皇族の晩餐会
「えぇ~、合コン?」
「そう、合同コンパ!今夜の晩餐会にはかなりいい男達が集まるってメイドに聞いたわ。そこで誰が一番モテるか・・・じゃなくて情報を収集するわけよ!」
「そうね。情報を収集するにはいい機会かもしれないわね。」
「合コンなんて私・・・」
「大丈夫よ、ミカ。すでに準備は整っているわ。決戦は今夜。派手に行くわよ。」
ヤケにテンションの高いリディーネに不安を感じたミカであった。朝食も終えて彼女達は中庭を散策している。バラの香りに気分もスッキリしたが常に誰かの気配だけは感じていた。
「なんか見られているような気がする。」
「ミカ、気にしないの。殺気はないみたいだし・・・」
マイコの言葉に納得しながらもミカはなんとなく嫌な気がした。気配を感じながらも噴水のほうへと歩くミカとマイコは涼しさを感じながら嫌な気配を紛らそうしている。リナは独りバラの香りを楽しんでいるとやはり気配を感じていた。背中にジメジメした気配がひとつ・・・しかし振り返ることはせずにその場をゆっくりと歩き去った。
「いくつか気配があったわね。殺気はなかったけど、あれは何かしら?」
「リナも感じたの!私達も・・・なんだったんだろうね?」
「フフ、あれは獣の気配だったのよ。ミカとリナを狙った気配ね。」
「本当、マイコちゃん。」
「そうよ、リディーネも感じたでしょ?」
「えっ!・・・・ええ、もっ、もちろん。殺気のない気配でしょ。」
「そうなんだ。」
「晩餐会が楽しみね。」
中庭でティータイムを楽しんでいるミカ達を狙っているいくつもの視線があった。そしてその晩餐会が始まった。
「実にお美しい限りでございます。こちらへどうぞ。」
カーペントのエスコートで会場へと移動していくミカ達。見事なシャンデリアとバラに囲まれた広いホールにはドレスに身を包んだ女性達とエスコートする男性達がいた。そのなかでもミカとリナの美しさは群を抜いていた。
「ねぇ、見て・・・皆、リナとミカを見てるよ!」
「マイコちゃん、そんなことないよ。気のせいだよ。」
「ううん、私にはわかる。あれは獣の目よ!」
「へんなこと言わないでよ。ねぇ、リナ。」
「フフフ、人妻の魅力に我を失ったようね。」
「・・・・・」
ドレスアップされたリナとミカを無視することなど出来るわけもなくすぐに男達がふたりを囲んだ。誰もが地位だとか名声だとか、財産をどれだけ持っているとか・・・そんな自慢話をしてきた。そんな光景をマイコが実況中継を始めた。
「さあ、皆さん。今宵はふたりの美女を誰が手にいれるか!実況はマイコです。おっ、動きがありました。ミカを三人の男が奪い合っています。うん?どうやら財産の多さを競っているようですね・・・しかしミカは興味がなさそうです。お?リナには四名ですね。人妻はやはり若い男には魅力的なのでしょう。んっ、親の地位を自慢しあっていますね。子供ですねぇ~・・・リナは不満そうです。一方、リディーネは・・・独りです・・・。」
カウンターテーブルでカクテルを飲み干すリディーネはかなり苛立っていた。飲み干したカクテルグラスは1・2・3・・・8杯あった。
「バカ野郎どもめ・・・アタシはね、誰もが恐れる破壊神だってえの!」
酒を浴びるように飲むリディーネはかなり機嫌が悪いようだ。鬼のような表情にカウンターテーブル内にいるバーデンダーすら近づけない。さらに飲み続けること数十杯・・・
「バカ野郎!畜生め!うっ・・・気持ち悪い・・・」
リディーネは騒ぎわめいていると急に気分が悪くなった様子でマイコに支えられながら部屋へと戻った。リディーネが心配になったミカはマイコの後を追いかけるようにホールから出ていった。
「マイコちゃん、リディーネの様子はどう?」
「まったく、リディーネったら飲みすぎなんだから!でも安心して。カーペントから薬貰って今、飲んだから。だいぶ落ち着いてきたみたいだし。」
「良かった・・・でもなんでそんなに飲んだんだろう。」
「フフフ、リナとミカがモテモテだったのが気に入らなかったんじゃない。」
「・・・・」
「リディーネってプライドが異常に高いからね。」
スヤスヤ眠るリディーネを見つめながらミカは少し落ち込んだ。自分はどこかで浮かれていたのかもしれないと。リディーネの気持ちをもう少し察してあげていたら・・・そんなことを考えていると自己嫌悪に落ちた。すると部屋にリナが入ってきた。
「あら、ミカどうしたの?」
「・・・・」
「リナ、ミカはね・・・」
落ち込んでいるミカの様子を察したマイコがリナに話をした。
「そうだったの・・・でもミカが気にすることではないわね。」
「えっ・・・でも・・・」
「たまたまリディーネに好意を持つ相手があの場にいなかっただけだし・・・もしかしたらミカがリディーネと同じ立場になっていたかもしれない。もちろん私もね。もし男が寄ってこなかったらそれは自分磨きが足りないと反省して、寄ってきたらさらに自分を磨くように私はしているわ。」
「自分磨き?」
「そう、自分磨き。女は男に愛されてこそ輝くってものよ。最愛の人と出会うために自分を磨きその時が来るのを待っているの。もちろん私は得たけどね。」
「・・・・」
「だからリディーネのことは気にしないでミカはタカヒトのために自分を磨かないとダメよ。でないとほかの女にタカヒトを奪われるわよ。」
「えっ!わっ、私は・・・その・・・」
しどろもどろのミカは顔を真っ赤にした。その表情を見たリナとマイコはクスクスと笑いだした。
「ああ!ふたりして私のことからかって!」
「フフフ、ごめんなさいね。でもいい情報も手に入れたわよ。」
「いい情報?」
リナの手に入れた情報とは言い寄ってきた男達から聞いたものであった。はるか昔からこの地はカルロス・ジュロム率いるジュロム一族が支配している。
「それなら私も聞いたよ。周囲には小さな部落がたくさんあって抗争が続いていたって。それをジュロム一族が抗争を止めたって。」
「違うのよ、ミカ。ジュロム一族が抗争を止めたのではなく、部落に戦争を仕掛けて年貢を納めさせるようにしたのよ。部落の者達は戦争などしたこともない素人。戦力の差は歴然としていたわ。」
「そんな・・・じゃあ、ここで食べているものは・・・」
「ええ、部落からの年貢よ。」
「私達はどうすればいいの?」
「実はね、ある部落の年貢が納められていないらしいわ。取立てに向った者達は反撃にあって撤退していったらしいの。」
「それって・・・」
「ええ、攻撃の手段から言って間違いなくドレイクね。」
「もしそれが本当だとしたら
ドレイクが正義の味方で私達は悪者ってことになるね。」
「そうね。私達は悪者かもしれない。」
「落ち込むことはないわよ、ミカ。私達が協力すればほかの部落の人達も助けることができるわ。今後は内部調査・・・密偵行動を行うわよ。」
リディーネがぐっすり眠っている間、三人は内部調査を決行することを決めた。役割分担を決め、行動は明日の朝からとなった。