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未来のきみへ   作者: 安弘
修羅道編
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戦いの結末

 砲撃は収まるどころか強さを増していく。辺りは硝煙と砂埃に包まれていた。それでもまだ赤紫タカヒト達の必死の抵抗は続いていた。チモネガが勝利を確信していた頃、チモネガのもとへ指令官がやってきた。司令官の話によると北の方角より正体不明の者がたったひとりでこちらに向かっているとのことだった。勝利に浮かれていたチモネガは急に不機嫌な顔をしだした。


 「それがどうしたというのだ!それくらいのことでいちいち・・・・

  一個小隊で十分おつりがくるであろう!」


 「お言葉を返すようで申し訳ないのですが、すでに第五部隊を投入済みなのです。

  しかし・・・応答がなく・・・・」


 「なんじゃと?・・・・・もう一度申してみよ!」


 チモネガは耳を疑り指令官にもう一度聞きなおした。一個小隊は百人程度で中隊が一千人程度。ひとつの部隊ともなれば一万人の規模にもなる。バルキリー部隊は第十部隊あり、第五部隊といえば全部隊中で最強と言われている。なかでも第五部隊長のキルギルスは凶暴、残虐、好戦的な男である。


 「キルギルスが敗れるはずはないであろう・・・

  第一から第四部隊総勢四万の兵士を送り込むのじゃ!」


 今回の戦はすでに勝利していると信じきっているチモネガは兵士の半分を正体不明の者に投入した。兵士達は戦場を後にして命令通りに出立していった。


 「おい・・・なんか攻撃が弱まったんじゃねえか?」


 赤紫タカヒトやてんとが気づくのは当然だった。勝利を確信したチモネガは北の方角より来る正体不明の者への攻撃に部隊の半分を投入した為、攻撃が弱まったのである。


 「赤紫タカヒト、撤退するぞ!ミカを頼む。」


 「おう、任せろ!」


 てんとは赤紫タカヒトにこの場から退避することを伝えると赤紫タカヒトは砲撃をかわしながらミカのもとへ飛んでいく。


 「砲撃が弱まったわ。早く逃げましょう!」

 

 「・・・ありがとう。でも一緒にはいけない。私達は大丈夫だからはやく行って!」


 「えっ?なんで・・・?」


 「おい、ミカ・・・行くぞ!」


 赤紫タカヒトはミカのいる場所に到着するとミカとリナが向かい合って話していた。ミカはリナ達との撤退を望んでいた。しかしリナは違った。強い意志と笑顔を見せたリナを察した赤紫タカヒトは何も言わずにミカを抱きかかえると飛んでいく。


 「ちょっと、待って!まだ・・・」


 「リナの意志がわからないのか?」


 「えっ・・・・!」


 赤紫タカヒトの言葉にミカはリナの考えを察すると涙で頬を濡らした。ミカは少しずつ小さくなっていくリナ達の姿をずっと見つめていた。大量の血を流したドレイクはすでに意識はなくリナはギュッと抱きしめていた。創りあげた雷の盾により砲撃は直撃することは無くドレイクの冷たくなった顔を撫でながらリナは語りかけた。


 「いい子だったね・・・どうして私は大切な人を傷つけて失ってしまうのかしら?

  もし生まれ変われたら・・・ふたりで争いの無い世界へ・・・・・。」


 涙を流しながらリナは冷たいドレイクを強く抱きしめると右手を挙げ最後の力を振り絞っていく。牡丹玉ハイエレメントインドラを頭上に創りあげるとバルキリー部隊はその巨大な雷玉を恐れ、砲撃を止めて逃走しだした。部隊の逃走と雷玉の恐怖にチモネガもその場から逃走していく。リナを取り囲んでいたバルキリー部隊はいなくなりこの地にふたりっきりとなった。

 リナは冷たくなっているドレイクの身体を抱きしめるとその頭上に雷玉が落ちてくる。地上に落ちた雷玉は激しい光と衝撃を撒き散らした。それが収まった頃・・・ふたりの姿はそこにはなかった。


 「チモネガ様・・・部隊が全滅いたしました!」


 「なっ・・・なんじゃと!」


 チモネガは持っていたグラスを落とした。それはリナの雷玉から逃げ出して北の方角へと向かっている途中での報告だった。チモネガは敗走したのではなく敵を殲滅させ撤退しているのだと部下達に言い聞かせて次なる敵の殲滅に向かう行軍しているのだと豪語した。落ちたグラスからは酒が飛び散り先の戦の勝利の余韻を味わっていたチモネガの顔を一気に蒼白くさせた。

 バルキリー兵士四万人も投入したのだから負けることなど有り得ないはずなのだが送り出した全部体の全滅。唯一の生き残りである兵士が報告してきた。


 「正体不明の者がこちらへ進路を向けてきています。撤退を!」


 「ええい!全戦力を投入せよ。殺せ!」


 不安と恐怖に支配されたチモネガは勝利の余裕など微塵もなくなり声を荒げた。その頃、戦場からの退避に成功したタカヒト達は湖の畔まで辿り着いていた。しかし追手の追撃を警戒したてんとはタカヒトを連れて戦場へ飛んでいった。

 そこで彼らが見たものは北の方角へ多数のバルキリー部隊が向かっている光景だった。それはまるで押し寄せる波のようにも見えた。そしてその押し寄せる波の先にひとつの人影が見える。てんとの視力は人間に比べて非常に高くその人影を見ることができる。てんとは驚愕した。


 「ジェイド!!!」


 「・・・なんでここに?」


 てんとのかなり動揺した態度と発した言葉にタカヒトは問い掛けた。ジェイドなぜここにいるのか?それ以上にあの多数のバルキリー兵士を相手にジェイドたったひとりで立ち向かうのか?助けるべきなのか?てんとの頭の中をいろいろな感情が交錯していく。てんとはジェイドの様子を観察する。


 「砲撃開始 撃てぇ~~!!」


 砲台が火を噴くと星の数ほどの砲玉がジェイド目掛けて襲い掛かる。だがジェイドにはまるでダメージを与えることが出来ない。砲玉がジェイドに当たる遥か手前で凍りつき地上に落ちていくのである。砲撃を諦めたバルキリー部隊は第六部隊と第八部隊の二万人の騎馬部隊による挟み撃ち攻撃を展開する。襲い掛かる騎馬部隊に無表情なジェイドは左右の腕をゆっくり広げると右腕は蒼色に左腕は青色に輝き出す。


 「青玉最大理力 龍撃波、 蒼玉最大理力 アイスワールド!」

 

 ジェイドの左腕から巨大な水龍が飛び出すと顎を開き第八部隊の騎馬兵達をすべて飲み込んでいった。そして右腕から一滴の氷の粒が地面に落ちると地面が一気に凍り第六部隊の騎馬兵達は生きていたまま氷漬けにされていく。ジェイドがふたつのソウルオブカラーを放ってから数秒後に第六部隊と第八部隊の二万人の騎馬兵がこの世を去った。


 「・・・壊滅じゃと!」


 戦果を聞いたチモネガの顔は油汗と恐怖にまみれ膝はガクガクと震えて立っていることもままならない。近衛兵に支えられながら王座に座ると震える声を振り絞った。


 「第七・九・十部隊の総勢三万人のバルキリー銃火気兵を投入せよ!すべての火気を使いあの悪魔を倒すのじゃ!」



 「てんと、なんでジェイドがここにいるの?」


 「・・・何の考えもなく行動する奴ではない。何か考えがあるはずだ・・・見ろ!バルキリー部隊が総攻撃をかけるようだぞ!」


 てんとが指さす方向にタカヒトが目を向けると莫大な数の銃火気兵がジェイドのいる方向へ行軍していく。もし自分達にあの数が襲ってきたらどうなっていたのだろうか?

 そんな事を考えるとてんとは急に寒気がしてきた。バルキリー銃火気部隊の勢いは凄まじく、ジェイドの姿を確認すると莫大な数の砲撃と銃撃が開始された。しかしどのような攻撃をしてもジェイドにダメージを与えることが出来ない。


 「撃て、撃て、撃て!」


 「師団長!残弾が残りわずかです。」


 「補給部隊はまだ来ぬのか?」


 「残弾が切れました!」


 「これまでか!」


 弾薬を使い果たして戦意を失うバルキリー銃火気兵達にジェイドが両腕を差し向けるといままで見たこともないほどの蒼色と青色の輝きがジェイドを包み込んだ。


 「蒼青玉最大理力複合技 ディノ・デビル・イノセント!」


 三万人のバルキリー銃火気兵達の足元から水が湧きあがると一気に腰まで浸かり身動きが取れないようになった。次の瞬間、その腰まで湧きあがった水が凍りつき完全に動けなくなると銃火気兵達は混乱していく。頭上から巨大な水の塊が落ちてくるとそれは銃火気兵達を包み込むように地上すれすれで浮遊していた。動けない銃火気兵達の身体が水の塊の中でもがき苦しんでいる姿がてんと達のいる場所からも確認出来た。

 身動きも息も出来なく、もがき、苦しみ、恐怖を味わいながら溺死していく銃火気兵達をジェイドは何の感情もなく冷酷な眼差しで見ている。ジェイドの目の前には下半身は凍りつき上半身が水ぶくれの溺死した三万人の銃火気兵達の屍が彫刻の像のように立っていた。それらを迂回してジェイドは歩いていく。


 「・・・強すぎる!奴は・・・ジェイドの力は私の想像を遥かに凌駕している。

  今の我々では・・・とうてい勝てない。」


 失意のてんとはタカヒトと共に皆のいる湖の畔へ向かった。その道中てんとはジェイドのことをずっと考えていた。どうすれば・・・しかしその答えは見つからなかった。どう足掻いてもジェイドには勝てはしない。出来れば遭わずにいたい。願望にも近い想いだけが今のてんとを支えていた。


 「これだな」


 その頃、ジェイドは捜していたものを見つけた。足元には光輝く茶玉と灰玉が寄り添うように並んでいる。そしてそのふたつのソウルオブカラーを拾い上げた。


 「第一段階完了・・・と言ったところか。」


 次の瞬間ジェイドはそこから消え去った。最悪の事態を免れたてんと達であった。

 一方チモネガはというと・・・


「ぜぇぜぇぜぇ・・・こっ、ここまで来ればもう大丈夫だ。」


 ジェイドに勝てないと察したチモネガはバルキリー部隊に総攻撃をさせておきながら自らは逃亡を図っていた。山脈と山脈の間の谷を抜ければ誰も知らない洞窟がある。そこはチモネガが密かに造らせた建物が存在する場所だ。もちろんそれを造った者たちはすでに抹殺されてこの世界にはいない。

 その建物にはチモネガの貯め込んだ財宝がある。誰も信じられないチモネガが唯一信じれるのは財産だけである。チモネガは城に残してきた財宝の一部を担ぎ汗を掻きながらも一心不乱にその建物を目指していく。


 「ワシにものじゃ~。

  これさえあればワシは地位を保てるのじゃ!誰にも渡しわせぬわ!」


 チモネガの目指す場所は谷を抜けた先にありそこまで細い谷の道が続いている。先を急ぐあまり足元に注意が及ばず細い道に数箇所亀裂があることに気がつかなかった。


 「おわっ・・・! ワシの財宝が!」


 チモネガは足を取られ担いでいた財宝が谷底へ落ちていく。自らも体勢を崩したが命より大事な財宝を守ろうと必死に支えている。しかしあまりの重さに引き上げることも出来ず財宝と共に谷底へ堕ちていった。


 「ゲホッ、ゲホッ・・ワ・・シの・・・・・・・。」 


 冷たい谷底で散らばった財宝だけがうつ伏せになって死んでいるチモネガの姿をずっと見つめていた。

                  

 「てんと、何をしてるの?」


 チモネガ率いるバルキリー部隊との戦は終戦を向かえ、タカヒト達はバーカーサーと共に勝利の祝杯をあげていた。てんとは皆の輪から離れて独り波打つ湖を眺めて、心配したタカヒトとミカがてんとに声を掛けたのであった。てんとの頭の中にあるのはジェイドのことだけだった。


         何故、ジェイドはこの世界にいたのだ?

        復讐?いや・・・それだけで行動するわけがない。

        きっと裏で何かとてつもない事が起こっているはずだ。


 この時のてんとには天道やほかの世界に衝撃的な出来事が起ころうとは夢にも思わなかった。数日が経ちタカヒト達に旅立ちの日が訪れた。ヘイパイスの具合も完全に回復して湖の畔に新たなコテージを建てバーカーサーの生活も安定してきた頃、タカヒトの業の水筒が赤く輝き出したのだ。タカヒトの業の水筒の量も最初に比べてかなり減ってきてはいたがそれと共に徳の水筒の量も減っていた。

 椅子に座りながらタカヒトは次の世界への希望と不安の感情が交差する・・・そんな想いに包まれていた。テーブルの上に置いてある徳と業の水筒を眺めながら、ふとミカに目を向けると笑顔でバーカーサーの子供達の遊び相手をしていた。


 「ねえ、ポンマン。ミカちゃんっていつも笑顔だけど不安とかないのかな?」


 「・・・先のことなど誰にもわかりはしないし不安がないわけでもない。今、この時間をミカは大切にしたいのだろう。ミカは聡明な子だ。先見の明もある。そのうえで不安を押えながら笑顔でいられる・・・タカヒト、いい子と出逢えたな。」


 ポンマンにそう言われてタカヒトは顔を赤らめながらミカを眺めていた。ミカがいたからいままで頑張れた。このままミカとてんとと・・・あとポンマンと一緒に居られればいいなとタカヒトは思っていた。その頃、てんとはシルフの部屋を訪れていた。てんとはジェイドとのことをシルフに話した上で今後について良きアドバイスを貰おうとしている。シルフは沈黙の後、ただ一言だけをてんとに伝えた。


 「水の精霊ウンディーネといずれ会えるときが来るでしょう。あなたとジェイドは

 何かの運命的な繋がりがあるようですね。

 その答えをウンディーネなら導いてくれるでしょう。」


 「水の精霊・・・ウンディーネ・・・」


 それから数日が経ち、てんとがウンディーネの事を考えているとタカヒトの持つ業の水筒が赤から真紅へと変わりいよいよ旅立ちの時がきた。


 「タカヒト、いろいろ世話になったな。ありがとう」


 「そんな・・・世話になったなんて。」


 「小麦の収穫日には戻ってこいよ。皆で待っているからな。」


 湖の畔に新たなコテージを造り、バーカーサーもいままで同様穏やかに生活していく。別れの日にタカヒト達をバーカーサー達が感謝を込めて歌を歌い送り出そうとしてくれた。そんな姿に涙を浮かべているミカの手をタカヒトはそっと握る。ヘイパイスが、シルフが、そしてバーカーサー達が見守る中、業の水筒が真紅の輝き包まれるとタカヒト達はその場から消えていった。 タカヒト達が消えてもバーカーサー達の歌声は止まず、森中に響き続けていた。


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