本陣への襲撃
「予定を変更する。このままハンターの本陣に向かうぞ!」
「えっ、なんで?オメガへ行くんじゃないの?
・・・ってゆうか、てんとってソウルオブカラーを持ってたの?」
てんとはハンターの行動が気になるようで迂回してまわり込み本陣の背後から侵入をすることを決めた。その道中、てんとはソウルオブカラーについて話した。先ほども話したのだがソウルオブカラーはその能力が使える世界と使えない世界がある。この餓鬼道ではタカヒトの紫玉は使えず、てんとの緑玉は使える。紫玉の厖大なる者は複数のアレストを使い粒子砲により敵を一掃する能力に対して緑玉の静かなる者には紫玉のような攻撃力はない。というより攻撃してターゲットを破壊する能力が現在はないらしい。緑玉は気の流れから反発力のある球体を作り出す。球体の特性は反発力で攻撃などを仕掛けてくる敵を弾き飛ばすことしか出来ない。しかしその特性を生かせば先ほどのように戦いに勝利することが出来る。兵力より兵法。これがてんとが見つけた戦い方だ。
てんとがこの能力を隠していたのはタカヒトがそれに頼り自ら状況を乗り越えようとする努力を怠る恐れがある為だった。タカヒトが自ら努力して業を解消、徳を積み元の世界へと戻る為のサポートがてんとの役割なのだ。だがてんとは考え方を変える必要があった。てんとは過去に案内役として狭間に堕ちた何体もの魂をサポートしていた。もちろんすべての魂が元の世界へ戻ったわけではないがこれほど危険な目に遭った魂はタカヒト以外いない。
畜生道でのデノガイドとイーター戦、紫玉の入手と能力の会得、そしてこの餓鬼道の変貌。タカヒトを取り巻く環境はいままでとは全く違う!そう考えたてんとは自らの能力をあえて見せる事でこれからの戦いを互いに協力して乗り越えていく事を決めた。たしかにこの時てんともそれにとくべえもタカヒトのこれから降り掛かるであろう出来事は読み切れなかった・・・。
そんな事を話している間に火山の麓にあるハンターの本陣に辿り着いた。高く積まれた石積みの外壁のなかには石柱がいくつか並んでいるがハンターの姿は見えない。だがてんとは石柱に同色化しているハンターが数匹いることを素早く見破った。タカヒトにそれを説明してから外壁を迂回してまわり込んだのだが本陣は思っていた以上に広かった。てんとの思惑通りに裏側にはハンターはおらずすんなり侵入できた。その内部ではハンターの一匹がハンター族頭首ゲイルに報告していた。
「ゲイル様、外に妙な奴がうろついてましたんで捕まえてまいりました。おそらくオメガの奴隷だと思います。いかがなさいましょう?」
「俺がほしいのは奴隷ではなく戦士だ。役に立たぬ者は牢屋に入れておけ!」
ハンターが連れてきたオメガの奴隷は小さくなって震えている。ハンターは軽く頭を下げるとオメガの奴隷を連れて牢屋の方向へ向かった。階段を降りていくと湿気の多い廊下をハンターと涙を流している奴隷は歩いていく。
「くそが・・・」
ゲイルは苛立っていた。鬼王率いる近代独立国家オメガに襲撃を幾度となく行なったがドライブスーツ隊の反撃に遭い何匹もの仲間を失っている。オメガ兵器の多彩な攻撃に比べハンターには肉弾戦しかなかったからである。ゲイルはハンターの長であるコパじいに相談をした。
「じいよ・・・このままでは我等は敗れる。やはりあれを使うしかない!」
「ゲイル、負けても良いではないか。ここを離れて別の土地で静かに暮らそう。」
「何を言うか!ここを鬼王に明け渡せば燃料石を奪われるのだぞ!それは奴らの力を大きくさせることになる。アイスフィールドが広がれば我々の生きる土地はどこにも存在しなくなる。一族の為にも負けられん!」
コパじいとゲイルの話は平行線を辿っていた。じいは鬼王の勢力の届かない世界へ向かうことを訴えたがゲイルは一族の誇りを失うわけにはいかないと反発した。二匹がやりとりしている頃、内部に侵入したタカヒト達は暗がりの廊下を歩いていた。暗がりの先からハンターが近づいてきたのでタカヒト達は身を潜めた。タカヒトはハンターの後ろに人影を発見した。暗がりだったがタカヒトにはそれが誰か分かった。
「・・・・ミカちゃん?」
この世界にミカがいることにタカヒトはかなり驚いた。 廊下沿いの牢屋のドアを開けるとハンターはミカを牢屋入れてその場から立ち去った。
「あれは確かにミカちゃんだ!なんでこんなところに?」
「・・・理由はわからんが助けるのか?」
タカヒトはうなずくと牢屋のドア前に走っていく。中からミカのすすり泣く声が聞こえている。牢屋のドアと言っても鍵が付いているわけでもなくドアの留め金を外すとドアは簡単に開いた。タカヒトは牢屋の中に入ると隅にうずくまっているミカに声をかけた。
「ミカちゃん?」
「!・・・タカちゃ・・・ん?」
ミカは涙をポロポロ流した。座り込んで震えている身体は立ちあがれずタカヒトはミカに歩み寄っていく。震えるミカの前にかがむと急にタカヒトに抱きついた。
「タカちゃん、タカちゃん・・・」
恐怖に怯えていたミカの突然の行動にタカヒトはびっくりして固まった。少しの間、泣き続けているミカをタカヒトはぎこちなく背中に手を回してギュとした。しばらくしてミカは落ち着きを取り戻すとタカヒトに抱きついている事が急に恥ずかしくなったようでパッと離れた。
「ごっ・・・ごめんね・・・。」
「・・・なんでミカちゃんがここにいるの?」
顔を赤らめながらミカは今までの事を話した。学校で大樹に殴られた事までは憶えているらしい。その後気がついた時にはこの餓鬼道の森にいて訳も分からずにさまよっているところをハンターに捕まったらしい。落ち着きを取り戻したミカにてんとが近づいた。
「ミカと言ったな。
ここまでの経緯は何と無く分かったがもう少し詳しく話してくれないか?」
「!・・・てんとう虫が喋った?」
タカヒトはいままで自身に起きたすべてのことを話すとそれをミカは静かに聴いている。ミカは少しの間考え込むと口を開いた。それはこの餓鬼道へ来る前のことだった。
「・・・私もね、その狭間というところから来たのかもしれない。私、気が付いたら暗がりにいたの。何もないところよ。皆の名前・・・タカちゃんの名前呼んだんだよ!でも誰もいなくて・・・。怖くて不安でそしたら暗がりの先に光が見えてそこに向かって走っていったの。そしたらこの世界に来て・・・でも見たこともないトカゲみたいな生物に捕まって・・・。」
「いろいろ話はあるだろうがまずはここから脱出することが先決だ。」
タカヒトとミカはうなずくとてんとの指示に従った。来た道を戻る事も考えたがハンターが数匹いると分かっている以上先を進むしかない。暗がりの廊下を進むと大広間に出たがハンターはいないようで辺りは静まり返っていた。こっそりとタカヒト達は大広間を横切ろうと歩いていると彼らを呼び止める声が聞こえた。恐ろしく低い声でてんとがその声に反応すると大広間の奥の椅子に同色していたゲイルが座っていた。脱出することに気を取られ椅子に同色していたゲイルに気づかなかったことをてんとは悔やんだ。ゲイルはタカヒト達をその鋭い目で睨みながら言った。
「さっきの奴隷?・・・お前等が取り戻しに来たというわけか。だが返すわけにはいかん!我々は奪う種族で奪われる種族ではないからな!」
ゲイルが口笛を吹くと大広間におびただしい数のハンター達が押し寄せてタカヒト達は逃げ場を失った。戦うしかないと覚悟を決めたタカヒトはミカの前に立ちハンター達から守るように構えた。今のタカヒトには紫玉は使えないし、てんとの緑玉だけではこのハンター達は倒せないかもしれない。それでもどんな事をしてでもミカだけは守る。ミカが自分を守るのではなく、自分がミカを守るのだ。タカヒトは決意して腰に吊るしてある徳の水筒に触れた。
おびただしい数のハンター達に囲まれたタカヒト達に勝算はなかった。てんとの緑玉も複数の相手では対応できない。タカヒトは腰に吊るしてある徳の水筒を握る。いくら徳の水筒を使ったからといってミカを守りながらハンター達と戦えるのか不安だった。しかし周りのハンター達は身体を低くしてすでに戦闘体勢に入っている以上戦うしかなかった。
「あれ?今日はパーティーでもあるのかい?それなら僕も入れてほしいな。」
ハンター達の動きが止まり一斉に声のほうに眼を向けた。そこにはタカヒトより少し背の大きい人間の姿をした亜人種が立っている。戦闘体勢の興奮状態だったハンター達の顔が急に蒼くなり震えだした。戦闘種族で怖いものなどないハンター達がその亜人種を見ただけで震えているのである。ゲイルがその存在に気が付くと亜人種に怒声をあげた。
「鬼王!・・・貴様、何の用だ!」
「何のようだって??あのさぁ~・・・僕がここまで足を延ばして来てやったんだよ。わかるでしょ?はやくここを明け渡してほしいんだけど!」
鬼王が自分と同じ位の背丈である事にタカヒトは驚いた。しかし武器も何も持たない彼が何故鬼王と呼ばれてハンター達に恐れられているのかわからなかった。だがそれもすぐにわかるようになる。ゲイルは額から流れる汗を気にしながらも強気な姿勢は崩さなかった。
「そんなつもりはない!なぜ明け渡す必要がある?
なぜ貴様は我らから土地を奪おうとする?」
「ここって奪い奪われる世界のはずだよね?僕ね、暑いのと臭いの駄目なんだ。キミ達が居なくなれば暑いのと臭いのに耐えることもないし僕が過ごしやすい環境を造る事が出来る。ブレイカー部隊にハンター壊滅を任せておいたのに全然ハンター減らないから僕一人で潰しにきたよ。僕ね、実を言うと忍耐とか我慢するとかまったく出来ないんだ。だから消えてくれる?」
ハンター達を震えあがらせるのに鬼王の一言は十分すぎた。ほとんどのハンターが戦意を失いかけてはいるがゲイルだけは違った。たったの独りでこの場に侵入した鬼王にゲイルはハンター最強集団である八人衆を仕向けた。ゲイルの後から八匹のハンターが出てきた。それらはいままでタカヒト達が見てきたハンターとは全く異なり身体がほかのハンターより一回りも二回りも大きく、爪や牙も異常にデカい。そんな八人衆は鬼王を囲むように配置された。よだれを垂らし知能こそなさそうだがそれを補うほど戦闘力は高そうだ。鬼気迫る勢いの八人衆に比べ鬼王は戦闘体勢に入るわけでもなく冷静に状況を眺めていた。
「やれやれ・・・この前あれだけ痛い目に遭ったのにまだ懲りないんだ。
やっぱり下等な生物ってこんなもんかな?」
鬼王が言い終えた瞬間、八人衆が一斉に襲い掛かった。だが鬼王にその鋭い爪で襲い掛かったはずの八人衆は目前で次々とその場に倒れこんだ。攻撃を仕掛けた八人衆が成す術もなく朽ちていく姿をゲイルは理解出来ないで呆然としている。ただ変化しているといえば八人衆の倒れた付近が濡れていることだけであった。最強集団の八人衆が敗れたことに沈黙していたハンター達は状況が理解出来たらしく混乱して鬼王から逃げ出そうとした。怖いものなどないはずのハンター達が圧倒的な鬼王の力に恐怖を感じてこの場から逃げようとしている。獣としての本能がそうさせたのだろう。
「逃走するのも無様なもんだ。だ・け・ど・・・逃げる場所なんかない!」
鬼王はため息をつくと八人衆と同様に何か物質を繰り出してはハンター達を駆逐していく。大広間は凄惨な光景となった。この世界で最強と謳われたハンターがたった一人の亜人種に成す術もなく駆逐されていくのである。倒れているハンター達を見向きもせず唯一の生き残りであるゲイルの前へ鬼王は歩いていく。
「ハンターの意地を見せてくれる!」
ゲイルは両手の爪を鋭く尖らせ怒声をあげながら襲い掛かるが鬼王の身体が青色に輝く。すると呆気なくゲイルはその場に倒れた。
大広間に残されたのはタカヒトとてんと、ミカそれに鬼王だけだった。タカヒト達を取り囲んだハンター達は鬼王の攻撃により肉の塊となっていた。ハンターの屍骸と血の海の中心に鬼王は立ちその圧倒的な強さにミカもタカヒトも恐怖を感じていた。次は自分達の番という思いが次第に強くなっていく。それでもミカだけは守らなければならないとタカヒトは鬼王の恐怖とすでに戦っていた。鬼王はタカヒト達に視線を向けた。
「あれ?てんとじゃないか。久しぶり!」
「ジェイド、とぼけるな!私がいることなどすでにわかっていたはずだ。おまえ、なぜ鬼王など名乗ってこの世界を狂わしている?餓鬼道をどうするつもりだ?」
「別にどうもしないさ!それよりキミこそ何をやってるんだい?キミの後ろの子達・・・タカヒト君とミカちゃんだっけ?狭間に堕ちた子達だろ?」
タカヒトには鬼王が何を言っているのか分からなかった。てんとは鬼王は知り合い?ジェイド?鬼王が何故タカヒトとミカが狭間に堕ちた事を知っている?タカヒトの頭の中はグチャグチャになって訳がわからなくなっていた。
「私は与えられた任務を全うしているだけだ!」
「任務・・・僕にはそれらは障害となる可能性がある。ついでに処理するよ。」
その言葉に再びタカヒトに戦慄が走った。それらって僕たちの事?ゴミを処分するような簡単な気持ちで僕たちは殺される?それでもミカを守るようにタカヒトは前に立ち塞がる。笑みを浮かべたジェイドの身体が青色に輝き始めた。その刹那、てんとの球体がタカヒト達を守るように立ち塞がり飛んできた何かを弾き返すとタカヒト達の目の前に液体が激しい勢いで地面に飛び散った。緑てんとの頭上では三つの球体が円を描くようにグルグル回っている。
「てんとは緑玉を使うんだったね。でもその能力で僕に勝ったこと一度もないよね?」
「それは学舎時代の話だ!」
「変わってないね。でも今も昔も同じだよ。キミは僕には勝てない!」
青ジェイドの身体がより輝くとその周りに拳大の水の塊が大量に現われた。一方、緑てんとの三つの球体は常に頭上を回っている。青ジェイドが右手を緑てんとに向けると大量に浮遊している水の塊が一斉に襲い掛かる。
「青玉理力 ウォーターアロー!」
水の塊が矢の形となり緑てんとに放たれたが球体の反発力の特性を生かした防御により飛んできた水矢を青ジェイドに弾き飛ばす。
「青玉中級理力 ウォーターウォール」
左手をあげると青ジェイドを包むようにウォーターウォールと呼ばれる水の壁が現れた。その壁は跳ね返ってきた水矢を吸収する。青ジェイドと緑てんとの一進一退の攻防が続いてはいるが少しずつ水矢はその本数を増してきている。三つの球体では矢の数の多さに対応しきれなくなるとそれに気づいた青ジェイドは更に水矢の本数を増していく。球体が反応しきれず防御が間に合わないほど襲いかかってくると球体の間から数本の水矢が緑てんとの身体を貫ぬく。
「ガハッッ!」
地面に落ちて倒れるとてんとから緑色の輝きは消えた。瀕死の状態と確認したジェイドは青色の輝きを消してタカヒトの前まで歩いて近づいていく。
「さて、てんとは沈黙している。次はキミ達の番だね!」
タカヒトはジェイドには勝てないことをすぐに悟った。いままでてんとに戦い方を教わりそれを実行してきた。てんとの兵法を信じながら戦っていたのである。そのてんとがジェイドには成す術もなく敗れ去った。勝てない・・・それでもミカだけは助けたい!守りたい!そんな想いがミカを守るようにタカヒトの身体を動かした。
「その子を守るつもり?勝てもしないのに?そうだ!いいこと思いついた。」
そんな事を言いながら歩み寄るとジェイドはいきなりタカヒトの腹部を蹴りあげた。ジェイドの蹴撃に肋骨が折れる感触が伝わった。苦悶の表情を浮かべタカヒトはその場に膝をつきうずくまった。息も出来ず蒼白した顔からは汗がダラダラと流れてきた。
「クッ、ウゥゥ~~・・・・」
「タカちゃん!」
苦しみ悶えているタカヒトをミカは介抱するように近寄るとジェイドからタカヒトの身を守るようにミカは立ち塞がる。そんなミカの髪の毛を鷲掴みすると強引にジェイドはミカの身体を取り押さえた。
「離して!タカちゃん・・・はあっ!・・・・・」
嫌がるミカの腹部に拳を入れるとミカはガクッと膝を落とし気絶した。ジェイドはミカを抱きかかえると苦しみ倒れているタカヒトに言った。
「あのさぁ~、彼女をオメガに連れていくから。最近、暇でね・・・これはゲームだよ。がんばって取り返しにおいで・・・そういえばこんな光景、昔あったっけ・・・」
意識を失いかけていたタカヒトはそれを聞き取ると気絶した。そう言い残すとミカを連れてジェイドはその場から消え去った。冷たい地面に倒れたタカヒトは何も出来ないまま気を失っている・・・