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未来のきみへ   作者: 安弘
餓鬼道編
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正義の味方 ポンマン

 「アイスフィールドが消えた?・・・」


 年老いたサラマンドラの王は名をプロメテウスといい絶滅寸前の一族を率いている。栄華を誇っていたサラマンドラ一族だったが衰退・絶滅の危機に瀕しもはや絶滅は避けられないと諦めていた。しかしアイスフィールドの影響力もなくなり一族が栄華を取り戻すには近代独立国家オメガを奪い取る以外ないとプロメテウスは考えていた。

 そして今、プロメテウスに従うサラマンドラの生き残りが集結した。プロメテウスは体長約10メートルほどでサラマンドラとしてはそれほど大きくはない。しかもかなりの高齢である為もはや戦うことは叶わない。ウラノスは体長3メートルの小型サラマンドラである。四足歩行のサラマンドラの中でマーキュリーと共に二足歩行の出来る珍しいタイプでもある。彼は最も獰猛なサラマンドラで知能、攻撃力ともに高い。エリニュスは四足歩行型の大型で15メートルを超える。マーキュリーは一族唯一の雌で体長は2メートルとかなり小型だが知性が高く彼女の作戦でオメガ奪取計画が行われる。プロメテウスの前に膝まついてマーキュリーは今回の作戦を伝えた。


 「プロメテウス様!この地にハンターが攻め込んでくる恐れがあります。アイスフィールドがなくなったことで我ら一族の襲撃を恐れてのことでしょう。

 今回の作戦はウラノスとエリニュスで攻め込んでくるハンターに対し反撃を行います。私は上空より敵地のオメガを襲撃します。恐らく全戦力をこちらに向けてくるので近代独立国家オメガ自体は手薄となりましょう。敵地を壊滅してハンターの後ろにまわり込めばやつらもひとたまりもないでしょう。」


 「この期を逃してはならぬ。オメガを奪取し我ら一族の繁栄をもう一度築くのだ!」


 プロメテウスに一礼するとウラノスはエリニュスの背に乗り近代独立国家オメガを目指して駆けていく。マーキュリーも近代独立国家オメガに向けて羽ばたいていった。

 その頃、グローディアに乗りサラマンドラの地を目指しているタカヒト達の前に人影が急に現れた。ビックリしたタカヒトは急ブレーキを掛けるとグローディアはその人影をかわしたが乗っていたタカヒト達は操縦室の中で重なりながら倒れこんだ。重なりをどけながらゲイルが操縦席のドアを開けて人影に向かって怒鳴りだした。


 「おい、何やってんだ、バカヤロー!あぶねぇじゃねえか!」


 「私のことか?私の名はポンマン。正義の味方ポンマン・L・ホールディングだ!」

 

 「そんなこと聞いてねえよ!さっさとどきやがれ。」


 熱くなり怒鳴ったゲイルをよそにポンマンなる人物は平然としている。変わったマスクを被り赤いマントにピンクのブーツを履いて青い水玉模様の服装をしている。その姿は明らかに変な亜人種だ。怒りがピークに達したゲイルは操縦席から飛び降りると五行・金の印を唱えて三叉槍を手にする。その三叉槍でポンマンの頭部を貫く。しかしポンマンが座り込んだ為にゲイルの三叉槍は空を切った。頭上に光る三叉槍を見たポンマンは異常なほど驚き蒼ざめた顔をして脂汗を掻きながら後ずさりした。


 「ふっふっふっ・・・そっ、それくらいにしといたほうがいい。

  そっ、それ以上は命がないよ・・・・」


 「きっ、貴様・・・・殺す!」


 「ちょっと、ゲイル!ダメだって!」


 激怒したゲイルがさらに一撃浴びせようと構えたがタカヒトとミカがゲイルの怒りを抑えなんとかその場を和ました。九死に一生を得たポンマンはサラマンドラについて話を始めた。


 「私は放浪の旅を続けている者だ。サラマンドラの砦付近を歩いていたら二匹のサラマンドラがハンターの襲撃に備えているのを偶然見かけたんだ。私は放浪中、病気になって苦しんでいた時にオメガの人々に世話になったことがあった。恩返しと言ってはなんだが、なんとかこの事を知らせたいと思いでここまで来た。」


 話を聞いたてんとはポンマンに更に詳しい情勢を聞いて新たな作戦を考え始めた。


 「なるほど、我らの行動はすでにお見通しというわけか・・・

  どうやら頭の切れる指揮官がいるらしいな。」


 ポンマンはてんとに近代独立国家オメガに戻ることを勧めたがてんとはこの場で二匹のサラマンドラを迎え撃つことを決めた。 


 「迎え撃つだって!アンタ、何を考えてんだい?」


 「ポンマンと言ったな。我々はここでやつらを迎え撃つ。おまえは逃げるといい。

  情報には感謝する。礼を言おう。」


 「逃げる?正義の味方である私がひとり逃げるわけにはいかない。共に戦おう。」


 「戦う?腰抜けのおまえに用は無い!消えろ!!」


 「いいじゃない、ゲイル。ひとりでも多いほうがいいと思うわよ。」


 ゲイルは反対したもののミカはポンマンのキャラが気に入ったらしく?タカヒトと共に仲間に入れることをゲイルに頼んだ。渋々応じたゲイルとは対照的に陽気なポンマンは踊りながら喜んでいた。


 「もうすぐ日が暮れるから天幕を張って休むことにしょう。」


 ポンマンの提案でタカヒト達は日が暮れる前に天幕を張ることにした。彼らはポンマンの案内で紙竹林に入っていく。紙竹とは薄い紙が何層も巻かれて竹でこの辺りではさほど珍しくない植物である。燃料にも紙としても何にでも利用が可能なことから万能竹とも呼ばれている。 

 ポンマンは紙竹を持っていたナイフで一本切り倒すと表面に薄い切れ目を入れた。紙竹の表面の皮を剥がすとロール状の紙の層が見えてきた。そのロールを広げてタカヒト達の乗ってきたグローディアに被せた。紙竹はポマードと呼ばれる薬液をかけると周りの色と同色して硬化する性質がある。ポンマンがポマードをかけると紙竹はパリパリに固まりまわりと同色化してグローディアの機械色を隠せた。同様に紙竹の骨組みを作り周りを紙竹のロールで覆う。簡単な天幕だが丈夫で風を通さず周囲と同色化してうまくカモフラージュすることができた。火を使って料理を行ったが紙竹の笹が煙をもみ消していく。サラマンドラのなかには飛行能力のある者がいるらしくそれらからもわからないようにするには紙竹林は絶好の場所だった。

 実際、近代独立国家オメガに向かって飛行していたマーキュリーはサラマンドラの砦を出発してタカヒト達のいる紙竹林の頭上を通り過ぎた時には全くそれに気が付かなかった。食事を済ましてタカヒトとミカは紙竹林を見ながら会話をしていた。初めて二人っきりになったタカヒトはミカに伝えたい言葉があった。


 「ミカちゃん・・・あのね・・・」


 「ん?なあに?」


 「ぼっ、僕ね、ミカちゃんに謝らなければならない事があるんだ。」


 「・・・謝る?」


 タカヒトはミカの顔を見つめた。大樹からの暴力によりタカヒトの代わりに犠牲になった事、自分が病院へ行った事、ずっと謝ろうとタカヒトは思っていた言葉のすべてを伝えた。ミカは黙ってタカヒトの言葉を聴いていた。


 「ゴメンね、ミカちゃん。僕のせいでこんな目に遭って・・・本当にゴメンなさい。」


 「タカちゃん・・・私、タカちゃんに謝ってもらうことなんて一個もないよ。タカちゃんを守ったのは私が勝手にしたことだし、ここに来たのも私が判断したのだから。経緯はどうであれ、タカちゃんは私のところに来てくれた。そしてさらわれた私を助けてくれた。私、嬉しかったんだ。だからタカちゃんに感謝することはあっても謝まってほしいなんて思ってないよ。」


 「・・・ありがとう・・・ミカちゃん。」


 少し涙ぐんだタカヒトを気遣ってミカは楽しい会話を始めた。そこへポンマンが近づいてきて話に加わるとタカヒトとミカに冗談を言って場を和ました。


 「はっはは、タカヒトは面白いな。ガールフレンドもいて幸せ者だし!」


 「えっ、ミカちゃんはそういうんじゃ・・・」


 「えっ!・・・違うの?」


 「えっ、あっ、その・・・・」


 ミカに言い寄られタカヒトは顔が真っ赤になった。少しからかいながらタカヒトを追い詰めていくミカの笑顔にポンマンは微笑ましくふたりを眺めていた。ポンマンはタカヒト達がここにいる経緯を聞くと少しの沈黙の後、静かに語り始めた。


 「君達の未来の為に、人生は何たるかを教えよう・・・・生きていく者の人生はこの紙竹によく似ている。紙竹は荒れた土から力強くニョキニョキ出て、そこから陽の当たる場所まで伸びる。だが土に栄養が足りなかったり、ほかの紙竹との生存競争もある。途中で折れたり、曲がったりと順調には成長できないのだ。その数ある紙竹のなかでなんとか真っ直ぐ伸びていく紙竹は順調に成長して長さと太さが増していくのだ。それはほかの紙竹を押し退けての成長だしその成長は永遠ではない。 

 いずれその紙竹も成長が終わり衰退へと向かっていく。腐り折れて土へと帰るのだ。そして新たに生まれる紙竹の糧となる。それが紙竹の生きていくサイクルなのだ。もちろん我々にもそのサイクルがある。」


 「私達も曲がったり、折れたりしないでがんばれはいいの?」


 「いや、そうではないぞ、ミカ。たしかに紙竹は曲がったり、折れたりしたら他の紙竹の糧となるしかない。だが我々は違う。例えものごとがうまくいかなくて挫折したとしてもほかの道がある。私達は紙竹と違って考えて行動することができる。間違えてもやり直せることができるのだ。道はひとつではないということかな。」


 タカヒトにはいまひとつポンマンの言っていることがわからなかった。何故、衰退すると判っているのに頑張るのか?それをポンマンに問い掛けてみるとその理由のひとつに使命があるからだと答えた。


 「使命?」


 「そうだ!生きるのに意味のないことはない。どんな生き物でも必ず生きる意味はある。いらない命などない。自らの生きる意味である使命を理解してそれを実行する。 

 お前達の生きる意味や使命がどのようなものかは私にはわからないがいずれお前達が自らそれに気が付く日がくるだろう。その日が来たらそれを理解して使命を果たすのだ。それが生きるということだ!」


 「使命を果たす・・・それだけの為に自分は生きている?」


 タカヒトはいままでそんな事考えてもみなかった。自分に生きている意味があり、いずれ使命を果たす日が来る。本当にそんなものがあるのだろうか?それはいったいどんなものなのだろうか?タカヒトは黙ってポンマンの話を聞いていた。ポンマンの話が一段落するとミカがひとつ疑問を問い掛けた。


 「ねぇ、ポンマン。使命を果たすだけの為に私達は生きているの?」


 「いやいや、使命を果たすだけの為に生きていくのは辛いだろう。私達は人生を楽しむ義務もある。生きる意味は人生を楽しみ、そして使命を果たす事だよ、ミカ。」


 ポンマンはミカの疑問に笑みを浮かべると優しく答えた。しかしタカヒトにはイマイチ実感が無かった。タカヒトにはいままで人生を楽しむ事が無かったからである。いままで苦しく辛い思いをしてきたタカヒトにとって使命や人生を楽しむ義務といった言葉は理解が出来ないものであった。

 しかし今、タカヒトの隣にはミカやポンマン、てんと達がいる。ポンマンの言葉はよくわからなかったが今のタカヒトは十分幸せを感じていた。


 「そうね、人生を楽しみ使命を果たす・・・・ポンマンって哲学者なのね。」


 「ほんと・・・僕はただの怖がり屋さんかと思ってた。」


 「なっ、なにを言うか!あっ、あれはほんの冗談だ。

  わっ、私が本気になればあんな槍、目をつぶってもかわせるのだぞ!」


 「ふぅう~ん・・・あっ、ゲイルだ!」


 「ひぃぃ~ごっ、ごめんなさい。調子に乗りました!」


 「・・・・・・冗談だよ。」


 「・・・・」


 ポンマンは後ろを振り返ったがもちろんゲイルがいるわけがなくそのオドオドした表情にタカヒトとミカは笑った。からかわれたポンマンは少しムッとしていた。


 「・・・そろそろ天幕に戻ろうかね・・・」


 ポンマンはタカヒト達を連れて天幕に戻っていった。タカヒト達が天幕に戻ったのを確認したてんとも後を追うように戻っていく。天幕に戻ったタカヒトは急に睡魔に襲われた。紙竹に薬品をかけて柔らかくなった紙竹布団をかけて横になるとポンマンに言われたことを考えながら眠りについた。


 「生きるとは人生を楽しみ、そして与えられた使命を果たすことか・・・」


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