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未来のきみへ   作者: 安弘
新天道編
228/253

スマイルシステムの力

 「この場にいることを後悔させてくれるわい!」


 「なぁ、ひとつ聞いていいか?おまえ・・・誰?」


 「そう、それ!アタシも聞きたかったんだ!誰?」


 「リディーネもそう?俺も聞きたかった。誰?」


 「おのれぇ~・・・いいだろう、心して聞くがよい!ワシこそが天道兵を率いる最高責任者、シルバーボス統括司令官である。」


 「なんか、ビックボスとかぶる感じがしねぇか?」


 「そうね・・・かぶるわね。」


 ドレイクとリナの会話に激怒したシルバーボスは地団駄を踏みながら怒りを表現していた。そしていきなり懐から拳銃を取り出し銃口を向けてきた。ミカが機転を利かせ、桜色のシールドをドレイク達の前に築いたがシルバーボスが手にした銃口は研究者達に向けられた。数回にわたり、発砲音が部屋に鳴り響くと研究者達がバタバタと倒れていく。


 「・・・研究者達はお前の部下だろ?何故だ?」


 睨みをきかせながらドレイクは言った。シルバーボスは何事もなかったかのように拳銃を床に捨てるとまたしても懐から携帯端末器を取り出しスイッチを押す。ドレイク達のいる部屋にはいくつかのドアや窓がある。その窓を覆うようにぶ厚い鉄板が降りてきた。


 「これで逃げ道はなくなった。お前達はここで死ぬのだ!」


 「言っている意味がまったくわからんな。お前一人で俺たちの相手をするのか?」


 「くっ、くくく、スマイルシステムの恐ろしさを見せてくれるわい!」


 「スマイルシステム?」


 そう言うとシルバーボスは研究者達が倒れているところに歩いていく。再び、携帯端末器を操作すると拳銃で撃ち殺された研究者達が何事もなかったかのように立ち上がった。


 「先ほど放った弾丸はスマイルウイルス。スマイルシステムの基幹なのだよ。」


 「スマイルシステム・・・先ほどの兵士達もそうだと言いたげだな。」


 「ほう、戦闘だけの筋肉バカではなさそうだな。よろしい、死に行くお前にシステムの情報をプレゼントしてやろう。」


 シルバーボスは顎ヒゲを撫でながら言った。スマイルシステムは研究者達が懸命になって取り組んだ老化速度減少研究の総称である。天道でも高齢化について問題が及んでいた。もちろんピサロも例外ではない。日々、老化していく自らの身体に悩んだピサロは研究者達に老化速度を抑える新薬を開発するように命じた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「出来そうかしら?」


 「難しいですが必ずや、ご期待に添えられるように懸命に努力いたします。」


 「お願いするわ。今回のプロジェクト名は決めてあるのよ。名をスマイルシステムとするわ。誰もが喜べる新薬を作ってちょうだい。」


 「はい、スマイルシステムを完成させてごらんにいれましょう。」


 こうしてスマイルシステムの開発は始められた。数々の実験が行われていくがもっとも有効だったことが細胞の活性化により老化を抑えるものだった。しかしこれには致命傷と呼べる欠陥が存在していた。


 「思考の低下?つまり感情や自らの考えで行動できなくなるってことかしら?」


 「恐れながら、ピサロ様・・・スマイルシステムは神に逆らう行為であると個人的に思っております。この新薬を投与すれば細胞は活性化され、さらに身体機能を向上させることも可能です。されど感情や思考を失ったその者はまさに生きる人形と化してしまうのです。」


 「なるほどね・・・いいわ、今回のプロジェクトは保留にしておくわ。研究実績レポートと新薬を提出してちょうだい。外部に漏れると危険だから。」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「スマイルシステムは保留されずに別の研究チームにより継続され続けた。もちろん兵器としてな。」


 「研究者の何人かは秘密保持の名目で殺されたのだろうな。」


 「フフフ、自らの研究とは全く違う使われ方に抗議した不届き者もいたが、お前の推測通りにことを進めた。老化速度を抑える新薬にマレチナの改良、さらに機械人形のマスティアの技術を投入することで得たコンプリート機能。」


 「逆らわず、恐怖を感じない最強の兵を手にした喜びは隠せないようだな。だがその兵士達はもういない。」


 「いない?おかしなことを言うものだ。目の前におるではないか。」


 「目の前にいる研究者は武装されてはいない。素手で俺たちに勝てると?」


 「フフフ、では見せてくれよう。スマイルシステムの力は武装によって得られるものではない。真の力は・・・・ガフッ!」


 突然のことにアレス、リディーネ、ミカ、リナどころがドレイクすら驚愕した。いままで得意になって話をしていたシルバーボスの顔が、手が、脚を一本ずつ口にくわえた研究者達が目前にいたからだ。


 「今の動き・・・見えなかったわ・・・」


 「俺も・・・」


 「アッ、アタシは見えてたわよ!・・・嘘、嘘!やっぱり見えない。」


 震える声でリナが言うと続けてアレス、リディーネが言った。白衣は着ているものの、研究者達に理性といったものは見られない。自らが口にした手や脚によだれを垂らしながらムシャムシャと喰らいついた。奪い合うようにバラバラになったシルバーボスの身体を喰らうとすぐに食糧もなくなった。新たな食糧を探している彼らの眼にドレイク達の姿が映った。


 「まだ腹が減っているようだな。」


 「そうは言っても食肉になるのはごめんだわ。」


 「ミカ!シールドをひとつにして強化しろ。」


 ミカはドレイク達に近づくと皆を覆うシールドを形成した。ドレイクは相手の出方を観察した。正直言って動きはまるで見えなかった。先ほどのスマイル部隊兵よりもスピードはあるようだ。シルバーボスの言ったとおり、スマイルシステムの戦闘力は武装に影響されるものではないことはわかった。


 「恐ろしいモン、造りやがって・・・さて、どうしたものかな。」


 「ドレイクにしては弱気ね。ここにずっといるってわけにはいかないわよ。」


 「まあな・・・しかしさっきから何してんだ、アレは?」


 ドレイクは首を傾げていた。ミカの形成したシールドを破壊するわけでもなく、取り囲んだ研究者達はシールドに触れながらジッと見つめていた。攻撃パターンを読むつもりだったドレイクにとってこれは想定外である。


 「さすが研究者だな。観察して分析までしてるぜ。」


 「感心してないでなんとかしないと・・・生身なのだし、雷撃を浴びせてみようかしら。」


 ミカのシールドから独り飛び出したリナはエレメントを高めるとサンドラドックを放った。サンドラドックは研究者達に噛み付くと激しく感電した。シールドを解いたミカはドレイクとともにその様子を伺っている。サンドラドックが消えて黒焦げになった研究者達はその場に突っ立ったまま動こうとはしない。


 「光のように動けてもやはり雷には勝てないようね。」


 「リナ、アレを見て!」


 ミカに言われてリナが黒焦げになった研究者達を見た。するとそこには自ら焼け焦げた皮膚をバリバリを破き取る姿だった。焦げた皮膚を落とすと真っ赤に染まった筋が見えたがそれもすぐに皮膚が覆いかぶさっていく。もとの姿を取り戻したように見えるがその皮膚は以前のように白くやせ細ったものではなく、屈強の戦士のような鋼の肉体をしていた。


「おいおい、青白かった奴らが一瞬にして超戦士になりやがったぜ。」


 超戦士となった研究者のひとりがドレイクを見据えると同時にドレイクの身体が九の字に折れ曲がった。研究者のひとりは更に膝を折り曲げるとドレイクの顎に突き刺した。大の字になって倒れたドレイクに追い討ちをかける研究者だがミカがシールドを築くとその目前で止まった。


 「ドレイク、大丈夫!」


 「ああ・・・少しクラクラするがなんとかいけるぜ。」


 「あのスピードは厄介ね。私の雷撃もたいしたダメージを与えられないわ。」


 「このまま、篭城ってわけにもいかないしな。」


 「ねぇ、ドレイク。あれだけの力だとピサロにしても脅威のはずだよね?何か制御するものがあると思うんだけど・・・。」


 「賢いじゃねぇか、ミカ。たしかにその通りかもしれねぇ。ただ、問題はそれがどこにあるのかってことだ。」


 「ここって研究室でしょ。データとか残ってないのかな?」


 「・・・一か八か、やってみるか!」


 ドレイクはリナに雷撃を続けるように指示した。リナの雷撃ではダメージを与えることはできないが皮膚の形成時間がかかる。つまり時間稼ぎができるわけだ。そこにドレイク達が部屋にある研究資料やデータの中から見つけなければならない。


 「くそっ、探す時にはなかなか見つからないもんだな。」


 「アタシ、パス!こういうのって向いてないんだよね。」


 「そんなこと言ってる場合かな、リディーネちゃん!」


 場所を考えずにリディーネとアレスは喧嘩を始めた。学ぶ事が苦手なリディーネとアレスであったがそれはドレイクにも同じだった。資料は山のようにあり、学ぶことが一番苦手だと豪語するドレイクにとってこれほど厳しいことはない。


 「こんなことなら、ジェイドかてんとを呼ぶんだったぜ。」


 ひとりブツブツ言いながら資料をめくっていくドレイクとリナのエレメントの消費量を考えながら資料を見ているミカ。そして関係なく喧嘩しているアレスとリディーネ。ミカが気にしていた通り、リナのエレメントが消費されていく中、研究者達の身体は強化されつつあった。傷つけられた皮膚は強固に補強されていくものである。雷撃が皮膚を焼き焦げさせることができなくなった頃、最強の防御力を手に入れた研究者達は攻撃に転じようとしていた。


 「雷撃が完全に効かなくなったわ!」


 「くそっ、いよいよヤバくなってきやがった!」


 「ドレイク、これを見て!」


 ミカはドレイクを呼ぶとある資料を見せた。それにはスマイルシステムの詳細が書かれていて、細かい分析も載せられていた。


 「よし、いいぞ。これならなんとかなるかもしれん。あとはこれを集める時間が必要だな。俺が時間を稼ぐからふたりで捜してくれ。」


 「アレスとリディーネは?」


 「しばらくほっておくしかないな。気にしないで行ってくれ。」


 「この資料によると大半の材料はここにあるみたいだけど、アルファGって呼ばれる薬品だけは別の研究室にあるみたい。」


 「リナの雷撃も効かない以上、俺がここを食い止めるしかない。行ってきてくれ。」


 「わかった。決して無理しないでね。」


 ドレイクはうなずくと攻撃に転じてきた研究者達に斬神刀の刃先を向けた。リナに細かい説明をするとミカと共にドアに向かって走り出した。


 「抜刀術奥義 癸の型 応用技 流水斬!」


 床を這うような斬撃はミカとリナの間をすり抜けてドアを破壊した。そのドアをすり抜けるとふたりは姿を消した。ミカとリナを追いかけようとした研究者達を阻むようにドレイクは破壊したドアの前に仁王立ちした。


 「おいおい、女のケツを追い掛け回すのは巷じゃ、ストーカーっていうんだぜ。お前らの相手は俺がしてやる。なに、礼には及ばねえよ。」


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