ビックな人達との生活
「タカヒト!どこにいるんだい!!」
「えっ!呼んだ?」
「あんたも口のきき方がなってないわね。奴隷なんだから主人に対してその言い方はないでしょ!」
「呼んだですか?」
「・・・・・もう、いいわ。洗濯物が乾いたようだから取り込んでちょうだい。」
「うん、わかった。」
「ところでアンノウンは?」
「えっ、知らないよ。さっきまであそこに・・・あっ!木の上で寝てる。いいなぁ~。ねえ、これが終わったら僕も休んでいい?」
「あんた達・・・まあ、いいわ。好きにしなさい。」
奴隷と呼んでいてもその意味が理解できていないのか、そんなタカヒトとアンノウンにビックママは頭を痛めていた。タカヒトがこの地に来てかれこれ数週間ほどが経っている。最初は恐がっていたアンノウンともすっかり友達になったタカヒトは洗濯物を急いで片付けるとアンノウンがいる木に登っていく。タカヒトがちょっかいを出すと迷惑そうにアンノウンはのけぞる。面白がったタカヒトはアンノウンに再びちょっかいを出すと面倒臭そうにアンノウンは木から降りて調理場に向った。独り残されたタカヒトは木の上でしばらくの間、流れる雲を見つめていた。ビックママに敗北してから奴隷として生きているタカヒトではあるがなんとなく心地いい気分でもあった。このままここで生きていてもよいと思えるほどに。
「いただきます。」
タカヒトはテーブルに用意された料理を口にする。アンノウンの作る料理は本当においしいものばかりだった。しかしそのアンノウンが自ら作った料理を食べた姿をタカヒトは見たことがない。
「ねえ、ビックママ。どうしてアンノウンはご飯を食べないの?」
「さあね、奴隷一号としてここに来た時から食べた姿を見てないわ・・・というか、主人と同じテーブルで一緒に食べているアンタのほうがおかしいんだけどね。」
「そう?独りで食べるより大勢で食べたほうが楽しいよ。」
「いまひとつ、奴隷の意味がわかってないのよね。とにかくアンノウンには関わらないでちょうだい。」
「どうして?だって友達だよ。」
「あんたと一緒にいる者は皆、友達ってわけじゃないのよ。だったらアタシも友達ってことになるじゃない。」
「ビックママは友達じゃないよ。」
「そうでしょ!やっと理解できたようね。」
「理解?ビックママは友達じゃなくて、ビックママはママだよ。」
「・・・・・スープが冷めるから食べなさい。」
「うん!」
嬉しそうにスープを口に運ぶタカヒトをビックママはコーヒーを飲みながら見つめていた。それから数日ほど経過した頃、ある人物がビックママの家を訪れた。
「久しぶりの我が家じゃが変わった様子はなさそう・・・なんじゃ!なんでここにおるんじゃ?」
タカヒトの姿を見つけたビックボスが声をあげた。しばらく考え込むとビックボスは家のドアを開けてビックママの名を叫んだ。
「なんだい、うるさいね!」
「おおう、なんじゃ!無事じゃったか!」
「何を言っているんだい。ボケたのかね?」
「馬鹿たれ!そんな歳ではないわい!そんなことはどうでもよい。何故、朱雀のタカヒトがここにおるのじゃ?」
「なんだ、そんなことかい。」
タメ息をついたビックママはイスに座るとコーヒーを飲みながらこれまでの経緯を話した。外ではアンノウンと神獣それにタカヒトが遊んでいた。その姿を見つめながらビックボスは言った。
「して・・・このことは・・・」
「話してないわ。」
「反逆者とされても言い訳できぬぞ。」
「あの子を見てると昔を思い出す。」
「・・・・汗を流してくる。」
そう言い残すとビックボスは部屋を出ていった。ビックママはコーヒーを手にしながら外で遊んでいるタカヒト達をずっと眺めていた。陽が傾く頃、アンノウンは遊びを止めて食事の準備を始めた。それでもタカヒトと神獣達は遊びを止めずにいるとビックママに怒られ、やっと部屋に戻ってきた。
「楽しかった。あっ、さっきのおじいさん。ねぇ、ビックママ。誰なの?」
「このおじいさんはね・・・」
「ええい!そんな歳ではないと言っておろうが!よいか、朱雀のタカヒトよ!このワシこそが天道最強の剣術士ビックボスじゃ!」
「ねぇ、ビックママ。このおじいさん、ひょっとして・・・」
「アッ、ハハハ。違うわ、タカヒト。けっしてボケてはないわよ。」
「なんじゃと!ボケているじゃと?おのれぇ~、我が刃の錆びとしてくれようか!」
ビックボスは部屋を出て行った。そして再び戻ってくるとその手には二本の小太刀が握られていた。
「朱雀のタカヒトよ!いざ、尋常に・・・」
「あっ、おじいさん。さきに食べてるよ。」
「くぅ~、おのれぇ~、まだ、言うか!」
「いいかげんにしないと怒るわよ。」
「うっ・・・・きょ、今日のところは見逃してやろう。」
ビックママの一言に顔を蒼くしたビックボスは小太刀を鞘に入れるとイスに座った。スープをすすりながらも睨みつけるビックボスにタカヒトはニコニコと笑顔であった。すっかり戦意を失ったビックボスは肩をガクッと落として諦めたようにスープに手を伸ばした。