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未来のきみへ   作者: 安弘
天道編
202/253

トライアル・フォース

 「ユラ!」


 誰もが目を疑った。目の前にいるのはたしかにあのユラだった。ユラはピサロの隣で何も語らずに様子を伺っている。ユラの耳元にピサロがなにか囁くと無言のまま頷いた。


 「久しぶりの再会を楽しんでちょうだい。邪魔者は去ることにするわ。」


 「貴様、どういうことだ?何故、ユラがいる?」


 「私は創造神。すべてが我が思うままにと言う事かしら。」


 ピサロはウインクをすると姿を消した。ドレイク達がピサロを追いかけようとするがユラが立ち塞がった。あの愛らしかったユラの瞳は今では冷たく凍り付いている。ユラは両手を合わせ再び両手を離すと手と手の間になにか異質な液体のような固体のようなものが球体の形をして現れた。球体がユラから離れるとそれはゆっくりとタカヒト達に向ってきた。


 「アレはやばい!避けろ!」


 ドレイクの野生の勘があの球体が危険なものであることを察した。ドレイクの声に皆一斉に球体を避けるとそれは部屋の壁に当たり潰れそうになるが反動でユラのもとへと戻っていった。


 「可愛い顔して恐ろしい力持ってやがるぜ!」


 ドレイクの額から汗が流れた。球体が当たった壁はその形のままそっくり消えていた。くり貫かれた壁がどこにいったのかはまったくわからない。だが壁がなくなっていることはたしかだった。ユラは再び球体を放つとそれはゆっくりと向ってくる。しかし速度は遅く当たらなければ問題がないとてんとはユラがどのようにしてピサロに操られているかを考えていた。ジェイドも同じ答えを出したようでユラに懸命に話しかけている。


 「ユラ、しっかりしろ!」


 「・・・・」


 ユラからは反応はなく球体をかわしながらの説得は続く。誰もがユラの説得を考えていたがそれは間違いだった。ユラは球体を手にすると軽く吐息をかけた。すると球体は細かい球体となり部屋中を覆った。


 「おいおい、ユラを心配している場合じゃなくなったぞ。」


 「ドレイク、この局面をどう乗り越えるつもり?」


 「それはムリってもんだろ。とりあえず・・・逃げるぞ!」


 球体により開いた壁からドレイクは一目散に逃げていく。その後をリナが追いかけるとタカヒト達も追っていく。部屋に残った者はジェイドとてんとにユラのみであった。


 「ジェイド、ユラを頼んだぞ。」


 「ああ・・・三文芝居だったがドレイク達には感謝している。」


 てんとも壁をくぐり抜けていくと部屋に残った者はジェイドとユラのみとなった。そのジェイドの周囲にはユラの球体がところ狭しと浮かんでいた。すでにジェイドの瞳は右が赤く左は冷酷な青色をして手には氷刀流穿剣を握り締めている。


 「こうなることは予想していた。ピサロが俺に対抗する相手はユラであると・・・しかし現実のものになるとさすがに動揺は隠せないものだな。」


 「・・・・」


 無言のユラは細かくなった球体を操りジェイドに放つ。向ってくるすべての球体をジェイドは軽やかにかわしていく。四方八方からの球体を網の目を通り抜けるかのような精度でかわすジェイドだがユラの表情に変化は見られない。球体は床や壁にぶつかるたびにくりぬかれたクレーターが出現した。球体をかわし続けながらもジェイドはユラに語りかけた。


 「憶えのある技だ・・・トライアル・フォースだな。」


 ジェイドが言ったトライアル・フォースとは四神の蒼龍が放つ技のひとつである。蒼龍は空間を歪めることで球体を創りそれに触れたすべてのものは別次元へと吸い込まれていく。蒼龍の技をユラが操ることにジェイドは球体をかわしながらしばらく考えを巡らせていた。


 「蒼玉はユラが所有していた。彼女にも蒼龍を操る能力が備わっていたということか・・・ならば!」


 ユラの放つ球体をかわしながらもジェイドは氷刀流穿剣を床に突き刺した。床からジェイドを包み込むように大きな球体が現れると襲い掛かってくるユラの球体を吸収していく。ユラの放った球体のすべてを吸収し終えるとジェイドを包んでいた球体も消えた。


 「同じ波長なら吸収も可能なこと。」


 「そんなことは承知しているわ。それでもユラは命を削っても攻撃を止めないわよ。なぜならユラは私のものなのだからね。」


 ユラからピサロの声が聞こえてきた。どうやらユラの身体を通してピサロが口寄せを行っているようだ。ユラの精神はピサロによって支配されて攻撃を止めることは出来ない。さらにトライアル・フォースはユラの精神と肉体に多大なる負担をかける為に命が尽きるのも時間の問題だと語った。ジェイドから見てもたしかに無表情であるがユラの生気が次第に衰えていくのがわかる。


 「ユラを殺したくなかったらあなたが死ぬことね。愛する者に殺されるなんてロマンチックだと思わない?」


 その言葉を最後にユラからピサロの気配が消えた。虚ろな瞳のまま、ユラはトライアル・フォースを開放して球体を放ってくる。防戦一方のジェイドは次第に追い込まれていく。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「てんと、ジェイドのことが気になるの?」


 「ジェイドのことだから大丈夫だとは思うが・・・。」


 「おい、ジェイドの心配をしている場合じゃなさそうだぜ。」


 ドレイクが窓の外を指さした。そこには天道の空軍とも言える部隊フライング・アーミーが建物を包囲していた。しかしフライング・アーミーはまだドレイク達の姿を確認していなかった。てんとは窓から注意深く外を観察していくと再び皆のもとへ戻ってきた。


 「しばらくの間、天道を離れていた為か、かなり変わっているがおおよその見当はついた。」


 「それでどうするんだ?」


 「うむ、ここは以前来たことがある。下の階に小さな会議室があるはずだ。そこへ向おう。」


 ドレイク達は周囲を警戒しながらも階段を降りていくとてんとの話していた場所に会議室があった。その中へ入るとてんとはホワイトボードになにかを書き始めた。てんとが観察してきた地形とキングダムシティの位置図のようだ。


 「ここは天道が誇る研究所の複合ビルだ。学舎の生徒の頃、ジェイドと来たことがあるが現在では使われてはいない。ここより北に進むとキングダムシティに行けるが見ての通りフライング・アーミーに包囲されている。強行突破はかなり厳しいだろう。」


 「なるほど・・・ならばどうする?」


 「うむ、ここはグループ分けを行い、フライング・アーミーの注意を分散させていくのがベストだと思う。」


 「でもそのフライング・アーミーって強敵なんでしょ?皆で協力したほうが・・・。」


 「うむ、ミカの考えも悪くはない。だが集中砲火を浴びるよりは分散したほうがここは賢明だろう。ミカとタカヒトは私とともに行動する。以前、徳寿様が滞在された別荘がある。そこになにか手がかりがあるはずだ。ドレイクとリナは都市部からの潜入をしてくれ。地下列車が通る地下線路を通ればキングダムシティに障害なく行けるはずだ。マイコとアレスとリディーネはフライング・アーミーを迎撃して注意を引いてくれ。その間に我らは行動を開始する。」


 「でもあの大群をずっと相手にするのはちょっとキツイわね。あっ、そうだ!アレスの白虎で移動できない?」


 「いやぁ~、ちょっとムリっぽいよ。白虎が言うにはここって時空っていうか空間が歪んでるらしいんだ。」


 「ジリ貧ってやつね。」


 「いや・・・一時的でよい。ジェイドが合流したらこの紙を渡してくれ。」


 てんとはマイコに紙切れを手渡した。紙切れをしまうとマイコはロードギアを起動させていく。アレスも白虎を出現させてリディーネも闘気を高めて戦闘体勢を整える。


 「では最終目的地キングダムシティで会おう。」


 「ああ、俺たちだけ到着ってのは勘弁してくれよな。」


 「皆、ムリしないで・・・。」


 「よし・・・んじゃあ、いっちょ、行くか!」


 複合ビルから飛び出したロードギアが一斉に迎撃ミサイルをフライング・アーミーに撃ち込んだ。一体二体と撃ち落すがそれ以外はミサイルを回避していく。そこにリディーネの火炎弾が放たれた。迎撃ミサイルが誘爆をおこすとさらに数十体のフライング・アーミーが撃ち落されていく。


 「俺も負けれられないな。白虎、頑張るよ。」


 (おまえが頑張ればよい・・・あれは喰えない。)(白虎)


 「喰えなくてもやるの。メテオ・ボール!!」


 白虎の背後に異空間が出現するとそこから隕石が飛び出してきた。隕石が激突したフライング・アーミーは墜落していく。三人の迎撃が行われている隙にドレイク達とタカヒト達は行動を開始していった。防戦一方のジェイドはユラの様子を伺っていた。一向に攻撃の手を緩めないユラの精神と体力は限界に近づきつつある。


 「ユラ、やめるんだ!このままでは死んでしまうぞ!」


 「・・・・」


 ジェイドの言葉に耳を傾けることなくユラはトライアル・フォースを放ってくる。床に突き刺した氷刀流穿剣を引き抜くと刃先をユラに向けて腰を落とした。それを無視するようにユラの球体がジェイドに襲い掛かる。


 「俺は・・・再び得た大切な人を失うのか・・・ユラ!」


 球体をかわしながらジェイドは流穿剣の刃先をユラの胸元に突き刺した。刃はユラの背中まで達して柄を握るジェイドの手がユラの胸に触れる。すると再びユラに口寄せしたピサロの声が聞こえた。


 「どこまでも冷酷な男。最愛のユラをいとも簡単に殺めるとはね。まあいいわ、この勝負はあなたの勝ちよ。勝負に勝って人生に負けた男ってちょっと魅力的ね。」


 ピサロが話し終えるとユラの頭がガクッと落ちた。その身体を支えると流穿剣をユラの胸から抜き取った。ジェイドはユラの身体を抱きかかえると床に優しく寝かせた。


 「・・・ジェ・・イド・・・」


 「ユラ!」


 「・・・意識はあったの・・・でも身体が・・・動かなかった。」


 「何も言うな。何も考えずに休むんだ。」


 「あなたを・・・傷つけるのが・・・辛かった・・・」


 「もういい・・・喋るな!傷口が開く。」


 「・・・いいの・・・あなたとまた逢えたから・・・。」


 「なんだよ。その言い方は!今生の別れみたいじゃないか!」


 「・・・ジェイド・・・寒い・・・。」


 ユラの顔も唇もすでに紫色に染まっていた。ジェイドはユラの背中に両手をまわすとギュッと抱きしめた。力一杯優しく抱きしめた。


 「生まれて初めて・・・愛した人に抱かれて愛されて・・・。」


 「これからだってもっともっと抱きしめるさ!」


 「もし・・・また逢えたら・・・平和な世界で・・・一緒に・・・」


 抱きしめたユラのゆくもりが少しずつ冷たくなっていくのをジェイドの肌が感じた。そしてユラの身体が透けると完全に消えた。しばらくユラのぬくもりの余韻を感じているかのようにジェイドはその場から動こうともしなかった。


 「前に進むしかない・・・なあ、ユラ。」


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