目指す道
「ふぅ~、ギリギリセーフってとこだね。」
「ああ、アレスのおかげで助かったぜ!」
白虎の顎が開き、中からアレス、ドレイク、ジェイドそれにタカヒトが出てきた。ピサロを倒した瞬間、アレスは時空の歪みを察知するとすぐに行動に出た。ドレイク、ジェイドを救出した後、タカヒトの救出に向ったがひと目でタカヒトだとは気づかなかった。
「あれがタカヒトだったなんて俺、今でも信じられないよ。ねぇ、ジェイド。」
「今は違うのか?」
「うん・・・創造神とは完全に切り離されたから・・・」
「そうか・・・」
「でも惜しいことしたよね。タカヒトが創造神だったら俺の夢が叶うのになぁ~。」
「誰も創造神にはなれない。なるわけにはいかない・・・そうだろ?」
ジェイドの問いかけにタカヒトは黙ったまま頷いた。アレスは少し残念な表情をしていたがタカヒトは清々しい顔をしている。その表情を見ていたドレイクが声をかけた。
「話も落ち着いたことだし、皆のところに戻るか!」
アレスが白虎を再び呼び出すと顎を開きその中にタカヒト達は入る。顎を閉じた白虎がその場から姿を消した。白虎の顎が開き、タカヒトが外に出ると眩しさに手で目を覆った。眩しさに慣れてきたタカヒトが辺りを見渡した先は樹木で覆われた樹海のような場所であった。気配を感じたタカヒトは視線を移すとそこにミカの姿があった。
「タカちゃん!」
形振り構わず走り出したミカはタカヒトに飛びつくとそのまま倒れ込んだ。倒れたタカヒトの頬にミカの涙が落ちてくるとミカがタカヒトの首に手を回し抱き絞める。ドレイクもリナを見つけるとキスをしていた。
「いいなぁ~・・・ねぇ、リディーネちゃん!俺もああいうのがしたい。」
「はぁ~・・・何言ってんの、アンタ?アタシの火炎玉でも抱いてみる?」
火炎玉を手にしたリディーネにアレスは笑いながら手の平合わせ謝っている。徳寿と再会したジェイドはピサロの最後とてんとの死を伝えた。
「そうか・・・」
徳寿が涙を流した姿をジェイドは初めて目にした。それからしばらくして徳寿は今後のことについて口を開いた。ジェイドには天道に戻ってこれからの若者を育成してほしいと強く願ったがジェイドは首を縦に振ることはなかった。
「蒼龍が究極体になった瞬間、ユラの声を聞きました。どこにいるのかはわかりません・・・それでも捜したい。」
「それからでも遅くはないか・・・ふたりで天道に戻ってきてくれまいか?」
「約束はできませんが・・・」
「ええんじゃ、年寄りのささやかな楽しみを奪わんでくれ。さて、ここから脱出せねばならんな。歪みがここまで迫って来ておる。」
ジェイドは徳寿が見つめる先に視線を向けると遠くの樹木が消滅しているように見えた。ここはピサロが創造神システムで歪めた世界であり、システムがピサロの手から離れれば当然元の姿に戻ろうとする。徳寿達が見ているものはピサロにより歪められた世界が復元されている姿なのである。徳寿は皆を集めるとアレスに再度、白虎を出現させるように言った。白虎の顎が開かれると徳寿達は中に入り込んだ。姿を消すと樹海は消滅した。
「とくべえさん、ここに暮らしていた人達はどうなるの?」
「心配せんでよい。ワシに使えておる天道の者達により彼らの避難は終えておる。」
天道に戻るといままで見てきた天道とは変わっていた。徳寿に使えている者がどれほどいたのかはわからないが、ピサロを支持していた者達はその地位を追われ、若い世代の者による改革が行われていく。数日経った頃、徳寿はタカヒト達を集めて食事会を催した。
「皆のおかげでここまでこれた。天道はもう一度すべてをやり直す。ジークフリードや破壊神も喜んでくれるじゃろう。」
涙ぐむ徳寿にそっとミカがハンカチを手渡すと徳寿に代わりドレイクがグラスを高々とあげ「乾杯」と声をあげた。皆がグラスを高々とあげてそれを飲み干すと食事会が開始された。徳寿はグラスを手にドレイク達のテーブルに移動した。
「ドレイクはこれからどうするのじゃ?」
「俺達は黄泉の国へ戻るぜ。黄泉の国を俺のものにしてやる!」
「ほほほ、勇ましいことじゃ。アレスは?」
「俺は師匠の墓を建てて、落ち着いたら地獄道に行くんだ。」
「ちょっと、アンタが何しに来るのよ?」
「何って・・・地獄道の王様になるんだ、俺。」
「はぁ~、破壊神がここにいるのよ!なんで王様になれるのよ。」
「・・・・リディーネちゃんに勝ったら俺が破壊神でもいいかな?」
「はん!勝てるわけないでしょ!なんならここで勝負してやろうか!!」
リディーネは火炎玉を手にすると逃げるアレスを追いかけていく。そんなふたりを眺めながら徳寿はミカとタカヒトが座る席に移動した。
「タカヒト達は・・・やはり戻るのか?」
「うん・・・皆との別れは寂しいけど、ミカちゃんと人道へ戻りたい。」
「ゴメンなさい、とくべえさん。」
「いやいや、気にすることはない。ワシも独りっきりというわけではないのでの。」
「アタシがここに残ってじいじの世話をするんだ。」
マイコがひょこっと現れると徳寿の隣に座った。マイコのいた餓鬼道は他の世界よりも時間の進む速度が極端に速い。短期間ではさほど影響はないが長く天道にいたマイコが餓鬼道に戻っても誰も知らない数百年後の餓鬼道が待っている。そこにハンター族が残っている可能性は低く、別の種族が餓鬼道を支配しているかもしれない。そこでマイコは天道に残り大好きな機械いじりと徳寿の世話をすることに決めた。
「ミゲじいの墓参りくらいは行くけどね・・・あればだけど。」
マイコの言葉に徳寿は孫が出来たと喜んでいた。その笑顔を見届けたジェイドは何も言わずに天道から去って行った。