終焉のリディーネ
「ねぇ、あんただけ?・・・ほかのサラマンドラはどこ行ったの?」
「誰だ?・・・我を知っての無礼か?」
ウラノス達は対ハンター戦に出掛けて砦を守るのはプロメテウスただ一匹だけであった。サラマンドラは獰猛な魔物であり例えハンターとてその砦に近づくことはなかった。しかしただ独りその砦に入りプロメテウスに話かけている少女がいた。その少女の挑発的な態度にプロメテウスは激怒した。サラマンドラは相手が誰であろうとも容赦はしない。プロメテウスは顎を大きく開けると火炎をその少女に浴びせた。燃え盛る少女は声をあげる事すらなく倒れた。
「ふん、つまらん事をした・・・」
プロメテウスが表情を曇らせていた。しかし燃え盛る火炎の中でムクッと立ちあがった少女は右腕を振り下ろすと火炎は瞬時に消えた。そこには火傷ひとつ負っていない少女が立っていた。プロメテウスは自分の眼を疑い再び顎を開くと火炎を浴びせた。だが少女に死を与えるどころかダメージすらあたえる事が出来ない。驚愕するプロメテウス!すべての頂点に立つサラマンドラとして長年生きてきたがプロメテウスの火炎を浴びて生きていた者はただのひとりもいなかった・・・。
「なっ、何故だ!我が火炎を浴びながら・・・貴様はいったい?」
「あんた、バカぁ~?
紅玉を持つ私に火炎なんかでダメージ与えられるわけないでしょ!」
「紅玉・・・リディーネ・・・貴様・・・終焉のリディーネか!!」
「あんた死にたいの?その名を口にしたら確実に死ぬよ。
サラマンドラはほっといても絶滅する種族だけど特別に見せてあげるわ。
私の紅玉・・・すべてを破壊せし者の力をね!」
リディーネは闘気を高めると身体が紅く輝きプロメテウスの身体を遥かに凌ぐ巨大な炎玉を頭上に創り出した。その炎玉を見たプロメテウスは死を予感した。火の精霊サラマンドラに火炎の攻撃など全く無意味なはずである。しかしそれは通常の火炎の事であり、地獄道に存在する業火の前には火の精霊サラマンドラとて無傷ではいられない。紅リディーネの創り出した炎玉はその業火よりもあきらかに上級のものでありプロメテウスはその炎玉によって自らの死が近くまで迫っていることを理解している。紅リディーネは巨大な炎玉をプロメテウスの頭上へ近づけると死の近づく恐怖に怯えているプロメテウスに問い掛けた。
「死ぬ前に聞きたいことがあるんだけど・・・赤玉はどこにあるか知らない?」
「赤玉など知らん!たとえ知っていても貴様に教えるつもりなどないわ!」
「あっ、そ・・・あんたやっぱりバカね。じゃあ死んで。紅玉上級闘気 朱玉。」
紅リディーネが更に闘気を高めるとプロメテウスの頭上の朱玉は更に大きくなり重みでプロメテウスに向って落下していく。朱玉はプロメテウスを包むとその内部で激しく燃焼する。朱玉に取り込まれた者はそれから逃れる事は不可能であり、その存在が溶けて無くなるまで燃え続ける。
「ぐわぁ~~熱い!たっ、助けてくれ!しっ、死にたくない!
我が種族の繁栄を・・・ピィ~~ピィ~~」
「あらら、あまりの熱さに言葉も失ったのね。笑えるぅ~~・・・サラマンドラ!たかが火の精霊ごときが火の神が宿る紅玉に逆らおうなんて愚かだわ!塵となってその罪を償いなさい!」
朱玉の中でプロメテウスの身体は燃え尽きその身は灰となっていく。朱玉はその球体をだんだん小さくさせて消えていった。地面にたまった灰の塊も風に吹かれて跡形もなくなっていく。誰もいなくなった砦で紅リディーネが大声で笑い出すと砦中に響きわたる。
「あっはっはっはっ・・・はぁ~~あ、つまんない・・・帰えろっかな?」
リディーネはブツブツ言いながらサラマンドラの砦から出ていった。それと同じ頃、崩壊後の近代独立国家オメガに到着したマーキュリーは困惑した表情をしていた。
「こっ、これはどういうこと??」
マーキュリーは自分の目を疑った。プロメテウスの命令で近代独立国家オメガを占領するつもりだった。もちろんマーキュリーにはそれが出来るだけの能力を持っている。だが能力を発揮すべき目標物の近代独立国家オメガ自体が跡形もなく崩壊していた。攻めるべき目標を失ったマーキュリーはただ呆然としている。
「・・・・・プロメテウス様に報告しなくては。」
この状況を報告する為にマーキュリーは砦に向けて羽たいていく。何故、近代独立国家オメガが崩壊したのか?思いも寄らない事態に困惑していたマーキュリーは地上のタカヒト達のいる天幕に気づきもせずに通りすぎていく。ふと地上を見おろすとウラノスがエリニュスにまたがり近代独立国家オメガを目指し駆けていた。マーキュリーは急降下すると近代独立国家オメガの状況をウラノスに話した。
「なんだと・・・計画は中止だ。長老の助言を得よう。戻るぞ!」
絶滅寸前のサラマンドラ一族には手痛い仕打ちとなってしまった。この地で他の生物を殺し喰らいながら栄華を誇り、最強の力と富を得ていたサラマンドラ一族も疫病、近代独立国家オメガのアイスフィールドの拡張、そしてサラマンドラの雌の出生率の低下と次第に個体数が減少していく。
「オメガさえ・・・近代独立国家オメガさえ手に入れば我らの栄華は再び復活する!」
たったひとつの願いの為にこの奪取作戦が決行されたのである。しかし近代独立国家オメガは原因不明の壊滅状態にあり奪取だけを考えていた三匹のサラマンドラ達はどうしていいのかわからずに途方に暮れながら砦へ戻っていく。
「長老の助言さえあればなんとかなるだろう。」と言ったウラノスの言葉だけが彼らに希望を与えていた。長老であるプロメテウスは常に的確な助言を与え、彼らはその言葉に従うことで今日まで生き長らえることが出来た。だがそのプロメテウスももはやこの世界にいない・・・希望が絶望に変わる瞬間がそこまで近づいていることに彼らは気が付いていなかった。三匹の眼に砦の方向から煙があがっている光景が映った。三匹は急ぎ砦に向かうと内部に入れないほど燃え盛っていた。ウラノスの眼に砦の片隅の小さな岩に座り込んで退屈そうにしているリディーネの姿が映った。
「貴様!ここで何をしている?プロメテウス様・・・長老に何をした?」
「はぁ~~・・・あんた誰?・・・プロメテウスってあの年寄りサラマンドラのこと?
あのジジイなら殺したよ。」
「なっ、なんだと!」
「それよりあんた達に聞きたいことがあるんだけど、赤玉って知ってる?
アタシすんごくほしいんだけど。」
三匹のサラマンドラはリディーネの言葉に状況が飲み込めなかった。炎の精霊でこの地の頂点に立つサラマンドラ一族の長老が老いたとはいえ、こんな小娘に殺されるはずがない。冗談であろうとサラマンドラを侮辱した罪は重い。巨漢のエリニュスはゆっくりと身体を動かしてリディーネに近づくと重量感のある前足をあげてリディーネを踏む潰した。
「フザケたヤツだ。お前達の手を汚すまでもなかった・・・??」
「ちょっと、重いじゃない。アンタ、ダイエットしたほうがいいんじゃないの?」
踏み潰したはずのリディーネがか細い左腕一本でエリニュスの太い前足を受け止めていた。動揺するエリニュスは力を込めて前足を押し付けようとするがリディーネを踏み潰すことができない。蒼白の表情をしたエリニュスに対してリディーネは闘気を高めると左腕から炎が発生した。
「下僕が!紅玉闘気 業火!!」
「ホギュァァアアア~~~」
エリニュスの巨漢が炎に包まれ断末魔をあげながら焼死した。エリニュスほどの巨漢サラマンドラを瞬殺した紅リディーネに戦慄を感じた二匹は距離をとり戦闘体勢に入った。二匹は力を溜め込み、顎を開くと火炎を吐き出し紅リディーネに浴びせた。炎にまみれた紅リディーネはピクリとも動かず立っている。
「タカちゃん、朝だよ。朝だよ、起きて・・・・起きなさい!」
「はっ、はい!」
ミカの厳しい声に目を覚ましたタカヒトはトボトボと歩いていくと近くの小川で顔を洗う。紙竹林には小鳥らしき生物が飛び回っていた。その声を聞きながら心地よい気持ちになった。天幕に戻るとテーブルの上に朝食が用意されていてミカ達がタカヒトの帰りを待っていた。そそくさとタカヒトが席につくとミカが作った朝食を皆で食べ始めた。
「これうまいね・・・ゴボッ!」
ポンマンがバクバクとうまそうに食べていると喉に詰まらせた。タカヒトは久しぶりの楽しい朝食を過ごしている。食事を終えて皆で一休みしているとゲイルが話を始めた。
ここから先はサラマンドラの領域となるらしくいつ襲ってくるのかわからない。休息と呼べるものはこの朝食が最後になるだろうとゲイルの口調は厳しいものになった。その言葉を聞いたタカヒトは気を引き締めて準備に取り掛かった。天幕の片付けも終了してタカヒト達はサラマンドラの砦を目指す。
「はっはっはっ、やったか?長老、エリニュス、仇は取ったぞ!」
ウラノス達はリディーネと交戦中であった。ウラノスとマーキュリーの火炎攻撃を受け、炎にまみれ焼死したリディーネの姿にウラノスは勝利を確信した。火炎力では一族のなかで最も強いウラノスとマーキュリーの火炎にはさすがにリディーネも耐えられないと笑みを浮かべた。
その場に倒れこんだリディーネが焼死したと考えたウラノスとマーキュリーは火炎を吐くのをやめた。少しの沈黙の後、リディーネの死を確認したウラノスとマーキュリーはその場を立ち去ろうとした時、焼死したはずのリディーネがポツリと呟いた。
「・・・ねぇ、もういいかな?
一瞬でもこの私を相手に勝利を味わえたんだしいいよね?
さてと、じゃあ殺して・あ・げ・る♪」
ウラノスとマーキュリーが振り返ると何事もなかったかのように無傷の紅リディーネが立っていた。サラマンドラ最強の攻撃でも火傷ひとつ負わせる事が出来なかった。ウラノスとマーキュリーはその圧倒的な力の差に恐怖を感じる。紅リディーネはスッと右手を差し出し炎の塊を出す。
「うふっ、死になさい。紅玉闘気 火矢」
「ぎゃあぁぁ~!!・・・ぐっ、うっ・・・」
紅リディーネの右手から炎の塊が飛び出すとそれは矢の形となりマーキュリーの右脚に突き刺さった。痛みに悶えうずくまるマーキュリーを守るようにウラノスが反撃を始める。ウラノスの右拳、左蹴り、まわしシッポ振り落とし。すべての攻撃をフワリとかわすとウラノスの腹部に紅リディーネの前蹴りがヒットする。刃物を持っても貫けない強じんな皮膚を持つウラノスの腹部に紅リディーネの右脚のつま先が減り込んでいく。九の字に折れ曲がったウラノスの身体は吹っ飛んでいく。体勢を整えながら着地したが受けたダメージはかなり大きい。
「ぐっ、がぁっ、・・・なっ、何故だ?何故、俺の攻撃が通じない!」
「少しはやるみたいだけど私の敵ではないわね!さて、そろそろ終わらそうかな?」
先ほどの紅リディーネの一撃にウラノスの内臓はグチャグチャに潰された。口から血を流し、もはや生き長らえることは不可能。マーキュリーは右脚を負傷しているが翼は無事で何とか飛べそうだ。ウラノスは瞬時に判断するとマーキュリーにこの場から逃げるように指示した。しかしマーキュリーはいっしょに戦うとそれを拒んだ。
「ダメだ!おまえだけにはなんとしても逃げろ・・・生きるんだ!」
ウラノスは必死に一族の絶滅を避けることを伝えるとマーキュリーは涙を流しながらも近代独立国家オメガを目指して飛んでいく。その行動に気がついた紅リディーネは火矢をマーキュリーに飛ばずが寸前のところでウラノスが火矢を弾き飛ばす。地上に降りたウラノスは紅リディーネの前に立ち塞がった。
「ちょっと、何、邪魔してんのよ!!」
「おまえの相手はこの俺だ。かかってきやがれ、バカ女!」
「・・・殺す!!!」