ハンターの底力
「目が覚めたかの?」
「・・・・・ここは?」
タカヒトはベッドの上に横になっていた。どれくらい寝ていたのかわからないが腹部に痛みを感じた。隣にはてんとが寝ているが意識はない。声のほうに目を向けると年を取ったハンターが一匹椅子に座っている。その年老いたハンターは自らをコパと名乗り、てんとは生命に異常はなく意識が戻れば大丈夫とのことだった。コパはハンター族や餓鬼道のこと、そしてジェイド、いや鬼王が来てからのこの世界の変貌についてタカヒトに語った。そしててんとを連れてこの地を去るように伝えた。
「嫌だ!ミカちゃんを助けるまでどこにも行けない!」
「しかしのぉ~・・・」
「教えて!鬼王はどこにいるの?」
タカヒトは懸命になってコパじいに話しているとそこへゲイルが部屋に入ってきた。
「話は聞いた。よし、おまえ・・・タカヒトとか言ったな。俺と共に戦え!」
「??? ゲイル、何を言っておる!この者達には関わりないことではないか。」
「関わりはある!こいつらはミカとかいうやつを助けに行くんだろ?俺はやつを倒しに行く。目的は同じことだ。それにこいつらは妙な技が使えるようだ。俺達の五行の印のようなものがな。そうなれば味方はひとりでも多いほうがいい。」
たしかにゲイルは鬼王との戦闘を目的としてタカヒトはミカの救出を考えている。方向性といえば一致するのかもしれない。てんとの意識が戻らない以上ゲイルの助けは必要になる。ゲイルもてんとの緑玉の能力を知っていてタカヒトもその能力を使えると確信していた。しかしタカヒトの紫玉はここでは使えない。タカヒトはその事を隠していた。
「てんとと・・・一緒なら行くよ。」
「・・・戦いの準備が整い次第出立する。」
そう言い残すとゲイルは部屋から出ていった。ゲイルが何を考えているのかわからないがミカをなんとしても助けたかった。コパじいに促されタカヒトはその日はそのままベッドで休むことにした。
「ここは・・・・?? ミカちゃん、ミカちゃんはどこ?ミカちゃんを助けなきゃ!」
「無理だ!ジェイドには勝てない・・・・あきらめろ!!」
「てんとと一緒なら勝てなくてもミカちゃんを助けることは必ずできるよ。」
「無理だ!どうしても行くと言うのならタカヒト!おまえ一人で行くんだな。」
「なんでそんなことを言うの?どこ行くの?てんと!てんとぉ~~・・・どうしていつもこうなるんだ!うまくいくと思うといつも失敗する・・・・うまくいかない。なんでなんだ?どうしていつもこうなるんだ?僕は一生懸命やってるのに・・・何も悪いことしてないのに・・・どうして僕ばかり・・・なんで僕ばかりなんだ?なんで・・・なんでいつもいつも僕だけがうまくいかないんだ!」
タカヒトは恐ろしい夢に驚いて飛び起きた。まだ夜中で辺りは静まり返っている。
隣で寝ているてんとは依然意識を取り戻さずにいた。額から流れ落ちる汗を拭いながらタカヒトは自分に言い聞かせるように言った。
「そんなことない・・・てんとは助けてくれるはずだ。」
再びベッドに横になり目を閉じたがなかなか眠れずにいた。窓から朝日が差し込み、眩しさに目を覚ますとタカヒトはベッドから抜け出した。
「タカヒト、気を付けていくのじゃぞ。決して無理をせぬようにな。」
「うん、ありがとう。コパじいちゃん」
タカヒトは独りで近代独立国家オメガを目指す事となった。てんとは依然、意識を取り戻さずゲイルは先にオメガへ向かった。いまのタカヒトはソウルオブカラーを使うことは出来ず、唯一の戦術は徳の水筒を使っての攻撃だけだ。ゲイルの作戦もただ鬼王を倒すと言うだけで作戦らしいものはまるでなかった。もちろんタカヒトにも作戦と呼べるものは全くなくミカを助けることしか頭にない。独り怯えるように周囲を警戒しながら歩き始めてどれくらい経ったであろうか?タカヒトを呼び止める声が聞こえてきた。ギョッとして後ろを振り返ると一匹のハンターが近づいてくる。タカヒトの目前にくるとそのハンターは息を切らせながら座り込んでしまった。
「えっと・・・たしか店の主人だよね?」
「ゼェゼェゼェ・・・おっ、憶えててくれたね。おらっちは・・・・・ゼェゼェゼェ、
ちょっと待っててね。休憩 休憩。」
店の主人はミゲールと言ってスクラップをオメガの裏商人から買取それを修理して好戦的ハンター達に売りつけている商人だ。最初は小さな売場だったらしいが先見の明と商売の才能があったのだろう、店は少しずつ大きくなりいまでは支店を三つも持つやり手の経営者となっていた。ミゲールとってオメガもハンターも関係はないがそれでも同胞が殺されるのを黙ってはいられなかった。作戦を知ってぜひ自分も戦いたいと言ってきた。
「でも・・・相手は近代独立国家オメガの鬼王だよ。ゲイルみたいな好戦的ハンターでも勝てるか分からないのにミゲール・・・・戦えるの?」
「なっ、なに言ってるね!タカヒトはおらっちのすごさがわかってないようね・・・
たしかに力はないね。でもおらっちにはそれを補うコレがあるね。」
ミゲールが指をさすとそこには旧型だがドライブスーツが一機走ってきた。それはこの世界にタカヒトが来たときにミゲールの所にあった壊れていた機体だ。タカヒトの驚く顔を横目にミゲールはオメガが開発した戦闘兵器ドライブスーツをグローディアと呼んだ。今回のタカヒト達の作戦を知った時から三日三晩、寝る間も惜しんで機体の修繕と改良を重ねてきたらしい。燃料石の凝縮技術と機体の燃費向上、自動操縦も加えて更に出力も30%アップさせた。オメガの新型にも対抗出来ると自信満々の笑みを浮かべている。自慢話を続けようとしたミゲールにグローディアの内部から声が聞こえた。
「ちょっと、くだらないウンチクなんかどうでもいいじゃん。
それよりその子は大丈夫なの?本当にアンタ鬼王に勝てるの?」
「えっ?・・・あっ!」
タカヒトがグローディアを見上げると少し生意気そうな感じのハンターの女の子がいた。 ミゲールの姪っ子でマイコと言い今回の作戦についてきた。ミゲールは「自分の姪っ子を戦場に連れて行く叔父がいるわけない!」と拒否したのだがマイコは「着いていく!!」と言って言う事を聞かなかった。実際、開発は得意なミゲールであったが操縦はからっきし駄目であった。その点マイコのグローディアの操縦能力は高く、口では拒否したものの内心はホッとしているミゲールであった。
「くだらないとはなんね、マイコ。早く帰るね。ママが心配してるね。」
「はいはい、いいから行くよ。そこの子・・・タカヒトだっけ?早く乗りなよ。」
タカヒトは自分より明らかに小さい女の子に言われて少しムッとしたが歯向かう事も出来ずグローディアに乗りこんだ。本来は一人乗りらしいがミゲールの改良により中は割りと広々としていた。操縦席に座っていたマイコがスイッチを押すと[ドライブモード]と音声が入りグローディアは二足歩行の戦闘形体から移動形体へ変形した。移動形体は限りなく車高が低く安定感は抜群である。それはタカヒトが人道で見た自動車に近い形をしていた。驚くタカヒトの顔を見てニヤリと笑いながらマイコはご機嫌でグローディアを走らせ一路、近代独立国家オメガを目指した。
「観念しろ。おまえに逃げ場はないぞ!」
オメガ都市のはずれの町で複数の兵士に囲まれたゲイルがそこにいた。たった独りでオメガに乗り込んだゲイルであったがオメガの特殊武装部隊ブレイカー部隊に見つかり町の袋小路に追い込まれたのだ。オメガにはいくつか特殊部隊があるのだがそのなかでも最も強力な戦闘能力を誇るブレイカー部隊。隊長のドドレスが笑みを浮かべゲイルを見下している。袋小路にして道幅は広くゲイルの周りをブレイカー部隊の兵士総勢三十名が取り囲んでいた。ドドレス率いるブレイカー部隊は最新のドライブスーツに乗り一方ゲイルはただ独りなんの武器も持たずその勝敗は戦わずして明らかであった。ドドレスの合図によりブレイカー部隊は一斉にゲイルに対して砲撃の標準を合わせた。
「標準を合わせろや・・・・死にさらせ!」
次の瞬間ブレイカー部隊の総攻撃が始まった。ドライブスーツに搭載されたミサイルのすべてがゲイルに発射され周辺の建物ごと爆破されていく。周りは硝煙と爆破された建物の埃でゲイルの姿は見えなくなった。
「止めや!止めや・・・馬鹿共が!一匹のハンターごときにやりすぎや!」
ドドレスが攻撃終了の合図を出すと勝利を確信して高笑いをした。周囲の煙が少しずつ無くなると人影が見え、無傷のゲイルが立っていた。腰を抜かしたドドレスは顔を震わせながら額から大量の汗を流していく。
「あっ、ありえへん・・・なんでや・・・なんでなんや!」
ドドレスはいや、ブレイカー部隊の隊員すべてが自分達の目を疑った。ブレイカー部隊が驚きを隠せず戸惑っているとゲイルはゆっくりと動き出した。
「ふぅ~~・・・なんとかかわせたか・・・さすが一族に伝わる秘術。
さてバカ面どもを一掃してやろうか!五行の印 火の印」
ゲイルは自らの手を合わせ、印を組むと頭上に無数の火の塊が現われた。その火の塊が一斉に三十機のドライブスーツに激突すると爆発して炎上するドライブスーツの中から兵士達が慌てて飛び出してきた。
「悪魔や、悪魔がやってきたで!」
冷汗を額にかきながらドドレスを筆頭に一目散にブレイカー部隊は撤退していった。印を解き、火の塊が消えるとゲイルはその場にひざまずき血を吐いた。
「ぐはっ・・・こいつは相当身体に負担がかかりやがる。」
五行の印とはハンターに伝わる秘術で身体に印の刺青を入れる。するとその印の属性を使えるようになるが身体に対する負担も相当なもので身を滅ぼす危険なもろ刃の刃でもある。ゲイルのように五行すべての印を入れると身体への負担は更に増して長くは生きられなくなる。しかし生きる事を犠牲にしてもゲイルは戦うことを選んだ。それは死んでいった仲間の為であり、そして一族の誇りと先祖の魂に報いる為である。
「・・・・さて、ぼちぼち行くとするか。」
ほんの束の間の休息後、ゲイルは立ちあがり鬼王のいる近代独立国家オメガの中枢グリホン要塞を目指し、歩を進めていく。一方グリホン要塞を目指しているもう一組のチームがいた。
「うわぁ~~!」
「ちょ、ちょっとぉ~・・・ぶつかる、ぶつかる、ぶつかるってば、バカァ!!」
ドライブモード中の機体をガンガンと町のあちこちにぶつけながらミゲールの操縦するグローディアは爆走していく。町の人々は慌ててグローディアの突進を避けていく。花を売る荷車にぶつかったり店先に並んでいるテーブルでお茶を楽しんでいる人々に向かってグローディアは突撃していった。
「なんざます、アレは・・・もしかして・・・ギャアア~~~、ぶつかるざます。」
口に含んだお茶を噴出した婦人がとっさに横っ飛びするとグローディアはテーブルをなぎ倒しながら爆走していった。婦人は持っていたティーカップのお茶を溢しながら口を開けている。暴走行為に気付いたオメガの警備隊がグローディアの後を追ってきた。オメガの警備隊詰所の前を横切るグローディアを犯罪者と確定した警備隊は追尾してきたのだ。
「おっ、追ってきたね!」
焦ったミゲールの暴走は加速してゴミ箱やそば屋の屋台を跳ね飛ばし激走していく。ミゲールの顔は汗だくで手は震えていた。実は町に入る前にマイコの操縦している姿を見たミゲールが操縦したいと言い出したのだ。操縦を代わったミゲールだったが改良を加えたグローディアの反応速度は異常に速くもはやミゲールに操縦出来る機体ではなかった。
「ちょっと、ミゲおじ!これじゃ鬼王と戦う前にグローディアも私達も壊れちゃう。
どいて、私がやる。」
マイコはミゲールを押し退けると操縦席に座った。蛇行運転をしていたグローディアは安定して走るようになったが警備隊との距離は縮んでいた。グローディアに対してガトリングガンを装備した警備隊は射撃を開始した。巧みな蛇行運転で弾丸をかわしたマイコは操縦席の前にあるスイッチを押す。[スーツモード]と音声が入りグローディアは二足歩行の戦闘形体へと変形した。
「このまま戦闘に入るわよ。しっかり掴まってなさい!」
そう言うとマイコの目が鋭く戦闘ハンターの顔になった。グローディアはその場に止まるとすぐに警備隊のドライブスーツに囲まれた。特殊部隊ほどの装備はないがやはり新型のドライブスーツは違う。警棒らしきロッドを手にすると二機のドライブスーツがグローディアに襲い掛かってきた。
「あきらめてお縄に掛かれ。」
襲い掛かってきた一機目の攻撃をかわしたものの二機目の攻撃まではかわせずグローディアは左アームで警棒ロッドを受け止めるが破壊されてしまった。それでも二機のドライブスーツから距離を取ったグローディアは戦闘態勢を整える。不安そうに見つめるタカヒトにマイコは激を飛ばした。
「泣きそうな顔しないの。ミカを助けに行くんでしょ?私は負けない!
勝って生き抜いてやる!」
警備隊のドライブスーツは全部で四機。二機以外は待機している状態だ。新型の性能はグローディアのそれを上回り更に左アームを破壊されている。圧倒的に不利な戦況。いや勝機はある。それは警備隊がマイコのグローディアの性能を侮っていることだった。
「旧式など問題外!もはや勝機などないぞ。」
抵抗するグローディアに対して警備隊のドライブスーツはガトリングガンの標準を合わせると凄まじい勢いで回転すると薬きょうが地面に雨のように落ちていく。マイコの操縦でグローディアは弾丸を避けていくのだが待機していた警備隊のドライブスーツ一機が加わると三機のガトリングガンの銃撃が始まった。ミゲールは頭を抱えると叫んだ。
「もうダメね!」
「諦めちゃあダメだよ。マイコが戦っているんだから。」
「違うね・・・マイコの操縦は確かに警備隊の銃撃をかわしているね。
でもマイコの操縦能力にグローディアがついていってないね!」
「えっ?」
「グローディアはおらっちの最高傑作ね。でもマイコの操縦能力はそれ以上・・・
このままではマイコの動きにグローディアがついていけずに壊れてしまうね!」
ミゲじいの言うとおり実際、マイコの速すぎる反応にグローディアの電気回路はついていけなかった。ほんの少しのズレが次第に大きくなりガトリングガンの弾丸をかわせなくなっていく。グローディアにガトリングガンの弾丸が命中していくと崩れるように地面に倒れこんだ。
「もうおしまいね!」
これまでかとミゲールもタカヒトも諦めていたがマイコだけは鋭い眼を光らせていた。マイコは操縦桿から手を離すと両手を合わせ印を組んだ。その姿にミゲじいは驚愕した。
「マイコ?・・・まさか、おまえ!」
警備隊はすでに勝利を確信していた。三機のドライブスーツはグローディアを取り囲むとガトリングガンを向けたまま待機していた。ゆっくりとグローディアは立ち上がると破壊された左アームを右アームで千切り取った。
「ハンターは誰にも負けない、いくわよ!」
マイコは眼を光らせるとグローディアは警備隊のドライブスーツに向かって急接近していく。グローディアの右アームが背中に装備されたガトリングガンを取り出すと一機目のドライブスーツに押し当てた。そのままトリガーを引くと瞬時に蜂の巣のように穴だらけになったドライブスーツが崩れるように倒れ込んだ。だがその隣にいた二機目がグローディアに警棒を振りかぶっていた。左アームをすでに失っていたグローディアに防御する術はなく二機目が警棒で攻撃する位置はマイコ達の乗ったコクピットに直撃する軌道だ。
「もうダメね!」
ミゲールが頭を抱え死を覚悟したが印を組んでいるマイコの眼には諦めという言葉はなかった。警備隊のドライブスーツの振り下ろした警棒はグローディアを破壊することができなかった。警棒には樹木の枝が巻き付いてその樹木はグローディアの取り外された左アームから伸びていた。
「左アームはこの為に取り外したのよ。ミゲじい、グローディアはオメガの旧型ドライブスーツじゃないよ。このグローディアはハンターの最新型ドライブスーツよ!」
グローディアは二機目にガトリングガンを向けるとまた蜂の巣状の穴を開けて二機目も崩れ落ちた。警備隊は予想もしていなかったグローディアの反撃に動揺していた。ミゲールがどんなに改良を加えたとしてもオメガ最新型のドライブスーツには歯が立たない事はマイコもわかっていた。マイコはコパじいに頼み込みマイコとグローディアにハンターの秘術である五行の印 木の印を施してもらったのだ。旧型のドライブスーツであるグローディアの反応速度を木の印により育った根が電気回路を補強する。フレームは木の印により育った樹木で補強されることでマイコの操縦能力についていく事が出来たわけである。
木の印グローディアが素早く警備隊に向かうとガトリングガンを連射すると残りの二機のドライブスーツの脚に弾丸が直撃するとその場に崩れて戦闘不能となった。ドライブスーツから脱出した警備兵達は一目散に退散していく。マイコは勝利を確信すると大破したドライブスーツを飛び越えて建物の屋上に飛び乗る。木の印グローディアは屋根から屋根へ飛び移りその場を後にした。
「まったく・・・木の印を施したなら先に言っておくことね!」
「ごめんなさい。でも言ったら怒ると思って・・・。」
「当たり前ね!アイタタ・・・」
「なんでそんなに怒ってるの?」
「当たり前ね!タカヒト、印を施すという事がどういうことか、わかってるね?」
「・・・わからない。」
「かっ!だから部外者は困るね。印を施すということは・・・」
「施すという事は?」
「嫁にいけないということね!」
「嫁って・・・・マイコちゃん、まだ小さい子共だよ。」
タカヒトの言葉に激怒したミゲ―ルは結婚について熱く語り始めた。若い娘が刺青を入れることに相手が恐がると強い口調でいった。熱弁を繰り返しているミゲールだったが自動操縦にしたとたん席から転げ落ちた。タカヒトとマイコは腰を抜かしたミゲールを介抱しつつ熱い言葉を聞き流し近代独立国家オメガの中心部であるグリホン要塞へ向かった。