タカヒトが選んだ道
「どうかしら、いい条件だと思うのだけれども・・・もちろん、ほかの人達も同じように待遇いたしますよ。ドレイクさんにリナさん。アレスさんにリディーネさん。マイコさんやてんとさんも・・・それにもちろんミカさんもね。あなたとミカさんには一番幸せになっていただきたいのよ。」
「・・・・」
「いい条件だと思いますけど、考える時間はまだありますから紅茶でも飲みながらゆっくり考えてくださらない。」
ピサロは再びテーブルに戻り椅子に座ると紅茶を楽しんでいる。その間もタカヒトは皆が戦っている映像を見つめていた。戦況は劣勢に追い込まれて、勝機などまったくないように見える。ここでタカヒトが意地を張るよりもピサロに頭を下げ、皆が幸せになる道があるのではないだろうか。タカヒトはそのことを自分に言い聞かせ、ピサロの前に歩いていく。
「今・・・なんとおっしゃいましたか?」
「考えは変わらない。僕はお前を倒し、創造神を取り戻す。」
タカヒトは自分に言い聞かせた言葉とは逆の言葉が口から出た。これにはタカヒト自身が一番驚いた。皆を救い、助けることだけを考えていた。呆気に取られたピサロは言葉を失ってしまう。
「よく言ったぞ、タカヒト!」
「てんと!レインさんも!!」
静まり返った空気感を払拭したのはてんとの声であった。その隣にはレインもいる。てんととレインはタカヒトに歩み寄っていく。
「てんと・・・皆は?」
「大丈夫だ。徳寿様が助けに来てくれたのだ。味方がいるぞ!」
「味方?」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「よく辛抱したの。ワシらが来たからには大丈夫じゃ!」
「とくべえさん!」
「その通りだ!久しぶりに動物拳法が唸るぜ!」
「ジャンスさん!」
「あまりハリキリすぎるなよ、腰痛が治ったばかりなんだからな。」
「ガルさん!」
極限黄徳寿は神々しい輝きを放つとマスティアの群れに一閃の光が放たれた。瞬時に消滅したマスティアの群れに更に熊パンチが追い討ちをかける。ガルは大地からエネルギーを吸収すると体力が消耗しきっているミカ達に取り込んだエネルギーを与えた。
「ありがとう、ガルさん。でも、どうして?」
「徳寿が助けを求めてきた。ジャンスも快く引き受けてくれた。」
「タカちゃん達は?」
「レインとてんとが応援に向った。心配するな。」
「うん・・・。」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「タカヒト、ピサロを倒すのだ!」
「うん!」
タカヒトは闘気を高めると朱雀タカヒトへと変化し、ピサロ相手に身構えた。震える手で紅茶カップを持っているピサロは震えていた。
「どうして、私のシナリオ通りに動かないのかしら・・・演者は黙って指示に従えばいいものを・・・」
震える身体を抑えるとピサロは左手を朱雀タカヒトに差し向けた。一瞬の出来事だった。一閃の光が朱雀タカヒトを通り過ぎるとバタッと倒れる音がした。振り返った朱雀タカヒトが見たものは血塗れになったてんとの姿であった。呆然とする朱雀タカヒトはてんとから流れる血をただ見ていた。
「タカヒト、しっかりしろ!」
レインの言葉に我を取り戻した朱雀タカヒトはてんとの名を叫んだ。震える身体を動かそうにも血が溢れる。
「てんと、てんと!」
「ゴフッ!何をしている・・・。」
「でも・・・てんと!」
レインから温かい光がてんとに注がれると血が止まり、てんとに安らかな表情が伺えた。呼吸も整い視点も定まった。その様子を眺めていたピサロが言った。
「ほんのひとときの間、命を永らえたようですね。しばらく時間を差し上げましょう。」
ピサロは再び紅茶カップを手に香りを楽しんでいる。朱雀タカヒトはてんとを見つめ、様子を伺っている。ピサロの言う通り、レインの施したものは長くは続かない。ほんのひとときだけ命が長くなっただけに過ぎない。哀しい表情の朱雀タカヒトにてんとは言った。
「そう、哀しい表情をするな。いずれ別れはくるものだ。」
「でもこんなのって・・・」
朱雀タカヒトとてんとはしばらく無言の状態が続いた。
「タカヒト・・・強くなれ。」
「えっ・・・・」
「話し合いで解決する世界を望んでいるのだろ?」
「・・・・うん」
「残念なことだがそれはムリだ。同じ人種でも考えや思想がまったく違うものだ。それが他の人種なら尚更であろう。話し合いでの解決は皆無に等しいだろうな。」
「・・・・」
「だがピサロの創る世界を考えるのならタカヒトの言う話し合いの世界のほうがマシかもしれん。」
「・・・てんと」
「タカヒト、強くなれ。腕力のことではない。話し合いの世界にしろ、なんにせよ、心を強くもち、行動しなければならない・・・ゴフッ!」
「てんと!もう喋らなくていいよ。」
「強く・・・なれ、タカヒト。望む・・・世界を・・・」
「てんと!」
生気を失ったてんとの身体は薄っすら消滅してその場から姿を消した。ずっと一緒にいると思っていたてんとがいなくなった。前にもこんな経験をしたタカヒト。そう、それはポンマンの時、それはセシルの時。朱雀タカヒトの中で何かが完全に交わった。朱雀タカヒトの背中から激しい赤色と紫、それに白色の混ざった一対の翼が現れた。さらに激しい緋色の輝きが朱雀タカヒトを包み込むと緋色の翼が二対現れた。三対の翼を背にした朱雀タカヒトにピサロは興奮している。
「素晴らしいわ。陰陽がひとつになった瞬間を見られるなんて!二羽の鳳凰に一羽の朱雀。鳳凰朱雀といったところかしら。創造神システムの完全開放がすぐそこまで迫っているわ。」
「もし創造神が許してくれるなら・・・てんとを返してほしい。ポンマンを、セシルを返してほしい。」
「それはムリな願いよ、鳳凰朱雀タカヒトさん・・・名前が長いわね。死んだ者は二度と蘇ることなど・・・ギャァ~!」
突然、ピサロは顔を両手でおさえると頬から血が流れ落ちた。ピサロに差し出した右手を下ろすと鳳凰朱雀タカヒトは言った。
「お前に答えなど聞いてはいない。俺達は使命を果すだけだ!」
「セシル・・・さん?まあ、どうでもよいわ。この私に刃を向けた者は容赦しない!」