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未来のきみへ   作者: 安弘
修羅道編
33/253

命のサイクル

 「よし、種蒔きは完了だな。さあ、皆で昼食にしょう。」


 「お昼、お昼、お昼!」


 ポンマンはスキップをしながら昼食の準備をしているミカのまわりを回っている。

 

 「お昼、お昼、お昼!」


 ウズウズしたタカヒトもポンマンと一緒にスキップしてミカのまわりを回った。ミカは樹木の木陰にシートを敷くと弁当を並べた。


 「食いしん坊さん、食べてもいいわよ。」


 「いっただきま~す!」


 いつも通り奪い合うようにタカヒトとポンマンはパンを両手に持ち口をモゴモゴさせていた。ガツガツ食べるタカヒトの口のまわりをミカがハンカチで拭いている。それを見ていたヘイパイスは笑顔で言った。


 「はっははは、ミカには世話の焼ける子供達がいて大変だな。」


 「まったく・・・タカヒトは世話が焼ける子供だ。」


 「タカちゃんだけじゃないよ、ポンマン。子供達って言ったんだから。」


 「・・・・。」


 「昼食が終わったら早くコテージに戻ろう。今日は種蒔きの宴があるんだ。」


 バーカーサー達は種を蒔いた日と収穫の日には宴を行うのが風習となっている。タカヒト達がコテージに戻る頃にはすでに宴の準備が行われていた。そして陽も沈み宴が始まったがそこにてんとの姿はなかった。コテージの中心に作られた宴の会場にはバーカーサー達が集まっていた。


 「まだ戻ってこないなぁ~・・・」


 「大丈夫だよ、タカちゃん。もうすぐに戻ってくるから。」


 「でも・・・もし何かあったら?てんとの身に何かあったら僕・・・」


 「私の身に何かあったらどうするのだ?」


 「! てんと!いつ帰ってきたの?」


 「今だ。それより私の身になにかあったらどうするのだ?」


 「えっ?どうするって・・・」


 「まあ、まあ、いいじゃない。それより宴、宴。

  てんともタカヒトもこっちに座って!さあ、はやく、はやく。」


 ポンマンに背中を押されてタカヒトとてんと、ミカは席に座った。たくさんの料理が並べられてポンマンは相変わらず両手一杯抱え込んで口をモゴモゴさせている。


    僕はてんとの身に何かあったらどうするつもりだったんだろう・・・。


 宴の最中、タカヒトはずっとそんな事を考えていた。何かを思い悩むタカヒトにミカが声を掛けようとするとそこにヘイパイスが近づいてきた。


 「どうした?悩み事か?」


 隣に座るヘイパイスにタカヒトは思い悩んでいたすべての事を話した。ヘイパイスは黙って聞きしばらく考えた後で言った。


 「命のサイクルってわかるか?」


 「命のサイクル?」


 「大地に根付いた芽が長い歳月を経て樹木がなる。そして樹木から新たな種が大地に落とされる。それと同時に樹木は枯れて腐り土の養分となる。土に落ちた種から新たな芽が芽生えまた樹木が育っていく。こうして命のサイクルが行われていくんだ。

 我々もそうだ。生まれ、成長し、家族や仲間を得て協力して生活する。そして大切な事を後世に残して屍となる。」


 「難しくて・・・よくわからないや。」


 「タカヒトは成長の途中だ。そして今、タカヒトにはミカやポンマン、てんとという仲間がいる。てんとの身に何かあったら、どうするのかはいずれタカヒト自身が答えを出すだろう。」


 「僕自身が?」


 「そうだ。今は大切な仲間を得られた事に感謝してその仲間を失わない努力と仲間を信じる力を身につけることだな。」


 そう言い残すとヘイパイスは席を立っていった。タカヒトはてんとやポンマンを見つめて、いろいろな事を考えた。それでも答えは出なかった。ふと視線を感じるとミカが心配そうにタカヒトを見つめていた。


 「仲間を失わない努力と信じる力かぁ~・・・」


 「うん、何か言った?」


 「ううん、なんでもないよ。」


 タカヒトにはヘイパイスの話がよくわからなかったがそれでも今のこの幸せを感じ取ることだけは出来た。てんとが居て、ミカが居て、ポンマンが居る。皆が愉しそうな顔をしている事が大切な事でタカヒトはそれで良かったと思っている。皆の笑顔が一番幸せなんだとタカヒトは思っている。宴は遅くまで続いた・・・。


 「う~~ん・・・よく寝たぁ~。」


 コテージの前でタカヒトは昇ってくる太陽を眺めながら清々しい朝を迎えた。ヘイパイスのコテージからは朝食の準備をしているらしく煙がモクモクとあがっている。


 「タカヒト、朝食よ!」


 ヘイパイスの妻アリスに呼ばれてタカヒトはコテージの中に入るとすでに朝食が用意されてポンマンが口を大きく開けてほおばっている。


 「モゴモゴ タカヒトぉ~。はやくしないと無くなっちゃうよ。

  もご・・・ふがっ、ごぼっ!」


 むせるポンマンにミカがコップを手渡すと勢いよくそれを飲み干した。それからもポンマンの食欲が衰えることもなく食べる速度は加速していく。タカヒトも席に座ると食べ始め、ポンマンと競い合うように食べていく。


 「てんと、気分でも悪いの?」


 「・・・・・」


 てんとの様子が気になったミカが声をかけたがてんとは黙ったまま朝食を取り始めた。その様子を気にしていたミカだった。タカヒトとポンマンがお腹いっぱいで動けなくなった頃にヘイパイスが風の精霊シルフについて語りだした。

 ヘイパイス達バーサーカーがバルキリーの襲撃を免れている理由のひとつに風の精霊の力がある。コテージは森に包まれるように建てられている。シルフ達の風の能力により風の壁が形成されていることでバルキリーの襲撃を押えられているのだ。そのおかげでバーカーサー達も安心して暮らせている。しかしその森を焼き払いシルフの捕獲とバーサーカーの襲撃をチモネガは進めている。


 「我々はこの計画をなんとか阻止したい。そこでチモネガの計画阻止する為にバーカーサーの戦士達がシルフの森へ向かう事になった。旅人の君達にお願いするのはおこがましい事なのだがコテージを守ってほしい。すべての戦士達が森に向かえば女子供だけをここに残すことになる。万が一に備えて君達に女子供の非難の手助けを頼みたいのだ・・・聞き入れてくれぬか?」


 「万が一に備えて準備をしておけばいいのだな。もちろん拒む理由はない。」


 「引き受けてくれるか!ありがとう。」


 てんとが快諾するとヘイパイスは喜んだ。するとヘイパイスは作戦準備があるからとその場を立ちあがりコテージから出て行った。コテージの外ではバーカーサーの戦士達が刃物を研ぎ、弓弦の調整をしている。子供達は喜んで戦士の真似事をしているが女達はコテージから心配そうに見つめていた。

 数日後、ヘイパイスを筆頭にバーカーサーの戦士達がシルフの森へと向かう朝、タカヒト達は見送りにいく。心地よい風が戦士達の身体を包み込んでいた。


 「皆、よく聞け!この心地よい風同様に天も我らの味方している。いくぞ!」


 「うおおぉ~!」


 勝鬨を挙げた戦士達はシルフの森へと進軍を開始していった。バーカーサーの戦士達は身体中を黒く塗りテンションをあげている。しかしその化粧は死を恐れずに立ち向かうという意味も込められている。彼らは自らの死を賭けて戦いに挑むのだ。

 一方、チモネガの城内では今年の作物の取立てについて農作大臣が報告を行っていた。農作は順調に進んで今年は2%の取立てになると農作大臣は報告した。


 「2%・・・取立ては5%にせよ!」


 「チモネガ様、5%の取立てでは農民の生活が成り立ちません。

  ・・・・なにとぞ、なにとぞ、お慈悲を!」


 必死に説得する農作大臣にチモネガは近衛兵に合図をした。すると周囲を取り囲んでいる近衛兵は槍を握り締めると農作大臣の胸部を突き刺した。悲鳴が部屋中に響き渡ると農作大臣は冷たい床に倒れこんだ。近衛兵は冷たくなった農作大臣をひきずると部屋から放り出す。王室に控えていたほかの大臣達は恐怖に静まりかえり、殺された農作大臣の血痕を近衛兵に拭かせながらチモネガが声を荒げた。


 「我はこの世で一番偉いのである。逆らう者は死を与えるのみである!」


 その場でチモネガは次期農作大臣を決めると任された大臣はすぐに作物の取立てを5%として部下に命令した。力と恐怖で支配するチモネガに誰ひとり逆らえなかった。チモネガが信じるのは金だけ。

 「金があればこの世界で出来ないことなどない!」と豪語するチモネガは王座に座るとシルフについて話を始めた。


 「ところでシルフの捕獲はどうなっておる。ワシは隣国の王達に晩餐会でシルフをペットとして連れていくと言ってしまったのだ。はよ、捕まえてくるのだ。」


 「チモネガ様!

  シルフの能力とバーカーサーの反撃に思った以上に苦戦しておりまして・・・」


 「言い訳など聞きとうない。貴様も前農作大臣のようになりたいのか?

  バーカーサー攻略はドレイクに命ずるがよい。」


 チモネガは戦略大臣にドレイクのバーカーサー攻略への参加を命じた。戦略大臣は部下に命令するとすぐにそれはドレイクの耳に入ることになった。チモネガ城の近郊にある丘の上で寝そべっていたドレイクにひとり近づいていく女がいる。黒い肌と髪を持ちわりと筋肉質でスレンダーな体型をしている。彼女の名はリナといいドレイク率いるバルキリー軍団の参謀である。今回のバーカーサー攻略作戦を伝えにきた。作戦を聞いたドレイクは動こうともせずじっと流れゆく雲を眺めていた。

 ヘイパイス達バーカーサーの必死の抵抗にチモネガ兵団は撤退を余儀なくされていた。痺れを切らしたチモネガがドレイクに命じたのだがドレイクはこの作戦にはあまり乗り気ではなかった。


 「ドレイク! はやく攻略に取り掛からないと・・・」


 「そう急くなよ、リナ。シルフをペットにとは・・・あの悪趣味ブタ野郎の言いなりになるのもシャクに障るんだよな。・・・そうだ!おまえが行けよ。」


 「私が討伐の指揮を?」


 「バーカーサーくらいならおまえの牡丹玉だけで十分だろう。

  俺は寝るから勝手にやっといてくれ。」


 寝そべったままドレイクは再び雲を眺めているとそのまま目を閉じて眠ってしまった。リナは何も言わずにその場を去って行と兵士を集めるように部下に伝えた。

 数時間後、リナの目の前にはバルキリー兵団の精鋭部隊が集まった。リナは馬に乗ると精鋭部隊と共にシルフの森を目指して行軍を開始していく。


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