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未来のきみへ   作者: 安弘
修羅道編
34/253

高貴なる力を持つ者

 シルフの森に近づくにつれて兵士達の屍が増えていった。背中に矢が突き刺さっているところを見ると敗走を図ったようだ。敵に背を向けるとはなんと無様なものだとリナは嫌気がさしていた。リナ達がシルフの森近くに駐留するチモネガ兵駐屯地に着くと兵士達はいたる所に這いつくばって敗戦色に包まれていた。


 「リナ様! 皆、援軍が着たぞ!」


 リナとバルキリー精鋭部隊の姿を見るとチモネガ兵士達が歓声をあげだした。チモネガ兵士達の士気が一気にあがり兵士達が立ちあがるとリナの周囲を取り囲むように集まりだした。


 「我々は必ず勝利するだろう。

  私について来い!勝利の美酒というものを味あわせてやる。」


 リナのほんのわずかな激励でチモネガ兵士達の顔つきが変わり戦士の顔となっていた。集まった兵士の中心でリナは勝鬨をあげる。歓声が辺りを包むとリナとバルキリー精鋭部隊、チモネガ兵士達はシルフの森へと向かうべく行軍を開始していく。精鋭部隊もチモネガ兵士達も休む間もなく行軍していくわけだが、士気が高まるという事はそれだけで最高の力を発揮するということがわかる。

 しかしそれを打砕くようにシルフの森にはヘイパイス達が鉄壁の防御で立ち塞がっていた。シルフのいる大樹木は丘の上にあり、その周りは自然に積まれた岩がある。大樹木を中心に周りを見下ろす構造となっていた。チモネガ兵士達が大樹木を目指すには岩を登らねばならず登ればバーカーサー達の投石や弓矢の攻撃に遭う。その為、兵士の数では圧倒的に有利だったにも関わらず敗戦を余儀なくされたのだ。


 「また懲りずにきたか。皆の者、応戦の準備を急げ!」


 ヘイパイスの合図によりバーカーサー達は配置につくと弓矢を構えた。状況は撃ち下ろしの態勢となる為バーカーサーが圧倒的に有利であった。以前もこの方法で勝利を得ていたのだが、今回は少し状況が違った。丘の麓にいるバルキリー精鋭部隊は弓矢の射程距離には入れなかったが馬に乗ったリナが前に進むとバーカーサーは一斉攻撃を仕掛けた。

 星の数ほどの矢が襲かかるがリナの目の前ですべて焼け焦げて塵となった。怯む事なくバーカーサーは投石と弓矢を放つがリナにダメージを与えることは出来ない。馬上のリナは片手をあげてエレメントを高めていくと身体が淡い牡丹色に輝き出す。空が急に灰色に変わり雷雲が現れた。


 「高貴なる力を持つ者の前に平伏せ!牡丹玉ハイエレメント インドラ!」


 雷雲から一斉に雷がシルフの大樹木に落ちる。瞬きする間もないまさに刹那の瞬間、バーカーサー達は次々と焼け焦げていく。リナの合図と共にバルキリー精鋭部隊が岩を駆け登り逃げ惑うバーカーサーに襲い掛かっていく。雷に驚いたバーカーサー達はその場に腰を抜かすと攻めてくるバルキリーになす術もなく斬りつけられていった。弓弦は切られ、投石をするバーカーサーの腕は斬りおとされた。

 優勢だった形勢は一気に逆転してバーカーサーは壊滅状態に陥った。瀕死のダメージを負いながらも襲撃を免れたヘイパイスは少数の味方と最後の風の精霊シルフを連れて焼け落ちていく大樹木を後に逃走した。


 「バーカーサーが逃走したぞ。追え!」


 雷撃により燃え盛る大樹木を見上げたリナはヘイパイス達が逃走するのを発見するとすぐさま追手を差し向けるよう指示した。指示を受け馬に乗った精鋭部隊が追撃に向かう。血を流し傷つきながらも風の精霊シルフを守って逃走するヘイパイスにシルフは表情を曇らせた。


 「ヘイパイス殿、私を置いて逃げてください!

  私はあなた方が傷つくのを見てはいられないのです。」


 「そのようなことを・・・我々は先祖代々風の精霊シルフを守る為に生きています。 

  私は命と引き換えにしても使命を果たします!」


 敗走するヘイパイス達にバルキリーの追手が馬上から弓矢を放つ。数名のバーカーサーがその場に立ち止まると武器を構えて矢を弾き飛ばした。敵を迎え撃つべく体勢を取った。


 「ヘイパイス!ここは我らが阻止する。早く行け!」


 彼らはバルキリー精鋭部隊を相手に勝てるとは思っていない。しかし風の精霊シルフを守る事が彼らの使命でありその為の時間稼ぎならば喜んで命を失うであろう。


 「・・・すまん!」


 涙を流しシルフを背に乗せると彼らを置いてヘイパイスはその場を走り去った。バルキリー精鋭部隊は馬を降りると剣を構えて攻撃体勢をとった。それに対してその場に残ったバーカーサー達は気を高めると身体が一回り大きくなっていく。

 これがバーカーサーの秘術であるバーサクである。精神状態を発狂状態まで一気に高めて障害となるものを叩き潰すことができるようになる。しかし発狂状態であるため敵味方の区別がつかずその場にいる者をすべて倒すか、もしくは自らが息絶えるまで戦い続ける戦闘マシーンと化していく。

 バーサク状態となったバーカーサーは斬られても攻撃を止めず、バルキリー兵士を一人また一人と倒していった。眼は赤く充血してそれは正にケモノそのものであった。追撃してきた精鋭部隊の半分あまりを倒したバーカーサーに戦場で無敗を誇っていたバルキリー部隊は動揺を隠せなかった。

 そのあまりにも獰猛な姿に恐れをなしたバルキリー精鋭部隊はバーカーサーに恐怖を感じて後退していく。数名のバルキリー兵士が敗走を図ると精鋭部隊の兵士すべてが逃げ出した。敗走する兵士達の視線に馬に跨るリナの姿が映った。


 「無敗を誇るバルキリー精鋭部隊に臆病者はいらない!

   牡丹玉ミドルエレメント サンドラドック」


 リナの身体が牡丹玉に輝き始める。そして襲い掛かってくるバーカーサーに右手を、敗走するバルキリー兵士に左手を牡丹リナは差し向けた。牡丹リナの左右の手から獣の形をした雷獣が飛び出すとバーサク状態のバーカーサーとバルキリー兵士に襲い掛かり、一瞬にして焦げ付いた人形の塊が数十体出来上がった。人形の塊の間を馬に乗り通り抜けると牡丹リナはヘイパイスの逃げ帰った先を目指していく。


 「てんと、やっぱりヘイパイスさんに相談しないでコテージの人たちを湖の畔に行かせたのってやりすぎじゃないの?」


 てんとはヘイパイス達が出発してから胸騒ぎがおさまらず、コテージに残ったバーカーサーの人々を少し離れた湖の畔へと移動させていた。てんとはバルキリー精鋭部隊を率いているドレイクの怖さを知っている。バーカーサー達が必ず勝てるとも思えずバルキリー精鋭部隊の追撃に対して、てんと達はコテージに残ると防衛戦線を張った。

 防衛戦線を張ってから待機する日々が続いた。数日が経った頃、目のいいポンマンが遠くにヘイパイスの姿を確認するとてんとに報告した。


 「タカヒト、ポンマンと共にヘイパイスを迎えに行ってくれ

  ・・・・くれぐれも気をつけるのだぞ。」


 辺りを警戒しながらタカヒトとポンマンはヘイパイスに近づいていくとその傷ついた姿に驚いた。ふたりは肩を貸すとヘイパイスをコテージに連れていく。ベッドに寝かせると痛みを堪えながらヘイパイスは雷撃使いがこちらに向かっていることを話してくれた。話を聞いたてんとは一時考え込むとこの防衛戦線を維持しながら雷撃使いを迎え撃つ事にした。


 「そんな事は・・・頼んでない。はやく・・・ここから逃げて・・・くれ。

  ヤツが・・・くる・・・。」


 「大丈夫だよ、ヘイパイスさん。準備は出来ているから。傷ついたヘイパイスさんを置いて逃げるなんて僕達には出来ないよ。」


 タカヒトの言葉に皆の顔を見まわしヘイパイスは涙を流した。いろいろな感情が混ざり合い涙が止まらない。それは大切な仲間を失った事であり自分の無力さ故に大切な友人達に危険な思いをさせる歯痒さであり、その大切な友人が傷ついた自分の為に力を貸してくれると言ってくれたからであった。涙を流しているヘイパイスの服の中から小さな精霊が現れた。タカヒトは目が点になって驚いたがその精霊はタカヒト達を見あげると頭を下げて礼を言った。


 「皆さん、本当にありがとうございます。」


 「?・・・喋ったぞ。この生き物はなんなんだ?」


 ポンマンが驚き腰を抜かしてその場に座り込むと生き物は再び口を開いた。その生き物は風の精霊シルフでフーウと名乗った。フーウは火の精霊サラマンドラと違って攻撃性は全くなく体長も手のひらにのるくらいの亜人種だ。フーウは風の精霊シルフの唯一の生き残りであり絶滅は免れない。

 その貴重性に目をつけたチモネガがペットとして自慢できると判断して狩猟することになったのである。それを阻止するバーカーサーの反撃に激怒したチモネガとの間に戦争が始まった。フーウは自分が犠牲になればバーカーサーに危害は及ばないと伝えたが風の精霊を神と崇めるバーカーサーには聞き入れてはもらえなかった。


 「それでも私の為に彼らが傷つき息絶えていくのは苦しいのです。」


 涙を流して懸命に訴えるフーウの姿を見たポンマンはポツリと口を開いた。


 「たぶん彼らにとってあなたはかけがえのない大切な存在なんだ。だから命がけで守ろうとする。そんな彼らが傷つき倒れていくのを見続けなければならないあなたも苦しいでしょう。でも、もしあなたを失ったら彼らは生きてはいけない。今は苦しいかもしれないけど、それは永遠でないのだから・・・彼らの為にもあなたには生きてほしい。」


 「・・・ありがとう。」


 「ポンマンってたまにいいこと言うよね。」


 「たまにって・・・タカヒト、何を言ってんの!」


 ポンマンはタカヒトを追いかけて場を和ました。皆に笑顔が戻り束の間の安らぎの時が流れた。それから数時間が経った頃、偵察の任についていたポンマンの目にリナの姿が映った。てんとは対リナ戦に立てていた作戦を実行すべく準備に取り掛かった。コテージの前にミカとポンマンが立ち、コテージの裏に隠れるようにタカヒトが配置する。つまりリナからはミカとポンマンしか確認する事が出来ないという事になる。リナが馬から降りるとコテージの前に立つミカとポンマンに向かって声をあげた。


 「無益な戦はしたくはない。シルフを差し出せば危害を加えず撤退するつもりだ。

  シルフを差し出せ!」


 「あんたなんかにフーウを渡すつもりはないわ!」


 「愚かな・・・ならば我が雷撃を喰らうがよい。

  牡丹玉ミドルエレメント サンドラドック」


 交渉は決裂したとばかりにリナはエレメントを高めると牡丹色に輝いたその身体から雷獣が襲ってくる。それはバーサク化したバーサーカーとバルキリー精鋭部隊を瞬時に焼き殺した技であった。ミカは桜玉理力サクラリーフを発動させてそれを受け止めるが理力の差は明らかだった。サクラリーフは砕け散りミカとポンマンは吹っ飛んだ。攻撃を止めた牡丹リナは再度ミカに忠告した。


 「おまえと私の力の差は歴然としている。いい加減にシルフを渡せ!」


 「言ったでしょ!あんたなんかにフーウを渡す気はないわ。いくわよ、ポンマン。」


 「オッケー、ミカ!」


 「ならば死ね!牡丹玉ハイエレメント インドラ」


 エレメントを高めた牡丹リナの頭上を巨大な雷雲が空を埋め尽くしていく。雷鳴が轟き暗黒の雲の中心に無数の雷が集中してミカ達に標準を合わせていく。ミカはポンマンの背中に両手をつけるとポンマンと共に理力を限界まで高めていく。

 次の瞬間、雷はミカとポンマン目掛けて落ちてきた。牡丹玉の最大級の雷撃を浴びればミカの桜玉理力サクラリーフでは防ぐ事はおろか、コテージそのものが消滅してしまう。桜色に輝くミカと翡翠色のポンマンが上空を見上げた。


 「翡翠玉理力 増幅力!」

 「桜玉理力 サクラリーフ!」


 翡翠玉には攻撃する能力は全くない。だが翡翠玉理力増幅力を発動させる事によりミカの桜玉理力サクラリーフの防御力をあげる事が可能となる。複合技とはまた違ったポンマンの翡翠玉独自の能力なのであるが能力をあげたサクラリーフは厚みが増して大きさもひとまわりもふたまわりもデカくなった。サクラリーフはインドラをすべて受け止めていくがやはり差は埋められず、桜ミカのサクラリーフが押し潰され始めた。


 「タカヒト、今だ!」


 ポンマンの合図にコテージに隠れていたタカヒトが飛び出す。理力を高めていた身体は紫色に輝いて紫タカヒトの周囲には厖大な数のアレストが配置されていた。


 「紫玉理力 アルティメットアタック!」


 牡丹リナに厖大な数のアレストの粒子砲を一斉に浴びせた。だが紫タカヒトの動きを瞬時に察した牡丹リナは攻撃を止めるとアレストの粒子砲をかわした。


 「おまえの気配などお見通し、私に不意打ちなど利かないわ!」


 「それはどうかな?」


 「何!・・・・・!!」


 空中に回避した牡丹リナは自分の背後に気配を感じた。後ろを振り返るとそこにてんとがいた。紫タカヒトのアルティメットアタックは牡丹リナを狙ったものではなく、牡丹リナの背後に立つ緑てんとの球体を狙ったものだった。緑玉の球体に弾かれた厖大なアレストの粒子砲は破壊力とスピードを増して、ひとつの巨大な紫色の粒子砲となり牡丹リナに襲い掛かる。


 「紫緑玉複合技 アルティメットストライク!」



 「きゃぁぁぁああ~~、あはっ、あぁぁあぁあああ~~~!!」


 空中に回避した牡丹リナに巨大な紫色の粒子砲から逃げる術もなく直撃。牡丹玉の発動によりダメージは最小限に抑えたものの一時的に意識を失って地上に落ちていく。緑てんとはトドメを刺そうとしたがバルキリー精鋭部隊とチモネガ兵隊が砲撃を仕掛けてきた。紫タカヒト達は後退を余儀なくされてコテージまで撤退していく。地上に落ちたリナはすぐに意識は取り戻した。這いつくばりながらも立ちあがり数名のバルキリー兵士に連れられて敗走していく。


 「はぁはぁはぁ・・・なんという失態!このままでは済まさないわ。」


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