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未来のきみへ   作者: 安弘
新天道編
210/253

男気スイッチ

 「アラアラ、女子会?私も入れてくれる?」


 「おかえりなさい。どうだった?」


 リナが部屋に戻ってくるとミカがティーカップを手渡した。リナの話によると城内を歩いているといたるところで呼び止められたらしい。


 「何?ナンパ?それって自慢?」


 「リディーネ、茶化さないで!ほかに変わったことは?」


 「正直、何もなかったわ。天道軍も魔物の影形も見当たらない。もちろん気配すら感じないんだけど・・・本当に怪しいくらい何もないわ。」


 「逆に怪しいわね。アタシ達をどうするつもりなのか。探らないと!」


 「リディーネ、どうやって探るの?」


 「フフフ、罠にかかったフリをするのよ?アタシに考えがあるわ。」


 リディーネは不敵な笑みを浮かべる。作戦の詳細は明日伝えると言い残したリディーネはそのままベッドに入った。疲れた彼女達は早めの就寝を取る事にしたがミカだけはなかなか眠ることが出来ずに窓の外をじっと眺めている。


 「タカヒトの事が気になって眠れない?」


 「・・・どこでどうしているんだろう?」


 「大丈夫よ。ああみえて、タカヒトは結構強いのよ。」


 「リナは気にならないの?」


 「そうね、気にならないことはないわ。でも私はドレイクを信じているから。」


 「強いのね・・・私はダメだな。タカちゃんが心配で・・・」


 「ウフフ、ラブラブね。」


 「もう!茶化さないで!」


 「もう寝ましょ。リディーネの作戦が楽しみだわ。おやすみ。」


 「うん、おやすみ。」


 ミカ達が眠りについた頃、ドレイクとアレスは暗闇を歩いていた。


 「ドレイク・・・もうダメだ・・・俺を置いて先に行ってくれ。」


 「バカ言ってんじゃねえ!置いていけるかよ!」


 「俺はもう・・・ダメだ・・・」


 「しっかりしろ!」


 「・・・・いい匂いがする!・・・あっちだ!」


 暗闇をキョロキョロしながらアレスは匂いのする方向へ走っていく。暗闇を抜けたその先には村が存在していた。薄暗い中で人々が炊き出した料理を食べていた。アレスはそこに走っていくと勢い余って倒れ込んだ。驚いた人々にアレスは右手を差し出した。


 「腹が・・・減った・・・」


 「お腹が減ったの?僕のあげるよ。」


 小さな男の子が差し出した皿をとりあげるとアレスは一口で食べてしまった。


 「足りん!おかわり!!」


 「バカたれ!」


 ドレイクの一撃にアレスは頭をおさえた。


 「何すんだよ!」


 「まわりをよく見ろ!」


 ドレイクに言われたアレスが辺りを見渡すと汚れた服に身を包んだ子供達が小さな皿を手にしていた。痩せこけた子供達の中には立つこともままならない子供もいる。アレスに皿を差し出した男の子もまた頬が痩せこけていた。皿を見つめるアレスにひとりの老人が声をかけてきた。


 「すまんことで・・・旅人の方々に差し上げる余裕が全くないで。」


 「いや、こちらこと迷惑をかけた・・・許してくれ。」


 老人はなにも語らずに自分の皿を男の子に渡すと笑顔でそれを頬張っていく。老人はジェイドとアレスを家に招き入れた。


 「すまないが白湯くらいしかないで。」


 「気遣いは無用だ。ここいらの大地は作物が育たないのか?」


 「そんなことはないで。作物は育つ良い土質だで。」


 老人は声を震わした。この辺りは作物も育つ良い環境で昔は人々が溢れ笑顔が絶やされることはなかった。しかし・・・


 「ジュロム一族がこの地に来てから変わったで。」


 「ジュロム一族?」


 数年ほど前、ジュロム一族なる者達がこの地に来た。彼らはこの地に住む人々から作物を年貢として取りあげていく。その話を聞いていたアレスが疑問に思い質問した。


 「年貢なんか納めなきゃいいじゃん。」


 「ムリでさ・・・逆らった若い者もおったで・・・じゃが、皆殺されたで。」


 「ジュロム一族は兵士をかかえているのか?」


 「兵士ではないで・・・奴らがかかえているのは悪魔だで。」


 「悪魔?」


 老人は震えてそれ以上は語ろうとはしなかった。その日はここで休ませてもらうことにしたドレイクとアレス。アレスはグッスリ眠っていたがドレイクだけはなかなか寝付けなかった。老人が震えるほどの魔物が近くにいることに戦慄を感じたと共に歓喜にも近い感情が溢れていた。


 「おい、起きろ!」


 「むにゃ・・・ドレイク・・・何、こんなに朝早くに・・・」


 「畑に行くんだよ!ただで飯食える立場じゃねえだろ!」


 「俺・・・パス・・・」


 畑に歩いていくアレスは頭を右手でおさえていた。


 「殴ることないのに・・・暴力反対・・・ブツブツ・・・」


 「おっ、ここだ。結構いい土じゃねえか。これならいい作物が育つぜ。」


 ドレイクは器用に畑をくわで耕していく。アレスはやる気もなくダラダラと耕していた。そこに興味を示した子供達がやってきた。老人も来てドレイクに声をかけた。


 「なにも旅人のアンタ達にやってもらうことはないで。」


 「いいんだよ。飯を食わして貰って何もしないってのは悪いしな。」


 「いくら作物を育てても年貢を納めるで。あまりムリしないでけれ。」


 「年貢は納めねぇ!そのジュロム一族とかいうのが来てもやらねぇ!」


 「そんなことをしたら殺されるで。若者達は皆殺されたで。あとは子供達だけだで。やめてけれ。子供達に何かあったらワシは死んでいった者達に示しがつかんで!」


 「安心しろ!お前たちは俺らが守ってやる。なっ、アレス!」


 「へっ?」


 子供達がアレスをじっと見つめていた。キョトンとするアレスだったがそのまわりでは子供達がくわを手に畑を耕し始めた。重過ぎるくわに振り回されながらも懸命に耕す子供達の姿にアレスの中で眠っていた男気スイッチが入った。


 「おおよ!俺に任せておけば大丈夫!!」


 アレスはくわを手に振り上げると勢いよく耕していく。喜ぶ子供達の中心でアレス活躍していた。そんなこんなで陽が暮れるとアレスは床に倒れ込んだ。


 「もうムリ・・・動けん・・・」


 「ほんに助かったで・・・すまねぇな・・・疲れをとるにも喰いもんがないで。」


 「いいんだ・・・子供達の笑顔が疲れをとってくれるから。」


 「ほう、アレスのわりには気の利いた言葉だな。」


 「ドレイクちゃん・・・俺のこと誤解・・・ぐぅ~・・・ぐぅ~・・・」


 「疲れて寝たか・・・さて、じいさん。ジュロム一族のことを聞かせてくれ。」


 白湯を一口飲んだドレイクは老人の話に耳を傾けた。ジュロム一族は周辺の部落から年貢をとり、優雅な生活を送っている。その取立てに不服を申し上げた若者達がジュロム一族に反旗をひるがえしたことは何度もあった。しかし悪魔の出現に若者達はなす術なく死んでいった。ここにいる子供達の両親も反旗をひるがえした若者達であり、親を失った子供達の面倒を老人ひとりでみているのだった。


 「しかしじいさんひとりでよく面倒みてるな。たいしたものだぜ。」


 「いや、わしは逃げ出したで・・・」


 「逃げ出した?おい、反旗をひるがえしたのは若者達だろ?

じいさんも同行したのか?」


 「わしは若者達と戦った・・・若者達とわしは同世代だでな。」


 「言っている意味がわからないんだが・・・悪魔と言ったな!おい、まさか・・・」


 「そうだで・・・あの悪魔はわしらから若さを奪い取ったで。」


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