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未来のきみへ   作者: 安弘
天道編
196/253

遠い道のり

 フラフラしながらも玄武ドレイクは腰を落とすと脇構えの体勢をとる。剣先を地面に落としたビックボスは笑みすら浮かべていた。


 「四神といえども歯が立たぬか、それともワシが強すぎたか?」


 「はん!年長者を敬っただけだ。ここからは本気でいくぜ!四神の中で最強を誇る玄武の力を特別に味合わせてやるよ!」


 「減らず口をききおるわ!二度と口答えできぬようにしてくれるわい。」


 太刀を交差させたビックボスは両膝を曲げて腰を落とす姿勢は交差させた太刀を振り下ろすビックボスの最大の剣術を繰り出す構えだ。それに対して玄武ドレイクがとった構えは斬神刀を鞘に収め腰を落とした。


 「ほう、居合い斬りとな。ワシに通用するかの・・・じゃが、その眼光から察するに一振りにすべてを賭けるようじゃ。面白い。久しぶりに血が踊るわ!」


 玄武ドレイクとビックボスの間に乾いた空気感とまとわりつくような殺気が辺りに漂った。蒼龍ジェイドに入り込む隙などなくただ、固唾をのんで見守るだけであった。勝てる相手ではない。玄武ドレイクにもそれはわかっていた。しかし身体の底から疼くこの衝動はどうだ。死を賭して勝負を仕掛ける玄武ドレイクの表情は修羅道時代での若きドレイクと重なっていた。ソウルオブカラーすら所有しておらず、肉体と剣術のみでのし上がっていったあの頃と。紙一重で命を拾い、死線をくぐり抜けてきたあの時代と。


 「久しぶりだ・・・この緊張感と戦慄・・・」


 玄武ドレイク、いやこの時ドレイクは玄武のこともリナのこともすべてを忘れていた。ピサロを倒すことや四神のことなどどうでもよかった。目の前にいる強者に打ち勝つ。それだけがドレイクの精神を支配している。


 「いざ、参る!陰陽活殺術奥義、月光輪!」


 ビックボスが交差させた太刀を振り下ろすと巨大な斬撃が玄武ドレイクに襲い掛かる。


 「いくぜ!抜刀術奥義辛の型、流受刀から癸の型、限無斬!変則的に戊の型、速連波!とどめに己の型、斬鉄剣!」


 ビックボスの繰り出した巨大な斬撃の波は流受刀により軌道を変えられ、さらに限無斬と速連波に破壊された。ビックボスは頭上に迫ってきた玄武ドレイクに二本の太刀を突き上げるが斬神刀が太刀を粉々に砕いた。迫る斬神刀を紙一重でかわしたビックボスだが額に大きな切り傷を受けた。右手で額から流れ落ちる血をおさえるとビックボスが言った。


 「我が月光輪を破るとは・・・敗北を味わうのはいつ以来じゃろうか。この勝負は貴様の勝ちじゃ。じゃが、すべての決着を着けるのはまだ時期が早々。いずれ大舞台で待っておるぞ!」


 そう言い残すとビックボスは上空へと飛び去った。すると玄武ドレイクは片膝をついて息を切らし始めた。


 「ジジイ、三味線を引きやがって・・・ジェイド、大丈夫か?」


 「人の心配をしている余裕などあるのか?」


 「余裕?・・・そんなのねぇよ・・・・フフフ・・・」


 「何がおかしい?」


 「世界は広いな。強い奴がゴロゴロしてやがる・・・だが・・・。」


 「それらすべてを越えてやるというつもりか?」


 「ああ、ビックボスもセシルもそしてピサロもすべてだ。」


 「そうだな。その点だけは同感だ。」


 蒼龍ジェイドは玄武ドレイクに手を差し伸べるとその手を握り立ち上がる。遠くのほうに最上部エリアへあがれるゲートがあった。おそらくはビックボスが用意した門であろう。ビックボスの真意はわからないが進むしかない。ジェイドとドレイクはゆっくりと歩を進めていく。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「ちょっと、まだ着かないの?歩き疲れたわよ。てんと、アンタ空飛べんでしょ?一気に最上部エリアへパァ~と飛んでけないの?」


 「リディーネ、おまえはここがどこなのか理解していないようだな。我らの姿が知れれば天道軍の総攻撃を浴びるのだぞ。」


 「そんなのアタシが全部相手してあげるわよ。」


 「そんなこと言ってまたやられるんじゃないのかしら?」


 キツイ言葉にキッと鋭く睨みつけたリディーネを簡単にあしらうとリナはミカとマイコと会話を楽しんで歩いていく。つまらなそうな表情のリディーネをアレスがからかうと火炎玉を投げつけてきた。


 「アッ、チチチ・・・うわ~ん、リディーネに苛められたよぉ~。ミカちゃ~ん。」


 「はいはい、大丈夫よ。アレスちゃん。」


 ミカがアレスに手をかざすとゆっくりと火傷が消えた。完全に完治したアレスは飛びまわるとリディーネにまたもチョッカイを出していく。激怒したリディーネはアレスに火炎玉を投げつけながら追いかけていくとその姿を笑いながら皆で見ていた。


 「なんかポンマンとタカヒトを思い出すわね・・・あっ!」


 「本当・・・でも私はタカちゃんがいなくなったなんて信じてないから。」


 「そうね。私だってドレイクと会えると思っているわ。」


 「なんかふたりの話聞いてるとおのろけにしか聞こえないんだけど!はぁ~あ、アタシも早くほしいな、彼氏が!」


 マイコが口を膨らませるとミカとリナが笑顔になった。てんと達の選んだ道は天道軍に察知されないが迂回しなければならず最も遠い道のりであった。そのおかげで天道軍との戦闘こそほとんどなかったが時間だけはかかった。しかしマイナス面だけではない。時間こそかかるがそれだけ多くのことを考え、整理できる時間を確保できた。


 「てんと、さっきからむずかしい顔してどうしたの?」


 「ああ、ピサロのことを考えていた。」


 「ピサロのこと?」


 てんとはピサロが何故、創造神システムを掌握しようとしているのか理解に苦しんでいた。すでにピサロは天道を支配している。天道を支配しているということは他の世界も支配しているといっても過言ではない。すべてを手に入れたはずのピサロが何故それを欲するのか?てんとにはそれが理解できない。


 「なにか・・・根底の深いところに奴の望みがあるのだろうな。」


 「ちょっと、アレス!何カッコつけてんのよ!アンタなんか焼死しちゃえ!」


 「うわぁ~、焼かれるよぉ~!」


 リディーネに追いかけられたアレスはミカの背中に隠れた。そんな騒動が続きてんとが考えをまとめる事はできなかった。それでもてんとは皆の笑顔に満足していた。


 「まあ、今はこれでよしとするか。」


 てんとの変わり様にミカは少し驚いた。いつもの計算高く沈着冷静なてんとが皆に流されて同調している。それはいい方向にてんとが成長しているのだとミカは微笑ましく思った。 それにしてもどこまで進んでも風景が変わらない道にだれもがウンザリしてもいる。アレスは皆に一休みすることを提案した。アレスはグランドシートを地面にひくと手際よく薪をくべて火を起こした。


 「コーヒーが出来ましたよ。」


 アレスが作ったコーヒーをミカがカップに入れて皆に手渡していく。オリジナルブレンドとアレスは自信満々な表情をしていた。一口飲んだリナは笑顔でアレスを褒めた。


 「うん・・・いいわね。苦味の中にまろやかさがあるわ。」


 「でしょ!いやぁ~、わかる人にはわかるんだよね。お子ちゃまのリディーネにはわからないかもしれないけどね。」


 「何言ってんのよ、アンタ!こう見えても味にはうるさいのよ・・・・苦い。」


 「ほら、やっぱりお子ちゃまだ。ミルクとか入れる?」


 「・・・・入れるわよ。」


 ほんのひとときの休息であった。てんとは地図を見ながら距離を測っていた。時間にして数日ほどかかるとてんとは見ていた。天道軍との遭遇がないとはいえ、ここまで時間を費やすことになるとはてんと自身想定外であった。食糧のことを考えると最後までもちそうにない。


 「食糧も底をつくことは確実だ。皆、そのことだけは理解しておいてほしい。」


 「しかたないわね。」


 「ええ~、俺は嫌だな。ダイエットとかしたことないし、師匠からは毎日腹一杯食べさせてもらってたし。」


 「アンタ、バカ?話聞いてた?」


 「聞いてたけど食糧が尽きる前に最上部エリアに行けばいいと思うけどダメ?」


 「はぁ~?さらにバカ?天道軍に気づかれるからこうやって歩いてんでしょ!」


 「天道軍に気づかれずに行けばいいんだろ?」


 「アンタ・・・いい加減疲れたわ!そんなことができたら苦労しないのよ!」


 「出来るよ!」


 アレスのひとことに誰もが言葉を失った。てんとはもう一度アレスに問い掛けなおした。少し不機嫌な表情になりながらもアレスは答えた。アレスの能力は知っていたつもりのてんとではあったが正直驚きを隠せない。いやアレスの力をもってすればたしかに可能なのかもしれない。そう考えを変える事にてんとはした。


 「わかった。休憩を終えて片付けをしたら作業に取り掛かってくれるか?」


 「いいよ。俺、先に片付けてる。」


 機嫌よくしたアレスはカップを布で拭き始めた。もちろん誰もがアレスの言葉を信じきってはいない。しかし当の本人はそんなことを気にすることもなく片付けに専念していた。グランドシートをたたむとリュックに詰め込んだ。片付けが終了したアレスは皆に声をかけた。


 「片付け終わったし、準備いいかな?」


 「何言ってんのよ!アンタ待ちよ、アンタ待ち。」


 「あっ、そうか。ゴメン、ゴメン。じゃあ、行ってみる?」


 アレスは皆から離れるように歩いていくと肩幅に脚を広げて深呼吸した。瞳を閉じて身体の力を抜くと周囲の空気がピキッと張り詰めた。するとアレスの背後に小さな白い虎が出現した。アレスの足元をてんと達の姿を凝視しながら歩き回っていた。


 (グルルル・・・飯の時間か?コイツらを喰らってもいいのか?)(白虎)


 「またそんなこと言って・・・違うって。最上部エリアに行きたいんだ。」


 (行けばいいだろう。)(白虎)


 「まあ、そうなんだけど・・・力を貸してくれよ。」


 (報酬は?)(白虎)


 「えぇ~っと・・・最上部エリアの天道軍ってのはどうだ?」


 (まあ、いいだろう)(白虎)


 白虎はアレスから少し離れると顎を大きく開いた。そしてなにもない空間に噛み付くと引き千切るとなにもなかったところに真っ暗な空間が出没した。白虎は無言のままその空間へと進んだ。アレスも後をついていくと皆に声をかけた。


 「何やってんの?さあ、行こうよ。」


 恐る恐るてんと達がその空間へと進んでいく。真っ暗な空間はひんやりしているがそれ以外には何も見えない。先頭の白虎とアレスの後をついていくてんと達は暗黒世界にでも引きずり込まれた気分になっていく。すぐに眩しい光に包まれると天光の注がれた大地に立っていた。


 (ふぅ~、アレスよ。約束を違えるなよ。)(白虎)


 白虎はそう言い残すと姿を消した。先ほどまでいた場所となんら変わらない風景に騙されたと思ったリディーネはアレスに近づくと思いっきり首を絞めた。


 「くっ、苦しい~・・・ちょっと、何すんの?」


 「それはこっちのセリフよ。変なまやかしで誤魔化して!」


 「誤魔化してないよ。アレ見てよ。アレを!」


 アレスが指さした方向にリディーネが視線を移すとそこには巨大な要塞がそびえたっていた。その要塞こそがこのバベルの塔の最上部エリアを象徴する建物だった。


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