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未来のきみへ   作者: 安弘
旅立ち編
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旅立つ者へ

 とくべえは業の水筒の説明を終えると徳の水筒の説明を始めた。誰しも苦しい事だけでは生きてはいけない。徳の水筒を使うことによって物事を好転させる事が出来る。無論、通常はそんな事は出来ないのだがタカヒトの今後の事を考えたとくべえが徳と業を具現化すると液状にして水筒に入れた。とくべえはタカヒトに徳の水筒と業の水筒の説明を続けた。


 「説明はこれくらいでいいじゃろう。あとはその徳と業の水筒がお主を行くべき方向を示してくれるじゃろうて。それとお主に案内役を授けなければの。」


 「案内役?」


 これから進む世界を独り旅するのは危険である訳だし行き先もわからない。そこでとくべえはそれらの条件をクリアする水先案内人を紹介した。そうとくべえは紹介したがタカヒトにはどこに案内人がいるのか分からなかった。案内人の姿をキョロキョロしながら探したが見当たらなかった。


 「とくべえさん、どこにもいないよ。」


 するととくべえの後から小さい影が見えた。それはバスケットボール位の大きさでどう見てもてんとう虫そのものだった。

 

 「うわぁ~、なんてデカいてんとう虫だ!」


 驚愕したタカヒトはてんとう虫に恐る恐る近づいた。マジマジとてんとう虫を見て驚いているとそのてんとう虫が言葉を発した。


 「てんとうむし・・・それは何だ?」


 「えっ!・・・わっ、喋った?」


 言葉を話すてんとう虫にタカヒトは腰を抜かしてその場に座り込んだ。てんとう虫はタカヒトにここが人道とは違う事そして自分は畜生道からやってきた事を話した。タカヒトはその話を聞きながら自分に言い聞かせるように納得していく。とくべえは二人の話合いを聞いていると何かを確信したかのようにニコニコして言った。


 「まっ、そういうことじゃな。それじゃ仲良くの。タカヒトよ、この旅でお主にとっての大切な何かが見つかると良いの。ではふたりともよき旅を。」


 とくべえはタカヒト達に笑顔で別れを告げると車に乗って去っていった。そしてタカヒト達を見下ろすように上空に浮遊している人物がいた。茶色の厚手のマントを前にかき合わせ、深々とハット帽をかぶっている人物だ。


 「タカヒト・・・旅立ちを祝福する。」


 そう言い残すとハット帽をかぶっている人物はその場から姿を消した。とくべえもいなくなりその場に残されたタカヒトは何をすることもなくただ呆然としていた。それからひとときの間、タカヒトはどうすればいいのか分からずに佇んでいるとてんとう虫が声をかけた。


 「・・・・いつまでそうしている。」


 「僕、どこにいけばいいのか分からなくて・・・。」


 「進むしかないな!ひたすら前に。」


 てんとう虫の言葉にタカヒトは戸惑ったが少し考えた後、意を決して歩き始めた。暗い闇の中をタカヒトとてんとう虫はただひたすら歩き続けた。正確にはタカヒトが飛んでいるてんとう虫の後を歩いていた。タカヒトとてんとう虫の間には沈黙が広がる。その沈黙に耐えられなかったタカヒトがてんとう虫に声をかけた。


 「ねっ、ねえ・・・・名前、なんていうの?」


 「・・・・・。」 

 

 てんとう虫は沈黙したままだ。その瞬間で会話が終了した。暗闇を歩き出してどれくらい経ったのだろうか・・・・。再びタカヒトとてんとう虫の間では沈黙が広がっている。深く沈んでいくような闇の世界に会話でもしていないとタカヒトの精神は押し潰されそうになっていた。


 「僕は・・・なんて呼べばいいの?」


 「・・・・。」


 タカヒトは不安そうにしかも少し泣きそうになっていた。下を向き落ち込んだ様子でタカヒトは歩いている。少しの沈黙の後、タカヒトの落ち込んだ姿を見ていたてんとう虫が初めて自分から口を開いた。


 「てんと・・・そう呼ばれている。」


 「てんとって言うんだね。なるほど、てんとう虫だからてんとか。

  よろしく、てんと。」


 うつむいていたタカヒトが顔をあげて喜んだ。タカヒト自体ものすごく不安だった。唯一の味方であるてんとと何とか仲良くなろうとしていたのである。タカヒトは自分から友達を作ったり、遊んだりするタイプではない。実際友達と呼べるのはミカぐらいだった。初めて自分から友達を作ることが出来てタカヒトの喜びはとても大きなものであった。もちろんタカヒトが一方的に友達だと思っているだけでありてんとにはそんな気があるのかはまったく分からない。ぎこちないものの会話が途切れないようにタカヒトは必死に喋っている。そんなやりとりをしていながら歩いていると遠くのほうから小さな一寸の灯かりが見えてきた。


 「てんと・・・なにかあるよ。出口かな?」 


 タカヒトはその一寸の灯かり目指して走り近づいていく。明かりを抜けると急に眩しくなり、タカヒトは目を覆った。目が慣れた頃辺りを見渡すと大きな大木が立ち並ぶ森が広がっていた。キョロキョロしているタカヒトにてんとが冷静かつ静かな口調で言った。


 「どうやら、着いたようだな。ここは・・・畜生道だ。」


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