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未来のきみへ   作者: 安弘
地獄道編
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地獄先生

 「おぉ~し、手術は成功した!あとは回復の経過を見守ろうか。」


 孤島についたタカヒト達はルルドの紹介により地獄先生の手術を受けることが出来た。地獄先生は医者とは思えないくらいの巨漢であるがその手術さばきは恐ろしく正確でてんとはぎりぎりのところで一命を取り留めた。

 この孤島は地獄先生が閻魔大王に与えられた島で患者が地獄のあちこちから診断を受ける為にやってくる。薬草や食料も豊富にあるこの病院でタカヒト達はてんとの容態が良くなるのを待つこととした。病院の隣にはコテージが沢山設置されて当分の間ここに宿泊する事になる。リナとポンマンは傷を治す為に病院への通院が義務付けられ、ふたりは朝から病院へ行っている。

 当然コテージにはタカヒトとミカのふたりっきりとなった。ミカが朝食の後片付けをしている間、タカヒトは独り遠くに見える海岸線を眺めていた。


 「どうしたの?気分でも悪いの?」


 ミカの呼び掛けにタカヒトは首を横に振った。タカヒトは三獣士相手に圧倒的な戦闘力を身につけて勝利した。しかしそれはウンディーネとたまちゃんの命をとしての協力があったからである。自分が生きる為に大切な人が犠牲になる事がタカヒトにとってとても辛かった。するとタカヒトの横に座って話を聞いていたミカが反論した。


 「違うよ。ウンディーネもたまちゃんも自分の意思で託したんだよ。後悔なんてしてないと思う。だからあまり自分を責めないで・・・見てるの辛いから。」


 ミカはタカヒトの肩に寄り添った。少し涙ぐんでいるミカに顔を真っ赤にしたタカヒトはしばらく動けなかった。地獄とは思えないほど孤島は草木があって鳥も楽しそうに鳴いている。風は心地よい爽やかにふいていてふたりはひと時の安らぎを感じていた。


 「アラ・・・お邪魔かしら?」


 驚いたふたりが振り向くとリナとポンマンがニヤニヤ笑ってドアの前に立っていた。顔が真っ赤になったミカがタカヒトから少し離れて座った。地獄先生の受診が終了してポンマンは完治、リナも2、3日で完治予定らしい。てんとの見舞いにも行ったらしく


「容態は安定している。もうしばらくすれば意識も戻るだろう」


 と地獄先生が言っていた。タカヒトとミカがてんとの容態にホッとしているとポンマンがタカヒトを海岸へ誘った。なんでも病院で知り合った亜人種がカイトボードを教えてくれると約束をしたのだと言った。


 「カイトボードって何?」


 タカヒトがポンマンに質問すると無言のままポンマンはタカヒトの手を引っ張って海岸へ走っていく。タカヒト達が海岸に着くと浜辺にはいろいろな色の凧が置かれてそのうちのいくつかは海面上を滑走していた。


 「カイト(凧)をあげてその揚力(引っ張る力)によりボード(板)に乗り海面を滑り楽しむスポーツだそうだよ。」


 「へぇ~、楽しそうだね。」


 「ヘイ、ポンマン!」


 「やあ、アイザック!」


 小麦色のたくましい筋肉をこれでもかと見せるが如くアイザックは現れた。彼はプロのカイトボーダーでありいくつもの大会で優勝している有名なボーダーなのだが最近行われたカイトボードの大会で彼だけが凶暴な肉食イカに襲われたらしい。小麦色の筋肉で九死に一生を得たらしいが足の小指を骨折したらしく地獄先生の治療を受けていた。そこでポンマンと出逢い意気投合したらしい。


 「きみ達、うまいじゃないか!」


 アイザックはポンマンとタカヒトにカイトの操作を教えるとふたりともすぐにカイトを操れるようになった。これにはアイザックもかなり驚いたが続いてボードの操作を教えるとタカヒトはすぐに覚えてカイトボードを楽しんでいた。カイトボードを操り、海面上を滑るタカヒトは高波も乗りこなしてアイザックもあまりの上達ぶりに驚いた。


 「ヘイ、タカヒト!きみはスーパーグレイトだよ。今度の大会は優勝だな。」


 「えっ・・・・大会って?」


 数日後、タカヒトはアイザックの呼びかけにより大会に参加した。しかしスタートラインに立ったタカヒトは予想以上に緊張していた。タカヒトのまわりにはプロのカイトボーダーがアドレナリンを放出しながらスタート開始の合図を待っている。そしてあるカイトボーダーをタカヒトは注意深く見つめていた。蜂のような姿をしたデビット・ビーだ。タカヒトはアイザックに言われた事を思い出していた。


 「タカヒト、キミの出場するバトルスピードはカイトボードを使って一番速くゴールする事を競う競技だ。だが気をつけろ!バトルスピードは相手に何をしてもよいことになっている。つまり死んでも文句は言えないのだ!なかでもデビット・ビーには気をつけろ!ヤツは勝つ為には手段を選ばない。グット・ラック!」


 「まったくもう・・・登録してからそんなこと言うんだもんなぁ~。」


 タカヒトはスタートラインで独りブツブツ文句を言っていた。バトルスピードにはデビット・ビーを恐れてか8名しか参加せずいきなり決勝戦からとなった。タカヒトはほぼ中央からデビット・ビーは右端からのスタートとなった。スタートフラッグを持った審判員が頭上高くにゆっくり持ち上げていく。


 「オン ユア マークス・・・・セット・・・」


 パンっとスタートの合図が鳴ると共に一斉に8つのカイトが空に向かって開くとボーダーが勢いよくスタートしていく。


 「緊張していたのかしら?」


 「まあ、まあ、勝負は始まったばかりだよ。」


 ミカやリナ、ポンマンの応援が届かなかったのか?タカヒトはアタフタしているとスタートに出遅れて最後尾となった。他のカイトボーダーからかなり遅れ、ポツンと独りタカヒトは滑走している。


 「ギッ、ギッ、これでも喰らえ!」


 開始早々にデビット・ビーは自らの尾から針を飛ばすと後を着いて来た2名のボーダーのカイトに穴を開けて転倒させた。デビット・ビーはニヤけながら先頭を突き進んでいく。海面に浮かんでいる2名のボーダーの間を次々と後続者が通り抜けて最後尾のタカヒトも通り抜けていく。

 トップスピードで折り返し地点のブイを見事なモンキーターンで切り返すとデビット・ビーの眼に4名のボーダーが映った。デビット・ビーは羽根を激しく震わせるとそのエネルギーが波に伝わり高波を発生させた。その高波は次々とボーダー達を飲み込んでいく。海面に浮かんでいるボーダー達を嘲笑うようにデビット・ビーは通り抜けていく。高波があったことなど知りもしないほどタカヒトは論外だったらしくデビット・ビーはタカヒトなどまるで無視をしてすれ違っていく。スタート地点からレースの状況をミカ達と共に見ていた赤玉はチャンスとばかりにタカヒトの意識を乗っ取ろうと企んでいた。


 「この状況はやっぱ俺様しかいないよな!」 (赤玉)


 「何を言ってるのかわかんない!僕だよ 僕!」 (白玉)


 どちらがタカヒトの手助けをするか?言い争っていると紫玉が出てきた。


 「おい?紫玉、何してんだ!」(赤玉)


 「私が行こう。おまえが行くとレース自体を壊してしまう。」 (紫玉)


 「アハッ、赤ちゃんが行くとハチャメチャになっちゃうもんね。」(白玉)


 「おまえが行っても同じ事だ!」 (紫玉)


 「・・・・・・。」 (白玉)


 紫玉は赤玉と白玉を押し退けてその場から消えた。先頭を単独で走行するデビット・ビーとタカヒトとの距離を考えると逆転は不可能であった。それでも紫玉には勝算があった。紫玉のことなど知らずにタカヒトはのんびりとカイトボードを楽しんでいた。


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