アルヒャイ・キャッスル
「はぁ~・・・やっぱりお茶はバラに限るわ。」
「お楽しみ中のところ申し訳ございません、ピサロ様。キャッスルへの侵入者を確認いたしましたので報告に伺いました。」
「本当に申し訳ないことよ。そんなことはあなた達でなんとかならないものかしら。」
「おっしゃるとおりにございます。されど今回の侵入者は特A級クラスのエネルギーを保有する者達。故にスマイルシステムの使用許可を願います。」
「あれを使うわけ・・・後処理が大変だけどいいわよ。許可するわ、統括指令官。」
「ありがとうございます。」
統括司令官は一礼すると部屋から出ていった。再びティーカップを手にバラの香りを楽しんでいるピサロの隣にはアリシアがいた。
「恐ろしいエネルギー体ですわ。どうやら封印を解いたようですね。スマイルシステムだけでは防げないのでは?私が出向きましょう。」
「その必要はありません。アリシアさんにはやっていただくことが他にあります。」
ピサロから笑みがこぼれた。その頃、スマイルシステムの配置が完了すると部隊から統括指令官に報告があがった。
「統括司令官、システムの配置が完了いたしました。しかし特A級クラスのエネルギー体はさらに増え、その数が増しつつあります。」
「フフフ、ならばスマイルシステムも増産せねばならんな。至急、準備せい!」
突然の増産に研究者達は急ぎ手配を行う。増産には兵士が必要なのだが、その兵士を確保するのに時間が必要だった。部隊を三つに分けることで兵士の均等性と補給時間を稼ぐことで編成を保とうとするがこれには研究者の一部から反発もあった。
「しかたなかろう・・・逆らえば、殺される。」
研究を取り仕切る教授は渋い表情で言う。教授自身、システムの使用を嫌っている。自らの研究とは全く違う使われ方に嫌悪感すらある。しかしピサロの言葉は絶対、逆らう事など誰にもできはしない。その教授達の前には兵士達が集められている。何も知らされてはいない兵士達が・・・。
「各員、配置につけ!我が天道を侵略者から守るのだ!」
兵士達は急いでシステムのセッティング位置につく。統括司令官の指示で研究者のひとりがスイッチに触れる。すると兵士の身を包むようにプロテクターが瞬時に取り付けられた。いや、プロテクターというよりは二足歩行の装甲機といってもいい。その姿からは兵士がいるとは想像がつかない。初めての体験に兵士は困惑している。
「プロテクター装着完了・・・次の段階に移行!」
「何をしておる!早くせんか!」
統括司令官に激を飛ばされた研究者は教授の顔を見つめた。教授が頷くと渋々、レバーを下げた。するとプロテクターの装着された兵士の背後にバカでかい針が現れた。それは兵士の脊髄付近に移動するとプロテクターに深く突き刺した。悲鳴が辺りを包み込み研究者達は耳を塞いだ。その悲鳴もしばらくすると止み、兵士達からは異様な空気感が流れてきた。バカでかい針が抜かれると統括司令官はゆっくりと彼らの前に歩いていく。
「勇猛果敢な兵士諸君!我らの勝利はお前たちにかかっていると言っても過言ではない。行け!侵入者どもに後悔の念を叩き込んでやれ!」
統括司令官の合図とともにプロテクターを装着した兵士達が一斉に飛び立っていく。その姿はすぐに統括司令官からは見えなくなった。
「教授、システムに異常は?」
「ございません。正常に機能しております。」
「よかろう。コンプリート機能も発揮されるであろうな?」
「もちろんでございます。」
確認を取った統括司令官はなにも語らずにその場から去った。その場に残された研究者達はただ黙ったままであった。そしてしばらくすると次の部隊でもある兵士達が集められた。なにも知らされていない兵士達からは緊張感とともに決意が感じられた。その表情を見つめることが教授にはできない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あれがピサロのいる城か。」
「ドレイク、気配を感じるわ。」
「ああ、歓迎ムード一色って感じだな。んじゃあ、いっちょ、やったるか!」
目前にアルヒャイ・キャッスルを見下ろす高台にいるドレイク達。そこに多数の殺意が向ってきている。戦闘体勢を取る彼らはジッとそれが来るのを待っていた。ロードギアで分析していたマイコから分析結果が出た。
「来たよ!物凄いエネルギー体・・・数は百くらいで生命反応はないよ。」
「なるほど、機械人形ってわけか。マスティアの類かもな。玄武、行くぞ!」
(ええで!)(玄武)
ドレイクから神々しい輝きが放たれると空間が歪んでいく。その歪んだ場所から高濃度粒子砲が放たれた。数千の高濃度粒子の線が向ってくるエネルギー体に放たれたが紙一重でかわされた。
「何アレ!移動に動力が使われてないよ。」
「どう言う事だ?」
マイコの説明によるとロードギアもそうなのだが本来、機械が動くにはエンジンや蒸気のように動力装置が必要になる。ロードギアは天光発電システムにより起動しているが動力装置が作動している熱量がまったく見られない。
「つまりアレには動力がついてないってことか?」
「わからない・・・ただ、理論的には可能だわ。無反動動力装置。でも、それを造るには高度な技術が必要なの。」
「あるんだろ、その技術ってやつが!よし、編成を変えるぞ。リナとミカ、リディーネは後方支援、アレスと俺で接近戦に持ち込むぞ!マイコはやつらの分析を頼む!行くぜ!」
ミカがシールドを形成、リナが長距離雷撃を、リディーネが火炎を放つ中、魔人のこん棒を手にしたアレスと斬神刀を持つドレイクがその場を飛び立った。戦闘の様子をモニターで見ていた教授が言った。
「無駄なのだよ。あの装甲は工事現場用プロテクターを改良したもの。どのような衝撃にも耐える上、動力を必要としないこの地だけの限定装置無反動動力装置を取り付けてある。攻撃を当てることも出来ないだろう。彼らはスマイル部隊。意味もなく笑みを浮かべながら殺戮を繰りかえす集団なのだ。」
それからスマイル部隊の猛攻が始まった。劣勢に追い込まれながらもドレイクの作戦は的確で次第に優勢になっていく。空中戦はドレイク、アレスに有利でスマイル部隊兵は地上へと落下していく。リナの雷撃も接近してくるスマイル部隊兵には有効で迎撃に成功しつつある。
「優勢に向ってる。このまま、押し切れるかしら。」
「ダメ・・・倒してるけど、アイツらのエネルギーの低下が見られない。倒れた機械もすぐに起き上がってくるよ。」
マイコの分析は正確だった。地面に落下したはずのスマイル部隊兵はムクリと起き上がると何事もなかったかのように攻撃を繰り出してくる。それに反比例するようにドレイクとアレスの体力は低下、リディーネ、ミカ、リナの理力・闘気も低下していく。
「くそ!持久戦に持ち込む気だな。」
「ヤバイ感じだよ。けっこう、疲れたし・・・」
アレスの疲労もかなりのものだった。ドレイクは斬神刀を振り上げる。マテリアルフォースを全開に開放したその姿は鬼神のようにも見えた。
「抜刀術奥義 戊の型、速連波!」
凄まじい斬撃がスマイル部隊兵を斬り裂く。機械人形だと思っていた・・・しかし・・・
「アレス、一時、撤退するぞ!」
アレスとドレイクはリナ達の元へ降下していく。途中、スマイル部隊兵を倒しながら、ミカのシールド内に入り込む。ドレイクは闘気を高めると地面が陥没して地下シールドを形成したドレイクはひと息つくと言った。
「思った以上に厄介な相手だな・・・マイコ、分析結果はどうなった?」
「正直よくわからない。エネルギー反応を見ると機械人形のようにも見えるけど、そのエネルギー反応は天道人とも一致するよ。」
「機械の中に天道人が?」
マイコは頷いた。最強部隊は天道人だと知ったドレイクは驚きを隠せない。そう、ドレイクが斬り裂いた機械人形の中から断末魔を叫んだ表情の天道人が二分されていた。さらにマイコの説明は続く。機械人形内の天道人には意識はないらしい。薬物によるものなのかは定かではないが気配らしきものは感じられない。内部の天道人は機械人形を可動させるエネルギーとしての役割しかはたしていない。
「その上、装甲は強固、無反動動力により素早い動きが可能か。まあ、分析は正しいだろうな。抜刀術奥義をもってして、やっとあれを捉えることができたんだ。さて、どうする?アレをやるには数が多すぎるぜ。」
「そうね、ミカもリディーネも疲労が蓄積されつつあるわ。」
「あっ、俺も俺も、疲れてるし。」
「アレス、アンタ、男でしょ!」
「リディーネちゃん、男でも疲れるのは一緒でしょ。」
アレスは疲れきった表情でその場に座り込んだ。しかしスマイル部隊はアレスの休息すら許さない様子でドレイクの築いた地下シールドを破壊していく。
「アレが機械人形である以上、操作している場所が必ずあるはずだ。おそらくはアルヒャイ・キャッスル内だろう。俺とリナ、リディーネで破壊に向う。アレス、お前はマイコの分析通りに動け。ミカを守ることも忘れるなよ。」
「え~・・・なんでリディーネちゃんも連れてくわけ?」
「雷撃と火炎は機械人形の回路をショートさせる。一瞬でもアレから動きを止められれば、後はなんとかなるだろう。」
「一瞬でもですって?バカ言わないで。アタシの火炎を知らないわけ?」
「フッ、そういうことだ。アレス、任せてもいいか?」
「わかった!ミカちゃんとマイコちゃんは任せてくれ。」
ドレイクとリナ、リディーネはアルヒャイ・キャッスルへ、アレス、ミカ、マイコは地下シールド内で篭城することになる。
「シールドは複層築いておく。機械人形の能力を考えるとタイムリミットは数時間といったところか。それまで凌いでくれ。」
ドレイクから神々しい光が放たれると土の壁が何層も築かれてシールドが複層形成された。
シールドの出来を確認したドレイクはシールドをほんの少しだけ開く。
「必ず、戻ってくるから諦めるなよ!んじゃあ、いっちょ、行くぜ!」
ドレイクは玄武の背中にリナとリディーネを乗せると一気に急上昇していった。地上に飛び出したドレイク達に群がるようにスマイル部隊兵が攻撃を仕掛けてきた。
「オーバーエレメント リ インドラ メガラウンド!」
「最大闘気 獄熱地獄!」
恐ろしく巨大な火炎輪が上空より堕ちてくるとスマイル部隊兵は火炎塗れになった。さらに大きな雷神の腕が現れ、スマイル部隊兵を握り締めていく。機械人形として回路を焼かれ、過電流を受けたことにより、一瞬の間、機能を停止した。その隙に地下シールドは塞がり、ドレイクの玄武はアルヒャイ・キャッスルへと向う。