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未来のきみへ   作者: 安弘
餓鬼道編
21/253

学舎時代

 冷たい地面に倒れ気絶したてんとは深い意識の中で学舎時代の光景を思い出していた。


 「お~い、てんと!また一人で本なんか読んでるのか?たまには遊びに行こうぜ!」


 「いや・・・いいよ。」


 「なんだよぉ~・・・つまんないなぁ~・・・。」


 キングダムシティのとある天道の学舎でジェイドとてんとは共に学んでいた。ジェイドとてんとは全学舎の中で最も優秀なクラスに在籍していて、そのクラスでもジェイドは常に成績トップであった。ジェイドの成績はおろかスポーツをやらしても遊びをさせても何をさせてもすべてこなしてしまうクラスきっての人気者だった。てんとはというと成績は常にナンバー2であったがスポーツは全然駄目でどちらかといえば目立たない存在だった。この頃のジェイドは明るくて優しき少年だった・・・。ある日の事、長期休校前の最後の授業を終えた時ジェイドがてんとに声を掛けてきた。


 「旅行する計画があるんだけど一緒に行かないか?」


 「旅?別にいいけど、どこにいくんだ?」


 「えっ!・・・・それはヒ・ミ・ツ!」


 ジェイドとてんとは終業式を終えると急いで旅仕度をした。学舎から少し離れた森へ入って行くふたり。森の奥には小さな湖がありその先に小さな祭殿があった。この祭殿は学舎の先生達からは入ることを禁じられて通常は鍵がかかっている。何故入るのを禁じられているのかというとこの祭壇の奥にある石にあることをすると狭間への道が開けるからと聞かされていた。


 「ジェイド。ここは禁じられた祭壇だぞ!」


 「大丈夫だよ。二回目だし・・・逢わせたい人がいるんだ。」


 ジェイドは狭間への行き方を知っている。今回は二回目なのだ。ジェイドには一番の親友であるてんとに紹介したい人がいた。嫌がるてんとを強引に祭殿に入れると石に右手をかざし何かを唱えた。すると石が透明な液状になりジェイドはてんとをその液状の中に押し入れた。

 液状の中を通り抜けると辺りが真っ暗な空間が広がっていた。てんとが遠くのほうに一寸の光を見つけジェイドはその光の方へ走っていく。てんとも追いかけていくとそこは草原が広がり遠くの山はとても雄大でたくさんの動物がてんとのまわりを歩いていた。てんとがその美しい風景に見惚れているとジェイドは草原の先にある集落らしき建物があるところへ走っていった。ジェイドもてんともこの時は知らなかったのだがここは修羅道と呼ばれる争いのみが行われる世界であったのだ。


 「ハァハァハァ、ユラ・・・久しぶり!元気だった?」


 「ジェイド?そんなに慌てて・・・昨日会ったばかりじゃない!」


 「ハァハァ、・・・そうだったけ?」


 「もう・・・へんな人。」


 その女の子は溢れんばかり笑顔でジェイドに笑いかけた。女の子の名はユラといって色白の肌にサラサラした黒髪でとても笑顔がかわいい子だった。てんとがふたりの会話に入れないでいるとユラがてんとの存在に気が付いた。ユラにてんとの事を聞かれるとジェイドは親友であるてんとを紹介した。少し照れながらもてんとはユラと挨拶を交わした。


 「はじめまして、てんと。よろしくね。ねぇ、ジェイド。

  今日は薬草を取りに行くんだけど手伝ってくれる?」


 「ああ、もちろんいいよ。なっ、てんと。」


 てんとがうなずく前にジェイドはユラの手を握ると薬草を取りに森へ向かっていく。ジェイドのあんなに嬉しそうな顔をてんとは見たことがなかった。てんとから見てジェイドは明るく誰からも好かれていたがどこかでジェイドは皆を避けているところがあった。皆と行動していてもジェイドからてんと以外で誰かを誘うことはなかった。ジェイドにとっての本当の親友はてんとだけだったのかもしれない。そのてんとですら見たことがないジェイドの笑顔がここにあった。薬草を取りながらジェイドはユラを笑わせ楽しませていた。そんなジェイドの姿を見て、てんとはなんとなく嬉しかった。その日は集落に泊まっていくことになった。

 ジェイドの話ではこの世界と天道では時間の経過速度が違うらしい。普段は休みの日にしか来れないが学舎の長期休校に合わせてこの世界にくることをジェイドは計画していた。ジェイドとてんとはそれから何日かこの世界でユラと共に生活した。そう、この頃のジェイドは笑顔が絶えない男の子だったのだ。

 ユラの集落には争いのない地域だったがすぐ近くまで戦の波は迫っていた。そしてその戦の波の中心には修羅道を統一し殺戮だけが続く世界を築きあげた修羅王がいる。だがこの時は数百人規模の軍隊を率いている兵士団長にすぎず、この男が王になろうとは誰一人として思わなかった。この男がジェイドとユラを引き裂きジェイドから笑顔を、そしてユラから命を奪った張本人である。


 「ドレイク!ここにはもう何も残ってないぜ。次は隣の村を襲うのか?」


 兵のひとりが丘に寝そべっている男に語りかけた。男の名はドレイクと言って背丈は二メートルとデカくその腕は丸太のように太い・・・とこれまでならどこにでもいる兵隊の一人にすぎないのだがドレイクの恐ろしいところは数百人規模の軍隊をたったの数日で作り上げたことだ。どのように作り上げたのかはわからないが少なくとも兵士はドレイクを信頼して戦っている。ドレイクの軍隊は数千、数万の規模の軍隊を相手にしてもほぼ無傷で勝利を収めている。しかも敵対する軍隊は容赦なく殺して決して情け容赦などはしない。いくつもの戦を勝利してきたドレイクのカリスマ性に兵士のなかには戦神と崇める者もいる。

 ドレイクは上半身を起こすと丘の草がなびいていた。風が激しく吹荒れて雲が流れるのも速い。その風を身体中に浴びながらドレイクは戦の準備をするように兵士に伝えた。丘を駆け下りて愛馬にまたがると軍隊を率いて隣村へと突き進んでいく。その隣村こそがユラの村である。


 「ユラ、今日はどうするんだい?」


 「今日はね、水を汲みに泉に行くの。一緒に行きましょ。もちろん、三人でね。」


 ユラはジェイドとてんとを連れて村から少し離れた泉まで来た。水汲みの最中にジェイドがじゃれてユラに水をかけるとビックリした表情をした。


 「ちょっと、ジェイド!」

 

 少し口を膨らませたユラはお返しにとジェイドに水を掛ける。少しの間二人は掛け合って遊んでいた。そんなふたりを見ながらてんとは笑みを浮かべている。するとジェイドとユラがてんとに向けて水をかけ始める。楽しい時間はアッという間に過ぎるもので三人で水をかけ合いながら遊んでいると陽も傾いてきた。疲れ切った三人は泉の畔で寝そべってほんの少し休んでいる。


 「・・・・・そろそろ帰ろうか?」


 ジェイドが水袋を持って村へ向う。村の近くまで歩いていくと村の方向から煙がたちのぼり異様な空気感が広がっていた。不安そうな顔のユラが村へ走っていくとその後をジェイド達が追いかけた。三人が村に着いた時、村人は誰も居らずユラの目に映った者は見たことも無い数人の兵士の姿があった。兵士達は火を起こし村人から奪った酒を酌み交わしている。村の入り口で状況を理解できずただ立ちすくんでいる三人の姿がドレイクの目に留まった。酒の入ったトックリを手に立ちあがったドレイクはユラリユラリと歩いて近づいてくるとジロジロとユラを見ながらニヤケた。


 「コイツは高く売れるぜ!小僧と虫には価値は無さそうだ。殺せ。」


 ドレイクに言われて数人の兵士が三人の方へ近づいてくる。兵士達は村人から奪った宝飾品を身につけていた。ジェイドが辺りを見渡すと村人達が動かず倒れている。ドレイクは村を襲い金品や食料を奪うほか、男や老人・子供は殺し、女は他国へ連れて売付けているようだ。泣きながら座り込んだユラの前にジェイドが立ち塞がる。ニヤニヤしながら兵士達はジェイドを押し退けようとしたその瞬間、兵士達はその場に倒れこんでいく。ジェイドの身体は青色に輝くと兵士達の身体は水矢に貫かれて死んだ。怒りに身を震わせながら青ジェイドはドレイクを睨み付けている。


 「青玉?小僧のくせによく使いこなしている。

   よし・・・そんじゃあ、まあ、遊んでやるか!」


 兵士達に後始末を任せて積み上げた村人の死体に腰掛けていたドレイクがゆっくり立ち上がろうとすると青ジェイドは怒り任せの水矢を一斉に浴びせた。


 「青玉理力 ウォーターアロー」


 青ジェイドはドレイクの姿が見えなくなるくらいの水矢を浴びせた。渾身の一撃に青ジェイドもてんとも勝利を確信していたがドレイクは傷ひとつ負わずに座っていた。その姿を見た青ジェイドとてんとは驚愕した。先ほどの兵士達を瞬殺した技をドレイクは何事も無かったかのように全く無傷の姿をしていたからだ。青ジェイドは困惑しながらも状況を整理していく。確かに手ごたえはあったはず・・・しかしドレイクは無傷で地面が濡れているだけ。


 「青玉理力 ウォーターアロー」


 再度、青ジェイドは繰り出したが水矢はドレイクの目前で形を崩して地面に落ちていく。ドレイクは何の防御もしていないが青ジェイドには彼にダメージを与えることが出来ない。


 「おいおい、池でも作って俺に水浴びでもしろってのか?」


 「!・・・なぜ技が通じないんだ!」


 青ジェイドはドレイクに驚愕した。ドレイクは立ち上がり雲の流れるのを見て少しの沈黙の後、語り始めた。それはある部族の村でドレイクはある色玉を見つけた時の話だ。当時これがソウルオブカラーとは知るわけもなく宝飾品のひとつとして身に着けていた。それからいくつもの部落を襲っているとある部族の長老から聞いたらしい。


 「なぁに・・・伝説を耳にしただけさ。この世界のどこかにあるソウルオブカラー。それを手にした者は世界の覇王になれるってな!俺はこの世界を自分の物にしたいのさ。さて、おしゃべりが過ぎたな。最近使い始めたばかりでうまくは使えないが見せてやるよ。俺の灰玉を・・・最悪だろ?ソウルキラーなんだからな!」


 灰玉と聞いた瞬間、青ジェイドとてんとの表情が一気に蒼ざめた。ソウルオブカラーの中で灰玉は最強の色玉のひとつと言われている。その能力はソウルオブカラーの能力を無効する。青ジェイドは自分の攻撃がドレイクに利かないことを理解した。


 「灰玉使いか!能力が無効になるわけだ。だが直接攻撃は通じるはずだ!てんと、青玉の攻撃が利かない。力を貸してくれ!」


 理力を高めると緑色の輝きを放ち三つの球体を出現させた。球体はドレイクを囲むように三方向に位置着がドレイクは見回しながらも冷静な態度を崩さない。


 「こっちは緑玉か。色玉使いに二人も会えるとはな・・・俺は運がいい!」


 地面が揺らぐほど灰ドレイクの理力が一気に増していく。青ジェイドは球体に飛び乗ると別の球体に飛び移り三方の球体を飛び移りながら速度を増していく。球体により速度を増すと同時に青ジェイドの身体が残像を残し2・3人に見えてくる。三人の青ジェイドは右拳に力を込めると瞬時に灰ドレイクとの距離を詰めた。


 「ふん、俺が灰玉だけでここまでのし上ったとでも思っているのか?」


 「! がはっ!!」


 灰ドレイクは青ジェイドの残像には見向きもせずに青ジェイド本体の攻撃をかわすと力を込めた左拳を青ジェイドの腹部にめり込ませていく。内臓をえぐるように腹部に食い込んだ左拳に青ジェイドは口から血を吐き出した。青色の輝きを失ったジェイドは悶絶しながらその場に倒れこむ。灰ドレイクは更に理力を高めて灰色に輝くとてんとの三つの球体が消滅した。圧倒的な力の差にてんとはなす術もなくただその場に立ちすくんだ。


 「ふう~~・・・

   もっと灰玉を使っても良かったが久しぶりに汗を流したかったもんでな!」


 ドレイクは悶絶して倒れているジェイドの顔を踏みつけながら言った。ジェイドは学舎ではスポーツ万能でなかでも格闘術は教師も舌を巻くほどの使い手である。なにより学舎でソウルオブカラーを使いこなせるのはジェイドのみ。てんともまだ緑玉を完全には使いこなせてはいなかった。そのジェイドが地面に這い蹲り悶絶している姿がてんとには想像が出来なかった。いや・・・今の状況が一番理解出来ないのはジェイドかもしれない。一番・優秀・有能と称賛を浴び続けていたジェイドが地面を這い蹲りしかも頭を踏み付けられている。自分が一番最良の手段を取りドレイクに挑んだ。しかしドレイクはその手段を上回った攻撃を仕掛けてきた。しかもソウルオブカラーをほとんど使わずにだ。圧倒的な力の差・・・それは恐怖そのもの。芽生え初めた恐怖という感情にジェイドはただ震えている。

 てんとはそんなジェイドの姿を初めて見ることとなった。しかし次の瞬間てんとは意識を失う。ドレイクはてんとに視線を合わせると瞬時に間合いを詰めて浮遊しているてんとに一撃を与えた。地面に叩き付けられたてんとは沈黙。次にドレイクの視線に入ったのはユラだ。ドレイクは歩いて近づいていくとユラは恐怖でその場に座り込んでいる。ジェイドはもがき苦しみながらユラへと這いずりながら近づこうとする。


 「まっ、待ってくれ!ユラだけは・・・その子だけは助けてやってくれ!」


 反撃も出来ずに涙ながらに懇願するジェイドに対してドレイクは再び雲を眺めながら沈黙した。再びジェイドの姿を見下すと口元をゆるめニヤケながら語りだした。


 「女をただひとり残したところで生きてはいけないだろう。売り飛ばしても大して金にはなりそうにもない。おまえの願いを聞き入れるのも・・・・待てよ。おまえの無様な姿が見てみたい。俺は挫折や絶望を知らないおまえのその目が気に入らないんだ。そこでおまえには絶望をプレゼントしてやろう。」


 「やめろ・・・やめてくれ!」


 涙を浮かべながら怯えているユラを見下すとドレイクは腰に吊るしてある刀を鞘から取り出していきなりユラを斬りつけた。鮮血がほとばしりその場に倒れたユラは何とか意識を保ち這い蹲りながらジェイドのほうへ這って行く。


 「ジェ・・・イド・・・」


 「ユラ・・・うわぁぁああ~~!!!」


 「ジ・・・ェイ・・・ド・・・」


 ジェイドとの距離があと少しと、もう少しで手が届くというところでユラは力尽きた。ジェイドにはユラが死んだ事にショックを受けてただ呆然としている。


 「いいぞ、いいぞ!その顔が見たかった!ハッハッハッ!」


 絶望に打ちのめされているジェイドの姿を見て笑いながらドレイク達はその場を去っていった。数時間が経過した頃、ジェイドはユラの亡骸を抱きながら村を後にした。


 「・・・てんと・・・しっかりするのじゃ。」


 「・・・・徳寿先生・・・・」


 てんとは意識を取り戻すと天道の病院のベッドに寝かされていた。学舎の長である徳寿が異変に気づき倒れていたてんとを助けに来たのである。すべてを話したが徳寿はジェイドの姿は見ていないと言った。てんとは徳寿から修羅道についていろいろ聞かされながらその上で説教もされた。しかし徳寿はてんとが修羅道より無事に戻ってこれたことをなにより喜びもした。  

 その後天道よりジェイド捜索隊が修羅道に派遣されたが捜索は困難を極め、結局ジェイド死亡の報告がされて打ち切りとなった。


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