レインという名のウィルス
「剣術だけがすべてではない・・・なるほど少しは楽しめそうだ。期待を裏切らないように努力してくれ。」
「けっ、言ってくれる。見せてやるぜ、玄武の力を!」
玄武ドレイクは腰を落とすと一気にキュリオテスとの距離を詰めた。左右からのハイキックを繰り出し、キュリオテスがブロックしたところにローキックを放ち足払い。仰向けに転んだキュリオテスの目には玄武ドレイクの両足裏が見えた。顔面を踏みつけられたキュリオテスはその両脚を捕まえようとするがヒョイとかわすと玄武ドレイクは地面に着地した。
「これがお前のすべてか?失望した・・・いや、幻滅と言ってもよいほどの・・・」
ムクリと起き上がるとキュリオテスは何事もなかったかのように言った。玄武ドレイクの汗が頬から顎の先に流れ、ポトリと地面に落ちると同時にキュリオテスが目前にいた。素早い動きなどというものではない。それはまさに瞬間移動といってもよいものだった。驚愕した玄武ドレイクが距離をとり回避しようとするがそれより早いスピードでキュリオテスは動くと強烈な右拳が突き刺さった。九の字に折れ曲がった身体は後ずさりしながらキュリオテスから離れていく。その動きを見逃さなかったキュリオテスは両腕を鋭い刃物状に変化させると玄武ドレイクの肩から先を斬り落とした。悲鳴と同時に玄武ドレイクの両腕は地面に落ち血が噴出する。膝はガクガク震え、口からは大量に血が吐かれた。立つ事もままならず、両膝を地面につけると土下座をするように顔面を地面に叩きつけた。神々しい玄武の輝きはそこにはなく、顔面蒼白の意識を失ったドレイクがいた。
「所詮はこの程度のもの・・・役には立たんが首だけは落とすことにする。」
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「言ったでしょ・・・この創造神に傷を負わせることなどあってはならないと。」
純白の翼を羽ばたかせた創造神ピサロはハルバートの刃先を地面におろした。その刃先には鮮血で染まり、地面には鳳凰朱雀タカヒトが動かずに倒れていた。
「トドメを刺してあげましょう・・・レイン、邪魔だてするのならあなたも斬り刻んで差し上げますよ。私としてもウィルスを撒き散らされては迷惑ですから。」
「すでにウィルスはシステムを侵食している。おまえの負けだ、ピサロ!」
レインの言葉に創造神ピサロの表情が強張った。その表情も次第に険しいものになっていくと烈火の如く染まっていく。
「許さんぞ・・・貴様・・・」
「オカマ言葉はやめたのか、ピサロ?すっかりピサロ・ミスラ・ハルワタートに戻っているぞ。」
「ええい!うるさい!!」
「どう足掻いても貴様とシステムは切り離される。諦めろ!」
「創造神システムがなくてもかまわん!四神の一角を殺せば問題はない!」
創造神ピサロはハルバートを振り被ると鳳凰朱雀タカヒトに投げつけた。ハルバートの刃に鳳凰朱雀タカヒトの姿が映されるがそれがタカヒトの突き刺さることはなかった。
「貴様・・・どういうつもりだ?」
ハルバートはレインの胸部を貫き、刃先は背中から出ていた。口から血を吐き、青白い表情のレインは薄っすらと笑みをこぼしていた。
「何が可笑しい?」
「冷静さを失ったピサロ・ミスラ・ハルワタートは四神に殺された。女のような言葉を使っていたのはお前が無意識のうちに冷静さを保とうとしていたからだろう。私の言葉に騙され、冷静さを失ったお前に勝因などありはしない。」
「貴様・・・ウィルスは・・・」
「その通りだ。ウィルスは私自信がどうこうできるものではない。そしてそれは常に変化し、私の死と同時に発動される。私は賭けた・・・お前が冷静さを失うことに・・・賭けは私の勝ちだな。」
「・・・・・」
「賭けに勝った私が得られるものは・・・」
最後の言葉を言いかけ、レインは消滅するとハルバートだけがそこに残った。レインが消えると創造神ピサロに異変が起きた。それまでピサロの脳裏には様々な情報が流れ込んでいた。細かいことを言えば、戦っていた鳳凰朱雀タカヒトの未来の動きから大きいことでは六道の流れまで、ありとあらゆる情報が流れていた。しかし、レインが消えたとともにそれらの情報が脳裏から消えた。レインの死によってウィルスが投入され、システムの再起動、再構築が行われた。創造神システムを操っていたピサロがプログラムしたデータはすべて消去された。すべてが初期化され、創造神システムはジークフリードがプログラムした最も古いデータに戻った。
「こんなことが・・・・あるわけがない・・・」
純白の翼は消え、ピサロから笑みも消えた。先に陰陽四神により、創造神システムは開放され、封印された。しかしレインのウィルスデータにより、それらは変更されて、四人の四神に変化が見られた。