めていた・・・。

 顔はすでに泥まみれになり涙の流れた跡だけが目立つ。地面を這いつくばりながらギガスの火炎蛇から逃れようとするタカヒト。ギガスの表情は高揚感から怒りへと変わっていく。


 「止めてよ・・・お願いだからもう許してよ。」


 「貴様のような無様なヤツに少しでも恐怖を味わったこと・・・屈辱だわ。」


 地面を這いながら逃げようとする泥まみれのタカヒトを見下してギガスは扇子をパシッとたたんだ。ギガスは相手のエネルギーを吸収してより強力なエネルギーを創る事ができる。タカヒトから吸収した火炎をより強力にして小出しにしながらタカヒトに放っていた。しかし戦いの終末を飾る火炎力はまだ十分すぎるほど残っている。


 「タカちゃん!!」


 「ダメよ!決闘の結末はあの二人だけしか決めることができないのよ・・・

  誰も邪魔は出来ないわ。」


 闘技場に入り込もうとしたミカをルルドが制止するとミカは涙を流しその場に座り込んでしまった。レンガで覆われた闘技場を見下ろすように観客席は配置されている。ミカは泥にまみれているタカヒトを見続ける事ができなかった。それはリナもポンマンも同じだった。しかし誰もタカヒトを助けることはできない。彼らはタカヒトがギガスに弄ばれながら殺されるのをただ見ている事しか出来なかった。ミカはもう二度と逢えないと思うとタカヒトの最後の姿を見られなかった。


 「決闘の勝者はわたしのようね・・・さようなら・・・」


 ギガスはすべての火炎力を大火炎玉に変え、タカヒトの頭上に創り出した。激しい大火炎玉が戦意を喪失しているタカヒトに襲い掛かる。その瞬間、恐怖で身がすくみ、死という現実を感じているタカヒトを爽やかな風が包み込んだ。そしてその風はミカにも届いた。


 「風・・・・今、私が諦めたら大切な人を失っちゃう!」


 爽やかな風に教えられたかのようにミカは立ちあがるとタカヒトの姿が一番良く見える一階の闘技場入り口まで走っていく。


 「僕はもうダメなのかな?あんな凄い大火炎を浴びたらダメだ・・・

  あれ・・・この風は・・・」


 包み込んだ爽やかなその風はギガスの大火炎玉からタカヒトを守った。そしてその緑色の風には懐かしい感じがする。


 「タカちゃん!」


 「ミカちゃん・・・」


 大歓声の中、ミカの叫び声が聞こえてきた。声の聞こえた方向に視線を向けるとミカの姿があった。今にも泣き出しそうな表情を抑えながらタカヒトを見つめていた。


 「・・・僕が諦めたら・・・ミカちゃんを連れてもとの世界に戻るんだ。

  まだ、死ねない・・・諦めて死ぬわけにはいかない!」


 ミカを守りたい強い想いがギガスへの恐怖、大樹達への恐怖を打ち消していく。恐怖や緊張から開放されたタカヒトは本来の能力を発揮していく。タカヒトは再び闘気を高めるとギガスの大火炎玉を瞬時に吹き飛ばした。これにはギガス自身が最も驚いたようで身動きが取れなくなっていた。カオスが倒された時と同じ恐怖がギガスの脳裏に再び甦った。


 「おのれぇ~・・・」


 背中を冷たい汗が流れるほどの恐怖感をギガスは許せなかった。ギガスの身体は恐怖感から逃避を願っている。しかしそれが許せなかった。恐怖を押殺し扇子を広げるとタカヒトに立ち向かっていく。


 「私に二度も恐怖を与えるとは許せん!」


 鋭い切れ味を誇る扇子をタカヒトはいとも簡単にかわしていく。今のタカヒトにはギガスの動きはスローモーションのように見えている。徳の水筒を使ったわけではない。これが今現在のタカヒトの力なのだ。斬撃を繰り返し、疲労を増していくギガスに対してすべてを受け流しているタカヒトは先ほどとは逆の立場となった。


 「ぜぇぜぇぜぇ、何故・・・」


 「復讐を糧に戦うあなたと大切な人を守る為に戦う僕とでは力の開放に違いがあるんだ。だから、僕は負けない。」


 「知ったような口を・・・その口も斬り刻んであげるわ!」


 ギガスは両手の扇子を振り回していく。扇子から発生する真空の刃が斬撃とともに襲い掛かる。顔の皮一枚が薄っすら斬りつけられながらも扇子の斬撃をかわすとギガスの腹部深くに左拳を押し込んだ。


 「ハグッ・・・・グエェェ~~・・・」


 呼吸をすることが困難なほど苦しみ、その場に膝をついたギガス。ギガスから距離を取り闘気を開放すると赤色と紫色の輝きがタカヒトの身体を包んでいく。最大まで高めた闘気はタカヒトの身体から放たれる姿にギガスは戦慄を感じた。


 「これが最後の攻撃。吸収しきれば・・・あなたの勝ち。

  出来なければ・・・僕の勝ちだ!」


 「フフフ、面白い。我が黒玉の力を思い知るがよい!」


 「赤紫玉最大闘気複合技 テラアルティメットバスター!」


 右腕から激しく巨大な火炎龍、左腕からは巨大なアレストの砲筒から粒子砲を放つ。ふたつの光はひとつになると紫色の火炎龍がギガス目掛けて襲い掛かっていく。するとギガスは黒い輝きを放ち迫り来る紫色の火炎龍を吸収していく。


 「いいわ・・・力がみなぎってくる。

  この程度では私には勝てないわ。坊やの負けよ!!」


 「違うよ、ギガス・・・僕にはもうひとつ力があるんだ。」


 「・・・・!」


 赤と紫色の輝きを放っているタカヒトに白色の輝きが追加された。白色の混ざった紫色の火炎龍は高濃度エネルギー粒子体に姿を変えギガスを貫く。


 「赤紫白玉最大闘気複合技 バーストテラアルティメットバスター!」


 赤・紫・白の混じった高濃度エネルギー粒子体を吸収処理しきれないギガスの身体は風船のように膨れあがっていく。


 「我は暗黒の力を持つ者!この程度で・・・

  アバッ、バァッ~~、ギャァアアァァ~~!!」


 膨れあがった風船は激しい閃光とともに爆発した。激しい閃光による眩しさに目を覆っていたタカヒトは手を下ろし辺りを見渡した。コロシアムの闘技場にいたはずなのに真っ白な世界が広がっている。そこにはミカやリナ、ポンマンにルルド、コロシアムを埋め尽くすほどの観客の姿も見えない。ただ目の前に黒い炎がひとつあるだけだ。


 「初めて敗北を味わったわぁ~・・・ねぇ、坊や。」


 「・・・! ギガス?」


 「まさかこんな坊やに・・・私の感じた恐怖感は間違いではなかったのね。私の負けよ。坊やには散々な目に遭わせてきた。おこがましいかもしれないけど頼み事があるの。聞いてくれるかしら?」


 「頼み事?・・・てんとに聞かないとわからないけど僕に出来ることならいいよ。」


 「ありがとう・・・やさしいのね。坊や達は破壊神様に逢いに行くのよね?」


 「えっ、破壊神様?・・・僕、知らないよ。誰なの?」


 「そう・・・でも、さっきの風。てんととか言ったわね。あの風からは苦悩も感じられたわ。私の勘が正しければ、逢いに行くはずよ。私の願いは我が主に黒玉と藍玉を渡してほしい事なの・・・渡してもらえるかしら?」


 「よくわからないけど・・・その黒玉とかってどこにあるの?」


 タカヒトの返事を確認すると黒い炎は消えて代わりに黒玉と藍玉が現れた。ふたつの色玉はタカヒトの手に収まると同時に真っ白な世界は消えて闘技場に戻った。


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