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未来のきみへ   作者: 安弘
修羅道編
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風のてんと

 なんとかリナ率いるバルキリー精鋭部隊を撤退させる事に成功したが反撃してくることは目に見えていた。だがヘイパイスの具合は思った以上に悪く動かすことが出来ない。てんとはいくつかの想定を考えながら作戦を練ろうとしたがドレイクに対抗できる手段は全く思い浮かばなかった。コテージの一室でひとり頭を抱えて悩んでいるてんとにフーウが近寄ってきた。


 「何を悩まれているのですか?」


 「戦力をどんなに分析してもドレイクに勝てる要素がまるでない。

  いったいどうすればいいのか・・・」


 「戦力・・・ですか。あなたの戦力だけでしたら上げることは可能なのですけども。」


 「私の戦力をあげる?」


 緑玉とは風の精霊の魂が凝縮して出来たものらしくフーウの力でその能力をあげることが可能だという。てんとは戦力が上がるのならどんなことでもする覚悟があると伝えるとクスッと笑いフーウは何かを唱え始めた。するとそれと共鳴するようにてんとの緑玉も輝きを放ち始めた。部屋中を覆う緑の輝きにてんとの心は穏やかさを取り戻していく。

 作戦が煮詰まっていたことなどすでに忘れてその爽やかな輝きを受け入れていく。緑の輝きが少しずつおさまるとフーウは静かにてんとに言った。


 「これであなたの持つ緑玉は力を得ました。あなたは緑玉に、精霊の魂に好かれているのですね。あなたのためならすべてを捧げると言っていますよ。」


 てんとは緑玉を見つめると不思議と不安な気持ちは取れていた。部屋をフーウと共に出るとタカヒトとポンマンが相変わらず争うように食べていた。ポンマンはまたも喉を詰まらせて咳き込んでいた。


 「考えてもしょうがない。なんとかなるだろう。」


 「そうですよ、なんとかなりますよ。」


 フーウは微笑むとてんとは笑顔を取り戻した。その頃、チモネガ駐屯地へ戻ったリナは身体の回復を待ちながらも次の作戦を考えていた。ミカとてんと、ポンマンにタカヒトの四人の能力者を相手に敗北したのだがこのまま帰る訳にはいかなかった。ドレイクの力を借りる事も考えたが任せられた以上ここは自分の力のみで乗り越える事にした。

 数日が経ち、タカヒト達の能力から攻略法を見出したリナはバルキリー精鋭部隊とチモネガ兵を引き連れてコテージへと行軍を進めていく。


 「各中隊は散開せよ。」


 コテージに近づくに連れてバルキリー・チモネガ混合部隊は各個中隊に分かれていく。敵がコテージにて篭城している以上、四方八方から攻撃を開始してあぶり出す作戦を考えたリナはコテージを囲むように兵士達を配置していく。取り囲みに成功したリナは笑みを浮かべながらコテージを眺めていた。

 依然、篭城していると悟ったリナは合図を出すと周囲を取り囲んだバルキリー・チモネガ混合部隊は一斉に砲撃を開始した。コテージが形を崩して崩壊していくがバルキリー・チモネガ混合部隊は砲撃を止める事はなく更に砲撃は増していく。コテージはすでに崩壊して無くなり、そこには跡形もなく更地と化していた。計算された砲撃により勝利を確信したリナは砲撃を止めるように命令した。


 「圧倒的な力の差は埋められるはずはない。我らの勝利だ。勝鬨をあげよ!」


 勝利の勝鬨をあげるバルキリー・チモネガ混合部隊を見て思った以上に呆気なかったと上空を見上げたリナは驚愕した。そこには緑の輝きを放つ緑てんとと紫タカヒトが浮かんでいた。 


 「紫玉理力アルティメットアタック!」

 

 緑てんとの後で紫色の輝きを放っていた紫タカヒトが勝利に浮かれていたバルキリー・チモネガ混合部隊に向って標準を合わせた。四方八方にひろがったアレストが一斉に粒子砲を放出すると無防備の兵士達の身体を貫く。バルキリー・チモネガ混合部隊は思いもよらない反撃に混乱している状況の中、リナは状況を把握できずに困惑していた。


 「何故?・・・奴らにこの奇襲がわかる訳がない・・・まさか、内通者か?」

 

 数々の思惑を想定しながらもまずはこの状況の打開を考えたリナは上空に浮遊しているてんと達にサンドラドックを浴びせる。だが地上に隠れていた桜ミカがサクラリーフで簡単に防いだ。

 牡丹リナは精神が不安定である為にエレメントもいつもよりも弱く力を出し切れない。紫タカヒトのアレストによる粒子砲の集中攻撃にバルキリー・チモネガ混合部隊はほぼ壊滅状態に陥っていく。リナ以外の兵士は地面に倒れて二度と立ちあがることはなかった。


 「こんな・・・・こんな事になるなんて・・・」


 膝をガクッと落してバルキリー・チモネガ混合部隊が次々と壊滅していく様子をただ黙って見ているだけのリナの肩をポンと叩く人物がいた。ドレイクだ。

 放心状態のリナの前に立つとドレイクは片手を広げて灰色の光を放つ。それと同調するように上空に浮遊していたてんとに異変が起こった。急にてんとに緑色の輝きが無くなると地上へと落ちていく。


 「うわぁ~~~・・・ドン!!!痛たぁ~~・・・

  てんと、こんな降り方ないよ!っていうか、落ちたんだけど!」


 「灰玉の能力だ。すべてを無にかえす者は能力を無効にするのだ!」


 「おい、俺の女に酷いことするじゃねぇか。これは確実に倍返しってやつだよな?」


 灰ドレイクがてんと達を見つめるとニヤリと笑みを浮かべた。灰玉はソウルオブカラーの中で唯一、すべての能力を無効化させる事が出来る。その為ドレイクが灰玉を輝かせた時、てんとやタカヒト、ミカにポンマンのソウルオブカラーはその能力のすべてを失ってしまった。灰色の輝きが消えたドレイクは困惑しているてんと達に近づいていく。背中に背負っていた刀を瞬時に鞘から抜くとてんとに振り下ろした。球体を発生させると紙一重で何とか受け止めた。ドレイクはおろした刀を振り上げるとてんとを見つめた。困惑しているてんとは口を開いた。


 「何故・・・ソウルオブカラーを使わないのだ?」


 「前に会ったことがあるよな?小さな部落を襲った時におまえともう一人・・・。」


 ドレイクが振り上げた刀で肩をポンポンと叩いているとリナが立ち上がりドレイクに何かを話していた。タカヒトとてんとは怪我をしていなかった。てんとはミカの傍にいるフーウの姿を確認すると逃走の準備に取り掛かろうとしていた。対リナ戦での戦略は成功したと言っていいだろう。しかし対ドレイク戦の戦略は立てられなかった。と言うより立てようが無かったと言ったほうがいいだろう。すべての能力を無効にする灰玉に何の抵抗も戦略も無意味であり、ソウルオブカラーが使えない以上、対徒手、対剣術、対槍術、どのような戦術をしてもドレイクに勝てる要素は無い。てんとにとってこの場を逃げる事が最良の策であった。リナの話を聞き終えるとドレイクはニヤリと笑みを浮かべた。


 「なるほどな。そうか・・・おまえは緑玉を使うのだったな。

  風を読み、リナの戦略を読んだか?」


 てんとは驚愕した。てんとの考えはすべてドレイクにはお見通しであったのだ。つまりドレイクにはこの後てんとが何をしてどう動くかすべてわかっている。しかしそれでもてんとは逃走という手段しか最良と呼べる策が無かった。そしてその準備だけはしていた。てんとの落ちた場所は偶然ではなく、そこに落ちるように上空へ飛んでいたのである。

 そして近くには草木で隠した丸太で作ったイカダがある。イカダにはすでにヘイパイスが乗っていた。隠れていたポンマンとミカがそれに乗り込み帆を揚げると風の精霊フーウが風を起こす。ヘイパイスとポンマン、ミカを乗せたイカダの帆が拡がり速度をあげて前進していく。ドレイクの目前でタカヒトとてんとをイカダに乗せると一気に加速して逃走していく。地面を滑るようにイカダは進んでいくとドレイクがタメ息をつきながら言った。


 「考えたようだがそんなにうまくいくわけがないだろ!

  茶玉中級闘気 アースクエイク!!」


 茶色の輝きを放つ茶ドレイクは両手を地面に押し付けると地面が揺れて地割れを起こす。地割れがイカダに迫ってくるとタカヒトが叫んだ。


 「地割れに落ちたら二度と出られなくなるよ!」


 「安心しろ!手は打ってある!!」


 てんとは緑色に輝くとイカダは三つの球体に支えられて上空へと浮かびあがり地割れを避けていく。森の奥へと消えていったイカダをドレイクは見つめていた。


 「ドレイク!何故、奴らを逃がすような事を?」


 「久しぶりの獲物だ・・・楽しみたい。」


 ドレイクの活き活きとした表情を見たリナは少しだけ嫉妬した。遭遇した敵を獲物と言った事はいままでに一度も無く、こんなに喜んで楽しそうなドレイクを見たことがなかった。逃げていったタカヒト達を恋人に逢いに行くように喜びを感じながら追いかけていくドレイクに嫉妬しながらも確実な死をもたらすドレイクという死神にリナはタカヒト達を哀れんでもいた。


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