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未来のきみへ   作者: 安弘
新天道編
218/253

神を祭る村

 「イタタ・・・頭がズキンズキンするずら。お前さんは本当に酒が強いずら。まるでなにもなかったようにケロッとしてる。イタッ!・・・悪いが飯食い終わったら手を貸してほしいずら。」


 頭痛に耐えるモンブランは朝食をテーブルに置くと頭をおさえながらコテージから出ていった。何をするのかわからないが世話になっている以上断るわけにもいかない。朝食を終えたジェイドとてんとはコテージからでるとモンブランに会いに行った。


 「何をすればいいんだ?」


 「おおう、来たか。今日はな、漁を手伝ってほしいずら。」


 「漁?大河が凍っているのにか?」


 「凍っているのは表面だけずら。表面に穴を開けて魚を釣るずらよ。この時期の魚は身がしまっていてうまいずら。」


 漁の道具を荷台にのせてモンブランは凍った大河へとトドシカ車を走らせた。トドシカとはこの地方にいる河生動物で大人しく従順な生き物である。手足はヒレのようになって、腹を地面にすりながら移動する愛らしい姿を披露している。餌の魚を与えられた五匹のトドシカはゆっくり動き始めると道具を積んだ荷台を動かしていく。モンブラン達にとってトドシカは共存する為に大切な生き物なのである。


 「着いたずら。道具をおろすのを手伝ってくれ。」


 そこは見渡すかぎり、氷のリンクが広がっていた。雄大な景色に見とれていたジェイドとてんと。荷台の道具をジェイドとモンブランがおろすと凍りついた大河の表面にセットした。ドリルらしき刃先が表面を削り、穿孔していくとぶ厚い氷の下から水が見えた。セットした穿孔機を退かすとモンブランは数個の釣り針がついた糸を穴にたらした。穴にまき餌を行い様子を伺うモンブラン。


 「じきに魚が取れる。ちょっと、休憩するずら。」


 そういうとモンブランは荷台をゴソゴソと何かを探している。折りたたみイスとテーブルを用意すると粉末したものをコップに入れて湯を注いだ。


 「暖かい時期にとれる暖温茶ずら。身体が温まるから飲むずら。」


 モンブランはコップを手にするとうまそうに飲んだ。ジェイドとてんともそれを飲んだがなんともいえない不思議な味がした。モンブランは大河でどれだけ多くの魚が取れたとか自慢話が尽きなかったがこの日は一匹も釣上げることが出来なかった。陽も傾き、諦めムードが漂うとモンブランは道具を片付け始めた。


 「今日はダメだったずら。寒くなってきたことだし、帰って熱燗でも飲むずら。」


 荷台に道具をのせるとトドシカに乗り込みコテージへと帰っていく。次の日の朝、ジェイドとてんとに体調の変化が見られた。


 「やけに寒いな。どういうことだろうか?」


 「我々もこの地に馴染んだということかもしれん。どちらにしてもこのままでは寒さにまいってしまう。モンブランに防寒着を借りてこよう。」


 鳥肌がたち、唇は真っ青なジェイドに寒さに耐えられなくなったてんとは防寒着を着込むとなんとか寒さをしのぐことができた。今頃になって寒さを訴えるふたりにモンブランらは不思議に思っていたがそれもすぐに忘れて漁の準備作業を行っている。昨日と同じように漁に出かけたモンブラン達だったが、まき餌をしても一匹も釣上げることができなかった。


 「おかしいずら・・・こんなことはいままでなかったずらよ。大河の魚を全部釣上げてしまったのかも?」


 「これだけの大河だ。それはないだろう。」


 「ほうずらか?・・・おかしいずらなぁ~~。もう一度、まき餌するずら。」


 モンブランはまき餌を穴にまいた。すると微妙な感じだが氷表面が振動した。浮遊しているてんとは気付かなかったがジェイドはその微妙な感覚を感じとった。


 「モンブラン・・・少し大目にまき餌をしてくれないか?」


 「大目ずらか?・・・・別にかまわんけど・・・」



 再びモンブランがまき餌を大目に穴にまいた。すると今度はモンブランもわかるくらい表面が震えるように揺れた。


 「なにかが大河の下にいるぞ!」


 ジェイドがそう言った瞬間、激しく凍った大河の表面が揺れると亀裂が走った。ぶ厚い氷に亀裂が走り、突起するように割れていくと大きな甲殻が出現した。激しい揺れに立つ事もままならないモンブランと怯えるように悲鳴をあげるトドシカは荷台をひっくり返し、繋がっていた縄を引き千切る勢いで逃げようとしている。


 「てんと!」


 ジェイドはトドシカの縄を氷刃で斬り裂き、てんとは空中へと浮遊していく。トドシカとモンブランは大河表面が揺れること以上に浮かんでいることに驚いた。


 「ジェイド!」


 「ああ、あんなにデカいのは初めてだ。」


 ぶ厚い氷の下から出現したものは武装された甲殻を持ち、二本の巨大なハサミが印象的な巨大エビだった。浮遊しているジェイド達をかなり警戒していたが、大河を進んでいくとコテージがある方向へ向っていく。


 「まずいずら。皆が殺されてしまうずら。」


 「俺をおろしてくれ。」


 ジェイドはゆっくり降下していくと巨大エビも目の前に着地した。二本の巨大なハサミを振り上げると身体を大きく見せて威嚇してきた。ジェイドは氷刃を放つが硬い甲殻には歯がたたない。すると巨大エビは鋭く尖った二本の額角をしならせるとジェイド目掛けて突き刺してきた。紙一重でかわしたジェイドにさらに巨大なハサミを振り上げるとそれを頭上に振り下ろす。直撃は回避できたが、振り下ろしたハサミが氷表面を砕き、氷塊がジェイドの皮膚を切裂いた。片膝を地面につけ、ジェイドに動きは見られない。援護にあたろうとしたてんとは激しい理力を感じた。片膝を地面から離したジェイドの瞳は右が赤く左は冷酷な青色をしている。青色と蒼色に輝きを放ち、その輝きに巨大エビも怯んだ。ジェイドが歩を進めていくとその背後に蒼龍が出現した。


 (我に逆らうはこの下等生物でおじゃるか?)(蒼龍)


 「・・・俺がやる。」


 (・・・・)(蒼龍)


 ジェイドの激しい理力に蒼龍は黙って消えた。さきほどまで怯んでいた巨大エビは二本の巨大なハサミを地面に叩きつけると割れた氷塊がジェイドに襲い掛かっていく。ジェイドは左腕を巨大エビに向けると蒼い球体が現れた。その球体はゆっくり巨大エビに向っていくが巨大エビから放たれた氷塊が突き刺さる。しかし突き刺さったそれらは一瞬にして消えると球体はゆっくり巨大エビに向っていく。目前に来た球体を、巨大エビを振り払った瞬間、巨大なハサミが斬りおとされたように消えてしまった。もう一方の巨大なハサミで受け止めようとしたがそのハサミすら消えてしまう。


 「トライアル・フォース、おまえの存在を消し去る技だ・・・怒らせる相手を間違えたな。」


 ジェイドが指をパチンと鳴らすと球体は巨大エビを包み込むほど巨大化し、それを飲み込んだ。球体が消えるとてんとはジェイドのもとへ降下していった。


 「どうやら、魚がとれなかった理由はあのエビだったようだな。」


 「そのようだ。モンブラン、驚かせてしまった。俺たちは・・・。」


 「いや・・・なにも言わんでいいずら。誰しもいろいろなことを抱えて生きているずら。それよりひとつ、気になったことがあるずらよ。さっきの見せてほしいずら。」


 「さっきの?」


 「・・・竜神様が見えたずら。」


 「竜神様・・・ああ、蒼龍のことか。」


 ジェイドは蒼龍を再び出現させた。するとモンブランは両膝をつき土下座して、蒼龍を見ようとはしなかった。これにはさすがにジェイドもてんとも驚いた。何度も頭を上げるように言ったがモンブランは上げようとはしなかった。


 「早く言ってほしかったずら。竜神様のお供の方と知っていたらこんな無礼はしなかったずら。」


 「モンブラン、さっきから言っているが、蒼龍は竜神様とは違うんだ。」


 ジェイドはモンブランに説明するが聞き入れてはもらえなかった。ジェイドとてんとは村を治めるティラミスのコテージにいた。上座に座らされ、ティラミスやモンブラン、村人達が地面に頭を下げ、顔をあげようとはしなかった。困ったジェイドにてんとはティラミスから村に伝わる話を聞いていた。


 「ここを治めておられた方は蒼い姿をした竜とされておるずら。竜神様はこの地に水を生み落とし、我らに生きる場所を授けてくれたずらよ。暖かい時期と寒い時期も作物を育てるのにとても大切なことずら。我らは蒼き竜様を竜神様と崇め、祭っているずら。」


 「なるほどな。しかし頭をあげてはもらえないか?お前たちの崇める竜神様は恥ずかしがりでな。こうも皆に頭を下げられ続けると出てこれない。いつも通りの生活を見守ることが竜神様にとってもっとも喜ばしいことなんだ。」


 それを聞いたティラミス達は頭を恐る恐るあげる。竜神様が恥ずかしがりやとは知らず、無礼なことをしたと再び頭を下げた。その後、ティラミスはてんとに言われたとおりに普通の生活に戻るように皆に伝えた。その場の誰もが納得した様子でコテージから出ていく。


 「ふぅ~・・・助かったよ、てんと。」


 「しかし竜神様の伝説も蒼龍と無関係とは考えられまい。竜神様を祭る神殿を聞いておいた。明日にでも行ってみよう。」


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