新たなる強者
「ここまで来れば安心じゃ。」
徳寿は古い小屋に隠れるとホッとした。新天道の世界に入り込んだものの、ここまで来るのに一苦労だった。深い森林の中で徳寿の隣には茶色の厚手のマントを前にかき合わせ深々とハット帽を被っている男もいた。
「レインよ、大丈夫か?」
「私より御身を気にされたほうがよいと思う。」
「これは一本取られたわい。むっ!もうこちらに気付きおったわい。しつこい奴じゃ。黄玉極限理力 フォティーノプレイ!」
徳寿から神々しい光が放たれると森林がくり貫かれるように溶けていく。くり貫かれた大樹木の間に人影らしきものが見えた。
「うぬぅ~、効かんか・・・こいつは参ったわい。」
その人影から逃げる徳寿とレインであったが簡単に回り込まれてしまった。徳寿の極限理力にも耐えたその者は笑みを浮かべるとだらしなく舌を出した。
「あやつが相手とはワシらも運がないのぉ~・・・」
徳寿は死が身近に迫っていることに恐怖を感じた。舌をだらしなく出したその者は右手を差し向けると鋭い光線を放った。間一髪、レインが徳寿の身体を押し倒して回避した。しかしふたりの瞳に映ったのはその者が次なる光線を放とうとしている姿だった。
「青玉極限理力 トライアル・フォース!」
突然現れた青色の球体はその者に迫ってきた。回避したものの左脚が球体に触れたと同時に消滅する。左脚を失ったその者は地上スレスレを浮遊しながらも舌を出していた。
「徳寿様!」
「おお、てんとか!ジェイドもおるのだな。」
「・・・・お久しぶりです・・・俺・・・」
「積もる話もあるじゃろうが、後じゃ!今は奴を倒すことだけに専念するのじゃ。」
「徳寿様、あれは何者なのですか?」
「アレはピサロの影・・・いや、コピーと言ってもよいじゃろう。コピーといえども強さはピサロに匹敵する。」
舌を出したその者は両手を差し出すと十本の指から光線を放つ。ジェイドとてんと、徳寿にレインは四方に回避するが無差別に繰り広げられる光線に劣勢を強いられていた。ジェイドはてんとに合図を送ると緑てんとは球体を出現させ、徳寿とレインにぶつけた。ぶつけられた徳寿とレインを飲み込むと緑の球体は空中に浮遊していく。緑の球体にピサロの光線が放たれたが、ほかの二つの球体がそれを阻んだ。
「おまえの相手は俺だ!」
舌を出したその者が振り返った瞬間、ジェイドの流穿剣がその胴体に突き刺さっていた。背中から腹部に突き刺さった流穿剣は青い液体で染まっていた。蒼ジェイドは流穿剣を抜くと同時にその者を絶対零度で氷漬けにした。
「・・・終わったか。」
「いや、まだだ!コイツから気配を感じる!」
次の瞬間、氷漬けのその者から光線が放たれた。ジェイドはとっさに緑てんとをかばうとその場に倒れ込んだ。光線は氷を完全に溶かすと舌をだらしなくだしたその者が何事もなかったかのように浮遊していた。
「ジェイド!」
「ぐっ!!」
光線はジェイドの右肩を貫き、血が溢れるように流れている。左手で傷口を押さえるジェイドの前に緑てんとが立つ。舌を出したその者から光線が放たれたが緑の球体がそれを弾き返すと舌をだしたその者に直撃した。
「・・・・てんと」
「ここは私に任せてくれ、ジェイド。」
緑てんとはジェイドを球体で包み込むと残ったひとつだけの球体を手元に配置し、その者と対峙した。舌をだしたその者は再び光線を放つと緑てんとは球体で跳ね返していく。その者は高速移動をしながら跳ね返された光線を回避していく。緑てんととの距離を少しずつ縮めてくる。一定の距離を保とうとする緑てんとであるが、その者の移動速度に対応しきれなくなっていく。ジェイドは球体から出ようとするが、緑てんとの理力が発生している限り出ることができない。
「てんと!」
ジェイドの叫びは緑てんとには伝わらず、その者から必死に距離をとろうとしている姿だけが映っていた。ジェイドから見ても緑てんとに分が悪いことはわかっている。親友がこのまま力尽きていくのを見守ることしかできない。
「くそ!てんと・・・ここから出してくれ!」
必死になって球体を叩くジェイドは緑てんとの姿をジッと見つめた。緑てんととの距離を詰めていくその者は光線を放ち続けた。その光線が緑てんとの身体をかすめると地面に向って落ちていった。
「てんと!」
球体を破壊しようと理力を高めた瞬間、ジェイドは温かい風を感じた。落下していく緑てんとを舌をだしたその者が急降下しながら追撃行動を開始する。緑てんとは地面に激突する瞬間、球体で自らの身体を保護した。球体の反発力で再び上空へと飛んでいく緑てんとの視線の先には舌をだしたその者が急降下してくる姿が見えた。緑てんとの輝きが増すと巨大な緑色の球体はその者とてんとを包み込んだ。
「マテリアルフォース!」
てんとの身体が人型に変化していくとその手にはガトリングガンが握られていた。給弾・装填・発射・排莢のサイクルを繰り返して連続射撃された弾丸は緑色の輝いていた。
「緑玉極限理力 風化連撃」
緑色の弾丸は巨大な球体の中で跳弾となってその者に迫っていく。四方八方から迫る跳弾にその者は光線で対応するがガトリングガンから放たれる弾丸はその者のそれを上回り跳弾が肉をえぐる。舌をだしたその者は雨を浴びるように跳弾塗れになっていく。緑てんとが巨大な球体を解くと両脚と左腕を無くし、青い液体に塗れているその者が浮遊していた。相変わらず舌を出したその者はピクリともせずに浮かんでいる。ジェイドを包んでいた球体も消え、てんとのもとに浮遊して近づいたジェイドが言った。
「倒したようだな・・・」
「いや・・・まだだ!くるぞ!」
恐ろしい気配を感じたふたりはその者に視線を向けた。すると舌をだらしなくだしたその者の口が大きく裂けていくと中から何者かが出てきた。細身の身体ではあるが全身が鋭い刃のようにも見えるその者はスルリとその者の口から抜け出ると軽やかに浮遊していた。
「貴様は?」
緑てんとの問いかけにも何も反応を見せず、その者は瞬時に姿を消してしまった。地上に降り立ったジェイドとてんとのもとに徳寿とレインが歩み寄ってきた。
「もはや、ワシらの時代ではないようじゃな・・・いや、この成長を喜ぶべきかの。」
「徳寿よ、そんなことを言っている場合ではない。スローネがここにいたとなると他の者達もいるはずだ。」
「徳寿様・・・スローネとは?」
「お主達が戦った相手じゃよ。意志の支配者スローネ。ほかに力の支配者デュミナス、そしてすべての支配者キュリオテスがおる。それらはピサロが創造神システムで創りし者達じゃ。」
「恐ろしい気配だった・・・」
ジェイドですらそう思わせる強敵にてんとは恐怖を覚えた。しかし進まなければならない。てんとは自分を奮い立たせるとピサロの待つアルヒャイ・キャッスルへと向った。