哀しい別れ
「そろそろ飽きたわね・・・ビックボスさん、
プルガトーリオの力を見せてあげて。」
ピサロの言葉に頷いたビックボスは手にした携帯端末を操作するとその画面にインフェルノが映し出された。パネルを押したがプルガトーリオから何かが放たれることはなく変化のない光景に額から冷や汗を流したセシルが言った。
「なっ、なにもないじゃないか。驚かせやがって・・・。」
「フフフ、そう思う?あなたの大切な神獣を見てみなさい。」
「インフェルノ・・・何をした!」
「プルガトーリオが吸収したのよ。この兵器はね、業の力を吸収するものなの。さあ、どんどんいきましょう。」
ビックボスの操作するプルガトーリオが標準を合わせるとパラディーゾの姿が消えて悲観するセシルは涙を流す。その姿を見てピサロからはさらに甲高い声で大笑いした。ビックボスは最後の神獣リッパーに標準を合わせるとパネルを押す。
「やめろ!やめてくれ!僕の大切な仲間を返せ!」
「アッ、ハハハ・・・楽しいわ。
じつに愉快よ。ビックボスさん、まだ残っているわよ。」
「やめろ!タカヒトだけは勘弁してくれ!
唯一の肉親なんだ!助けてくれ、この通りだ!」
動けない身体を強引に動かしてセシルは頭を床に押し付けた。その姿を見たピサロはおもむろに近づくと自らの脚を振り上げてその頭に振り下ろした。床が激しく割れてセシルの頭部が減り込んでいく。ご機嫌のピサロにビックボスが声をあげた。
「マズイことになった。業の吸収量がプルガトーリオの許容量を越えている。このままでは破裂してしまうぞ!」
「アラそう・・・別にいいわよ、壊れても。」
ピサロの身体が幾つもの色に輝いていくとその指先をセシルに向けた。無慈悲な高濃度放射粒子がセシルの皮膚を貫いていく。その度にセシルから悲鳴があがる。
「あなたが壊れるのが先か、プルガトーリオが壊れるのが先か?見ものね。」
部屋にはセシルの焼けた皮膚の臭いが漂っていた。ピサロから放たれた高濃度放射粒子は細胞内を侵食しながら破壊していく。セシルにはタカヒトと同様に細胞を活性化させて復元させる瞬間自己修復が可能である。しかしセシルの腕には青白く溶けた孔がいくつもある。ピサロの高濃度放射粒子を受けると破壊だけでなく自己修復まで失われる。それに破壊された細胞はガン化して他の細胞までも破壊していく。セシルはすでに両手脚に高濃度放射粒子を受けておりすでに手と足の先端は壊死して崩れていた。
「高濃度放射粒子をこれだけ受けて意識を保てるなんて大したものだわ。」
「殺してやる。」
「虫の息でよく言うわ。プルガトーリオも神獣の抵抗に破壊されるのも時間の問題。アンタもよく頑張るわ。」
「けっ、恐いならそう言えよ。俺達が恐いんだろ?お前らアルカディア人を殺戮したアムルタート人の末裔だからな。」
「・・・図に乗るなよ!」
「グッ・・・おっ、怒ったね・・・図星ってわけか・・・グハッ!」
セシルは口から大量の血を吐き出した。プルガトーリオの影響で身体を動かせないタカヒトはセシルとピサロのやりとりを聞いていることしかできない。ピサロの表情が次第に険しいものに変わっていく。
「けっ・・・ざまあみろ・・・馬鹿ピサロが・・・」
ピサロから放たれた高濃度放射粒子がセシルの額を貫いた。その瞬間、プルガトーリオから爆発音が鳴り響いた。
「ピサロ様!プルガトーリオが!」
「チッ!しょうがないわね。アリシアさん、ビックボスさん、頃合のようです。」
ピサロはセシルの表情を確認するとアリシア達を連れてキングダムシティへと戻った。残されたタカヒトはプルガトーリオの影響が少し残る中、力を振り絞って立ち上がるとセシルのもとへと歩いていく。破壊されたプルガトーリオの近くには三つの卵が落ちていた。リッパーの時もそうだったが神獣は死ぬ時に卵を産み子孫を残すようになっている。タカヒトはそれを確認するとセシルのもとへと急いでいく。
「セシル・・・・」
「ゴホッ!・・・くそっ・・・俺がこんな最後を迎えるなんて考えもしなかった。まあ、いままで多くの者を殺めてきた。業の神の最後が業を受け入れるのも・・・悪くない死に方だな。」
「・・・・」
「そ・・・んな哀しい顔・・・すんな。」
「セシル・・・唯一の肉親って・・・」
「ああ・・・そのことか・・・」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その頃、要塞に入り込んでいたドレイク達は激しい爆発音に驚いた。衝撃も凄まじくドレイク達のいるエリアの天井が一部崩れた。不穏な空気を感じたドレイク達は階段をのぼり司令室へと進んでいく。
「どこをみても焼き焦げた死体しかないな。ここが司令室か。」
「天道軍の兵士達は逃げたようね。どこにも見当たらないわ。」
「どうやらこの司令室の上になにかあるらしい。
パネルを操作した形跡が残っている。」
司令室には何も見つけることができなかったが他のエリアにはなにかあると確信したドレイク達は司令室から階段をのぼっていくと鉄扉が開いていた。戦闘体勢をとりながら内部へと侵入していくが中には壊れた機械と何者かがいた。
「・・・・タカちゃん!」
ミカは走ってタカヒトに近づく。息を切らせながらタカヒトを見つめると三つの卵を手にしたタカヒトがミカの姿にもさほど反応もなく淡々とした口調で言った。
「ミカちゃん・・・本当に哀しいのに僕は涙が出ないんだ。」
「タカちゃん・・・」
ミカにはかける言葉がなかった。タカヒトがここでどんな目に遭ったのかはわからない。何があったかとも聞けなかった。いままでどこにいたかも・・・。タカヒトの表情を見ればミカにはなんとなくその想いがわかっていたのかもしれない。ジェイドとてんとは壊れた機械を観察して、リナとドレイクはほかのエリアへと歩いていく。マイコはメンテナンスと必要な部品の調達に向かい、アレスとリディーネは司令室へと戻った。残されたミカは黙って座り込んでいるタカヒトの隣に座るとただ黙っていた。大切そうに卵を抱いているタカヒトを黙って隣で座っていることしかできないミカ。
「・・・タカちゃん・・・あのね!」
「あっ・・・生まれる・・・」
「えっ?」
タカヒトの手にした卵にヒビが入ると三匹の小さな神獣が姿を現した。リッパーはタカヒトの首に巻きつき、パラディーゾは足元をウロウロしている。インフェルノはタカヒトの髪の毛に巻きついていた。
「よかった。セシル、神獣は無事だったよ。」
「えっ?・・・・」