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未来のきみへ   作者: 安弘
修羅道編
36/253

ノームの森

 ドレイクから命からがら逃げる事に成功したタカヒト達であったがてんとの理力は限界に達し、イカダは森の中で緊急着陸した。


 「イカダ・・・壊れちゃったね・・・」


 イカダの帆は森の木々により破かれてしまった。ドレイクの襲撃が無い事を確認したてんとは皆の状況を確認していく。タカヒトとミカ、それにポンマンは身体に異常はなかったが無理な着陸だった為にヘイパイスの傷口が開いてしまった事はかなり深刻な状態であった。しかしそれ以上に深刻な問題があった。それはここがノームの森であるということだった。


 「ドレイクから逃れる事だけを考えてこの地に辿り着いたのだが・・・

  不覚にもノームの森に来てしまった。」


 「ノームの森?」


 タカヒトの疑問にてんとは静かに口を開いた。ノームとは地の精霊でありこの森に生息している。姿は樹木そのものであるがノームは歩行が可能な魔物である。最も恐ろしいのはノームが獰猛な魔物であるということだ。精霊でありながらノームは血の臭いを嗅ぎ付けて樹木に擬態しながら獲物を仕留めて喰らうのである。

 ヘイパイスの傷口から流れる血は群れで行動するノームを引き寄せるのに十分であった。これがドレイクの計算の内なのかはてんとには計りかねないが確実にこのままではノームの餌食となってしまう。まずはヘイパイスの傷口の手当てと周辺に警戒をする事が先決であった。しかしこのてんとの判断は遅かった。ノームの群れがすでに血の臭いを嗅ぎつけてタカヒト達を囲んでいたのである。


 「ノォ~~ム!」


 恐ろしいほど低音の声がタカヒト達を中心として周囲から聞こえてくる。タカヒトが辺りを見渡すと樹木が歩いて近づいてきた。


 「何アレ! 木が歩いてる。」


 一見すると樹木にしか見えないが根っこを地面に押し当てるように歩いてくる。複数の枝は手のように動いて、幹には口らしきモノがあり常に樹液が流れていた。その姿からは理性というものは全くと言っていいほど感じられない。いままで出会った精霊と比べると精霊と呼ぶにはあまりにも醜いものがある。だがノームがタカヒト達を獲物として捉えている事だけはすぐにわかった。


 「ノォ~~~ム!」


 再び低い声をあげてタカヒト達に歩み寄ると長い枝を伸ばしてきた。てんとは残り少ない理力で球体を生み出し近づいてくる長い枝にぶつける。ミカもサクラリーフで周辺を覆った。伸びてくるノームの枝に対して球体とサクラリーフで防御しているがノームの数はどんどん増えていく。このままではジリ貧の状況が続きてんととミカの理力が無くなった瞬間ノームの狩りが始まるだろう。


 「タカヒト、紫玉の能力でノームを一掃するのだ!」


 てんとの作戦は紫タカヒトの紫玉理力アルティメットアタックによる粒子砲攻撃により周囲を取り囲むノームの一ヶ所を切り開いてこの場から逃げるというものであった。


 「紫玉理力 アルティメットアタック!」


 タカヒトはてんとに言われた通りに紫玉を発動させると紫玉理力アルティメットアタックをノームに繰り出す。厖大な数のアレストが出現すると紫色の粒子砲が一斉に放たれた。しかしイーターの硬い甲殻すら打ち破った粒子砲がノームには全く効かない。いや、それどころかノームは粒子砲を浴びる度に大きくなっていく。


 「駄目です!攻撃をやめてください。」


 感情的になったことなどなかったフーウが大声をあげて紫タカヒトに制止を促した。紫タカヒトが理力を止めると厖大な数のアレストが一斉にその場から姿を消した。紫タカヒトが理力を消費したのとは逆にノームは力を増して状況は更に悪化していく。


 「五行相生の法則により火の属性での攻撃ではノームは倒せないのです。」


 五行相生とは木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じ、水は木を生ずという関係である。地の精霊ノームの属性は土であり、タカヒトの持つ紫玉と赤玉の属性は火である。つまり火は土を育てるという事になり紫タカヒトがどんなに攻撃を加えてもノームにはダメージどころかその能力を増すことにしかならないということだ。

 そして五行相剋とは水は火に勝ち、火は金に勝ち、金は木に勝ち、木は土に勝ち、土は水に勝つという関係である。この法則によると土の属性であるノームを倒すには木の属性である桜玉が唯一の攻撃手段なのだ。しかし今のミカに攻撃する能力はなく、てんとの風の属性やポンマンの無属性のソウルオブカラーではノームは倒せない。ミカの理力もすでに限界でサクラリーフも小さくなっていく。

 攻撃手段を失ったてんとが思い悩んでいるとタカヒトが立ちあがった。腰に吊るしてある徳の水筒を取り出し一口飲むとタカヒトは金色に輝き出した。


 「てんと、僕が道を切り開くから皆をお願い!」


 金色タカヒトはノームに瞬時に近づき蹴りを繰り出すとノームが吹っ飛んでいく。数体のノームに次々と蹴撃を浴びせると一体のノームが他のノームに当たりボーリングのピンの様にはじかれていく。金色タカヒトの連続蹴撃によりひとすじの道が開かれる。てんとは理力を振り絞って皆を浮遊させるとその道を一気に通り抜けていく。


 「タカちゃん、手を出して!」


 途中で金色の輝きを失ったタカヒトの手をミカが掴むと一気にノームの森を駆け抜けていく。ノームの姿が次第に小さくなっていくのをタカヒトは確認すると必死に手を握ってくれているミカの顔を見つめていた。


             またミカちゃんに助けられてる・・・


 人道にいた頃よりも強くなったはずなのにまたミカに助けられていることにタカヒトはションボリしていた・・・。

 

 「俺の前にこれほどの数のノームがいるって事は奴らめ!逃げ延びたってわけか。」


 タカヒト達から少し離れた所まで来ていたドレイクとリナの周りを複数のノームが取り囲んでいた。黒い眼を鋭く光らせたノーム達は獲物を喰らおうとドレイクに近づいていく。リナが牡丹色に輝きながら前に出るがドレイクがそれを制止させた。そして頭を掻きながらドレイクは茶玉を発動させていく。


 「精霊ごときが俺に勝つ気でいやがる!茶玉中級闘気 アースクエイク!」


 地面が激しく揺れて地表が裂ける。次々とノーム達は断末魔をあげながらその裂け目に落ちていく。身動きも取れず、なす術のないノーム達が裂け目の底へと落ちていくと裂け目は閉じて元の地表に戻った。てんと達が苦戦したノームをいとも簡単に倒したドレイクはリナと共に馬に乗りタカヒト達を追って森の奥へと進んでいった。

 一方、タカヒト達はノームから逃れたものの依然ノームの森にいた。浮遊の連続にてんとは完全に理力を消耗しきっていた。しかも理力を消耗しきっていたのはミカもタカヒトも同様であった。更にタカヒトは徳の力の反動により体力も消耗しきってヘイパイスと同様動く事もままならない状況だ。唯一の頼みはポンマンだけなのだがポンマンには攻撃能力が全くない。今、ドレイクやノームの襲撃に遭えば生き残る可能性はないに等しい。この最悪の状況の中でてんとは対処法を考えたが答えは出なかった。


 「森に・・・薬草がないか捜してくるよ・・・・」


 ポンマンはそう言い残すと森の中に姿を消して行った。ミカとフーウはヘイパイスとタカヒトの看病に忙しく動き回っている。ほんの一時の休息であったが最悪の状況の中で最悪の出来事はすぐにやってきた。またしてもノームの群れに囲まれたのだ。理力の回復していないてんと達にノームから身を守る手段は無い。

 ポンマンは戻らずてんとは危険を感じたポンマンは逃走したのだと諦めた。いや、ポンマンがいたとしてもノームから身を守る事は不可能である。てんとは死というものを覚悟した。ジリジリと近づいてくるノームにミカはタカヒトをギュッと抱きしめた。


 「ノォ~~~ム!」


 一匹のノームが叫び声をあげて自らの枝を伸ばすとタカヒトの身体に巻付いた。


 「ダメ!」


 ミカがそれを必死で取り除く。餌を捕られたと烈火の如く怒り黒い眼を鋭くさせたノームは複数の枝を一斉に伸ばしてくる。他のノームもジリジリと近寄ってくると獲物を我先にと奪おうと枝を伸ばす。防ぎきれないと悟ったミカがタカヒトの身体に覆い被さった。


 「ちょっと待った!」


 枝がミカに触れる寸前でノームの動きが止まった。ミカが恐る恐る顔をあげるとそこには足を大きく開き仁王立ちしているポンマンがいた。捕食を止められたノームは怒り振り返るとポンマン目掛けて鋭い枝を一斉に伸ばしていく。ポンマンはそれを素早く避けると何かをノームに投げつけた。


 「ノォォオオ~~~~~ムゥゥ~~!!」


 ノームは断末魔をあげるとその身体は粉々に崩れていく。粉々になったノームを見てミカは口をアングリした。いや、実際ポンマンがどのような方法でノームを倒したのかわからないがポンマンがノームを倒した事は間違いない。仲間を殺されたノーム達はポンマンに対して警戒感を高めていく。攻撃を仕掛けずに間合いを取るノーム達に対して怯むこともなく余裕のポンマンは腰に手をあてた。


 「はっはっはっ、お待たせしました。頼れる男ポンマン参上!」


 「ポンマン、危ない!」


 甲高い声をあげながら笑っているポンマンに複数のノームが襲い掛かった。それでもポンマンは冷静にそれらをかわすと再び何かノームに投げつけた。


 「ノォォオオ~~~~~ムゥゥ~~!」


 再び素早く避けると何かをノームに投げつけるとノームは断末魔をあげ、身体は粉々に崩れていく。ポンマンの活躍にてんと達を囲んでいた複数のノームが次々と粉々に崩れていく。そして最後の一匹だけになった。ほかのノームと違いひとまわり大きくどうやら集団をまとめているボスのようだ。


 「最後の一匹・・・」


 「ドゴォォ~~~ム!!」


 向かい合い対峙するポンマンとボスノームは次第に距離を縮めていく。次の瞬間、ボスノームの枝がポンマンの身体に突き刺さった。


 「いやぁ~~!!」


 ミカは目を背けた。だが突き刺さったのはポンマンのマントだけでその伸びてきた枝のへこみにポンマンは小さな種を入れ込んだ。


 「ドゴォォオオ~~~~~ムゥゥ~~~~!!!」


 ボスノームの動きが止まり呻き声をあげながら粉々に崩れていった。すべてのノームを倒したポンマンはてんと達のいるところへ歩み寄っていく。ミカの傍に座り込んですり鉢と棒を取り出すと持っていた薬草をすり鉢に入れて練り込んだ。練りこんだ薬草を丸めると水と一緒にミカに手渡した。


 「ミカ、これは滋養回復の薬草だ。タカヒトとヘイパイスに飲ませてやってくれ。」

 

 「わかったわ。」


 薬草を飲ませた二人の顔色はしばらくすると少しずつ生気を取り戻していく。続いて傷に効く薬草をポンマンがすり鉢で練り込みヘイパイスの傷口に塗り込むとすぐに止血した。安心したポンマンは道具をバックに詰め込んで片付けを始めた。


 「これでとりあえず安心だよ。」


 「ポンマン、ノームに何をしたのだ?」


 「何をしたってスクスク草の種を植えつけただけだよ。」


 「・・・スクスク草って何なの?」


 スクスク草とはその名の通り成長速度が異常に早い植物であり、土に栄養があればどのような環境でも育っていく植物だ。ノームは地の精霊で土の属性を持っている。見た目は樹木なのだが実際は土の塊であり火の属性はノームにとって栄養なのだがスクスク草はノームにとって命を削り取る脅威そのものである。

 てんとがノームの崩れた場所に目をやるとそこには確かに成長したスクスク草が花を咲かせていた。ポンマンはこの森の中にスクスク草を探し、それと共にタカヒト達の薬草も捜していたのであった。一時的に最悪の状況は脱したもののドレイクという脅威が依然近づいている。

 スクスク草に怯えたノームはこの場から去り、タカヒトとヘイパイスの体調が回復するのに十分な休息が取れた。ドレイクの動きが気になったタカヒト達は森を抜け出す為にその場を後にした。


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