帰 路
「ここは三途の川と言って死者が六道に振り分けられる場所じゃ。この舟に乗れば人道へと戻れるじゃろうて・・・皆に別れを告げずによかったのかの?」
「かえって辛くなるし、皆、前に進もうとしているんだ。ぼくだってそうする。」
寂しさの中に微笑みを見せた徳寿は舟にタカヒトとミカを乗せた。舟が岸を離れるとモヤのかかった霧へと向っていく。徳寿に手を振りながらその姿が見えなくなると急にふたりに睡魔が襲いかかった。気付くと隆人は土管で眠っていて隣には子犬もいた。
「おい、いたぞ!」
ライトの灯りが眩しくて手で顔を覆った隆人を心配そうに皆が見つめた。ひとりで土管から出てきた隆人の姿に連絡を受けた母親が泣きながら抱き寄せた。呆然としている隆人は車に乗ると家へ帰りそのまま眠った。
次の日、遅く起きた隆人は母親に病院に行く事を告げると実花の病室へ行った。やはり面会謝絶のプレートがドアに貼られて何も変わっていないことに落ち込んだ。
「そうだよ・・・変わっているわけないんだ・・・。」
現実はこんなものだと自分に言い聞かせながらトボトボと病院の廊下を歩いていると医師達が慌てたように走ってきて実花の部屋へと入っていく。なにかに吸い寄せられるように実花の部屋へと走っていくと実花が意識を取り戻していた。医師や看護士にいろいろ聞かれ、困った顔をしている実花はその後にいる隆人の姿を見つけると優しく微笑んだ。少し痩せ細ってはいるがその笑顔はいままで見た実花の笑顔を一緒だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「実花ちゃん、もう大丈夫なの?」
「うん、大丈夫。」
実花の笑顔に隆人はホッとしていた。実花が意識を取り戻してから隆人は毎日病院に通った。議員でもある実花の父親が隆人を見つけると追い出そうとしたが実花が真実を話したことにより両親、校長や担任の五味先生も納得、「すぎたことですので」と大人の対応で事は済まされた。クラスでもそんな噂が流れたがすべては大樹により消し去られた。体力も回復して退院した実花に隆人は付き添いながら学校へと歩いていく。なにも変わっていないクラスで実花と隆人が話をしていると大樹が数名の児童を連れてきた。
「おい、死人ども!なんで戻ってきたんだよ!あのまま、死んでいればよかったのによ!」
「・・・・」
「タカちゃん、相手にしないで。」
「なんだ!文句あんのか!!」
「・・・・」
「あぁ~ん、なんだ、その顔は!文句あんのか、隆人!!」
大樹が隆人のむなぐらを掴むとクラスの女子から悲鳴があがった。実花が大樹から隆人を守ろうするよりも速く大樹の拳が隆人に迫っていく。その拳が隆人の顔面に触れた瞬間、身体をクルリと回転させる。そのまま右脚を蹴り上げると大樹の頭がブレた。巨体の大樹は膝をガクガクさせていると指に激痛を感じる。ひとさし指が完全に折れて腫れあがっていた。
「ヒィィイィィ~~~!!!」
顔面蒼白の大樹の視界に隆人の姿が近づいてくると大樹の身体が九の字に折れ曲がった。隆人は膝を大樹の腹から抜き取ると呼吸が出来ず、顔面蒼白の大樹。その大樹の目に真っ赤な右拳が近づいてくると顔面に食い込み、その衝撃で身体がフワリと浮き上がると大樹の身体は弾き飛ばされ黒板に張り付いた。重量感のある大樹はズルズルと腰を落とすとその場に座るように気絶した。
「イジメはもうたくさんだ!!今度イジメがおきたら僕が相手になる!」
すでに意識のない大樹に隆人は言った。その場にいた誰もがその光景に言葉を失った。いじめられっ子の隆人が大樹を殴り倒したのである。信じられない光景に悲鳴すら消えて教室は静まり返っている。そんな教室を外から見下ろす三つの色玉がいた。
「おいおい、何が「僕が相手になる」だよだ!俺様の協力が無かったら勝てなかったぜ!」
「赤ちゃん、それは言い過ぎだよ。僕の力だけで十分だったんだからさ。」
「赤玉、白玉よ、徳寿様がお待ちだ。そろそろ行くぞ。」
「タカヒトに俺様の力は必要じゃねえのか?」
赤玉の問いかけに徳寿はその必要性がないことを伝えた。今の隆人は確かに赤玉達の力を借りたのかもしれない。しかし大樹に飛びかかった隆人の勇気は隆人本人のものである。たとえ負けたとしても勇気ある限り隆人の心は負けない。話を聞いて納得した白玉と紫玉、そしてなんとなく納得したような気がする赤玉は徳寿と共に姿を消した。