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未来のきみへ   作者: 安弘
新天道編
220/253

ビックママ

 タカヒトは神獣を連れて花畑を歩いていた。花の種類こそわからないが綺麗な花に囲まれたタカヒトはなんとなくミカのことが気になっている。ミカがこの世界にいるとわかっていながらもピサロに捕らわれてはいないかと心配だった。


 「ミカちゃん・・・大丈夫かな・・・」


 「貴様、なにを腑抜けたことを言っている。目前に敵がおるのに余裕なものじゃ。」


 「えっ?」


 朱雀の言葉に驚いたタカヒトは花畑を見渡した。そこには中年らしき女性が花を摘んでいるほかには誰もおらず、朱雀が言う敵とはその女性のことだとは理解した。


 「敵ってあの人のこと?」


 「のん気な奴よ。あの者がビックママではないか。」


 「ビックママ?」


 朱雀とタカヒトの会話が耳に入った女性は立ちあがるとタカヒトを見つめた。その手には摘んだ花束がある。女性はおもむろに近づいてくるとタカヒトに声をかけた。


 「はじめましてかしらね、朱雀のタカヒト。」


 「僕のことを知っているの?」


 「もちろん知っているわ。私はビックママ。ビックボスの妻で、ピサロ様に仕える者。あなたの為にこの地を用意しました。美しい朱雀の死場には花畑がよく似合うものよ。」


 「えっ、死場?」


 タカヒトにはその言葉が理解できなかった。ビックママは花束を手放すとユラリユラリと地面に落ちていく。花束が地面に落ちた瞬間、ビックママの胸元が光った。それはスローモーションのようにタカヒトに襲い掛かってきた。悲鳴をあげたのはタカヒトの胸元にいたリッパーだった。ビックママの鋭い何かをリッパーが身を犠牲にしてタカヒトを守った。地面に落ちたリッパーをタカヒトは震える両手で撫でる。リッパーの傷はかなり深い。インフェルノとパラディーゾはビックママを威嚇しているがタカヒトは立ちあがると泣きそうな表情で言った。


 「どうして・・・どうして話し合いで解決しようと考えないの?」


 「残念だけどそんなに単純ではないのよ。あなたが死ぬしか方法はない。」


 「インフェルノ、パラディーゾ・・・リッパーを連れて僕から離れて。」


 三匹の神獣が離れていくとタカヒトは両腕に狂刀羅刹を装着した。装甲の刃は拳を覆うような突きに特化した形状へ変わっていく。腰を低く落としたタカヒトは一気にビックママとの距離を詰めた。羅刹の鋭い二本の刃をビックママは軽やかにかわしていく。


 「いい太刀筋・・・なかなかのもの。」


 ビックママは二本の刃を潜り抜けるとタカヒトは腹部に激痛を感じた。息ができず、その場に膝をつくタカヒトはビックママを見上げるとその手に杖が握られていた。


 「太刀筋は悪くはないけど荒削り。それでは私には勝てないわよ。」


ビックママはタカヒトから視線を外すと花畑を眺めていた。腹部の痛みと呼吸が和らぐとタカヒトは刃の形状を装甲の外側に半月を描くように取り付けられていた刃へと変化させる。再び立ちあがるとタカヒトはビックママを中心に左右に高速移動する。自らの残像を残しながら高速で近づいていくがビックママは微動谷しない。


 「抜刀術奥義乙の型、輪斬刀!」


 半月の刃が水平にビックママの身体を捉えようとするが皮一枚の距離でかわしていく。斬撃だけではない。発生する風刃すらかわしていた。


 「まだまだ、抜刀術奥義壬の型、手斬輪!」


 水平からの斬撃を変えて上下から同時に斬撃がビックママに襲い掛かる。上からの斬撃をかわしたビックママに対して下からの斬撃が襲い掛かる。刃の軌道は確実に喉元を捉えていた。しかしビックママは杖の柄部で半月刃の軌道を変えるとバランスを失ったタカヒトの背後に回りこみ一撃を浴びせた。


 「があっ!」


 前のめりのまま倒れるとタカヒトの顔は泥だらけになった。ビックママは杖をついたまま追撃を行う様子もなく、ジッとタカヒトを見つめていた。


 「降参したらどう?」


 「ハァハァハァ・・・まだまだ!」


 タカヒトは闘気を極限まで高めていくと朱雀の力を得る。その神々しい光にさすがのビックママも驚きを隠せない。その背中には朱雀の翼が広がっているように見えた。


 「四神の力をここまで操るとは・・・私も本気にならなくてはね。」


 ビックママは持っていた杖の柄を握りその先をずらすと鞘から鈍く光る刃が現れた。長身の刃はビックママの身長をも上回る。長身の刃を自らの頭上に掲げると右片手一本で天を突くような体勢をとった。


 「私にこの型をとらせるとは大したものよ。」


 朱雀タカヒトはビックママから離れて上空に飛び立つと一気に降下していく。速度が増すにつれてその姿は完全に朱雀へと変わる。翼を広げた朱雀がビックママ目掛けて舞い降りた。ビックママの背後に朱雀タカヒトが着地した瞬間、静けさが辺りを支配した。長身の刃が砕け散るとビックママは片膝を地面についた。


 「紙一重・・・命を賭けたのはこれが二度目だわ。」


 ビックママが振り返ると狂刀羅刹が粉々に砕け、倒れているタカヒトがいた。そこには朱雀の輝きもなく、気を失っているタカヒトのまわりを三匹の神獣が守るようにいた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「うっ・・・・ここは・・・」


 目を覚ましたタカヒトは周囲を見渡した。木を組み合わせたログハウスのように見える部屋の一室でタカヒトはベッドの上にいた。タカヒトの意識が戻ったことに三匹の神獣達も甘えるようにすり寄ってきた。


 「リッパーの傷口が完治している。」


 リッパーの傷口に薬を塗ったような跡があり、自分にも包帯が巻かれて治療が施されていることに気付いた。ベッドの隣にあるテーブルには破壊され、粉々になった狂刀羅刹が置かれている。タカヒトは起きあがり、ベッドから床に足をつける。立ちあがろうとした瞬間、身体が思うように動かずにふらつくと床に倒れ込んだ。


 「まだ、動くには少し早いわよ。十日も寝ていたのだし、ムリしないほうがいい。」


 部屋のドアがカチャっと開くとそこにはビックママが立っていた。ビックママを威嚇する神獣達はタカヒトを守るように立ち塞がった。ビックママはタメ息をつくと手にした皿を床に置いて言った。


 「まったく、ペットの躾がなってないわね。治療して餌まで与えている私を威嚇するなんてなってないわ。」


 「なんで?」


 「・・・なんで助けたのかってことかしら?」


 タカヒトは黙って頷いた。するとビックママは部屋に入るとゆっくりとイスに腰掛けた。テーブルの上に置かれてある破壊された羅刹の破片を手にする。


 「なかなかいい仕事してるわね、この武具・・・でもあなたと一緒で荒削り。」


 それからもしばらく羅刹の破片を見つめながら、その出来栄えを確認しているかのように見えた。神獣達は警戒しながらもビックママの用意した餌に喰らいついていた。ビックママからなにかが語られることもなく、床に膝をついていたタカヒトはよろけながらも立ちあがると部屋を出て行こうとした。タカヒトがドアに近づいた瞬間、目の前に鋭い刃が振り下ろされた。ビックママの持つ長刀の刃先がタカヒトの首元に突きつけられた。


 「どこに行くつもり?」


 「どこって・・・」


 「自分の立場がわかっていないようね。敗北した者は主に従うべきよ。そうでなければ死を与えるしかないわ。」


 タカヒトはやっと自分の置かれている立場が理解できた。何故、ビックママが自分を生かしておいたのか?理由がわかった。朱雀の力を持ってしてもビックママには勝てなかった。しかも今、朱雀の反応はまったく見られない。いままでなら朱雀が語りかけてくれたり、心と心で繋がっている感覚はあった。それが今はまったくない。朱雀の存在も不明ではあるが、確定していることだけがひとつある。それはビックママの奴隷とて生きていくことだ。


 「私も鬼ではないわ。身体が完治するまで待ちましょう。」


 ビックママはそう言うと指をパチンと鳴らした。するとドアが開き、部屋に得体の知れない魔物が入ってきた。ここでタカヒトが得体の知れない魔物と言ったことには理由がある。タカヒトはここに来るまで様々な魔物を見てきた。多少の見た目には慣れているつもりだった。しかし今、目の前にいるその魔物はいままで見てきた魔物とは明らかに異なる。


 「これは私の奴隷・・・名はないわ。」


 その得体の知れない魔物をタカヒトはのちにアンノウンと呼ぶことになった。アンノウンはテーブル上の羅刹の破片を雑に床に落とすと手にした皿をテーブルに並べた。するとまた部屋から出て行く。この態度にはタカヒト自身が一番驚いた。


 「まったく、主がいるっていうのにあの雑な態度よ。あの奴隷、見た目は確かに悪いけど料理は絶品なのよ。だから細かい用事はあなたに頼むことにするわ。身体が治ったらこき使うから早く完治してちょうだい。」


 ビックママはそう言い残すと部屋を出て行った。奴隷として生きていかなくてはならなくなったタカヒトはミカやてんと達と二度と会えないことを思うと哀しくなった。しかしタカヒトは生きているのである。腹も減る。ふらつきながらもイスに座ると震える手でスプーンを握ると涙を流しながら食べ始めた。


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