恐怖の地下列車
「リディーネの容態はどうだ?」
「今、薬を投与したから大丈夫よ。それにしてもジェイドが来てくれて本当に助かったよ。」
「その言い方じゃあ、俺が役不足ってカンジに聞こえる。」
「カンジじゃなくてそう言ったの。」
「なんだよ、ヒドいな、マイコちゃん。」
マイコが大笑いした。ゲノムを殲滅したジェイド達はリディーネの容態の回復を伺っていた。ジェイドとゲノムが戦闘を繰り返している最中、マイコはロードギアのダメージの復元作業を行っていた。ロードギアが受けたダメージは深刻なものだったがフラッシュ・バイド・ドライブをターミナルログ方式に切り替えたことが良かったらしくホワイトデッド光線に含まれている溶解成分ライム波を無害化に変換することができた。その際に抽出した液体をリディーネに投与した。
「熱も下がったみたい。顔色もいいし効果が現れたようね。」
「リディーネをロードギアに乗せてキングダムシティに向う。」
「あっ、そうだ。てんとから手紙を預かっていたんだ。ハイ、これ。」
マイコから手紙を受け取るとジェイドはそれに目を通した。それにはてんと達とドレイク達が向ったルートの詳細やキングダムシティへの到着時刻が書かれていた。
「でもルートや時間のこと以外になんかわからない言葉が書いてあるんだよね。あっ、ゴメン。封筒とかに入ってなかったから目に入っちゃって・・・。」
「別に構わん。これは学舎時代の俺とてんとだけが知っている暗号さ。さて、俺たちも行動するか。」
「どうするの?」
ジェイドはてんとの手紙を瞬時に凍らせると粉々に砕いた。リディーネをロードギアに乗せてアレスとジェイドはキングダムシティを目指して歩を進めていく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「こんな薄暗いトンネルを通る羽目に遭うとは思わなかったぜ。」
「アラ、いいじゃない。私は好きよ。暗闇をふたりっきりで歩くの。」
「リナがいいならいいんだけどよ。」
長いトンネルをドレイクの肩に寄り添いながらリナはデートを楽しんでいた。久しぶりの夫婦水入らずの時間を過ごすことができた。このデートを企画してくれた?てんとには感謝している。しばらく歩きながらのデートを楽しんでいると駅ステーションらしき場所が見えてきた。そこには古い十両編成の列車が止まっていたが人影は見られない。
「なんか不気味な列車だな。」
「そうかしら?ちょっとモダンなカンジでいいんじゃない。歩くのも疲れたし乗ってみない?」
リナに背中を押されたドレイクはその列車に乗り込んだ。灯りはともってはいるがどちらかといえば薄暗い車内であった。車内にもやはり人影はなくドレイクとリナ以外誰もいない。とりあえず立っているのもなんなのでふたりはシートに腰をおろした。座り心地はあまりよくはない。誰もいない車内でふたりっきりで座っているがドレイクはどうも落ち着かない。
「どうしたの?モジモジして。」
「なんかよう、久しぶりにふたりっきりになって・・・」
「ん?ふたりっきりになって?」
「・・・・」
「えっ?聞こえない。」
「きっ・・・緊張してんだよ!」
「アラ、可愛らしいこと。」
リナはドレイクの頬に軽くキスした。耳まで真っ赤にしたドレイクはリナを激しく抱きしめた。リナはドレイクのそんな不器用なところが好きだった。抱きしめられながらリナは幸せを噛締めている。そんなふたりのもとに不穏な動きをする者が近づいてくることなど知るよしもなかった。
「あのぉ~・・・切符を拝見してもよろしいでしょうか?」
透明な液体状の生命体らしきものがふたりを見つめていた。驚いたドレイクはリナから離れると動揺した様子で声を荒げた。
「びっ、びっくりするじゃねえか!なっ、なんなんだよ、お前は?」
「私ですか?失礼しました。私は車掌です。この地下列車の車掌をしてます。」
「車掌さん?切符を拝見ってこの列車動くのかしら?」
「もちろんでございます。この列車はセンター通りを経由して最終駅キングダムシティへと向かいます。」
「センター通りってのがわからねぇけどキングダムシティには行くんだな。よし、んじゃあ、切符を買うぜ。いくらだ?」
車掌から切符を受け取るとリナは疑問を投げかけた。それは自分達以外に客がいないことであった。天道の地下列車でしかも最終駅キングダムシティへ向うのなら客がいないことが逆に変である。リナの言葉に返した車掌の言葉はこうであった。
「本日はすでに満席でございます。では出発進行です。お座席に座りシートを締めてください。では失礼致します。」
その言葉を最後に車掌は姿を消した。満席とは聞いたがリナは辺りを見渡しても誰もいないことに頭を傾げた。汽笛が鳴ると列車はゆっくりと動き始めた。地下列車だけに暗闇を一路キングダムシティ目指して走っていく。するとさきほどまで明るかった車内の照明がおとされ薄暗くなった。
「アラ?どうしたのかしら?」
「さあな、省エネかなにかじゃねえのか?俺ちょっと寝るぜ。」
そう言うとドレイクはシートをベッド替わりにリナの膝を枕替わりにして眠った。薄暗くてドレイクの表情を見ることはできなかったがドレイクの髪に触れながらリナは幸せを感じていた。するとリナの膝をドレイクの手が触り始めた。
「ダメよ、暗いからってこんなところで。」
リナはその手を退ける。しかし少し時間が経つとまたドレイクの手がリナの膝に触ってきた。それどころが今度は背中にも手をまわしてきた。
「ちょっ、ちょっと・・・ダメよ、ドレイク・・・ダメ・・・」
「ん?どうしたんだ?」
「えっ?」
リナは暗がりの中でドレイクが腕を組んでいる姿を確認することができた。ではこの手は?今現在も手はリナの身体に触れている。逃げるようにその場からたちあがるとドレイクがシートから床に落ちた。
「いってぇ~・・・突然なんだよ?」
「車内に私達以外に何者かがいるわ!さっきからずっと身体を触られていたもの。」
「何!俺の女に触っただと!許せんな・・・・がっ!」
「ドレイク!どうしたの?」
「くそったれ・・・いきなり殴られたぜ。リナ、気をつけろよ。」
「殴られはしないようだけど・・・今でも触られているわ。」
「くそが!どこにいやがる!出てきやがれ!」
声を荒げながら車内中を睨みつけるがどこにも姿が見えない。しかしリナは身体を触られ続け、ドレイクは何者かに殴られ続けた。ドレイクも応戦するが何もない空間にひたすら手足を振り回しいつ終わるかわからない戦いに嫌気すら感じていた。
(どうしたんや?もうギブアップかいな?)(玄武)
玄武が姿を現すと殴られ続けるドレイクを馬鹿にした。殴られては殴り返そうとするがドレイクの拳は空を切るばかりだった。
「ハァハァハァ・・・くそったれ・・・攻撃が当たらねぇ・・・。」
(そうやろ・・・相手は六道を動ける怨霊やで。しかも最強や)(玄武)
「最強の怨霊だと・・・この列車はキングダムシティ行きじゃあねえのか?」
(違うで。この列車は地獄行きや。なんで乗ったんや?)(玄武)
「車掌に騙されたってわけか・・・玄武、どうすれば倒せる?」
(祀るのが一番やな。せやけどムリか・・・せや、電撃や。怨霊は電撃に弱いんや。)(玄武)
そのことを知ったドレイクはリナに目を向けるが身体中を触られていたリナはその場に座り込んでしまっていた。怨霊からリナを取り除くとフラフラのリナに言った。
「リナ、雷撃だ!奴らを倒すには雷撃しかない。やれるか?」
「もちろんよ。牡丹玉オーバーエレメント リ インドラ メガラウンド!」
ほとばしる雷撃が車内を包み込んだ。さきほどまで全く見えなかった怨霊がゼリー状の姿を現した。姿を見られた怨霊達は目の前に仁王立ちしているドレイクを上目づかいで見つめた。
「ほんまにやってくれたで・・・お返しはのしつけて返すから・・・覚悟しいや。」
「ドレイク、いつからそんな言葉に・・・」
(ワイの影響やな。それにしても脅し文句がちと古い気んや。)(玄武)
その後怨霊達がどうなったかというと想像通りではあった。地下列車は地獄行きからキングダムシティ行きにすぐに変更となった。それだけでは気のおさまらないドレイクはすべての怨霊達を集めた。
「どういうつもりで俺の女に手を出しやがったんだ。ん?わかるように説明してくれ。わかるようにな。」
シートにドカッと座ったドレイクの足元では正座をしている怨霊達が床を見つめ俯いている。ドレイクは右脚を上げると床をガツンと踏むつけた。その音にビクンと身体を震わせた怨霊達は迫る恐怖に怯えていた。
「おい、どうした?理由を言えよ。理由をよ!」
(なあ、リナ姉さん・・・ちょっとやりすぎやないか?)(玄武)
「玄武はドレイクの四神なのに性格知らなかったのかしら?」
(別にとりついているわけやなし・・・)(玄武)
「あら、そう・・・でも今のドレイクに逆らわないほうがいいわよ。」
(せやな・・・雷がこっちに落ちたらたまらんで・・・まあ、雷はリナやけどな。)(玄武)
「あら、うまいこと言うのね。」
玄武とリナが笑っていると怨霊達もつられて笑みをこぼした。そのことがドレイクの怒りをさらに買ったようだ。再び右脚を上げると床をガツンと踏みつけた。
「なにヘラヘラしてんだ、バカ野郎が!反省してないようだな?」
顔を腫らした?怨霊達は正座しながら再び床を見つめている。それでも怒りのおさまらないドレイクは再びたちあがると怨霊達は怯えた表情をした。
(まちいや、ドレイク。そのへんで勘弁してもらえんやろか?)(玄武)
「なんだと!俺が許してもリナの怒りがおさまらん!」
「私は怒ってないわよ。」
「ちぇっ、しょうがねえ・・・このへんで許してやる。」
その言葉にホッとした怨霊達は涙?流しながら喜んでいた。しかしすべてを許されたわけではなく怨霊達はしばらく正座しながらドレイクに睨まれていた。その場の空気を変えたかったのか?リナが口を開いた。
「あなたたちはどこから来たのかしら?」
「実は・・・」
怨霊のひとりが口を開いた。怨霊達はこの天道で天寿を全うしたらしい。デッドキャリーにこの列車に連れてこられた彼らは六道のどこかにおろされると語った。列車は地獄行きだが彼らの中に地獄に行くものはいないらしい。天道人には珍しく業を溜め込んだようだ。
「この世に未練があるわけでは・・・いや、未練はある。妻子を残して死んでいくのが辛くて・・・ついそこの女性に・・・。」
「つい?てめぇ~ 六道どころが永遠に消滅させてやろうか?」
「すみません すみません すみません!」
「ドレイク、かわいそうよ。」
「けっ、まあいいや。話を続けろよ。」
頭をペコペコ下げ続けている怨霊はそれから話を続けた。天道で彼らはかなり高い地位にいたらしくキングダムシティの構造など細かいことまで教えてくれた。そんな彼らであるが行き先が変更されたことにすこし戸惑っていた。
「しょうがねぇだろ・・・まあ、俺たちがキングダムシティに辿り着いたら地獄行きにするからよ。乗りかかった船だ。付き合えよ!」
「あのぉ~・・・船ではなく・・・列車なんですけど・・・。」
「はん?何か言ったか?」
頭を腫らした怨霊達はドレイクの怒りを買うのが恐くて黙って従っている。彼らを乗せた地下列車は一路キングダムシティを目指して激走していく。