悲しい別れと再会の喜び
無事、公演も終わり出発の準備を終えたポリック達は門の近くまで来ていた。門はすでにギガスにより開門されてヘルズ達に見送られながら少しずつ門へと向かう。ロマンス・ヘルトンとヘルズ達の喝采を浴びながらポリックは別れを惜しんでいる。
「もう行ってしまうのか・・・さびしくなるな。」
「おまえらホンマにええヤツらやったでぇ~・・・あばよ!」
ポリックとてんとはヘルズ達へのサインと写真攻めに合いなかなか門へと辿り着けない。ギガスも見守る中ポリックコールは止まなかった。
「どうしても行ってしまうのか
・・・私の芸能プロダクションもこれでおしまいか。」
「ロマンス社長なら大丈夫。かならず良いタレントが見つかるよ。」
「ミスターポリック・・・ありがとう。君達のことは忘れないよ。」
涙を流しながら抱き合っているポリックとロマンス社長の姿にヘルズ達は男泣きした。そんな感動の場面にリディーネが怒涛の勢いでやってきた。
「芸能人みたいにチヤホヤされちゃって頭くるわねぇ~。あんた達の正体はわかってんだからこのまま帰すわけにはいかないわ!」
「リディーネ様!!いきなり何をおっしゃっているのですか?
てゆうか、どうやってあの箱から出てこれたのですか?」
「あんな箱、燃やしたわよ。・・・・それが何か?」
ヘルズの問い掛けにリディーネは豪語した。そして、てんと達がリディーネを攻撃した時のことを事細かくギガスとヘルズ達に伝えた。しかしリディーネの説得にも関わらずヘルズ達は動こうとはしなかった。この地獄道では攻撃したとか、されたということはさほど問題ではなく、ポリックに惹かれていたヘルズ達はポンマンに対して愛情のような感情すら芽生えていた。
もっともヘルズが動かない最大の理由はギガスの言葉である。ギガスはポンマン達に対して褒美を取らすと言ってポンマン達は門を出たいと答えた。ギガスは三獣士の一角であり最強の陸軍であるヘルス軍団を率いる将軍でもある。そのギガスが一度言葉にした事を覆すことなど出来るわけもなく例えそれがリディーネの敵であっても同じ事である。
ギガスは何も言わずに館に戻っていくとヘルズ達もその場を去っていった。残ったのはポンマンとてんとそれにリディーネだけだった。リディーネが単独でてんと達を攻撃するのは問題がないとわかるとリディーネはニヤリと笑いだした。
「さて・・・タカヒトとかいうヤツもいないし楽勝ね!さあ、死んでくれる?
中級闘気 焦土!」
リディーネが闘気を高め右手をてんと達に差し向けると火炎の波がてんと達に襲い掛かる。紅リディーネとてんと達の力の差は歴然としている。笑みを浮かべる紅リディーネと恐怖に身がすくむポンマン、あと少しのところで勝機を失い成す術がないてんと!近づいてくる火炎の波に一寸の雷撃が押し当り火と雷は相殺された。勝利を確信した紅リディーネが驚愕して声を荒げた。
「誰よ?邪魔するのは?」
紅リディーネの火炎と拮抗する力!てんとにはその雷撃に見覚えがあった。てんとが振り返るとそこにはリナが立っている。何故助けてくれたのか?全く理解出来ない。リナとは修羅道の世界で敵対する関係であり助けられる理由はなかった。
「このぉ~、死ね!」
不意をついた紅リディーネは火炎攻撃を仕掛けてきたが牡丹リナの雷撃によりまたもてんと達への攻撃を阻止した。だがリナの目的がわからない以上、警戒心を解くわけにはいかない。紅リナと牡丹リディーネの力は拮抗しておりてんととポンマンがリナのサポートに当たれば勝機はあるのだが・・・。再び攻撃を阻止されて紅リディーネは異常に苛ついていた。
「ちょっとぉ~!何、邪魔してんのよ~!
弱い者イジメが唯一のストレス解消なんだから!
邪魔するとあんたも殺すわよ!!!」
「陰湿なものね・・・あなた、愛されたことがないでしょ?」
「・・・・コロス!」
紅リディーネが闘気を異常なほど高めていくと身体が朱色に染まり周囲も同様に染まりだす。上空へと浮遊した紅リディーネの物凄い闘気の大きさにリナがてんと達に言った。
「共同戦線を・・・」
「・・・・。」
紅リディーネから身を守る方法がないことを悟ると不本意ながらてんとはリナの戦術に協力することにした。闘気を高めきった紅リディーネが不敵に笑った。
「アッハッハッハッ・・・私に逆らった結果がこれよ。死ね、クソ野郎ども!
朱色玉最大闘気 獄熱地獄!」
紅リディーネが獄熱地獄を繰り出すと同時にてんと達のいる地面がいきなり熱を発して溶け出していく。上空からも熱気を感じて見上げるとそこには朱玉級の火炎玉が四つもてんと達目掛けて落ちてきた。上下の攻撃に逃げ場を失ったてんと達であったが緑玉理力浮遊フワフワにより緑てんととポンマンそれに牡丹リナの身体が空中へ浮きあがった。
だが上空からの四つの朱玉を防ぐことはできない。危機を完全に回避したわけではないこの状況で牡丹リナが翡翠ポンマンに協力を仰いだ。
「いくわよ、牡丹玉 ハイエレメント インドラ!」
「オッケー、翡翠玉理力 増幅力!」
牡丹リナの両手から雷撃が朱玉に向かっていく。しかし牡丹リナのインドラの力ではあの四つの朱玉の威力には打ち勝つことはできない。牡丹リナの雷撃に翡翠ポンマンの翡翠色の輝きが合わさると翡翠色雷撃は一つの朱玉に激突すると同時に網の目状になりそれを包んでいく。
朱玉を包み込んだその形は正にハンマー投げのように見えた。牡丹リナが手元でコントロールすると網に包まれた朱玉がほかの朱玉から大きく離れた。もう一度牡丹リナが手元の雷綱を引っ張ると大きく離れた朱玉が三つの朱玉の方向へ勢いよく戻ってそれらに当たりビリヤードの玉のように三方へ飛ばされていった。紅リディーネの更に上空で牡丹リナは雷網に包まれている朱玉を振り回していた。
「あなたのよね?返すわ!」
「ちょっ、ちょっと・・・タンマ、タンマ・・・うぎゃぁぁぁ~~!!」
牡丹リナは自らがコントロールしている朱玉を紅リディーネに向けて投げつけた。高みの見物のはずが一気に劣勢となる紅リディーネは向かってきた朱玉を受け止めたが朱玉の重さに速度エネルギーが加わり朱玉と地面に押し潰された。門の近くで大の字になって黒焦げで倒れているリディーネ。
地獄道では手助けすることは無用とされている為、この勝負を目撃していたヘルズ達も助太刀や復讐といったことを起こそうとは思っていない。てんと達が地上に降り立つと門は開放されて、そこを通ろうとすると門番のヘルズが立ち塞がり睨みつけた。
「わしらはリディーネ様を倒したおめえらをゆるさねぇ!だがわしらはギガズ様の配下であり、この地獄道では勝負に文句をつけることはご法度だ!今回は見なかったことにするが次に遭ったらこうはいかねえぜ!・・・だがお前等の舞台、最高だったぜ!!」
門番のヘルズは顔を赤らめながらも厳しい表情を取り戻しその場を退くとてんと達は門を通り抜けた。敵対するてんと達に拍手や喝采をあげるヘルズが門のたもとに残って、それらが鳴り止むことはなかった。それから彼らは険しい谷を抜け地獄の森に入っていく。遥かなる泉を目指し、水の精霊ウンディーネに逢いにいく為に歩を進めていく。
「いやぁ~~・・・なんとかここまで来れたね。それもこれもリナのお陰だよ!
ねぇ、てんと!」
「何を考えているのか・・・わからないがな!」
「・・・・・」
「まっ、別にいいじゃない!こうして一緒にいる訳だし・・・」
うつむいたままのリナと無口になったてんとの間に挟まれてなんとか笑いを取ろうとするポンマン。三人は奇妙な関係ではあったが一路遥かなる泉を目指して歩みを進めていく。地獄道はヘルズ以外にも魑魅魍魎といった下等生物もいたのだがそれらは彼らの能力によって退かれ更に歩みを進めていく。遥かなる泉に近づくにつれて灰色の樹木や溶岩の固まった大地から天空を目指す勢いの大樹や花や草の生い茂った大地へと変わっていく。大樹のそびえ立つ並木道を通っていくとその先の方に泉が見えてきた。
鳥がさえずり、そこは地獄道とは思えないほど美しい世界だった。期待が膨らみ進む足が次第に速くなり、急ぎ泉へと向かうがその途中でひとりの少年が立っていた。不思議に思ったポンマンが声を掛けた。
「君は誰だい?」
「僕はデュポン・・・君らの存在を消す者だよ!」