水の精霊ウンディーネ
「水の中??」
てんとが目を覚ますと見たこともない光景が広がっていた。白いフロアにガラスのような壁。そのガラスらしきものの外側には多数の種類の魚が泳いでいる。驚いているてんとが気配を感じ、そこに視線を移すと部屋に入ってくる影があった。それはクラゲのような透明な身体をしている亜人種であった。
「お目覚めですか?」
「・・・何者だ?」
「私は水の精霊ウンディーネといいます。
あっ、心配なさらないでください。ここは安全です。」
「・・・私といた二人は?」
「二人とも命に別状はありませんが安静にしている必要があります。」
「そうか・・・偶然とはいえ、やっと会う事ができた。」
てんとはウンディーネに会うためにこの地に来た事とこれまでの経緯を話した。
「シルフがそんな事を・・・。確かにあなたとジェイドは前世でも因果により結ばれた存在です。でもこの事を私が話す事は簡単な事だけど今のあなたには理解する事も回避する事も出来はしない事・・・。」
ウンディーネの口ぶりからして事はかなり深刻で巨大な力が関わっている事だけは理解できた。そのこともあるがウンディーネはてんと達のソウルオブカラーの能力をあげる必要があると言った。ウンディーネとてんとはある部屋へ向かった。
「共鳴石の部屋?共鳴石ならすでに所有している。」
ソウルオブカラーにはその能力を発揮できない世界が必ずひとつはある。だが、共鳴石を持つことによりどの世界でもソウルオブカラーの能力を発揮することができるようになるのだ。そして共鳴石はタカヒトがペンダントとして持っている。
「いいえ、共鳴石の役割はそれだけではありません。」
ウンディーネは話を始めた。本来、共鳴石はソウルオブカラーの輝きを増す研磨のような役割を持っている。つまり共鳴石からでる特異な音波によりソウルオブカラーは磨かれて、その能力をあげることが可能なのである。しかしその共鳴石が特異な音波を出すにはある条件が必要だという。
「ある条件?」
「共鳴石に必要なもの・・・それは私の身体を構成している生命水です。」
ウンディーネの身体は生命水と呼ばれるもので構成されている。その生命水の雫を共鳴石にかけると特異な音波を出す。だが、それを続ければウンディーネの存在自体が無くなる。ソウルオブカラーの能力をあげて地獄道の魔物達に対抗できる力を身につけるためにこの地へと来たがそれにはウンディーネの命が必要になる。自分の大切な者を守るために犠牲にしなければならない命がある。悩み沈黙を続けるてんとにウンディーネは笑みを浮かべた。
「・・・・大丈夫ですよ。」
何千年も生きてきたウンディーネはただ静かにこの世界をずっと眺めてきた。殺戮と破壊の世界を悲観しながら自らの無力さに憂いを感じながら生きてきた。
ウンディーネがこの殺戮と破壊の世界で生きてこられたのは自分の役割を果たすためであった。ウンディーネは自分にどの様な役割が与えられているのかは正直分からなかったがこの出会いがそうだと確信した。
「では急ぎましょう。」
「急ぐ理由でもあるのか?」
「はい・・・アレスが近づいています。」
てんとは自身の血の気が引くのがわかった。それはこれから降り掛かろうとする悪夢の始まりでもあった。
「アレス様、カオス様との交信が途絶えました。」
「何かあったとは考えられんが・・・交信の途絶えた位置に向かえ!」
ウンディーネの力を狙って三獣士のひとり、空のアレスがこの遥かなる泉へと進軍をしてきていた。実はギガスが地獄の一丁目を建設した理由はウンディーネに結界をはらせ篭城させる為である。アレスとカオスは逃げ場を失ったウンディーネに対して空から攻撃を仕掛けるという作戦を立てていた。だがカオスは思いも寄らない敵の出現により海底に沈んでいた。
「もし、あのような者たちがこの力を手に入れればこの世界だけでなく、ほかのすべての世界まで影響が及ぶでしょう。」
悲しみの表情を浮かべながらもウンディーネはてんと達に希望を見出していた。ウンディーネとてんとは共鳴石のある部屋の扉を開いた。そこは上も下もすべて藍い空間となっていて部屋の中央には重量感のある共鳴石が置かれていた。そしてそのまわりにリナとポンマンが寝かされていた。
「リナ、ポンマン!」
「大丈夫です。意識はありませんが命に問題はありません。ただ・・・」
意識はないものの二人の体力は著しく低下している為ソウルオブカラーの能力をあげるのと同時に体力の回復をはかる必要がある。そう説明すると急かすようにウンディーネは言った。
「さあ、てんと。時間がありません。あなたも早く共鳴石のもとへ」
「しかし、それではあなたの生命が・・・」
ウンディーネは渋るてんとを共鳴石のもとへと連れていくとそこへ寝かせた。そしてウンディーネが石に触れると神々しい光を共鳴石が放出する。てんとは自分の力がみなぎる感触を実感するが、ウンディーネの身体が痩せ細っていくのもわかった。三人が共鳴石により能力をあげているその時、海底に沈んだカオスを巨大な飛行艇が回収作業にあたっていた。
「アレス様!カオス様の収容が完了しました。」
「よし、これより泉へ向かう。全乗組員!第一戦闘配置につけ!」
海底よりカオスは飛行艇に収容された。再起動はしているものの動く事は叶わず再生シェルにて治療を受けることになった。アレスは破壊神の命令を受け、泉にいるウンディーネと共鳴石の奪取に向かうことになっている。すでにギガスにより泉の周囲は包囲されている為アレスは上空より侵入する運びとなっていた。メインデッキでアレスに参謀のスードルが声をかけてきた。
「アレス様。今回の作戦はギガス様なくしてはありえませんでしたな。」
「確かに我らと協力するとはな!まあ、それも破壊神様には想定内であったという事だろう。ヤツがあの地に居ればそれだけで役割を果たすと計算しておられたのだろう。だが問題はカオスのほうだ。ヤツにこれほど損傷を与える存在がいる事が脅威だ。」
アレスは異常なほど警戒していた。スピードだけをとってみれば三獣士の中で最もずば抜けているカオスに致命傷を与えた者がいる。想定外の存在の出現に困惑するアレスにひとりの男が近づいてきた。
「かなり動揺しているな。まあ、無理もない。三獣士の一角が落とされたのだから。」
「フンッ、ジェイドか・・・勘違いするな!
カオスやギガスの能力など、この私とでは雲泥の差がある!」
「そうか・・・まあ、ここは地獄道最強戦士のお手並みを拝見しようとするか。」
カオスを倒した正体不明の存在に動揺しているアレス。その隣でジェイドはカオスを撃破した存在が何者なのか検討がついていた。
「再会も近いか・・・」
再びてんと達との再会があることを確信するとその場から去っていく。飛行艇のメインデッキに残されたアレスにスードルが声をかけた。
「アレス様、ヤツは何者なのですか?」
「ふん、ヤツは破壊神様のお気に入りだ。どうやって取り入ったのかは知らんがな。」
飛行艇内を自由に行動出来て三獣士と同等の権威を持っているジェイドをアレスはあまり面白く思っていなかった。アレスはジェイドがどのようにして破壊神に取り入ったのかわからなかったがジェイドの持っていた茶玉と灰玉は破壊神よりアレスの手に渡った。
「絶望の子 ジェイドか・・・だがヤツの存在など俺には取るに足らん!」
ジェイドが何を考えていようともこのふたつの能力があれば恐れることもないとアレスは自分に言い聞かせた。
「ねえ、あれじゃない?」
一方、その飛行艇の遥か前方を麒麟に乗っているタカヒト達は遥かなる泉が眼下に見えるところまで来ていた。タカヒトが指さすと麒麟は泉の畔へと降りていく。遥かなる泉と呼ばれてはいるがタカヒトとミカには普通の泉にしか見えなかった。二人が泉を眺めていると一匹の魔物が現れた。
「おふたりさん!あついねぇ~~・・・悔しいから殺しちゃうぞ!」
魔物はいきなり複数の風刃の嵐を繰り出した。ミカの機転で瞬時にサクラリーフを繰り出すと風刃は無残にその巨大な盾の前にポトリ、ポトリと落ちていく。
攻撃の効果が出ないことに魔物はかなり悔しがって最大級の攻撃を仕向けてきた。上空の雲まで届くほどの竜巻を作り出すと周囲の葉が巻き上がり木々が激しく揺れ出す。自身の最大級の攻撃に勝ち誇った魔物が技を繰り出そうとした瞬間、激しい火炎柱が魔物の視界に映った。
「アグアァ~~~!!」
激しい火炎柱は魔物の身体を次第に溶かしていく。魔物の身体を形成していた風の衣は失われ殻のみとなってしまった。殻のみとなった魔物の前には赤タカヒトが立っていた。
「おまえ、誰に喧嘩を売ってんだ?」
「はっくしょん!ちっ、畜生!覚えていろよぉ~。
うわぁ~ん、リディーネさまぁ~~。」
魔物はそう言い残すと核のまま舞うようにその場から飛び去っていった。
「なんだったんだろうね、アレ・・・」
そんな魔物の姿を、目を細めて見送る赤タカヒトとミカであった。赤タカヒトとミカはしばらく泉の周囲を歩き回ったが依然変化のない光景にミカは不安に襲われていく。
「どうしょう・・・泉に着たんだけど何処に行けばいいんだろう?」
キョロキョロと辺りを見渡すミカとなんとかミカの不安を取り去ろうと赤タカヒトは懸命に入口らしきものを探そうとしている。だがそれらしきものは見つからず、赤タカヒトは泉に近づくと落ちていた小石を拾って投げ込んだ。
「おっ?・・・なんだ、なんだ!」
泉に波紋が広がりそれと同調するように水位が一斉に下がっていく。赤タカヒトとミカはその光景をジッと見つめていると中央の一番深い砂地にガラスの様なもので覆われた建物を発見した。
「なんだろ・・・どうしょう?」
「どうするって行くしかねえだろ。虎穴入らずんば、虎児を獲ずだ!」
赤タカヒト達は導かれるように建物へと入っていく。建物内に入ると砂地から水が再び沸き上がり建物を覆い隠すようにまた元の泉へと戻っていった。