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未来のきみへ   作者: 安弘
餓鬼道編
31/253

ポンマンの翡翠玉

 「・・・・」


 タカヒトは天井を眺めていた。見たこともない風景に戸惑ってはいたがベッドの傍らにミカがいた。看病疲れのせいか、ベッドにもたれ掛るように眠っている。身体を動かすことが出来ないタカヒトは右手をなんとか動かすと眠っているミカの髪の毛を撫でてみた。髪を触られて目が覚めたミカはタカヒトが意識を取り戻したことに驚いた。


 「タッ、タカちゃん? 意識が戻ったのね!良かった・・・本当に良かった。」


 涙ながらにミカはタカヒトの手をギュッと握ってタカヒトを見つめている。そんなミカを見て顔を真っ赤にするタカヒト。そのタカヒトの表情を見てミカは自分のしたことが急に恥ずかしくなって握っていた手を離すと顔を赤らめた。


 「わっ、私みんなに知らせてくるね。」


 椅子から立ちあがるとミカは急いで部屋を出て行った。ミカの嬉しそうな顔を見て生きていることをタカヒトは実感した。タカヒトはベッドの上で瞳を閉じてミカが戻るのを待っていた。しばらくして部屋の外が急に騒がしくなったかと思うとすぐに皆が押し寄せるように入ってきた。


 「滋養にいい雨蛙を喰え!生がいいんだ。すぐに喰らいつけ!」とゲイル。


 「鯨豚の丸焼きを持ってきたね。」とミゲール。


 部屋の中にたくさんの仲間が動けなくなるくらい入ってきてちょっと騒動になった。


 「ミゲール、そんな豚なんか後回しだ!身体の回復には雨蛙が一番効くんだよ!」


 「何を言ってるね!ゲイルだろうとこればっかりは譲れないね!!」


 「ミゲール・・・てめえぇ~ 俺に逆らおうってのか!いい度胸だ!!」


 「五行の印を唱えて脅しても無駄ね。こればっかりは譲れないね。

  鯨豚の丸焼きに命を賭けてるね、勝負ね、ゲイル!」


 一触即発の状況で誰もが固唾を呑んだ。動けないタカヒトも戦慄を感じたほどだった。 

そんな睨み合うふたりの間にマイコが割って入ってきた。


 「はいはい、おバカさん達。ここがどこだかわかるかなぁ~?

  タカヒトの寝室だぞぉ~。テーブルの上に雨蛙と鯨豚を置いて出て行くよ。」


 マイコに促されて雨蛙と鯨豚をテーブルに置くと渋々ゲイルとミゲールは部屋を出て行った。意識を取り戻してもタカヒトにはまだ休息が必要だとミカを残して皆は部屋を出て行った。


 「じゃあね、ミカ」


 ドアを閉める瞬間、マイコはミカにウインクして閉めた。急に静まりかえった部屋でミカとタカヒトの間には沈黙の時間が流れた。


 「皆、来てくれたね・・・」


 「うん・・・」


 「・・・ゲイルとミゲールのもってきてくれたの食べる?」


 「・・・・いらない・・・」


 「そう・・・・」


 「・・・・ミカちゃんのご飯が食べたい・・・」


 「えっ!・・・・・あっ、うん!ちょっと待っててね。」


 笑顔のミカは部屋を出ていくと急いで料理を作る。しばらくしてミカが戻ってくると野菜スープをタカヒトに飲ませた。


 「熱い!」


 「ゴメンね。熱かった?フゥ~フゥ~・・・はい、どうぞ。」


 「うん、美味しい。」


 「本当?いっぱいあるからゆっくり食べてね。」


 ミカの手料理を食べさせてもらいながら幸せを噛締めていた。そんなことが繰り広げられているうちに月日が経ちタカヒトの身体は完全に回復していった。


 「さて・・・そろそろ出発だ!」


 てんとの言葉にタカヒトはうなずいた。崩壊した近代独立国家オメガは復旧が順調に進んで少しずつ元の形を取り戻してきた。人々の心から絶望というものは次第に消えて希望と笑顔が溢れてきた頃、タカヒトの業の水筒が赤く輝きだした。この餓鬼道との別れが近づくと思うとタカヒトはなんともいえない気持ちになった。

 人道にいた頃は父親の仕事の関係で引越しを繰り返し別れは何度も味わった。それでも別れは慣れることはなく辛く悲しいものだと思い知った。

                

         ミカちゃんを連れて人道へ、元の世界へ戻るんだ!


 そんな想いがなんとか悲しみを押えていた。タカヒト達の周りには近代独立国家オメガの人々やハンター達が集まっていた。そこへミゲールとマイコもやってきた。ミゲールは鯨豚の燻製を持って涙を滝のように流している。


 「タカヒトぉ~~、寂しくなるね。この特製鯨豚の燻製を持ってくね。

  てんともミカも元気でね・・・ぶわあぁぁぁ~~~!」


 「泣かないの、ミゲじい。タカヒトいろいろありがとうね。

  ミカのこと離しちゃあ駄目だよ。うふふ・・・。」


 「うん・・・二人も元気でね!」


 タカヒトとの挨拶を済ませたマイコはミカと別れを惜しむように泣きながら話していた。今回のオメガの復興にはミゲールのグローディアがかなり活躍したらしい。これからの近代独立国家オメガはオメガに住んでいた人々とかハンターとかは関係なく暮らせる国家にするように皆で話し合った。ハンター族の長老に相談役兼代表を務めてもらいながら皆で新しい国 永久中立国家オメガを発展させていく。ミゲールも建設機械開発兼整備長となりここでマイコと暮らしていくらしい。そんな事を話しているとゲイルとマーキュリーがやってきた。


 「もういくのか・・・寂しくなるな。」


 「うん、ゲイル達も元気でね。」


 ゲイルはハンターの本陣に戻りそこで暮らすらしい。自分のような好戦的ハンターがオメガに住むといろいろとトラブルの原因にもなりかねないというのが理由だ。残った好戦的ハンターを集めてハンターの本陣で永久中立国家オメガを侵略しようとする者と戦う防衛と警護にあたる。マーキュリーもゲイルと共に生きていくらしい。


 「私はサラマンドラの地と家族を失ったわ・・・でもゲイルが誘ってくれたの。だから私も残りの人生をゲイルとオメガの人々のために費やしていこうと思っているわ。」


 マーキュリーはゲイルを見ながら笑顔で話してくれた。マイコの話だと悲しみにくれていたマーキュリーをゲイルがなぐさめていたらしい。そしてふたりに愛が芽生えたとマイコがコッソリ教えてくれた。そしてポンマンはというと・・・・風呂敷いっぱいの荷物を抱えて慌てて走ってきた。


 「ぜぇぜぇぜぇ、ごっ、ごめん!遅くなって・・・」


 「?・・・そんなに荷物持ってどこかに行くの?」


 「どこって・・・タカヒト達と一緒に行くに決まってるじゃないか!」


 「えっ、一緒?」


 タカヒトにはポンマンの言っている事が理解出来なかった。本来は業の水筒を持っている者しか六道の移動は出来ないのだがソウルオブカラーを持っている者もその共鳴により六道を移動出来る。故にてんとは緑玉をミカは桜玉を持っているのでタカヒトと共に移動が出来るというわけだ。もちろん彼らには六道の何処へ行くのかは分からないのだが・・・。


 「言ってなかったけ?ほら、これ。」


 疲れきっているポンマンが手にして見せてくれたのは紛れもなくソウルオブカラーであった。それを見てタカヒト達は驚いた。ポンマンが世界を放浪する旅人でいろいろ持っているのは知っていたがまさかソウルオブカラーを持っているとは思ってもみなかった。

 実はポンマンは自分の持つ翡翠玉ひすいぎょくの能力はほとんどわかってない。最初は身に付ける飾りくらいにしか思ってなかったらしいが時々、急に別の世界へ移動する事が何度か遭ったらしい。


 「いままでタカヒトみたいに業の水筒を持っている人物に会ったことがあるんだよね。そんで急に翡翠玉が輝いて知らないところに移動したんだ。まあ、今じゃあ、それにも慣れて旅の道具くらいには使えるよ。」


 「・・・・・」


 のん気に構えているポンマンにてんとはため息をつきながらもこのような考え方をする者もいるのだと悟った。そんなやりとりをしているとタカヒトの業の水筒が真紅に輝きだした。タカヒトの周りにてんと、ミカそれにポンマンが集まると四人は真紅の球体の輝きに包まれていく。


 「みんな、ありがとう!」


 タカヒトが笑顔で手を振り真紅の輝きが消えたと同時に四人は消えていった。


 「行っちゃったね・・・」


 マイコが寂しそうにポツリというとミゲールがマイコの頭を撫でながら呟いた。

 

 「生きてさえいれば・・・いつの日か会えるね。」


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