四神の力
「アレ・・・なんか・・・力がみなぎってるぞ?」
アレスはムクッと立ちあがると何事もなかったような表情をしている。力の支配者デュミナスの猛撃に立つことはおろか、意識すら失いかけていたアレスが今はまったくダメージがないどころか身体の奥底から溢れるエネルギーを感じている。
「我が拳を受け、立ち上がった者はお前ただ独り。褒めてやろう。」
「あっ、そう・・・褒めてくれてありがと。でもさ・・・今度は俺の番だよ。」
白虎アレスは右拳を大きく振り被るとそのままデュミナスを殴りつけた。強固な鎧を粉砕し、その拳はデュミナスの背中を貫いていた。
「ガフッ!・・・何・・・だ・・と・・・・」
「いっくよぉ~!アレス流拳法最終奥義、連続激痛パンチ!!!」
白虎アレスは左右の拳を握ると上半身を振りながらデュミナスの頭部を殴った。振り子のように左右に振れるデュミナスの顔は形を変えていく。白虎アレスは振り回した右拳が空振りすると勢い余ってクルクル回転しながら転んだ。必死の形相で起き上がる白虎アレスの視界に頭部がないデュミナスが倒れている姿が映った。
「アレ・・・俺って勝ったの?」
(ああ、お前に勝ちだ!)(白虎)
「マジ!やったぁ!!」
(それより連続激痛パンチとはなんだ。あと、アレス流拳法最終奥義というのも気になる)(白虎)
「ああ、アレは・・・別に意味ない。なんとなくカッコいいかなって思ってさ。ヒーローってヤツは最初、負けそうで最後に勝つってタカヒトが言ってたからさ。そんな感じだそうと思って・・・なんか変だった?」
「・・・・・デュミナス相手に案外余裕だったのだな。恐れ入った。」
「それより急に力が出て、ダメージとか、なくなったんだ。なんでかな?」
「飯食ったからじゃないのか?」
「そっか!やっぱ、たんと食ったほうが勝つんだ!」
「・・・・そうだな。」
その後、地面に転がりながらはしゃいでアレスに細かいことを説明しても理解できるものではないと悟った白虎はなにも語ることはなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「所詮はこの程度のもの・・・首だけはおとしておくか。」
キュリオテスは左腕を鋭い刃に変えると倒れているドレイクに近づいていく。刃先をドレイクに向けると一気にそれを振り落とした。しかし刃がドレイクの首を落とすことはなかった。寸前のところで刃をドレイクが受け止めたからだ。
「おいおい、斬首刑ってのは酷くねぇか?」
握り絞めた刃がバラバラに砕けるとキュリオテスはドレイクから距離をとった。キュリオテスは生まれ出でて、初めて戦慄というものを感じた。この時、ドレイクも同じような感覚にとらわれていた。斬り落とされた両腕は元通り、ダメージは消え、フツフツと煮えたぎるようなマグマが噴火するかのように溢れ出てくるような感覚だった。
「おい、玄武・・・これはどういうことだ。」
(よくわからん・・・なんや、進化したようなかんじやな)(玄武)
「進化?」
(せや!進化や。例えるなら・・・真玄武ってかんじやな!)(玄武)
「真玄武か・・・さしずめ、俺は真玄武ドレイクってところか。」
「貴様・・・このキュリオテスを前に余裕ではないか!」
「おっと、わりぃ、わりぃ・・・今ならアレが出来るかもしれねぇな。フッ、フフフ、俺が繰り出す最後の攻撃だ。こいつを体験したら・・・おまえが恐怖に歪む顔は何色だろうな?」
真玄武ドレイクは地面に落とした斬神刀を拾った。刃先の折れた斬神刀の柄を握ると腰を落とした。波動力を高めていく真玄武ドレイクはその神々しい輝きを解き放った。
「いくぜ!真陰陽活殺術最終奥義 玄武天照大神!」
ほとばしる神々しい光の一閃が空間ごとキュリオテスを斬り裂いた。キュリオテスと背後の空間がズレると上半身が地面に落ちた。キュリオテスは斬られたことすら理解していない。
「刃のない剣でなにをした?貴様は一体・・・」
「俺には口うるさい師匠達がいてな。まったく迷惑な年寄り達だぜ・・・まあ、その師匠達のおかげで俺は勝てたんだがな。」
「・・・お前に負けたこと・・・悔いはない。」
「そうか・・・俺は独りの力で勝てなかったことに悔いが残るぜ。」
悔しがるドレイクの表情を見ながらキュリオテスは消滅していく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
蒼龍の放った光はスローネを包み込んだ。だが光が消えると蒼龍の顎を掴んだスローネがそこに立っていた。蒼龍は見えない斬撃に斬り刻まれると消滅した。蒼龍ジェイドの最後で最高の技であった。それをあっさりとかわしたスローネにジェイドはすべてを諦めた。
「貴様の恐怖・・・手にとるようにわかる。遊びもこれまでだ。次の一撃で終わらせてやろう。」
全身の刃を立て、スローネは姿を消した。ジェイドには姿どころか音すら把握できてはいない。諦めるしかなかった・・・ジェイドは決して勝てない相手にすべてを諦めた。
「諦めがよい!我が疾風魔剣は死ぬより早く生を断ち切る魔剣!安心して死ぬがよい、貴様のすべてを解放してやろう。」
目を閉じたジェイドにはスローネの刃が迫ってくる気配を感じた。すべてが終わる。そう理解した瞬間、ジェイドは目を見開く。刹那の出来事だった。迫る疾風魔剣のすべてをかわしたジェイドは地面に落ちている流穿剣を拾うと流れるようにしかも荒々しく剣を繰り出した。ジェイドの背後にスローネが移動するとしばらく沈黙の時間が流れた。
「蒼龍・・・真蒼龍、流穿剣奥義 理」
「理か・・・ひとつ疑問がある。」
「・・・俺にもわからない。死を受け入れた瞬間、声を聞いた。罪人の俺にも天使は声をかけてくれるようだ。」
「天使・・・貴様は独りではないのだ・・・な」
次の瞬間、スローネの身体に亀裂が現れるとバラバラになり、散ばったパズルのように地面に広がった。ジェイドはタメ息をつくと独り言のようにつぶやく。
「教えてくれ・・・何故、俺を死なせてくれない・・・ユラ。」