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未来のきみへ   作者: 安弘
餓鬼道編
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グリホン要塞での逆転劇

 タカヒトの金色の輝きは完全に消えた。倒れたジェイドはピクリとも動かない。完全な勝利にタカヒトは一息つくと辺りを見渡した。そこでタカヒトは驚愕の事実を知ることになる。倒したはずのジェイドが王座に座っていたのだ。ゆったりと座りながらジェイドはタカヒトに言った。


「ゲイルと同じ結果になったようだね。僕はね、水を操れるんだ。その水は霧状となり幻影を作りだす。君は僕の幻覚と気づかずに戦い続けていたってわけさ!まあ、それでも最初の一撃は喰らってしまったけどね。結構痛かったよ・・・アレ。」


 タカヒトにはジェイドの勝ち誇った言葉など全く聞こえないほど疲労が溜まっていた。急に身体が重くなり大理石の床に膝まずいた。額からは大量の汗が流れ落ちタカヒトのいる床はびっしょり濡れていた。


「重い・・・なんで・・・こんなに身体が・・・重いんだ?」


 原因のわからない身体の変調にタカヒトは戸惑っていた。失いそうな意識をなんとか保っていると王座からゆっくり立ちあがり膝まずくタカヒトにジェイドは歩み寄っていく。タカヒトの元に来るとジェイドの左脚がタカヒトの顔を蹴りあげた。大理石の冷たい床に叩きつけられたタカヒトはうずくまった。


 「やっぱりね!徳の使い方を誤ったか・・・それは万能薬じゃあないんだよ。徳と業はバランスによって成り立っているんだ。バランスを崩すほどの徳の使用は業の嵐を生み出す。知らなかった?」


 ジェイドの言葉にタカヒトはてんとに言われたことを思い出した。そう徳と業はバランスで成り立っている。徳の量と業の量はもちろん人それぞれ違うのだがどちらか一方の急激な消費があるとその後、反発が起こることがある。思いもよらない幸運を手に入れた者がその後に不幸の連続に落ちていく事を時折聞くがこれがそれにあたるであろう。逆に不運の連続があるからと言ってその後の加速的な幸運の上昇があるとはいえない。それはその者の徳の量と業の量のバランスの問題だからだ。


業を消費しなければ徳の恩恵も受けられない。業の多い者は一滴の徳の恩恵を受ける為に一生のほとんどを苦しみに支配され生きていく。


 このバランスは通常はコントロール出来ないが徳と業の水筒を持っているタカヒトにはそれが出来る。だから尚更、コントロールが必要になる。身動きのとれない今になってタカヒトはそのことを思い知らされた。

 しかし紫玉を使えず、てんとの助けのない彼にはミカを助けることが出来る力はこれだけだった。ミカへの想い、自分の無力さ、限界・・・それらの想いがタカヒトの心に一斉に押し寄せると涙が溢れてきた。


 「悲しむことはないよ。君はこれから新しい場所へ向かっていくんだ。 

  ミカもすぐにそこへ行くだろう・・・・。」


 タカヒトへの最後の攻撃を与える為にジェイドは蒼色に輝くがその輝きはすぐ消えた。一瞬ジェイドの動きが止まり再び蒼色に輝きだしたがまたも輝きを失った。タカヒトはジェイドの行動を理解出来なかったがわかったことがひとつあった。


   これで僕もミカちゃんも終わりなんだ。結局、ミカちゃんを守れなかった・・・

  てんととも別れるんだ・・・これから何処へ行くんだろう?


 ジェイドは蒼色の輝きを失っては再び輝かせてる。そんな繰り返しをしている姿を見てタカヒトは遊ばれていると考えていた。力のある者にいたぶられる事は初めてではなかった。タカヒトは人道の世界でのイジメに遭っていた事を思い出した。

 

 僕はいつもイジメられていたんだ。あの時も大樹君にいじめられて・・・そうだ!ミカちゃんに助けられたんだ。そしてミカちゃんを死なせてしまった・・・また繰り返される?またミカちゃんを死なせてしまう?もしこの世界で存在出来なくなったら僕もミカちゃんも無空間へ飛ばされる。そしたら永遠に戻れない・・・・・駄目だ!

僕もミカちゃんも元の世界へ帰るんだ!今度は僕がミカちゃんを守るんだ!


 タカヒトのミカを守りたいという強い想いに同調するように胸のペンダントが突然輝きを放った。周辺が暗黒に包み込まれると紫色の炎がタカヒトに語りかけてきた。


 (タカヒトよ、私の力を受け入れるか?)(紫玉)


 「紫玉?この世界じゃあ使えないって・・・あれ?ジェイドには見えてないの?」


 (ここはタカヒトの心の中。おまえの持つ暗黒色の共鳴石により私は存在できる。

  今一度問う。私の力が必要なのか?)(紫玉)


 この時タカヒトはわかっていなかった。デオルトに貰ったペンダントが暗黒色の共鳴石であると。暗黒色の共鳴石とは共鳴亀裂を起こしている世界でも稀にソウルオブカラーの発動が可能になる。共鳴亀裂の発生している空間の補整作用を起こし所有者と色玉の繋がりを一定期間完全なものにする石である。紫玉とタカヒトの間でそんなことが起きていることなど露知らず、ジェイドは蒼玉を発動できずに苛立っていた。


 「蒼玉が使えない?まさか・・・まあいい。」


 青色に輝いたジェイドは周囲に水滴を発生させた。その水滴を頭上に集めるとそれは巨大な水の球体となりそこから龍が現れた。巨大な水龍はとぐろを巻きながら青ジェイドの頭上を動き回っている。両腕をあげて誇らしげな笑みを浮かべている青ジェイドの視線はタカヒトに向けられた。


 「青玉最大理力 龍激波・・・君の存在を消す技の名前だ。さようなら、タカヒト!」


 ジェイドは両腕を振り下ろすと頭上の巨大な水龍がタカヒトに襲いかかっていく。巨大な水龍は顎を大きく開けてタカヒトを飲み込もうと襲い掛かった。


 「僕は消えない!

  ミカちゃんと元の世界に帰るんだ。紫玉、僕に力を貸してください!」


 タカヒトは意識を失うと紫玉に心を委ねた。理力を高め紫色に輝き始めたタカヒトは襲い掛かる水龍をフワリとかわして空中に浮遊した。紫タカヒトは両腕を広げるといくつもの小さな紫色の炎が周囲を覆うように現われた。次第に紫色の炎が薄らぐと紫色のピラミッド状の角錐状の物体が姿を現した。


 「アレスト、ターゲット・ロックオン・・・紫玉理力 アルティメットアタック!」


 膨大な数のアレストは円周上に紫タカヒトを包み込むように配置された。大理石の床に激突した水龍は体勢を立て直すと再び紫タカヒトに襲い掛かる。膨大な数のアレストからは無数の粒子砲が放出されるが巨大すぎる水龍にダメージを与えることが出来ない。突進してくる水龍を紫タカヒトはかわしながらアレストの粒子砲を集中放出するがジリ貧状態が続く。青ジェイドの龍激波と紫タカヒトのアルティメットアタックでは理力自体に差がありすぎた。押し寄せてくる龍激波を前に絶対絶命の紫タカヒト。そこに緑色の球体が突然現われた。


 「球体に粒子砲をぶつけるのだ!」


 その声に反応した紫タカヒトはアレストの粒子砲を球体に集中放出させた。粒子砲が球体に当たり反発すると二つ目の球体にそれが当り更に反発してスピードを増していく。三つ目の球体の反発を受けたアレストの粒子砲はひとつに集まり巨大な水龍の頭に撃ち込まれた。


 「紫緑玉理力複合技 アルティメットストライク!」


 紫タカヒトが右手を巨大な水龍に向けると集中粒子砲を浴び少しずつ形を崩して消滅していく。集中粒子砲は水龍の頭を完全に撃ち砕き、豪雨のようにジェイドの頭上に降っていく。そしてその崩れた水龍の先にいるジェイド目掛けて集中粒子砲が放たれた。ジェイドの機転に即座に水の壁を造り出したが集中粒子砲の前に砕かれた。直撃は避けたものの衝撃まではかわしきれずジェイドは床に叩きつけられた。それと同時に理力を消耗しきった紫タカヒトも輝きを失い床に落ちていった。


 「・・・僕の龍激波が敗れるだと?」


 集中粒子砲の直撃は避けたもののジェイドはかなりの衝撃を受けて肉体はダメージを負っていた。いや肉体より精神にダメージを受けたのかもしれない。よろけながらもなんとか立ちあがったジェイドの視線の先にはてんとがいた。


 「て・・・んと・・・」


 てんとの姿を見つけたが紫色の輝きを失ったタカヒトは動くことも出来ずに床から起き上がることすら出来ない。そんなタカヒトの横を通り過ぎるとてんとはジェイドに近づいていく。


 「僕は・・・・負けたのか?」


 「そうだ、おまえは負けたのだ。

  タカヒトとの戦闘能力の差は圧倒的におまえが上だったにも関わらず負けたのだ!」


 「そんなことはない・・・まだ手はあるさ。蒼玉・・・??」


 「蒼玉は・・・ユラは助けてはくれないぞ。今のおまえをユラが助けるわけがない!」


 「・・・・・・」


 蒼玉を発動させようとするが何の反応も示さなかった。ジェイドは蒼玉に何度も何度も呼びかけたがそれでも反応はなかった。てんとにはなんとなく蒼玉がユラの魂であることに気が付いていた。学舎時代てんとはジェイドとソウルオブカラーについて調べた。

 ソウルオブカラーはその名の通り様々な色をした魂のことである。魂は不滅なものであり例え人道の世界で死んだとしても徳と業の増減のバランスにより振り分けられる。天道や餓鬼道などの世界へ飛されて、その世界で新たな魂となり生きていくのである。そして永き輪廻転生を繰り返した高い能力を持つ魂のみがソウルオブカラーとなる事がある。それはまさに永き歳月をかけてダイヤモンドが形成されるのと同じ事である。そのソウルオブカラーに認められた者のみがその能力を操ることが出来る。


   しかしある禁じられた秘法を使うとソウルオブカラーを作り出すことができる


 修羅道の世界でユラが殺されて・・・ジェイドはずっとユラを抱きしめていた。ユラが冷たくなってもぬくもりだけは忘れたくなかった。涙がとめどなくあふれていったいどれくらい時間が経ったのだろうか?ジェイドはあることを考えていた。

          そう、禁じられた秘法のことを・・・

 ユラを抱きかかえて廃墟と化した小屋に入ると壊れかけたベッドに寝かせた。そしてジェイドは材料を集めに外へ出掛けた。雨カマキリ、こねの葉、きりとうがらし、不破の実・・・それらを水に入れて煮詰めること一週間。さらに転生孔雀の足を入れて二週間煮詰める。冷ましたその液体に筆をつけると秘法の呪文をユラの身体中に書き記した。この秘法は輪廻転生の法則を無視して魂をソウルオブカラーに強制的に創り上げるものだ。これによりユラは生まれ変わることは出来なくなり永遠にソウルオブカラー蒼玉として生きていくこととなる。ジェイドはユラがソウルオブカラーに昇華するのを何日も何日も待ち続けた。そしてある朝、ジェイドが眠りから覚めるとユラは蒼色に輝く色玉へと変わっていった。


 「ユラ・・・愛している・・・ずっと一緒だよ・・・」


 ジェイドは蒼玉を飲み込むとその場から姿を消した。


 「蒼玉を発動出来ないのはユラがおまえにこれ以上罪を犯してほしくないと願っているからだ。今おまえがやっていることはドレイクがユラにしたことと同じなんだぞ!」


 「!・・・ドレイク・・・ドレイクだと?・・・アッ、ガガガ・・そっ、その名を口にするな。グッ、ギギギィー・・・もういい・・・・・アガッ!・・・すっ、すべて壊す!・・・ゲガガッ・・・なっ、何もかも・・・・ギガッ・・・狂わしてやる!」


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