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未来のきみへ   作者: 安弘
地獄道編
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燃え広がる泉

 「ふぅ~~相変わらず険しいわね!」


 デュポンを泉に残してリディーネは父親である破壊神のもとへ歩を進めていた。地獄道で最も深い深層部に位置する大焦熱地獄はすべての領域が破壊神の所有地である。弱い魔物達では近づくことすら出来ないほどの邪悪な気が辺りに漂う。大焦熱地獄の中心に破壊神の要塞デス・サイドがある。溶岩が辺りに流れ少ない岩石の道を歩いていかなくてはそこには辿りつけない。


 「面倒くさいわね・・・雑魚どもめ!」


 途中で中級魔物の排除を繰り返し、少しウンザリしながらもリディーネはデス・サイドに辿り着いた。デス・サイドには破壊神とその妻で、リディーネの母親であるデメテルが暮らしている。要塞に入り込んだリディーネは辺りを見渡すとデカい石壁に松明が薄っすら灯っていた。薄暗い石畳の廊下をリディーネは歩いていると人影が視線の先に映った。


 「まぁまぁ、リディーネちゃん!

  どうしたの、どうしたの?身体の具合でも悪くしたの?」


 「別にそんなんじゃないわ・・・パパは?」


 「ええ・・・奥の間にいるわよ。」


 デメテルが奥の部屋にいることを伝えるとリディーネは何も語らずに走っていく。デメテルはリディーネの本当の母ではない。リディーネの母親はリディーネが子供の頃、何者かによって暗殺された。しかもその場を幼いリディーネは目撃していたのだ。


 「ママ、寝られないよぉ~。」


 なかなか寝付けなかった幼いリディーネが母親のもとへ歩いていくと母親が何者かと言い合いをしていた。正確には何人かと言い合いをしていた声をリディーネは聞いた。


 「きゃあぁぁ~!!!」


 「ママ・・・?」


 直後に悲鳴らしき声が聞こえると幼いリディーネは部屋のドアを開けた。そこで見たものは血に染まりすでに息絶えた母親の姿であった。


 「ママ・・・ママ、ママ・・・ママ・・・」


 血塗れの母親を目の前にリディーネは動く事も、いや呼吸をすることも忘れていた。破壊神は罪人の捜索を命じたが捕まることはなかった。リディーネの今後のことを考え、後妻として破壊神はメイドのデメテルを迎えた。破壊神の期待に応えようとデメテルは後妻としてリディーネの母親になるよう努力したがリディーネにとって母親はただひとりであり、今でもリディーネはデメテルと心の距離をおいていた。

 デメテルもそれを察しているようで悲しげな表情をしていた。そんなデメテルの心情をリディーネも理解していた。それでもまだ心の整理は出来ていない。


 「パパ!」


 ドアを開けるとリディーネは石畳敷き部屋の上座に座る破壊神を見つけ、泣きじゃくりながら抱きついた。無言の破壊神は泣きじゃくるリディーネの頭をずっと撫でている。リディーネの泣き声は部屋の外まで響き部屋の外ではデメテルが何も語らずに立っている。ひとときほど経ち枯れるほどの涙を流したリディーネの目は赤く腫れぼっていた。赤い目をしたリディーネは今までの事を、タカヒトやリナに負けたことなどすべて話した。


 「ねえ、パパ。アタシは本当にパパの子供なの?

  正直言って私って拾ってきた子でしょ?」


 「悪い冗談を言うものだ。紛れもなく私の子じゃぞ。」


 「うそ!だったらなんでこんなに弱いの・・・。」


 「フム・・・ではどうすれば私の子供であると認めるかな?」


 「・・・力があれば。」


 その言葉を聞いた破壊神はリディーネの頭に軽く手を置いた。神々しい輝きを放つとリディーネは自分の闘気があがっていくのを感じた。その輝きが消えた頃、リディーネの闘気は飛躍的にあがった。


 「力が・・・みなぎってる?こんなの初めて・・・ありがとう、パパ!」


 喜んだリディーネは破壊神の頬にキスすると舞う様に部屋を出て行った。そんなリディーネの姿を見つめる破壊神。力を得たリディーネは石畳の廊下をニコニコしながら走っていく。


 「早くこの力を試したいわ!とりあえず、馬鹿タカヒトから殺してやる。」


 拳を握りしめながら急いで留守番をしているデュポンの棲み処へと走っていく。リディーネが部屋から出てくるのをそっと影から見ていたデメテルの表情は薄暗い廊下のせいか冷たく光っていた。



 「ギガス様!アレス様から遥かなる泉に砲撃を開始するとの報告がはいりました。」


 「・・・・どうとでもすればいい。私には無関係なことゆえ・・・」


 ギガスは新しく仕立てた着物をウットリした表情で眺めていた。三獣士の中で紅一点であるギガスはその能力をほとんど見せず今の地位に登りつめた。三獣士に選ばれた理由、それは簡単なことである。ギガスが最も強いからである。ソウルオブカラーのなかで最も強力な色玉の内のひとつである黒玉を操る。しかしギガスはその最強の力よりも最高の美しさを欲したのである。今回の遥かなる泉への攻撃に対して与えられた役割をギガスはすでに果たしている。破壊神の命令を果たしたギガスにとってアレスやカオスの行動など、どうでも良かったのである。



 「標準を合わせろ・・・撃て!」


 飛行艇の砲台の標準は泉に合わせられてアレスの合図と同時に砲台が火を噴く。砲撃を受けた泉の周辺の森は轟音を立てながら燃え広がっていく。砲撃の勢いはおさまる気配はまったく見せず森は燃えて小動物は逃げ惑っていく。タカヒトとミカがウンディーネに会った直後に砲撃が開始されて泉の底にあるトレブシェルまでその衝撃は鳴り響いていた。


 「あわゎゎゎ~~~」


 「きゃぁ!」


 「この泉のなかにも二重三重の結界を張ってありますのでしばらくは持ちこたえるでしょう。しかし、いつまで持つことか・・・・」


 トレブシェルはターミナルポイントと呼ばれる結界を造り出す装置により三重の結界が張られている。ターミナルポイントは水中にあることからアレスやギガス達には手を出す事は出来なかった。

 本作戦の鍵を握るカオスだけがターミナルポイントの破壊が出来た。ウンディーネに促されたタカヒトとミカはその地響きに動揺するも共鳴石のある部屋へ歩いていく。


 「てんと、ポンマン!」


 部屋に入ったタカヒトがそこで目にしたのは大きな共鳴石の近くに寝かせられていたてんと、ポンマンそれにリナの姿であった。


 「えっ!・・・リナ?」


 ミカにはリナが何故ここにいるのか少し疑問を感じたがてんとに何か考えがあってのことだろうと即座に理解した。


 「あと少しで彼らの能力アップが完了します。あなた方にも入ってもらいたいのですが、この共鳴石の部屋がそれまでもつかどうか分かりません・・・。」


 飛行艇からの砲撃は凄まじく続いていたのであったがこの様な状況でもウンディーネの造り出した結界は強力でトレブシェルへの直撃は免れていた。砲撃に限界を感じたデモンズがアレスのいるメインデッキに入ってきた。


 「アレス様!

  砲撃を繰り返してはいますが、結界が強力でトレブシェルに届きません!」


 「砲撃を止めろ。私が出向く!」


 「ハッ!!」


 配下のデモンズから報告を受けたアレスは砲撃を止めるように指示をする。すると鳴り止まなかった爆音がピタリと止まった。トレブシェル内で頭をおさえていたタカヒトが顔をあげると言った。


 「砲撃が止まった?・・・弾薬切れ?」


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