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未来のきみへ   作者: 安弘
地獄道編
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その名はデュポン

 その少年は確かに「存在を消す」と言った。タカヒトと同じ位の背丈でおどけたその表情からはさきほどの言葉が冗談にしか聞こえないくらいだった。


 「えっと・・・存在を消すって君が?」


 ポンマンが耳をほじりもう一度聞き直したのだがやはり少年は「そうだ」と答えた。ポンマンは信用出来なくて再度聞き直した時、少年はため息をつきながら言った。


 「はぁ~~、こんなナリじゃあ、信じられないのも無理ないな。

  それじゃあ、本気で行くぞい。」


 少年は一呼吸するとその姿を消すほどの風が辺りを包み込んだ。ポンマンが目をしかめているとその風は収まった。するとさきほどの少年とは思えない恐ろしい化物の姿がそこにいた。全身が緑色で肩が異常に張っている。手足に鋭い爪を持ち白髪の頭には突かれれば即死は免れないほどの角がある。紫色の目玉をギョロとさせて、てんと達の前に立ち塞がっている。


 「グフゥ~我が名はデュポン。風の亡霊なり!この力でおまえ達を絶望へと誘おう!」


 デュポンは口を大きく開けて大量の空気を吸うとみるみるうちに腹が膨れあがった。溜めこんだ空気を一気に吐き出すとその風圧は恐ろしく強くポンマンは吹き飛ばされた。


 「おわぁぁ~・・・はっ、とう!」


 ポンマンは飛ばされながらも着地には成功した。怪我を負う事こそなかったがあまりに強力な風圧は脅威であった。その後、風圧はてんと達に向けられていく。なんとか風圧に耐えているてんととリナは反撃を試みる。緑色の輝きを放つとてんとは三つの球体を頭上に出した。


 「緑玉中級理力 カマイタチ」


 三つの球体が急速に回転すると真空状態が発生、それにより生じた無数の風の刃がデュポンを襲うが・・・・。


 「くっ、やはりダメか!」


 風の刃はデュポンにダメージを与えることは出来なかった。次に牡丹リナの雷撃を浴びせたがやはりデュポンは無傷であった。


 「グゥゥ~、効かぬわ!」


 動揺する二人に不敵な笑みを浮かべるデュポン。両腕を広げると更にその身体が大きくなっていく。デュポンは風の属性を持つ生命体であり風や雷の属性ではダメージを与えるどころか力を与えている事にしかならない。デュポンは再び大量の空気を吸い込むと一気に吐き出した。その凄まじい衝撃に緑てんとの球体でのガードも牡丹リナの雷盾も簡単に弾かれ二人は吹っ飛ばされた。

 ポンマンのところまで吹っ飛ばされた二人はすぐに立ち上がるとデュポンを見据えた。デュポンは鋭い爪を振るうと瞬時に真空を作り出し鋭い風刃がてんと達に襲い掛かる。


 「きゃっ、あっ、はぁぅ~~!」


 風刃はリナの身体を切り刻み、風刃により深刻なダメージを受けた。


 「グワッ、ハハハアア~」


 甲高い笑い声のデュポンとは対象的に傷つき倒れ込むてんと達。彼らはデュポンの巨大な力に屈していく。血を流し倒れ込んでいる三人は顔をあげるのが精一杯でもはや動き逃げることすら出来ない。ところがデュポンは勝利を確信しているらしく甲高い声を出しながら踊っていた。


 「リナ・・・ポンマン・・・?」


 リナとポンマンはかなりの深手を負っていたがてんとは球体の防御によって致命傷は免れていた。風の精霊であるデュポンには風の攻撃も雷撃もまるで効かない。リナとポンマンの状態を確認したてんとは自らの持つ理力を最大まで引きあげる。三人の身体が上空へフワリと浮き上がるとデュポンの頭上を越えて泉の方向へ飛んでいく。


 「グオォォォ~、逃がさんぞ!」


 逃げる緑てんと達に怒り狂うデュポンは口を大きく開けると風刃を浴びせ続ける。緑てんとは風刃をかわしながら泉のある場所を捜していた。しかし理力の尽きたてんとは上空より墜落して泉の中へと落ちていった。


 「・・・死におったか!」


 三人の姿が水面に浮き上がることはなくデュポンは一時、泉の水面を眺めていたが諦めたらしく自分の巣へと戻っていった。


 「タカ・・・ヒ・・・ト・・・」


 夢まどろみの意識の中、てんとのかすれるほどか細い声が聞こえた。この時のタカヒトは自分が生きているのか死んでいるのかすらわらなかった。それはタカヒトを看病しているミカも同様だった。あれから一ヶ月ほど経ち以前ほどの大量の汗も熱も出なくなってはいた。しかし今でもタカヒトは意識を取り戻すことがない。


 「タカちゃん・・・」

 

 ミカがタカヒトの顔に触れるとかすかにぬくもりが伝わってくる。そのぬくもりを信じてミカは折れそうな心を抑え看病している。タカヒトは自らの深い意識の中におり、身動きもとれずにただ闇のどこからか聞こえてくる声と問答をしていた。



          目覚めろ。与えられた使命を果たすのだ!



          誰?使命って・・・あれ?ここは・・・


         ミカちゃん? てんと?みんなのところへ戻るんだ!



 「うっ・・・・ミカ・・・ちゃ・・・ん?」


 「・・・タカちゃん?タカちゃん・・・意識が戻ったのね。」


 一ヶ月ぶりに意識を取り戻したタカヒトに抱きつくと涙を流しながらミカは喜んだ。この一ヶ月間、意識の無いタカヒトをずっと看病してきたのである。もしかしたらもう駄目かもしれないという想いを振り払いながら懸命に看病したミカはその不安から一気に開放された。


 「ミカ・・・ちゃん・・・」


 抱きつかれたタカヒトは理由もわからず、少し顔を赤らめていた。なんとなくミカの背中に手をまわそうとしていると突然ディーノが部屋に入ってきた。


 「タカヒト、意識が戻ったらね!」


 突然のディーノの出現にミカの背中にまわそうとしていた手をタカヒトはスッと引っ込めた。ゆっくり起き上がり涙を拭きながらタカヒトを見つめるミカの顔は溢れんばかりの笑顔だった。 

 ディーノの後には赤玉や紫玉そして白玉が主の回復を喜んでいる。ディーノにこれまでの経緯を教えてもらいながらミカの作ったスープをスプーンで飲ませてもらっていた。


 「へいへいへい、甘えすぎじゃねえの?」


 赤玉が二人にチャチャを入れていたが紫玉と白玉に取り押さえられるとディーノと共に外に出ていった。顔を赤らめながらタカヒトはスープを口にすると皆、無事で良かったと喜びをかみしめていた。その一方でてんと達のことが気になってもいた。夢まどろみの中で聞いたてんとの叫びに一刻もはやく地獄道へ戻らなければとタカヒトの想いはどんどん強くなっていく。


 それから一週間経った・・・


 タカヒトの体調も完全に回復していた。身支度を整えてミカと共に外に出ると麒麟はディーノの家の前でタカヒト達を待っていた。ミカは麒麟の首を撫でて再会を喜んだ。

  

 「てんと達は地獄の一丁目から遥かなる泉を目指しているって聞いたらよ。」


 「そこへ行けばてんと達に逢えるんだね」


 「その通りらよ。しかし地獄道は恐ろしい所らよ。十分注意していくらよ。」


 「うん、ありがとう。」


 タカヒトとミカが礼を言うとディーノは顔を赤らめて恥ずかしがっている。麒麟に跨るとタカヒトとミカはディーノに別れを告げた。麒麟はフワッと浮き上がり地獄道目指して駆けていく。ミカがずっと手を振っているとディーノの姿が次第に小さくなって完全に見えなくなってしまった。


 「ディーノっていい人だったね。」


 「ミカちゃん、先を急ごう!てんと達が心配なんだ!」


 「うん!」


 ミカはタカヒトにしがみつくと麒麟は速度をあげて駆けて行った。タカヒト達を見送ったディーノは一息つくと黄色の輝きを発した。黄色の輝きが薄れると徳寿の姿に変わっていた。徳寿は少しの間タカヒトに向かった方向を眺めている。


 「ふぅ~、肩がこったわい。まずは第一段階完了と言った所かの。」


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