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未来のきみへ   作者: 安弘
新天道編
237/253

蘇る者達

 タカヒト達が戻ってきたことにミカはホッとした。しかし出て行った時よりも戻ってきた時のタカヒトのほうが哀しい表情をしている。深く追求しないミカだが心配は尽きない。


 「大丈夫だよ、ミカちゃん・・・心配しないで。」


 「えっ・・・・うん・・・」


 ミカの心を読んだようにタカヒトがポツリと言った。呆気にとられたミカは気の利いた言葉もかけられずにタカヒトの後を歩いていく。アルヒャイ・キャッスル内に入って数日が経っていたがピサロからは何も仕掛けられてはいない。すでにピサロにもタカヒト達の気配は知れているはずなのだが・・・。


 「ピサロの奴が来ないってことは俺達に出向けってことだよな?」


 「アリシアもビックボス達もいない今、ピサロただひとりってことよ。やるなら今しかない!やっとピサロを・・・パパの仇を取れるわ!」


 リディーネが秘めた闘志を表に出すと景気付けとばかりにアレスを殴りつけた。怒ったアレスはリディーネを追いかけると部屋中を走り回っている。そんなふたりを無視しながらドレイクは次の作戦に取り掛かる段取りについて話を始めた。


 「ピサロ以外にも・・・恐ろしい気配をいくつか感じてはいる。だがそれらの気配に動きがまったくないところを見ると俺達を待っているようだな。」


 「こちらから仕掛けようってわけね。どんな戦術で仕掛けるつもり?」


 「戦略や戦術はピサロ相手では無意味だ。正面から行くぜ!」


 「わかったわ。私はミカと組んで戦うことにするわ。いいでしょ、ミカ?」


 「ええ、もちろん。でも、てんと達を待たなくていいの?」


 「その辺は気にするな。すでにこちらに向っているようだ。ジェイドとてんと・・・それにあとふたりの気配を感じるが誰なのかはわからない。まあ、敵ではないだろうな。」


 「とくべえさんとレインさんだと思うよ。」


 「とくべえさんとレインさん?よかった、無事だったんだね。」


 ミカはホッと胸をなでおろした。ドレイクは準備が出来次第、結構することを伝えた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「皆さんに集まってもらったのはほかでもありません。創造神に逆らう輩を退治していただきたいのです。」


 両手を広げ、涙ながらに訴えたピサロの前には数名の影が集結していた。その中にはスローネの姿もある。大粒の涙を流しピサロの演説は続いていく。


 「皆さんだけが頼りなのです。どうか、お力添えをお願いします。」


 深々と頭を下げるピサロ。数名の影は動揺する様子もなく、ピサロが再び頭をあげた時にはそれらの姿は消えてなくなっていた。大粒の涙が頬を濡らし、それを拭き取ると笑みを浮かべたピサロの顔がそこにあった。


 「さあ、ゲームの始まりよ。獣は放たれたわ。どうするのかしらね。彼らは!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「何もないわね・・・ひょっとしてアタシを恐れて逃げたとか。」


 「ハッ、ハハハ。それはないね、リディーネちゃん。」


 怒ったリディーネはグーでアレスを殴った。頭をおさえながら逃げるアレスをリディーネは追いかけていく。アレスがドアを開けて部屋に入るとリディーネも入り込んだ。入った先にアレスが突っ立ってリディーネはその背中に激突した。


 「ちょっと!アンタ、突っ立ってんじゃないわよ!」


 鼻をおさえながらリディーネはアレスを押し退けた。リディーネの目前には三つのドアがある。リディーネが三つのドアを行ったり来たりしているとドレイク達も部屋に入ってきた。


 「ここから凄まじい気配を感じるぜ。たぶん中に入れってことだろうな。」


 「よしわかった。じゃあ、アタシはここに入る。」


 「ちょっと待って、リディーネ。慎重に・・・」


 「大丈夫よ、ミカ。アタシはここに独りで入るから・・・」


 思い詰めた表情のリディーネはドアを開けて中に入った。するとそのドアは消滅していく。残るドアは二つ。タカヒトとリナ、ミカの三人がドアを開けると入っていく。ドレイクとアレスが最後のドアを開けると入った。


 「久しぶりね、リディーネちゃん。会いたかったわ。」


 「そうね・・・・アタシも会いたかった。」


 「そう、うれしいわ。愛されているのね。」


 「愛?・・・そんなレベルじゃあ、表現できない。殺すことだけを夢見て生きてきた。気配を感じてすぐにわかったよ。生きてるって信じてた。」


 「そうなの、嬉しいわ。」


 「やっと会えた。この日をどれほど待ったことか。ねぇ、デメテル・・・アタシの手で殺してあげる。」


 「あなたが破壊神を名乗っているってことは・・・破壊神は死んだのね。なら後を追わせてあげましょう。それが母としての最後の役目というもの。」


 デメテルは深く腰を落とした。リディーネが瞬きをした瞬間、姿を消したかと思うとその姿はリディーネの背後にあった。リディーネの頬にはひとすじの斬り傷が浮かび上がり、血が頬を流れた。


 「うふふ、目に見えぬ速度とはまさにこのことよね。」


 「・・・・」


 「声も出ないようね。仕方ないわ。リディーネちゃんも強くなったようだけど、本当の強さを目の当たりにしたのだから。でも安心してちょうだい。恐怖を感じる前に殺してあげるから。」


 「・・・教えてくれない?どうしてそんなに強くなったの?」


 「うふふ、いいわ。死に行く者への礼儀は私も心得ているから。」


 デメテルは長い爪を舐めながら言った。先代破壊神に倒され、肉の塊と化したデメテルであったがその血肉は回収されていた。天道軍の研究者により肉体蘇生に成功したデメテルにはスマイルシステムが導入された。生き返ったデメテルは最強の肉体を得てここにいるというわけだ。


 「さあ、話はこれくらいにしましょう。最後に言い残すことはある?」


 「夢にまで見たこの瞬間を・・・亡き父と母に捧げるわ。」


 「あら?・・・気付いていたの?幼いリディーネちゃんには忘れたい記憶だと思っていたのに。いい叫び声だったわ。今思い出してもゾクゾクするくらいにね。リディーネちゃんの悲鳴はお母さん似かしら?」


 大声で笑うデメテルは足元に激しい熱を感じると脚が燃えていることに気付いた。血相を変えてその場から退避すると足元の火炎を消し去った。火傷した脚はスマイルシステムによりすぐに修復されていく。


 「いっ、いきなり何するの!このバカ娘が!!」


 「へぇ~、すぐに治るんだ。便利な身体ね。」


 紅リディーネは右手をデメテルに差し向けると身体を覆い尽くすほどの火炎がデメテルを包み込んだ。叫び声をあげながらデメテルは身体から火炎を取り除くと再び皮膚が再生されて元に戻っていく。


 「クソガキめ!殺してやる!」


 デメテルは姿を消した。そこには紅リディーネ以外には誰もいない。ただ、いたるところで床を蹴る音が聞こえるだけであった。するとデメテルの笑い声が聞こえてきた。


 「うふふ、高速で移動する私の姿が見えるかしら?」


 「ううん、見えない。」


 「でしょうね!見えない恐怖に怯えなさい!」


 「・・・・」


 紅リディーネは周囲に火炎輪をいくつも創りだした。火炎輪で身を守るように配置されると再びデメテルから笑い声が聞こえてきた。


 「それで身を守るつもり?うふふ、子供の考えそうなことね。」


 紅リディーネはさらに小さな火炎玉を発生させるとそれらは流星のごとく四方八方に散ばっていく。火炎輪の間を小さな火炎玉が動き回っているとまたもデメテルの笑い声が聞こえてきた。


 「可愛らしいリディーネちゃん・・・どう足掻いてもそんな火炎では私を捉えることはできないわよ。さて、そろそろおしまいにしましょうかしらね。死にさらせ!」


 火炎輪と火炎玉の間を潜り抜け、デメテルの鋭い爪がリディーネに迫る。何も見えないリディーネはおもむろに右手を頭上にあげると闘気を極限まで高めていく。右手の先に火炎の形をした拳銃が浮かび上がると火炎弾が放たれた。


 「紅玉極限闘気 ファイナル・バーニング・アタック!」


 一発の火炎弾がデメテルの体内へと侵入すると内部から焼き爛れていく。スマイルシステムにより細胞は再生されていくがそれと同じ速度で内部延焼が続いていく。


 「ぎゃあぁぁ~・・・・ぐぎゃぁぁ~・・・・フゥ、フゥ、フゥ・・・ぎゃぁああぁ~」


 「殺しはしないわ・・・でも、生きることも許さない。」


 「ぎゃあぁぁ~・・・・アハッ、冗談よ。」


 「!!!」


 デメテルは深く息を吸い込むと身体内部から火炎をすべて吐き出した。焼き爛れた身体の内部も表面も次第に再生されていく。何事もなかったかのようにデメテルは笑みを浮かべるがリディーネはなにも語らず黙ったままその場から動こうとはしなかった。


 「フフフ、当てが外れたって表情ね。残念だったわ、リディーネちゃん。ちょっと前だったら消滅させられてたかもしれないわね。」


 「・・・・」


 「フフフ、絶望ってどんな色かしら?ねえ、リディーネちゃん。」


 「・・・」


 再び姿を消したデメテルから放たれる鋭い刃風にリディーネは防戦一方へ追い込まれていく。皮膚を斬裂くどころではない。肉を斬り骨まで達するその刃風にリディーネは火炎の盾で防御することしかできない。その盾もデメテルの刃風は防ぎきれず、リディーネの両手が斬り落とされると最後に頭が地面に落ちた。


 「案外、大した事はなかったわね。所詮は小娘と言ったところだわ。」


 「・・・だぁ~れぇ~がぁ~?」


 「!!!」


 「本当に当てが外れたって顔。残念だったわね、デメテル。ちょっと前だったら殺せただろうに。」


 デメテルが斬り刻んだリディーネはそこにはおらず、五体満足のリディーネがいた。


 「おのれぇ~・・・」


「アンタの間違いはふたつある。何かわかる?」


 「ホッ、ホホホ!ならば私からもリディーネちゃんの間違いをお教えいたしましょう。それはスマイルシステムの力を侮ったことよ!」


 デメテルは姿を消すと床を蹴る音だけが鳴り響いていく。だが、それは次第に天井や壁を蹴る音にも広がり、リディーネを包み込む空間すべてがデメテルにとって有利に働く。


 「スマイルシステムにより姿を消すほどの高速移動を可能にして・・・さすがに肉眼だと捉えきれないわね。でもその高速移動が自らの意思であるって信じてるわけ?」


 「ホッ、ホホホ。自らの意思で移動していなければどうやって高速移動できるのかしら。リディーネちゃんのバカさ加減にはお母さんもガッカリよ。」


 高速移動を繰り広げているデメテルの視界はぼやけてリディーネから霞色の輝きが放たれる姿を確認しきれない。霞色と紅色の混じる輝きにリディーネは笑みを浮かべた。


 「ひとつめの間違いは霞玉の力を知らなかったこと。霞玉は斬り裂く力を持つ者。デュポンの魂よ・・・って言ってもアンタはデュポンを知らないし、正直斬り裂く力ってないし、役に立たない力だし。まったく生きてても死んでもアタシの役に立たない困った奴だったわ。」


 「それはリディーネちゃんには尊敬できる方がいないからよね。私のように尊敬、いいえ、崇拝できる方がいらっしゃればこのように力を得られたわ。もう遅いけれどもね。」


 「デュポンはピサロやアンタみたいに強くはなかったけど、いつもアタシの傍に居てくれた。デュポンを失った時、アタシは気付いたんだ。失ってから気付くなんて遅いけど。」


 「気にすることないわ。そのなんとかっていう者にすぐに会えるのだから。」


 「風の精霊だったデュポン・・・霞玉にはまったく役に立たない能力しか備わってないのよね。空気を圧縮するってやつ。まったく役に立たないんだよなぁ~。」


 「空気を圧縮?ホッ、ホホホ。本当に役に立たないこと。その役に立たない霞玉を知らなかったことが何故間違いなのかしら?」


 「圧縮された空気の層がアンタの移動を制限している。アンタは自分の意志で高速移動しているって言ってたけどそれは違う。アンタはアタシによってある場所へと導かれているってわけよ。」


 デメテルは一瞬、顔が蒼ざめた。たしかに高速移動をしている最中も空気の壁に当たり移動を制限されていることは理解していた。だがそれはいままでも経験したことであり、高速移動が激しければ激しいほど空気の壁はその存在を表していく。


 「心理戦を希望かしら?そんなこけおどしが通用するとでも?勢いだけの行き当たりばったりで戦ってきたリディーネちゃんにしては頭を使った戦法だったわ。」


 「アンタがどう思おうとも勝手よ。アンタが導かれる空気の道は最大まで圧縮された空気の穴がある。そこに落ちたら二度と出られない。」


 デメテルは失笑していたがそれは現実のものとなった。壁に阻まれ空気の迷路に陥ったデメテルが辿り着いた場所は身動きがまったく取れない正に空気の穴だった。手足を拘束している手錠も縄もなにもないが圧縮空気がデメテルから動きを完全に奪い去った。


 「うっ、動けないわ!・・・この・・・クソが!」


 「風と炎って相性がいいのよね。よく燃えるし・・・圧縮空気とくれば爆炎力も半端じゃないわ。」


 「リッ、リディーネちゃん・・・お母さんよ。遊びはこれくらいにしましょう。」


 「ふたつめの間違いはわかってるわよね?アタシは怒りで能力が高まるタイプなの。紅霞玉極限闘気複合技 フル・ブースト・ファイナル・バーニング・アタック!!」


 「ボバアァァァ~~~ギャギャギャアアァァ~~~!!!」


 円柱の圧縮空気内で激しい火炎がデメテルの肉を焼き溶かしていくがそれと同じ速度でデメテルの身体は蘇生していく。火炎力と蘇生力が均衡する状況化の中、デメテルの叫び声だけが響くがそれも聞こえなくなった。


 「その円柱には圧縮された空気が常に送り込まれるわ。つまり永遠に燃えているってわけ。アンタの蘇生も永遠よね?死なないってもの結構大変よね。じゃあね、さよならママ。」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「アラ、タカヒトがいないわね。どこに行ったのかしら?」


 「タカちゃん、どこに行ったんだろう」


 ドアを開けて中に入ったところまではリナとミカ、それにタカヒトもいた。だが、ドアを閉めるとそこにいたのはリナとミカだけだった。一面花畑の綺麗なところだった。ミカは花を見つめていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。すでに気配を察知していたリナは牡丹色に輝いていた。ミカも理力を開放すると身構える。


 「私のお気に入りの場所はいかがかしら?」


 「死んだはず・・・何故?」


 「私の美しさは永遠の続くもの・・・それは神ですら認めてますわ。」


 甲高い笑い声でアリシアは言った。次の瞬間、アリシアの頭上に雷撃が落ちると爆音と共に黒焦げになったアリシアがそこにいた。


 「アバババ・・・」


 「あまり時間がないのよね、実際。早く始めましょう。」


 「おのれぇ~・・・はっ!ぎゃああぁぁ~~!」


 間髪入れずにミカの桜玉極限理力オーロラ・ホワイト・ブレスにアリシアの皮膚はボロボロに剥がれ落ちていく。すぐに細胞再生が行われるがリナの雷撃とミカの極限理力による破壊がそれらを上回る。


 「ぎゃあぁぁ・・・いっ、いくら攻撃をしても無駄・・・すぐに再生しますわ。あなた方の力が尽きた瞬間・・・アリシア・オン・ステージ、残酷ショーが開幕いたしますわ。」


 「そうかしら、スマイルシステムの弱点はすでに把握しているわ。それってあれよね。細胞間を繋ぎとめる糸を切るとダメなのよね?」


 「はっ!・・・何故、それを・・・まっ、まさか・・・」


 「聖なる雷撃を味わってはどうかしら。」


 後ずさりするアリシアに桜ミカは極限まで理力を高めていく。それと同調するように牡丹リナのエレメントも高まる。


 「桜玉極限理力 オーロラ・ホワイト・ブレス」


 「マキシマムオーバーエレメント ライズ テラ アルティメスト!」


 アリシアの頭上に白いオーロラが舞い降りてくるとそこから雷神が出現した。その身体からはほとばしるほどの電撃が溢れていた。それらの電撃を両腕に集中させて両手で圧縮していく。白いオーロラで包み込み、圧縮されたものを雷神は振り被った。


 「桜玉牡丹玉極限エレメント複合技!桜雷の女心!!」


 雷神が勢いよく投げつけたそれはアリシアに直撃した。雄叫びに近い叫び声をあげたアリシアの皮膚は溶け出していく。スマイルシステムによる細胞の再生は見られない。ドロドロに溶けていくアリシアは脂肪の水溜りのように完全に姿を消滅させた。


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