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未来のきみへ   作者: 安弘
地獄道編
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てんとの回復

 次の日、タカヒトはミカと共にてんとの病室に行った。地獄先生からてんとの意識が戻ったとの連絡があったからだ。海風がソヨソヨと吹いている部屋で、てんとは涼しげにベッドの上で風を感じていた。そこへバタバタとタカヒトが入りこんで涙を流しながらてんとに抱きついた。


 「てんと、心配したんだよ!」


 抱きついたまま離れようとしないタカヒトにウンザリの表情をするもののほんの少しだけ嬉しくも思ったてんとだった。


 「タカちゃん・・・」


 ミカが近づいてタカヒトの肩にそっと触れるとタカヒトはてんとからゆっくり離れた。地獄先生からはてんとの意識は回復したのものの傷口の完治はもう少し掛かると言われた。しかしこれ以上休んでいる訳にはいかないとてんとは旅立ちの準備を始めていた。これにはタカヒトもミカも反対したがてんとは意見を聞こうとはしなかった。

 てんとが先を急ぐには理由があった。それは昨日、タカヒトがカイトボード大会に出場している時のことだった。意識を取り戻していたてんとは窓を開けて海を眺めてると廊下からてんとを呼ぶ声が聞こえてきた。


 「意識が戻ったようじゃの。」


 てんとがドアの方に視線を向けるとそこに徳寿が立っていた。驚いたてんとはベッドから起きあがろうとするが身体が鈍っているらしく思うように動けない。


 「コレ、そのまま寝ていなさい。」


 徳寿はベッドの近くにあった椅子に腰をおろした。


 「今日はの・・・頼みたいことがあって来たのじゃ。」


 徳寿はてんとにある指令を伝える為にここに来た。その指令とは地獄のもっとも深い場所にいる破壊神と密会することである。

 てんとには徳寿の考えが理解できなかった。天道を治める統括者のひとりである徳寿がもっとも警戒すべき相手である破壊神と密会を進めるとは・・・。深い不信感を覚えるてんとに徳寿は口を開いた。


 「やはり不信感を覚えるか。今から話すことは誰にも話さないと約束出来るかの?」


 てんとが頷くと徳寿はゆっくりと真実を語り始めた。天道を・・・いや、六道のすべてを統括、支配しているのは天道にいる創造神である。その創造神の言葉を伝えるのが統括者である。しかし本来、統括者は五名いるはずなのだが、現在では徳寿とピサロ、ハデスのみとなっていた。  

 徳寿は二名の欠員については語らなかったが問題は徳寿を除く二名の存在である。ハデスは黄泉の国を支配する者で天道に関する事には全く興味がなく黄泉の国を出ようとはしていない。

 問題なのがピサロという人物でこの者は上昇志向が異常に強く野心家で六道を支配することを常に考えている。


 「ピサロだけは・・・気をつける必要がある。」


 六道の全支配を考えているピサロに対抗するには破壊神の力が必要だと徳寿は考えている。そして徳寿はてんとに手紙を渡した。この手紙にはピサロの陰謀や徳寿の考えそれに破壊神への協力が書かれているらしい。この手紙を渡すことこそ、徳寿の目的であった。その為にタカヒトやてんと達に命がけの危険な修練をさせていたのである。


 「直接、手渡してくれんかの。あと・・・十六善神にも警戒を怠らないようにの。」


 「十六善神・・・」 


 十六善神とは創造神の名のもと統括者に仕える16名の戦士達のことである。ソウルオブカラーを操る者も存在し、最強戦士達と謳われる16名の所在は現在はほとんどが不明である。しかし一部の戦士はピサロの配下と成り下がっているらしく破壊神に辿り着くまで遭遇する可能性は高い。三獣士・十六善神・破壊神・ハデスそれにピサロ。これからタカヒト達が向かう先で待っている者達だ。てんとにはこの指令を成功させる自信は全くなかった。


 「破壊神に・・・会うことなど出来るのか?」


 てんとの頭の中はそのことでいっぱいだった

   ・・・タカヒトの呼びかけも聞こえないほど。


 「てんと、てんとってば!」


 「何だ?・・・呼んだか?」


 「チェッ、さっきから呼んでるのに!」


 てんとはタカヒトの呼びかけに気がついた時にはタカヒトは口をふくらませていた。タカヒトは今までの出来事をてんとに話していく。しかし愉しそうに話すタカヒトの言葉もてんとには伝わらなかった。今のてんとには徳寿からの言葉が重く圧し掛かっていたのだ。タカヒト達が帰ってからもてんとはいくつものシュミレーションを考えながら、最良の策を練っていた。そんな事をしていると数日が経っていった・・・。


 「後、二・三日したら退院していいぞ。」


 てんとを診察した地獄先生はそう言った。苦しいリハビリを乗り越えて、てんとの身体は完全回復した。てんとは今すぐにでも出発をしたいと願い出た。


 「何を急いでおるのか、わからんが出発するにせよ、準備が必要だろう?」


 焦るてんとに地獄先生は優しく笑みを浮べた・・・

 それからさらに数日が経ちてんと達はルルドの船アレクサンダー4号に乗っていた。本来は地獄の一丁目と大叫喚地獄を結ぶ定期船であるので、今は進路を元に戻し叫喚地獄へと向かっている。


 「てんと、薬の時間だよ。一日三回毎日飲まないとね。」


 タカヒトはてんとに薬を飲ませるように地獄先生からキツく言われていた。てんとを医務室に連れて薬を飲ませるとベッドに眠らせた。そこへルルドがタバコをくわえながら入ってきた。


 「アラ・・・その子、回復したみたいね!良かったわぁ~~。」


 ルルドは寝ているてんとを見下ろしながら言った。どうやらてんとのことを気に入ったらしくやたらと顔を近づけていた。ミカがなんとか間に入ってルルドの行動を止めたのだが、もしてんとが起きていたらどうなっていたのだろうか?とタカヒトは少し愉しみでもあった。ミカの巧みな防御?にルルドは少し険しい顔をしながらも今後の航路について話を始めた。


 「実はねぇ~、もうすぐ大叫喚地獄の入り口に入るんだけどぉ~~・・・」


 やたらと長ったらしい話し方にリナは少しイラッとしたがルルドの話はこうだ。地獄の一丁目と大叫喚地獄を結ぶ定期船の航海でもっとも危険な場所が大叫喚地獄の入口らしい。海流が激しく沈没船が後を絶たない。その上、沈没船の積荷を狙って地獄の海賊が集まってくる。激しい海流を乗りこなしながら海賊との戦闘を行わなければならない為にルルドはタカヒト達の命の保障が出来ないと言う。


 「わかったよ。自分の命は自分で守れってことだね?」


 「そうよ、タカヒトちゃん。わかって貰えたかしら?

  まあ、そうは言っても私の船に乗って被害を受けた人はいないけどね!」


 意味深な言葉を残してルルドは部屋を出て行った。どちらにしてもてんとの体調を考えるとタカヒトは海賊相手に戦わなければならないと覚悟を決めていた。


 「赤玉、紫玉、白玉、いいよね?」


 タカヒトは意識の中の赤玉、紫玉それに白玉に相談すると快く応じてくれた。ミカにてんとの看病を任せてタカヒトは部屋を出て行った。タカヒトが甲板に出るとルルドがタバコをふかしながら立っている。タカヒトが歩いていくとその後をリナとポンマンが着いてきた。


 「抜駆けはよくないぞ!」


 「私も身体も鈍っていたところよ。」


 ポンマンはこころなしか顔が蒼ざめていたがリナはすでにエレメントを開放して戦闘体勢を整えていた。そんなタカヒト達を見ても何の反応も見せずルルドはタバコをふかしている。

 大叫喚地獄の入口に近づくと上空からデモンズの群れが近づいてきた。デモンズと言ってもアレスの率いるデモンズとは違うようだ。飼いならされていない野生の凶暴なデモンズの襲撃にタカヒトも闘気を高めて戦闘体勢に入ろうとしたその時、タバコをくわえたルルドがタカヒトを制止した。


 「タカヒトちゃん、いいわよ。私一人でやるわ!」


 タカヒトは困惑した。数百匹の凶暴なデモンズをたった独りでルルドは相手をすると言ったのだ。しかしルルドの表情からは冗談を言っているとも思えない。ルルドはくわえていたタバコを手に持ち煙を吐き出した次の瞬間、ルルドの身体が高速回転した。


 「ふぅ~・・・終わったわよ。」


 そう言うと再びタバコをくわえながらルルドは操舵室へと歩いていった。いったい何の事を言っているのか理解できないタカヒトは振り返ると数百匹のデモンズを見つめた。デモンズは動こうとせずその場にジッとしているように見えた。だがそれは違った。鋭い刃で斬られた者は斬られたことに気づかずに死んでいく。今、それと同じ事がデモンズ達に起こった。数百匹のデモンズは自分達が斬殺された事にも気づかず海に堕ちていった。

 「私の船に乗って被害を受けた人はいないけどね!」と言ったルルドの言葉は間違いではなかった。海流を乗り越えるのはほとんど問題がなくルルドのアレクサンダー4号は無事、大叫喚地獄の入口に到着した。


 「さあ、到着したわよ・・・アラ?」


 ルルドが上空を見つめるとタカヒトもつられて上空を見つめた。その先には見覚えのある飛行艇がアレクサンダー4号に向かってきた。そしてそれからいきなり激しい砲撃が開始された。アレクサンダー4号の周囲に砲弾が水しぶきをあげて落ちてくる。


 「ふぅ~・・・やれやれだわ。」


 砲撃が激しくなっているがルルドはタバコを甲板の床に捨てるとそれを踏みつけた。ゆっくり上空を見つめるとさきほどと同様にルルドの身体が高速に回転した。ルルドが高速回転するにつれて砲弾が次々と空中で爆破されていく。砲撃は一向に止む気配はないがルルドの高速回転も止まる気配がまったくない。飛行艇の司令室ではデモンズがあわただしく動いていた。弾薬も底をつきかけていて一匹のデモンズが今にも泣きそうな表情でアレスに報告してきた。


 「アレス様、弾薬が残りわずかです。」


 「ええい、総攻撃をかけろ!!」


 飛行艇からデモンズが一斉に降下してきた。その数はトレブシェルでの戦闘の比ではなかった。さすがにルルドも助けが必要になるだろうとタカヒトは思ったがルルドの表情はまるで変化がなかった。ルルドは高速回転を止めるとデモンズの集団を睨みつけた。ルルドはゆっくり浮遊していく。

 その速度が急激にあがり、加速したルルドが瞬時に飛行艇の甲板に辿り着いた時にはデモンズ軍団のすべてが海に堕ちていった。ただすれ違っただけで地獄道最強の戦士であるデモンズが倒されたのである。 


 「おまけにこれもあげるわ。」


 ルルドは飛行艇の甲板上に右手をそっと押し付ける。爆発音も何もないが飛行艇は煙をあげて海面へ落ちていった。再びアレクサンダー4号の甲板に降りてきたルルドはタバコに火をつけて落ちていく飛行艇を無表情のまま眺めながらポツリと言った。


 「さっさと出てくれば、あの飛行艇も沈まずにすんだのにね。」


 「・・・何故貴様がここにいる!」


 ルルドがくわえていたタバコを手に煙を吐いて一息つくと目の前にアレスとギガスがいた。突然現れたアレス達にタカヒトとリナは驚愕しながらも戦闘体勢に入った。だがアレスには二人の存在は眼中に無かった。たったひとり、ルルドの存在だけしか見えていなかった。


 「何故?おかしなことを聞くわね。私は船長よ。船と乗客を守るのは私の仕事よ。」


 「どきなさい!・・・私はそこの少年に用があるのよ!」


 「えっ・・・僕?」


 ギガスはゆっくり歩み寄るとタカヒトを見下ろすように立った。美しい着物に身を包み長く綺麗な髪をしているギガスはタカヒトを激しく睨みつけた。


 「私に初めて恐怖というものを生みつけたおまえを生かしておく訳にはいなかいわ!

  おまえに決闘を申込む。受けるか?」


 タカヒトは唖然としながらギガスを見つめた。よく意味が分からないがアレスは手を出さないようだ。


 「アラ、決闘なの?だったら最初からそう言えばよかったのに、嫌だわ、まったく。大掛かりな登場をして襲撃かと思ったじゃないの。近くに大叫喚地獄コロシアムがあるからそこで決闘をしたらいいわ。」


 「・・・・」


 何も語らずにアレスとギガスが飛び去っていくとルルドはタカヒト達を連れて大叫喚地獄の入口近くに建設されている大叫喚地獄コロシアムへと船を進めた。大叫喚地獄コロシアムは最近ではコンサートや舞台公演などに使われていた場所であるが以前は決闘などにも使われていた。

 大叫喚地獄では物事の賛否はすべて決闘により決められていた。地獄道そのものが強さこそが正義という世界なのだ。ゆえに決闘は神聖なものとされて第三者の介入を酷く嫌い何人も介入は許されない。


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