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未来のきみへ   作者: 安弘
修羅道編
32/253

バーカーサーとの出会い

 「ここが修羅道・・・」


 広い野原が続いて遠くには雪を被った山々がある。風が吹き野原の草がゆらゆらと揺れて心地よい感じだ。ここが修羅道と思えない綺麗な光景であった。タカヒトやミカ、ポンマンもこの美しい光景に見とれていた。まるで人道の世界のようだと・・・しかしここが人道ではなく修羅道とすぐにわかるようになる。野原の先に小さな丘があり何本かの柱が立っている。


 「あれ・・・・何か吊るされているぞ!」


 ポンマンの声にタカヒトは小さな丘に視線を移した。視線の先に映った柱には人形らしきものが吊るされていた。おびただしい数の鳥に突付かれていたそれがすぐに人形ではなく修羅道の住人だとわかった。あまりにも残虐な光景にミカは膝をついて腰を抜かした。


 「ミカちゃん!・・・大丈夫?」


 「・・・・」


 放心状態がしばらく続いたミカはタカヒトの手を握るとゆっくりと立ちあがった。足はフラフラともつれミカはタカヒトに支えられながらでなければ歩けなかった。歩いている最中も下を向いたままショックを受けているミカをタカヒトは心配そうな表情で見つめている。

 しばらく歩くと小さな部落に辿り着いた。丈夫そうな布で覆われているコテージがいくつかあり、そこには数人の人々がいた。近くにいたひとりの男がタカヒト達に声を掛けてきた。


 「この辺りでは見かけない顔だが・・・どうしたんだい?」


 「我々は世界を旅している者だ。

  ここに来たのは初めてで丘の上の光景に驚きここまで逃げてきた。」


 てんとの言葉を聞いた男は表情を曇らせた。そして少しの間、沈黙の時間が流れる。


 「・・・とりあえず中に入りなさい。」


 男はタカヒト達をコテージに招き入れると温かいミルクをご馳走してくれた。ミルクを飲んでいるタカヒト達に男は静かに語り始めた。自らをヘイパイスと名乗り、ここの部落の長であると言った。そしてこの辺り一帯はチモネガと呼ばれる領主に支配されていると語るとその表情は険しいものになっていく。領主のチモネガは暇つぶしにコテージに住み遊牧を続けるヘイパイス達の一族バーカーサー族を狩猟するバーカーサー狩りを行う。馬に乗り、弓を引いては逃げていくバーカーサーを狙い、撃ち殺しては柱に吊るしあげる残酷な道楽を興じるのだ。


 「そんな・・・ヒドい。」


 人を人とも思わないチモネガのやり方にミカが涙を流すとヘイパイスは少しの間、沈黙した。そして再び話を続ける。彼らもただ黙っているわけもなくチモネガに反撃を数回繰り返したらしい。しかしその度に返り討ちに遭っていた。理由はチモネガが雇っている兵士にあった。

 その兵士達はバルキリーと呼ばれる集団でとてつもなく強く残忍な集団である。その集団を率いているある人物の名を聞いて、てんとは驚愕した。


 「! いっ、今なんと言った?」


 「バルキリーの集団を率いているのはドレイクだと言ったのだが・・・」


 「ドレイク・・・」


 てんとがドレイクの名を聞いた瞬間その表情が曇り、蒼ざめたことがタカヒトは気になった。てんとが黙り込みどれくらい経ったのだろう・・・。


 「てんと・・・ドレイクって?」


 静かに口を開いたてんとから驚くべき事実が明らかになった。


 「ドレイクは・・・ジェイドに唯一敗北を味あわせ、

  ジェイドの最愛の人ユラを殺した男だ。」


 「あのジェイドに敗北を味あわせた?」


 てんとはジェイドとユラと自らの関係を話し、ドレイクによってジェイドがどのように変貌していったのかを説明した。タカヒトは少しだけジェイドの気持ちが理解できた。もしミカに同じことが起こったら自分はどうするのだろうかと・・・。

 てんと達にとってドレイクの存在は大問題である。いずれドレイクの襲撃もあるだろうし、もしドレイクと戦えば確実な死が待ち受けている。


 「バルキリーも強いがドレイクの強さは他を凌駕している。

  やつの使う能力は地を操るものだ!」


 「地を操る?」


 てんとは耳を疑った。ドレイクの能力は他のソウルオブカラーの能力を無効にする灰玉だったはずである。ドレイクがそれ以外にもソウルオブカラーを持っているとは思いもしなかった。しかも地を操る能力とは間違いなく茶玉である。能力を無効にする灰玉と地を操る能力である茶玉を所有するドレイクにどう対応していけば良いのか?てんとには全く戦術が思いつかなかった。

 ヘイパイスの計らいにコテージで休むことになりタカヒトは疲れていたせいかすぐに眠りについた。しかしてんとだけは明け方まで目が冴えて眠ることが出来なかった。


 「小麦作り?」


 「そうよ、タカちゃん。こちらにお世話になるんだからお手伝いをしないとね。」


 「そうだぞ、タカヒト。働かざる者、食うべからずだ。」


 タカヒト達はしばらくの間この地にいることになった。これはてんとの考えで決めた事である。ドレイクの襲撃に備えて修羅道の地形や環境を知る必要があり、それと同時に安全な場所を確保する必要がある。ヘイパイスに事情を説明すると快諾してくれた。

 てんとは周辺の地形を確認する為に朝早く出掛けていた。朝食を済ませたタカヒト達もヘイパイスの仕事を手伝う為に同行することになった。ヘイパイスは道具を荷車に積み込み、タカヒト達を連れて荒れ果てた開拓地に向かった。ヘイパイスは荷車から鍬を取り出すと未開拓の硬い地面に深く突き刺した。タカヒトとポンマンも渡された鍬を使って地面を耕していく。地面は想像以上に硬くなかなか作業がうまくいかなかった。


 「硬い・・・こんなに硬いなんて開拓ってキツい仕事だね。」


 「泣き言を言うな。ミカを見ろ!」


 ポンマンが指さすとミカが硬い地面に生えている雑草を取っていた。額に汗を掻きながら働く姿を見て、タカヒトも懸命に鍬を使って耕していく。


 「負けんぞ、タカヒト。こう見えても野良仕事のポンちゃんと異名を取った私だ。

  その腕前を見せてやる!」


 競うようにポンマンとタカヒトは硬い地面を耕していった。


 「はっ、ははは。そんなに気張ると疲れるぞ。先は長いんだ。ゆっくりとな。」


 ヘイパイスの笑い声にミカも笑みを浮かべていた。困難な作業であったがタカヒトとポンマンの活躍?により見事な畑が仕上がった。すでに日も傾いていてヘイパイス達は作業を止めてコテージに帰る事にした。この日はタカヒトがミゲールから貰った鯨豚の燻製が夕食として用意された。ヘイパイスは食べた事のない燻製に戸惑っていたが口に合ったらしくバーカーサー達に評判が良かった。夕食を済ませ、ドラム缶の風呂で汗を流したタカヒトはコテージ内からてんとの帰りを待っていた。


 「てんとなら大丈夫だよ。タカちゃん。」


 「・・・うん。」


 「もう寝ましょう。」


 ミカとタカヒトは作業の疲れのせいか、すぐに深い眠りについた。それから数日間、タカヒト達は固い地面に鍬入れ作業を続けていった。


 「アイタタタ・・・」


 「ポンマンどうしたの?」


 「連日の野良仕事に身体が悲鳴をあげている。

  アイタタ・・・タカヒトは大丈夫なのか?」


 「うん、手に豆が出来たくらいだよ。」


 タカヒトは手まめをポンマンに見せた。腰をさすりながらポンマンが手まめを触って騒いでいるとヘイパイスがやってきた。


 「今日は種まきをしてほしいのだが・・・・ポンマン、大丈夫か?」


 「ポンマンなら大丈夫だよ、たぶん。今日は種を蒔くの?」


 ヘイパイスは皆で耕した畑地に小麦を蒔くと言った。ミカの働きですでに小麦の種は荷車に載せられてあった。昼食の弁当を持ってきたミカと共に畑地に歩いていく。道中、ポンマンがタカヒトに近づいてこっそり声をかけた。


 「タカヒトの手まめもまいたら?てまめも種だけに・・・プップププ」


 「それってオヤジギャク?」


 「オヤジギャクって・・・ミカ、ちょっと言い過ぎじゃない?」


 そんな笑い話をしていると耕した畑地に到着した。荷車から杭を取り出してヘイパイスは畑地の周辺にそれらを打ち込んだ。何故、杭を打ち込むのかと言うタカヒトの問い掛けに開拓地には野犬や小動物がいるらしく、畑地に埋めた種を掘り起こしてしまうらしい。それらを防止する為の柵造りがかかせないとヘイパイスは語った。タカヒトとポンマンは杭を運ぶとヘイパイスのマネをしながら大槌で打ち込んでいく。ヘイパイス達が杭打ちを行っている間、ミカは種蒔きの準備を行っていた。


 「ミカ、準備は整ったかな?」

  

 「この縄に種が入っているの?」


 この地での種蒔きはタカヒトが見てきたものとはまるで違った。丸めてある荒縄を畑地に敷いていくものだった。


 「この荒縄には種のほかに数種類の肥料も入っている。

  後は規則正しく荒縄を敷いていけば完了だ。」


 荒縄を敷いている最中、ヘイパイスは辺りを警戒していた。コテージを離れてこの未開拓の地で作業するという事は正に命賭けの作業でもある。荒縄を敷くだけの作業であれば、万が一に備える事が出来る。荒縄農業はこの地で生きる者の知恵なのだ。哀しい現実にミカはポツリと言った。


 「ここが修羅道だってことを忘れていたね・・・」


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