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未来のきみへ   作者: 安弘
天道編
194/253

修行の成果

 「何故だ!戦闘データではこれほどではなかったはず・・・。」


 「この先が上層エリアになるのか?」


 「答えるわけがないだろう・・・・ギュバガカカ・・・。」


 悲鳴をあげながら氷付けになっていく兵士を冷酷な表情で見下ろすとそこは見渡す限り一面が銀世界と化していた。そして見事に出来上がった氷の彫刻が数百体ほど立ち並んでその中央には無表情のジェイドが独り立っている。自ら作り上げた氷の彫刻には目もくれずにジェイドはその場を去っていった。それから数時間後・・・・


 「一番乗りだと思っていたんだが・・・先を越されたか!」


 (気にすることあらへんで、ドレイク。主役は最後に登場するもんや。)(玄武)


 「それもそうだな。そんじゃあ、行くか!」


 不気味な表情をする氷付けの彫刻が立ち並ぶ道をゆっくり歩いていくドレイクはジェイドの能力に驚いていた。そのドレイクの背後には小さな魔物の姿になった玄武がいた。手足が異様に長い亀の姿をしているが尻尾は鋭く尖っている。亀のようにも見えるが全く異質な魔物にも見えた。


 「恐ろしい冷気だぜ・・・やはり蒼龍の力なのか、玄武?」


 (そうやな・・・あの変わりもんがよう協力したもんや。)(玄武)


 「そんなに変わり者なのか、蒼龍は?」


 (そりゃあそうや!数千年ほど前の話になるが氷付けにされかけたわ。)(玄武)


 「変わり者ならジェイドも負けてはいないぜ。まあ、変わり者同士うまくやってるってことだな。ところで朱雀と白虎はどうなんだ?」


 (そうやな・・・白虎はすでに中層エリアにいるようや。朱雀は・・・まだやな)(玄武)


 上層エリアにはすでに蒼龍のジェイドが向っていた。玄武のドレイクがその後を追い、白虎のアレスはてんと達と共にこちらに向っていることはわかっている。しかし朱雀のタカヒトだけがまだこの塔には到着してはいない。


 「遅刻ってわけだな。相変わらずのんびりしてるぜ、タカヒトは。まあ、すぐに来るだろ。」


 ドレイクはてんと達の到着を待つこともせずに上層エリアを目指して歩を進めた。上層エリアに近づくにつれて氷付けの彫刻がいたるところに設置された。なんの障害もなくドレイクが歩いていくと丘の上に辿り着いた。そこにはただ独り眼下を見下ろしているジェイドの姿が視界に入った。


 「どうしたんだ?ゲッ、なんだアレは・・・」


 丘の下をドレイクが見下ろすと夥しい数の兵士団が配置されていた。まだドレイク達の姿は確認できてはいないようだが、もし気づかれたら・・・。


 「ヤバすぎる数だな・・・」


 「玄武の能力を得てもあの数に怖気づいたようだな。」


 「言ってくれるぜ。玄武、いっちょ行くか!」


 (まあ、ええやろ。最強の力を見せてやろうやないかい!)(玄武)


 玄武ドレイクが眼下の兵士を見つめると地面に両手を押し当てた。ジリジリと地面を砂の粒子は波が広がるように兵士達の足元に敷き詰められていくと砂が兵士達の足から上に上がっていく。それに気づいた時にはもう遅く砂の銅像が瞬時に出来上がっていた。地面から両手を離し立ち上がると目の前に広がる銅像郡にドレイクはしてやったりの表情だった。しかしジェイドはさほど気にする様子もなく丘を下っていくと銅像郡を通り抜けていく。


 「反応なしか・・・久しぶりの再会だってのに感動とかないもんかね。」


 (ええやないか、ドレイク。蒼龍は昔から根が暗い奴やったんやで。)(玄武)


 「聞こえているぞ。」


 振り返ろうともせずにジェイドは投げ捨てるように言葉を吐いた。するとジェイドの後に蒼白く光る蛇のような姿をした魔物が出現した。赤く鋭い眼で睨みつけるように見ている。その姿を見た玄武はドレイクの後に隠れてしまった。


 (我への侮辱かえ?)(蒼龍)


 (そっ、そないことないで・・・冗談や、冗談!)(玄武)


 (・・・控えよ。)(蒼龍)


 蒼龍は姿を消すとジェイドは歩を進めていった。オロオロしている玄武にドレイクがちょっかいを出すと本気で怒り出した。


 (アホ!あの眼見たやろ?ホンマに殺す勢いやで。まったく恐ろしい奴やで。人とは思えへん!)(玄武)


 「・・・・おまえも人じゃねぇだろ。」


 玄武も姿を消すとドレイクはジェイドの後を追った。ジェイドとドレイクの出現はすでにバベルの塔の最上部エリアにも報告されていた。すでにピサロはキングダムシティに戻っており、ここでビックボスが指揮をとっている。


 「さて、困ったことになりおった。四神のうち玄武と蒼龍が向っておる。白虎も・・・マズい事この上ないわい。」


 ビックボスは悩んでいた。セシルはすでにキングダムシティに帰してしまった。多くのエネルギーに溢れているバベルの塔でビックボスは若さを保っているがキングダムシティに戻れば元通りの老いた老人に逆戻りである。若さを保ちたいがこの場から逃げ出したい気持ちもある。


 「ネオギガントスとアーマーサウルスを放て!研究の成果を見せてくれるわい。」


 自信に満ちたビックボスは自らが開発した生物兵器をドレイクらに向けて放った。そんなことを知るよしもないドレイクとジェイドは上層エリアに辿り着いていた。空が近く白い雲が流れるように広がっていた。目前に広がっている光景は岩肌だけが目立つ。深い谷がいつくもあり谷の断面はV字形を形成して両岸が険しい崖になっている。その昔は河川となっていたのだろう。急流のために侵食が激しくいろいろな造形をかたどっている。


 「さて、どこから侵入するかだが・・・おい、ちょっと待てよ。適当に進むと最上部エリアには行けないぜ!」


 「すでに経路は検索済みだ・・・ここでひとつ提案がある。」


 「提案・・・?」


 首をかしげるドレイクにジェイドが提案したことはこれから先への経路についてだった。正面にある谷は大きくこの道をまっすぐ行けば最短で最上部エリアへと辿り着けるがその分天道軍に遭遇する確率も高い。ひとつは右側にある谷でここは細い道であるが天道軍に遭遇すれば逃げることは困難である。最後のひとつは左側の谷である。谷を登り不安定な足場の岩道を通り抜けるルートである。もっとも大回りになるが天道軍との遭遇だけを考えればもっとも安全なのかもしれない。ただし、険しい道のりであり落石や落下の恐れは高い。


 「どのルートにする?」


 「そうさなぁ~・・・やはりここは正面だな。男は黙って真っ直ぐ行くもんだ!」


 「・・・そうか。」


 「おまえ自身はどうなんだ?」


 「別にどこでもいい。どのルートを行こうとも困難には違いない。」


 「まっ、それもそうか・・・そんじゃあ、いっちょ行くか!」


 奇妙な関係ではあるがドレイクとジェイドは少しずつではあるが歩み寄りが見られた。リナを殺した相手ドレイクであるが今のジェイドにはさほど気になってはいなかった。同じ四神としてピサロを倒すという使命からかもしれない。それとほかにも・・・正面のルートを歩いていくと大きなV字の谷が迫ってくるようだ。青い空には白い雲が流れている。できればリナとピクニックでも行きたい気分だが隣にはジェイドしかいない。


 「リナとだったらな・・・あっ、ワリぃ・・・。」


 「そんなに好きなのか?」


 「はん?それはそうだろ!なんてたって夫婦なんだからな。」


 「夫婦か・・・。」


 「なんだ?・・・リナはやらんぞ!」


 「・・・・・」


 「冗談だよ、冗談!おまえにはユラちゃんがいるんだ。まだ諦めてないんだろ?」


 「・・・・・」


 完全にドレイクを無視し続けるジェイドは歩を進めていく。歩き続けていくふたりではあるが遭遇する恐れがある天道軍の進軍を目にすることはなかった。最上部エリアを順調に目指すドレイクとジェイドとは違い、いきなり危機に陥ったのはてんと達であった。


 「ちょっと!なんなのよ、こいつ等は?」


 リディーネは火炎を放ちながらも後退を余儀なくされた。天道兵士達はリナの雷撃、てんとの風撃、リディーネの火炎を浴びても怯むこともなく前進してくる。一糸乱れぬ行軍は美しささえ見られた。


 「あれは機械兵士。死んだ兵士に人工臓器を植付けることで恐怖感のない永遠の命を手に入れた機械と生物の融合体。修行の成果を見るにはいい相手になる。」


 「何かいい相手になるよ!面倒臭い奴らよ、まったく!」


 「能力を確認するには手ごろな相手かもしれん。」


 「ちょっと、てんと・・・・」


 「そうね。試してみたいこともあるし。」


 「師匠の言葉は絶対だよ、リディーネ」


 「アンタ・・・本当に変わったわね。わかったわよ。ミカ、防御頼むわ!」


 桜色の輝きを放つと球体のシールドを作り上げた。そのシールドはレインとミカ達を包み込む。そのシールドからリディーネとリナ、てんとの三名が飛び出してきた。最初に修行の成果を見せたのはリナであった。牡丹色の輝きとともに細長い雷状の鞭を作ると機械兵士に投げつけた。数名の機械兵士にそれが巻きつくと激しく痙攣してその場に倒れた。小さな輪を作ると投げ輪の要領で機械兵士に投げていく。投げ輪に包まれた機械兵士は雷撃により神経回路を切断され、糸の切れた人形のようにパタパタと倒れていく。


 「最上限の雷撃で最大限の効果を得る・・・成果が出ている。」


 次にレインの視線に映った者はリディーネである。機械兵士に囲まれたリディーネは手の平にのるほどの小さな火炎玉を数個作りだした。それを軽く放ると火炎玉は機械兵士達の口の中にすっぽりと入っていった。眼、鼻、口、耳とありとあらゆる穴から火炎柱が立ち上がるとバッタリと倒れた。


 「必要最小限で集中的に目標を倒す・・・いい流れを掴んでいる。」


 さらにてんとの様子を伺うレイン。前方から行軍してくる機械兵士達に爽やかな風を送ると脚のじん帯を切り刻み前進力を奪い去った。


 「人体を知り尽くしているてんとらしい戦いだな。」


 レインが感心しているとアレスが声をあげた。


 「師匠にお褒めの言葉を頂くとは・・・俺も頑張らないとな!」


 (グルルル・・・あの者どもを喰らってもいいのか?)(白虎)


 「喰らうのは機械兵士だけだぞ・・・本当に食いしん坊な奴だな。」


 アレスの足元には小さな子猫がいた。真っ白の子猫は涎を垂らしていたがアレスに抱っこされると共にシールドから出ていった。ほとんどの機械兵士はてんと達により殲滅されていたがアレスの視線の先には巨大な機械兵士が一体だけ映った。機械兵士ではあるがあまりにも大きすぎる骨格に驚かされた。巨大な機械兵士は動けなくなった機械兵士を握り絞めるとそれを口の中へと運んでいく。


 「共食いかよ・・・気色悪い奴だな、アレは。」


 (グルルルル、あれなら喰らってもいいのか?)(白虎)


 「おまえは食う事ばかりだな!まあ、いいか。食っていいぞ。」


 (ありがたい・・・では!)(白虎)


 白虎はアレスの手から離れると地面を駆けて巨大な機械兵士に向っていく。駆ける白虎の頭上に大きな異空間が出現するとその穴から無数の隕石が飛び出してきた。巨大な機械兵士に隕石が激突すると悲鳴をあげならが地面に四つん這いになった。それでも隕石の降り止むことはなく隕石の数も大きさも次第に大きくなっていく。隕石もただやみくもに放たれているわけではなく、巨大な機械兵士の顎、こめかみなど急所らしき箇所を集中的に狙っていた。顎の先端を打ち抜かれた巨大な機械兵士はグラつくと顔面から地面に向って倒れていく。異空間の穴は巨大な機械兵士の頭上へと移動すると包み込むように覆い被さった。


 (あまりうまくない。)(白虎)


 異空間が巨大な機械兵士から離れるとしばらくして消えてしまった。そこに残ったものは機械の残骸だけだった。白虎も腹は膨れたもののあまり満足していない様子でそのまま姿を消してしまった。


 「ミカ、シールドを解いてもよい。皆、驚くほど成長した。」


 レインは満足そうな表情をしていた。そしてこれからのことについて話を進めた。最上部エリアへと向うには大中小に別れる谷を越えなければならない。それぞれに危険はつきものでどれを選ぶかは任せるとレインは言った。自分は行動を共にしない言い方であったので不思議に思ったアレスが口を開いた。


 「師匠はどうされるのですか?」


 「私は別行動をする・・・・いずれわかることだから伝えておこう。実は・・・」


 レインは徳寿のことを語った。すでにキングダムシティに潜入していた徳寿から連絡が途切れたらしい。レインは単独で徳寿の捜索にあたることを皆に伝えた。


 「お師匠様が行くのなら俺も付き合うぜ。」


 「おまえはてんと達と共に行動しなさい。そのほうがよい。」


 アレスはかなり渋ったが師匠であるレインの言葉には従うしかなかった。レインはバベルの塔の詳細図をてんとに手渡すと独りで徳寿のいるキングダムシティへと向った。


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