四神 蒼龍
「殺してやる・・・破壊してやる・・・・そしてすべてを無に・・・」
両手で頭をおさえ、発狂していくジェイドの理力が辺りに伝わり大理石の床はビリビリと振動しはじめる。ジェイドの身体が青色と蒼色に交互に輝きを変えながら次第にそれは大きくなっていく。ジェイドの異様な姿に危険を感じたてんとは球体にタカヒトを乗せると倒れているゲイルの所に向った。タカヒトとゲイル、てんとの頭上に二つの球体を、そして三つ目の球体は部屋を出て行ったマイコとミカの頭上に配置された。球体は緑色のシールドを形成して彼らを覆っていく。
更に理力が増すと青色と蒼色の輝きがジェイドの頭上に光柱を発生させた。その光柱の中から恐ろしく巨大な青蒼しい龍が現れた。ジェイドの青玉最大理力 龍激波の水龍とは明らかに存在感が違う。
「なぜ・・・・蒼龍が!」
てんとは驚愕した蒼龍とは四神のひとつである。四神とは東西南北に配置する守護神で中央の創造神を守る存在である。実際にそれを目の当たりにしたのはてんとですら初である。その蒼龍が何故ここにいるのか?何故ジェイドが操っているのか?いやそれどころか蒼龍に攻撃されたら自分達はおろかこの世界のすべてが破滅する恐れが・・・その予想は的中した。
蒼龍は激しく動き出すと要塞グリホンを支えるレンガや鉄骨が次々と崩れていく。蒼龍は空高く舞い上がり両手に持つ宝玉から蒼色のエネルギー体が放たれた。その光線は近代国家オメガの中枢である要塞グリホンを溶かしていく。地上では逃げ惑うオメガの人々の頭上にレンガが崩れ落ちていく。崩れたレンガや瓦礫の間から真っ赤な血が滴り、逃げ惑う人々を恐怖が包み込んでいく。
蒼龍のエネルギー体により崩れるレンガや鉄骨を緑玉のシールドがなんとか防いでいた。蒼色と青色のオーラに包まれているジェイドは蒼龍の額に吸い込まれていくと更に蒼龍は能力を高めていく。蒼龍は要塞グリホンの上空に停止すると両手に持つ宝玉と大きく開けた顎に蒼いエネルギー体を溜め込んでいく。
「ぐっ・・・なんというエネルギー量だ・・・」
危険を感じたてんとは理力を限界まで高めてシールドを強化した。蒼龍は溜め込んだエネルギー体を一気に放出するとレンガや鉄骨は瞬時に溶けた。それは逃げ惑う人々も要塞グリホンもすべてを溶かしていくと、てんとがすべての理力を注ぎ込んだシールドも耐え切れず溶け出していく。
「限界だ・・・防ぎきれん!」
てんとが諦めかけた瞬間、緑色のシールドを飲み込むように黄色のオーラが包み込んだ。それでも衝撃は凄まじくてんとはおろかその場にいた誰もが恐怖に死を覚悟した。激しいエネルギー体の放出を完全に終えた蒼龍は天高く上昇するとその姿を消した。
「助かったのか・・・」
黄色のオーラもてんとのシールドも消えるとてんと達はなんとか繋ぎ止めた命を喜んだ。黄色のオーラのおかげでシールドは破壊されずにてんと達は一命を取り留めたのだ。だが要塞グリホンや都市の建物は壊滅的な被害を被った。都市の人々も生きている者を見つけるのが困難なほどだった。繁栄のすべてを失った都市を時間だけが見つめていた。
「てんとや・・・無事でよかったわい。」
「徳寿様・・・・」
数時間ほど経った頃だろうか?てんとはタカヒトとゲイルに手にした薬草で治療していた。てんとが忙しく水をくんだりしているところに徳寿が歩み寄ってきた。徳寿はてんと達の無事を確認すると蒼龍について語りだした。
ジェイドの持つ蒼玉と青玉の波長にある種の力を与えると蒼龍を呼び出す道が出来ること。そして蒼龍は時空を移動出来る生命体であり、その能力を操ってジェイドはどこかの世界へ向かった事を伝えた。徳寿の話ではジェイドの能力は桁外れなだけにいずれまた出逢う可能性があるとも言った。徳寿とてんとが話をしているところへ包帯を胸に巻いたタカヒトがゆっくりと歩いて近づいてきた。
「あぁ~~、とくべえさんだ!なにしてるの?今すごく大変だったんだよ。」
「おおぅ、タカヒトではないか!近くまで来たんで寄ってみたんじゃ。
そんなに大変じゃったのか?」
「ちぇっ、気楽だなぁ~」
「タカちゃ~ん。」
「ミカちゃん!」
徳寿と話していると遠くのほうからタカヒトの名を呼ぶ声が聞こえた。振り返るとドレスを着たミカが嬉しそうな表情で走ってきた。ジェイドが消えた為に氷に閉じ込められたミカの封印が解けたのだ。タカヒトもミカの元へゆっくり歩いていく。再会を喜んでいるとそんなふたりをマイコはジロジロと見ていた。
「タカヒトとミカってラブラブね!」
マイコの意味深な言葉と視線に「ハッ!」としたふたりは顔を赤らめ急に距離を取った。そんなふたりにマイコはニヤニヤしながらちょっかいをだしていた。そんな空気に全く気がつかない徳寿はタカヒトに忠告というべき言葉を伝えた。
「さて、タカヒトや。気張っていくんじゃぞ!これから・・・聞いてはおらぬか・・・まあ、よい・・・てんとよ、いずれまたジェイドが現れよう。その時どうするか考えておく必要があるじゃろうな。次に会うときジェイドは天道界をも脅かす存在となっておるかもしれんしの。」
「天道界をも脅かす存在・・・」
「ワシも動向を注意深く観察していくつもりじゃ
・・・今回は一段と気が抜けぬかもしれんが頼んじゃぞ。」
徳寿はそのまま別れも告げずに去っていった。考え込むてんとにタカヒトが笑顔で近づいてきた。タカヒトとミカそれにマイコの笑顔を見たてんとは何となく心のわだかまりが取れたような気がした。
「・・・・なんとかなるか。」
「えっ?何か言った?」
「いや・・・なんでもない。」
タカヒトと出会ったことによりてんとの中で何かが少しずつだが変わってきたようだ。
「お~い、肝心な人物を忘れてないね?」
大理石の床の端でレンガに押し潰されていたグローディアの中からミゲールが顔中真っ黒にして出てきた。蒼龍の攻撃にも要塞グリホンの崩落にも耐えてなんとか生き長らえたミゲールが一番運がいいのかもしれない。
「うぐぐ・・・ここは・・・?」
てんとの治療により意識を取り戻したゲイルを球体に乗せてタカヒト達は崩れかかった階段を降りていった。 タカヒト達が階段を降り終えるとそこには数人の生き残った者達がいた。すべてを失い途方に暮れている者達の顔に生気は無くただ座り込んでいた。頭を抱えている者、泣きじゃくる者、混乱してパニックを起こしている者。鬼王により近代独立国家オメガを創り上げ栄華を誇っていた者達。しかしその栄華も永遠に続くわけでなく今彼らの頭の中には絶望しかないであろう。
「ここでおろしてくれ・・・ところでおまえ達はこれからどうするんだ?」
「えっ、どうするって・・・」
ゲイルは崩れ落ちたブロックに腰をおろしながら一呼吸おくとタカヒトに語りかけた。しかしタカヒトに答えられるわけもなかった。業の水筒は真紅に染まっていない為ほかの世界への移動は出来ない。ここの者達も放ってはおけないのだが何が出来るかわからないし何をすればいいのかもわからない。そんな思いが頭の中を巡っている。
「行くところがないのなら力を貸してはくれないか?実はな・・・」
プライドの高いゲイルが頼みごとをした事にタカヒトは目が点になった。ゲイルの話だとこの地よりはるか南にサラマンドラの生息している場所があるらしい。サラマンドラとはかつてこの地上に君臨した邪悪なる巨大竜のことである。彼らはその想像を絶する獰猛さでハンターを喰らい、紅蓮の炎で地表焼き尽くした。そして恐るべき繁殖力を持ちこの世界を支配した一族だ。
ゲイル達の先祖はサラマンドラから逃げるようにこの地に来たらしい。サラマンドラは寒さには異常なほど弱くジェイドの作り上げたアイスフィールドにより近づくことが出来なかった。しかし近代独立国家オメガが崩壊したと同時にアイスフィールドも崩壊した為、襲撃してくる恐れがあるらしい。
「しかしゲイルよ。それだけではサラマンドラの情報が少なすぎる。
少ない情報では作戦は立てられないぞ!」
ゲイルはてんとにサラマンドラについて更に説明をした。今現在サラマンドラは数匹しかいないらしい。かつて地上に君臨した凶王の栄華も永遠に続くものではなく、衰退して絶滅の危機に瀕している。しかしその情報を得るためにゲイルがサラマンドラの地に送った数匹の斥候はただ一匹を残して全滅していた。
てんとはこの近代独立国家オメガを復興するにしてもサラマンドラの脅威がなくなるわけではないのでゲイルと共にサラマンドラの地へ行くことにした。無論、自動的にタカヒトも行くことになるのだがミカも着いて行くと言って聞かなかった。
「なんでタカちゃんが行くのに私は駄目なの?」
「ミカ、サラマンドラの地はこの近代独立国家オメガより危険なのだ。」
そう言って納得するミカではなかった。説得しきれないと悟ったてんとはミカに桜色の玉の付いた首飾りを渡した。それは徳寿が持ってきたソウルオブカラーのひとつで桜色玉という。
桜色玉は穏やかなる力を持つ者と言ってソウルオブカラーの中でもっとも優しく、大らかな能力を持つ。その魂は必ずミカの心に共鳴するであろうと徳寿がてんとに渡したものである。ミカはその首飾りを眺めながらてんとに使い方を聞いた。
「それは自分で見つけることだ。口で説明することではない。」
「わかったわ・・・なんとかしてみる。これで手助けできればいいんだけど・・・。」
ミカは首につけた首飾りを触りながらなんとかタカヒトの力になればと考えていた。ミゲールとマイコは生き残った人々を集め復興に力を注ぐことにした。この状況に「もはや近代独立国家オメガもハンターも関係がない」とマイコが言っていた。実際そうなのかもしれない。復興という共通の目標があれば人種の違いも思想の違いも関係がないのかもしれない。マイコは生き残った者達を集めて復興に取り掛かった。当初、オメガの人々はマイコの声に耳を傾けることもなく、ただ絶望に身を置いていた。説得を諦めたマイコはミゲ―ルとふたりで懸命にオメガの復興に力を入れていた。
ある時、マイコが崩れたレンガを片付けていると突然柱が倒れた。直撃は避けたものの足に怪我を負ってしまう。それでもマイコは傷付いた足を気にすることなく汗をかきながら、必死になって働いている。するとオメガの老人が声を掛けてきた。
「お譲ちゃん、ワシも手伝おうか。」
「ありがとう、じっちゃん。」
笑顔を見せるマイコに老人も笑みを浮かべるとレンガの片付けを手伝う。しかし老人は足腰がおぼつかずになかなか片付けが進まなかった。怪我をしたマイコと老人の進まない作業を見かねたひとりの男が立ちあがった。
「おい、皆!子供と年寄りだけに復興作業を任せていいのか!
俺達がやらなければほかに誰がやるんだ!」
激を飛ばした男はレンガの片付けに加勢すると次々とオメガの男達が集まって手を貸していく。女達は傷ついたマイコを介抱するように集まってきた。その光景を見たマイコは涙が止まらなかった。
「ありがとう・・・皆、ありがとう」
大泣きするマイコを見てミゲールは微笑んだ。そしてオメガの人々は息を吹き返したかのように復興作業を進めていく。復興には時間がかかるかもしれない。しかし皆が力を合わせたこの瞬間から復興にかかる時間はかなり短縮された。
一方、タカヒト達はサラマンドラの地へ向かっていた。サラマンドラ攻略に向かった者はタカヒトとミカ、てんとそれにゲイルの四名だけだった。修理されたグローディアをタカヒトの操縦で四名は一路サラマンドラの地を目指した。