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未来のきみへ   作者: 安弘
餓鬼道編
23/253

グリホン要塞での戦い

 近代国家オメガの中心の地にそびえ立つ黒金の城グリホン要塞。まだこの世界をハンターが支配していた頃、その片隅で死を待つ者達がいた。鉱物の石像のように動けない者達とは別に彼らは歩くことも食べることもできる。人道の者達同様に生きている。しかし何を植えても育たない何も生まれないこの地で彼らから希望と言う言葉はなかった。彼らは貧困に苦しみハンターの襲撃に恐れ死を待つだけだった・・・。

 そこに現れたのがジェイドだ。死を待つ者の目に映ったその姿は正に神そのものだった。ジェイドは蒼玉を使いアイスフィールドを展開するとハンターの襲撃から彼らを守った。ジェイドは彼らに火の起こし方や農業開拓、建物の施工術、衣服の製作などあらゆるものを教えた。最初は小さな部落だったが近地に住んでいる者達をハンターや盗賊の襲撃から助け出していくと他の地域に暮らす者達が噂を聞きつけこの部落に集まるようになった。部落から町へ、そして数年で近代国家オメガへと発展した。彼らはジェイドを尊敬の意味を込めて餓鬼道の王・・・鬼王と呼ぶようになった。


 「鬼王様!西エリアにてハンターの襲撃があり!

  ブレイカー部隊総勢三十名が壊滅状態となりました。」


 「やっと来たか。しかもゲイルだけで・・・勇ましいことだね。」


 要塞の中部にある王座の間でジェイドはハンター襲撃の報告を受けていた。報告を終えた兵士が王座の間を出て行くとドレスに身を包んだミカが入って来た。ジェイドはミカを拉致したが食事を取らせて更にシャワーを浴びさせた。少し怒った表情のミカが言った。


 「こんなことをしてどういうつもりなの?」


 「綺麗になったなぁ~~。最初に見たときは顔中泥だらけだったのに・・・やっぱりゲームの景品はこういうのがいいからね。」


 王座の間でジェイドとミカが話していると「ガッシャーン!」と窓が急に割れて黒い影が入りこんできた。一瞬ミカは驚き動きが止まったがその黒い影には見覚えがあった。この時ミカのように予想もしない事が起こると生物はショックを受け、その場に立ちすくむというのだがジェイドにはそれがまるでなかった。予想がついていたかのようにジェイドはそれを見つめていた。その影もゆっくり立ちあがるとニヤリと笑いジェイドを睨み付けた。


 「あのさぁ~ ドアがあるんだからわざわざ窓を壊さなくてもいいと思うんだけど。」


 「わりぃわりぃ。早く恋人に会いたかったもんでな!」


 「僕にはそういう趣味ないから・・・

  あっ、兵士達が来た。終わりかな?ハンター戦士のゲイルさん。」


 窓ガラスの割れた音に兵士達が王座の間に数名入ってきた。ゲイルの姿を確認した兵士達は取り囲むと持っていた小銃で一斉に攻撃を仕掛けた。


 「準備もせずにここに来たとでも思っているのか!」


 五行である火の印を唱えると火柱が現れて兵士達が連射した弾は溶けて地面に落ちる。銃火器ではゲイルにダメージを与えることが出来なかった。怯んでいる兵士達に炎玉を浴びせるとなす術もなく焼け焦げた兵士達はその場に倒れた。焼け焦げた臭いのする異様な王座の間でゲイルはジェイドを睨みつけながらも余裕を見せていた。


 「へぇ~~考えたね。五行の印かぁ~。この前とは少しは違うみたいだね・・・

  でも命は惜しくないのかい?」


 「貴様を倒せるのなら悔いはないさ!」


 ゲイルは両手を合わせ火の印を唱えると火の塊をジェイドに向けて飛ばした。ジェイドはウォーターウォールで火の塊を受け止めた。さらにゲイルは無数の火の塊を飛ばしたがすべての火の塊が水の壁により受け止めたれた。ジェイドはニヤリと笑うと見下しながら言った。


 「わからないかなぁ~~。五行相剋って知らない?火は水には勝てないんだ。

  君は僕には勝てないよ。青玉理力ウォーターアロー!」


 ジェイドから無数の水矢がゲイルに向けて放った。五行相剋の原則により水の矢を火の属性では受け止めることはできない。不敵な笑みを浮かべるジェイドに対してゲイルはまた印を唱え始めた。ゲイルの周りを浮遊していた火の塊が消えて代わりに土の壁が現れた。土の壁は水の矢をすべて受け止め吸収していくとジェイドから笑みが消えた。ゲイルは更に金の印を唱えると土の壁が消えた。三叉槍を手にしたゲイルは瞬時に間合いを詰めると鋭い刃をジェイドに突き刺す。


 「何、くっ!」


 蒼玉を発動させて氷の盾で防御を試みたが氷の盾は砕かれジェイドは回避することが精一杯だった。久しぶりの戦慄・・・・ジェイドの背中に冷たいものが流れた。


 「火の印、土の印、それに金の印・・・そんなに体に印を入れるなんて死ぬ気かい?」


 「言っただろ・・・貴様を倒せるなら悔いはないとな!」


 ゲイルは攻撃の手を緩めず三叉槍で連続突きを繰り出す。少しずつゲイルが押していくとジェイドは防戦一方だった。ジェイドの蒼玉の氷と青玉の水の属性に対してゲイルの金の印、土の印はそれらの属性と相対するもので打ち消す効果がある。 

 ソウルオブカラーの力は五行の印に相殺されてその上で戦闘能力の勝るゲイルの肉弾戦はジェイドを疲労と困惑へと導いていく。脚がもつれてその場に倒れこんだジェイドの腹部に三叉槍が突き刺さる。苦悶の表情を浮かべるジェイドに対してゲイルは更に深く腹部に突き刺した。


 「ガハッ!・・・ゲッ、ゲイル・・・おまえ・・・・」


 三又槍が腹部に深く突き刺さすと大量の血液が流れだしていく。ピクピクと小刻みに震え口からも大量の血を吐き出した。もはや動くこともままならないジェイドの姿を見下ろし勝利を確信したゲイルは一族の悲願である鬼王を倒した事によりハンター族の絶望は免れる事を喜んでいた。死んでいった者の無念と一族の想いがこれにより報われると思っていた・・・。


 「幻覚とはいえ鬼王を殺すってどんな気持ち?嬉しい?」


 「!・・・・???・・・!!!!」


 ゲイルは振り返るとそこには大理石の椅子に座りながら拍手をしているジェイドの姿があった。そしてゲイルは自らの足元を見ると三叉槍が床の大理石を貫いていただけであった。戦いが開始された時ジェイドは即座に青玉を発動させて幻影を作るとゲイルはジェイドの形をした幻影とずっと戦っていたのだ。大理石の椅子から立ちあがるとまっすぐゲイルのほうへと歩いていく。


 「ぐぅ~・・・・鬼・・・王・・・・」


 ゲイルは膝をガクガクさせながらも三叉槍を構えた。顔は蒼ざめ大量の汗をかき、疲労感は隠せなかった。五行の印を使っての戦闘は予想以上に身体に負担が掛かるもの。実際ゲイルは立っているのがやっとの状態だった。


 「どうやら限界みたいだね。でもまあ続いたほうだよ。ちょっとびっくりしたしね。

  戦いは兵力じゃなくて兵法・・・これ基本だよ。」


 ジェイドは疲労困憊感漂うゲイルの肩をポンと叩くと意識を失ったゲイルは前かがみに倒れた。笑顔を浮かべながらジェイドはミカのほうへ近づこうとすると大理石の壁が「ドカッ」と吹っ飛んで大穴が開いた。王座の間の大理石の壁がボロボロと落ちていく。埃が落ち着つくとそこにはタカヒト達の乗ったグローディアが倒れこんでいた。

 警備隊との交戦を終えたマイコが戦闘を避ける為に屋根に移動していた。しかし自動操縦にしていたものの目標を完全に設定していなかった為に想定外の動きをしたグローディアが勢い良く王座の間に突っ込んでしまったわけである。グローディアの中でミゲールは頭を打って気絶している。タカヒトとマイコは埃まみれの操縦席から咳き込みながら出てきた。


 「ゴホッ、ゴホッ・・・マイコちゃん。もうちょっと何とかならなかったの?」


 「うっ、うるさいわね!生きてるんだからいいでしょ!あれ?ちょっとゲイルが倒れて・・・あっ!鬼王がいる。」


 「えっ・・・あっ、ミカちゃん!!」


 「タカちゃん!!」


 タカヒトの存在に気付いたミカはグローディアに向って走り出した。だが即座にジェイドはミカの前に立ち塞がると指をパチンと鳴らした次の瞬間、ミカの身体が凍り始めた。完全に凍りついたミカの姿に驚愕したタカヒトはグローディアから転がり落ちた。


 「ミカちゃん!」


 床に叩きつけられても痛みなど忘れているかのようにタカヒトは立ちあがると急いでミカの元へ走っていく。氷付けの塊になったミカは身動きひとつせずにすこし驚いた表情をして固まっていた。名前を何度も呼びかけてもミカは何の反応も示さず隣に立っていたジェイドにタカヒトは泣きながら言った。 


 「元に戻してよ。やっと、会えたのに・・・僕、ミカちゃんに謝りたいんだ。」


 足にしがみつくタカヒトにジェイドは軽く突き放すと廻しゲリをあびせた。体重の軽いタカヒトは簡単に吹っ飛ぶと地面に叩き付けられた。苦悶の表情を浮かべるタカヒトを見下しながらジェイドはため息をつく。


 「あのさぁ~、ゲームなんだから勝ってもないのに景品がほしいはないでしょ?まあ、とりあえず安心してよ。ミカは生きてるから・・・いまのところはね。でも、いつまで持つかねぇ~~?はやく僕を倒さないと無理かもね。」


 ジェイドが機嫌良く話している最中、タカヒトは急に立ちあがるとジェイドの右頬を力いっぱい殴った。しかし顔が少しずれた程度でジェイドにダメージはまるでない。


 「もしかして今のが精一杯の反撃?」


 ジェイドはタカヒトを過小評価していた。てんとと一緒に行動しているだけの子供であり愛しい彼女を無力であるにも関わらず取り戻そうと勘違いしている子供だと。精一杯の攻撃でも自分に全くダメージを与えることが出来ない軟弱な存在。タカヒトがこの世界に存在できたのはてんとに守られてのこと。ジェイドは考えを頭の中でまとめていてタカヒトの変貌には全く気が付かなかった。金色に輝いているタカヒトの右拳が再びジェイドの右頬に触れるとその凄まじい衝撃にジェイドの身体は勢いよく吹っ飛んで王座の椅子に叩き付けられた。


 「ガハッ!何?ぐうっ・・・こっ、この力は・・・?金色・・・だと??」


 立ちあがろうとしたジェイドはガクガクした膝を両手でおさえた。金色に輝いている姿を見てジェイドは状況を理解した。それは徳の水による急激な力と運を手にした者の姿であり金色タカヒトを強敵と認めた上で冷静に攻撃方法を模索していく。金色タカヒトは一気にジェイドとの間合いを詰めると左右の打撃の連撃を浴びせる。それと同時にジェイドは青玉を発動させて水の盾を作り連撃をガードするがそれでもお構いなしに金色タカヒトの連撃は続いた。  

 金色の輝きが薄まると金色タカヒトはフロアの端へ素早く移動してジェイドから距離を取った。追撃するジェイドは金色タカヒトのその行動に困惑していた。戦況がかわり今度はジェイドの一方的な攻撃に防戦一方の金色タカヒト。ジェイドは余裕の表情を浮かべている。


 「もう終わりかい?それとも徳の水が空にでもなったのかな?」


 ジェイドはバカにした口調で挑発するが金色タカヒトはそれを気にせず別のあることを考えていた。金色タカヒトがある場所に目をやると凍りついたミカを担いで王座の間から出て行くマイコの姿があった。金色タカヒトはてんとが手も足も出なかったジェイドをものすごく恐れている。実際ゲイルは全く歯が立たずジェイドに敗れている。だがそれほどの能力があるにも関わらずミカを奪い去り危険な目に遭わせたジェイドに怒りも覚えていた。恐怖と激怒はそのどちらもが戦いには不利になることが多い事を金色タカヒトは冷静に分析していた。畜生道でのデノガイドとの戦いと同様、命がけの戦いにも関わらず妙に冷静でいられる。

 これも「徳の水筒の力だろう」と金色タカヒトはこの時考えていた。氷付けのミカを担いで部屋を出て行くマイコの姿はジェイドの視界にも入っていた。


 「・・・なるほどね。あの子達を逃がす為とはね。結構冷静なんだ。君がここまでこれたのはてんとの助けがあったからだと思っていたけどどうやら僕の勘違いだったようだね。邪魔者がいなくなった事だし本気でいくよ。蒼玉理力 アイスアロー。」


 蒼色の輝きを放つジェイドは複数の氷矢を一斉に金色タカヒトに撃ち込んだ。徳の水筒を飲み再び金色の輝きを取り戻したタカヒトは複数の氷矢をかわすと瞬時に蒼ジェイドに接近して打撃の連撃を繰り出す。蒼ジェイドは青に輝くと自らの身体を覆うほどの水の壁を作りだして連撃を阻止した。


 「防御だけじゃないよ。同時に攻撃も行うことが出来るんだよ。」


 ジェイドは青玉の防御と同時に蒼玉理力アイスアローを撃ち込んできた。ジェイドは蒼玉と青玉のふたつの能力を同時に使いこなせるのだ。氷の攻撃力と水の防御力でジェイドの兵法は常に完璧だった。アイスアローをかわして再度、打撃の連撃を繰り出すが青蒼ジェイドの水の壁に阻まれる。金色タカヒトは攻撃を止めて一次的に距離を取るように後方へバックステップする。その直後、金色タカヒトは一気に青蒼ジェイドの頭上にジャンプした。


 「身動きのとれない空中に身を置くとは愚かな。串刺しにしてあげるよ。」


 楕円体になったウォーターウォールは青蒼ジェイドの身体を完全に包み込んだ。高速に回転する楕円体の周辺から氷矢が一斉に金色タカヒト目掛けて襲い掛かってくる。金色タカヒトは氷矢の軌道を確認するとその矢を踏み台にしながら青蒼ジェイドを包み込んでいるウォーターウォールに迫っていく。金色となったタカヒトは人道の学校で教わった事を思い出していた。


 「台風は周囲に雨や風・雷・雹などを降らせるがその中心は案外穏やかなんだよ。

  おい、そこ!聞いてるか?」


 金色タカヒトは台風の目を、ウォーターウォールの中心を捜していた。氷矢を踏み越え青蒼ジェイドの頭上にあるウォーターウォールの小さな、小さな孔を見つけた。金色タカヒトは右拳に力を溜め一気にそれを振り下ろした。金色の波動が中心にぶつかると水の壁が弾け飛ぶ。驚愕する青蒼ジェイドの目前に着地すると眼を光らせた金色タカヒトの左拳が腹部に突き刺さった。深く突き刺さった金色タカヒトの左拳が青蒼ジェイドに苦悶の表情を浮かばせた。


 「ガハッ!」


 後方に吹き飛び青蒼ジェイドの身体が壁に打ち付けられたと同時に追い討ちをかける金色タカヒトは壁に張り付いた青蒼ジェイドに左右の拳の連撃を食らわせた。部厚い壁に青蒼ジェイドの身体がめり込んでいくと最後に金色タカヒトの渾身の右拳が青蒼ジェイドの顎を突き上げた。


 「アッ、ガガッ・・・・・・」


 壁に張り付いた青蒼ジェイドは苦悶の表情と呻き声をあげながらズルズルと落ちていくと大理石の床に倒れこんだ。


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